第45話 宇宙と地底の空気差よ。
Side:深愛
夏音姉さんの執り成しで眷属達はどうにか落ち着きを取り戻した。
「前の肉体は消え去ったけど、全員の本質は変わっていないから安心なさい!」
「はーい」
「数人には伝わっていると思うけど代替スキルが付与されたから確認するように!」
「だ、代替?」
「亜空間庫の代替よ。一人頭の容量は10LDKの家屋が一軒入るくらいね」
「家屋!? それって豪邸じゃ?」
九十人もの人員が居ると騒がしいわね。
私が居る管理室からは見えないけど声だけは伝わってくるから。
由良お帰り。
「それと、ここからが本題ね。常陽と常夜が消え去ったから一日四十八時間、二十四時間毎に夜と昼が交互に訪れることになったそうよ」
「ふぁ?」
世界の変革をようやく教えたのね。
これも結局は聖騎士の暴走が原因だけど。
本当の事は⦅聖騎士を滅殺しますし⦆夏音姉さんには教えていない。
「か、カノンさん? それって……」
「今回、本物の女神達が降臨した関係で世界の仕組みがガラッと変わったそうなの。今までは仮初めの女神だった事も変化の要因みたいね」
「「仮初め!?」」
ナギサ達が顔面蒼白になってる。
余程ショックだったのかもね、きっと。
「あ、あ、あの、方々が、仮初め……」
「では学校でお目にかかった神々しい方々が?」
「本物よ。A組には三女も居たけどね」
「き、気づきませんでした!」
確か実菜姉さんが無視されていたわね。
その腹いせで魂魄を引っこ抜いて一人だけ隔離していたのよね、眷属核の中に。
身バレに関して改めて問うと『勢いでやった後悔はない』と返答されたけど。
⦅バレたと言っても姉さん達だけだしね⦆
⦅残念。結凪もバレたけど?⦆
⦅は? だ、誰に?⦆
⦅⦅⦅淫乱エロフの可愛い部下!⦆⦆⦆
⦅明日から長期休暇に入らせていただきます⦆
⦅流石にそれはダメだと思うわよ?⦆
⦅吹有の言う通り逃げたらダメ!⦆
⦅ダ、ダメ? 期待の眼差しが辛いのだけど⦆
⦅⦅⦅⦅休んだらダメ!⦆⦆⦆⦆
姉さん達は姉さん達で念話で大騒ぎだ。
私は由良が買ってきたプリンを頂きながら目前の管理神器を眺める。
「明日から数日間は診療所もお休みかもね」
「授業は翌々日からなので、しばらくの間はお休みでしょうけど」
その休みの間に、この地でのゴミ捜索。
地上の掃討を並行して行わないといけないのよね。
私達の休みって何なのだろうか?
「ん! これ、美味しい」
「新作、らしいですよ」
「そうなんだ。このとろみとか最高」
「これから頭を使いますしね。私は実菜姉さん達にも届けてきます」
「はいはい。行ってらっしゃい」
由良はコンビニ袋を持って精霊庫から戻ってきた実菜姉さん達の過ごす管理室に向かった。というか私は呼び捨てでもいい⦅いいよ⦆良かった。
何でも今から数日かけて物資運行システムなるものを創るそうだ。
それは亜空間封印に伴う、鉄道網の消失がきっかけだった。
運行開始って頃合いに邪神の眷属が潜んでいる事が判明して頓挫したからね。
私は空の容器を還元ゴミ箱に捨て思案する。
「そういえば、無人とか言ってたけど、どうやって運ぶのかしら?」
鉄道網と違う方式を選択したと聞いた。
その方式がどのようなものなのか?
私はそれが気がかりだった。
「出来上がるまで待つしかないかな?」
私に出来る事など少ないから。
今は浮遊大陸で起きる様々な事象を監視する事しか出来ない。
「先の召喚縛りは分割体にあったから良かったけど、二度と召喚なんてバカな真似は選択しないでよ。お願いだから」
私はそう、浮遊大陸に住まう住民達へと自身の願いを呟くしか出来なかった。
女神が民草に願うってどうなのだろうって思うけどね。
「というか、暇ね」
亜衣達を見れば、しっちゃかめっちゃかの対応に追われていた。
午後から例の侵攻が再開されたみたいね。
私の方は地上から結界を破ろうと躍起になっている侵入者達の様子が見えた。
「反射結界多重展開。推力浮力減衰結界も追加。飛翔魔法で侵入を開始したか」
片手で神器をポチポチと弄り防御力を高めていく。
大群がダメなら個で攻める方針に変えたのはいいが、それは悪手だ。
「魔素吸引。魔素不足で飛べなくなったわね」
実はここ最近、戦闘と呼べるか不明な小競り合いが散発的に起きている。
それは場所と高度が毎回異なる戦いだった。
毎回同じ方法で撃退しているが、あちらも同じ方法で攻めてきているので、私は彼等が何がやりたいのか分からないでいた。
実菜達の管理室にお裾分けしていた由良が戻ってきた。
「ただいま戻りました。今度の輸送は凄まじい代物でしたよ。姉さん」
「お帰りなさい。凄まじいって?」
「速い・大きい・多い」
「は? それだけでは分からないわよ」
「こればかりは見てのお楽しみですよ」
「何なのそれぇ!? 教えなさいよ!」
「姉さん達から口止めされていますので」
「口止め!? あっ」
ああ、そうか。
私の性質を理解したうえで口止めしたのね?
