第40話 妹達が強化する姉。
初日が終わり、私達は分校から家に帰る。
「さてと、準備して片付けに行こうか」
「そうだね。姉さん」
「でもさ、何処で登録するの?」
「上だとバレるから下かなぁ?」
「なら魔王国?」
「どうせなら亜人の姿がいいしね」
自室で防具を身につけ得物を装備する。
門前から自分達の世界に向かおうとすると、
「待ちなさい」
満面の笑みの銀鬼に呼び止められた。
見ていないのに何故分かるのかって?
そういう雰囲気を感じたからなんだよね。
「「「……」」」
恐る恐る振り返ると大変見覚えのある女性が立っていた。
大きな胸とドSな顔付き。
母さん譲りの大きなお尻の綺麗な女性が。
「先に私への説明があるんじゃないの?」
鷹揚な口調は機嫌の悪さを物語っている。
「「「……」」」
威圧感が母さんを彷彿させるような。
私は恐る恐る返答してみる。
「せ、説明?」
「私を出し抜こうとした件よ」
「「「……」」」
あ、術陣の件かな?
「あれは、あの」
「御託はいいわ」
「うっ」
本気で怒っていらっしゃるぅ。
「罰として案内なさい」
「ふぁ? ど、何処に?」
「新しい管理室に決まっているでしょ」
「あ、あー。はい」
冒険者として登録する前に宇宙ステーションに案内する事になった私達だった。
拠点の背後にデデーンと大きな串団子があればね。
◇ ◇ ◇
「「ふぇ? か、カノン?」」
「やっぱり、ミア達もここに居たのね」
「え、えっと……あの、その、えっと」
いや、もうね。
恐ろしいなんてものじゃないね。
先に上がっていた深愛達。
姉に睨まれて真ん中で怯えていた。
「そんな