こうなったら当日まで我慢するしかないようだ。
(でも、すっごい気になるぅ!)
すると由良は視線を管理神器に移す。
「話は変わりますが。また……ですか?」
「ああ、うん。また来たわ」
私は困り顔のまま視線を神器に向けた。
思惑でも分かれば少なからず対応を変えるけど同じ事の繰り返しで困惑していたのよね。
「これで何度目でしたっけ?」
「防衛記録を見るに二十回は超しているわね」
「午後から夕方にかけて数が増したと……」
思案気の由良。
右手人差し指から一本の糸を放出した。
「そ、それって!?」
「兄さんのアレです。実菜姉さんが直に教わったって言っていました」
「それで」
管理神器と擬似精霊界に神力糸を通し指揮官の脳髄めがけて頭上から刺し貫いた。
その一瞬で指揮官の知識と記憶と経験が管理神器に記録された。
へぇ〜、彼等は大学生か。私達のような高校生とは違うのね。
「狙いは弱点探しですね。結界の弱点を探して魔法攻撃で破壊しようとしています」
「それで? 散発的な戦闘を各所で?」
「但し、全体的に補強されているので過去と同じと思うのは間違いですけどね」
「邪神のシナリオ通りにはいかないわよ」
「とりあえず何処から得たのか不明な船の魔力源から魔素を拡散させましょうか」
「それがいいわね。周囲のゴミ虫共も一緒に」
私達が魔素拡散を行った途端に船の推力は停止して高度を下げていった。
それは自身の魔力で飛び交う侵入者達の体内魔素も含む拡散ね。
◇ ◇ ◇
Side:亜衣
「ゴミ掃除が終わらない!」
「そろそろ夕食時なのに帰れないじゃないの。どうしてくれるのよぉ!」
私達はてんやわんやしながら対応に追われた。
学校が終わって休息を入れようって時に通知が入って片付けに邁進した。
途中でバカとか貧乳とか言われ神罰を下したが、それ以外は侵入者対応だった。
「今日の夕食ってなんだっけ?」
「確か、スキル芋の天ぷらだったかと」
「また芋かぁ。他には?」
「芋ジャガ、芋煮、芋のキッシュ?」
「い、芋尽くしですって?」
「母さんが好き嫌い言わないでって」
「普通にお米が食べたいよぉ」
「丼物でいいなら芋の天丼を作るって」
「芋」
たまには芋以外も食べたいのだけど?
私はふと深愛達の駄弁る隣の管理室を眺める。
そこでは由良が黄色いお菓子を深愛に手渡していた。
「深愛が何か食べてる?」
「あれはプリンね。コンビニの新作」
「玲奈は何か知っているの?」
「ア、亜衣、恐いって」
「別に睨んでいないでしょ?」
「亜衣の吊り目が恐い」
「これは元からよ!」
「た、多分、お土産では?」
「お土産?」
「どうもね? 芽依さんに呼ばれていたみたいだから」
「それで」
そういえば神罰を発した後に由良だけが元世界に帰っていたのよね。
何用で戻ったのか知らないが由良の仕事を結依さんが代行していたから、私達の知らない仕事を請け負ったとしか思えなかった。
「というか、こちらは大変なのに深愛達と姉さん達は暇そうよね」
姉さん達は遠目でしか分からないけど管理神器から離れた場所で宙に浮いたまま薄い板を何度も叩いていた。銀容器を浮かせて、それを口に咥えて笑いながら。
「そう見えるだけじゃない?」
「いや、あれは暇そうな感じだわ」
「深愛に関してはそうかもだけど」
『というか、暇ね』
「ほら! 暇って言ってるしぃ!」
玲奈から⦅わざわざ声を拾わなくても⦆と、ジト目を向けられた。
なお、本日の当番は私と玲奈だけだった。
「実際に暇だから呟いただけじゃないの」
「そうだとしても……交代出来ないかしら?」
「無理だと思いまーす!」
「ど、どうしてこう」
優羽と仁菜と美加も神罰までは対応に追われていたのだけど神罰以降は果菜さんに呼び出しを受けて元世界へ戻っている。
深愛達はいつも通りだけど。
すると玲奈が管理神器に触れ、
「で、一つ分かった事は彼等の動きが過去ログと同じだった事よね。おそらくだけど、私達の混乱を招こうとしているだけじゃないかな?」
分割体が居た頃の過去ログを分析していた。
そういえば似通っているわね。
「私達が分割体と同じに見られていると?」
「おそらくね」
深愛達の世界なんて過去の召喚が起きる直前にも見える。
もしかすると至音姉さんが居ない今が狙い目って事なのかも。
「それはそれで癪に障るわね」
「あんな雑魚と同列視とか」
雑魚。分割体はレベル面でも雑魚だった。
私達も本来なら単身で戦えるレベルがある。
だが、自分達の世界を自分達で破壊してしまう恐れがあるため、仮に戦うとしても他人便りになってしまうのだ。
「世界を護るって本当に大変よね?」
「ほんそれ」




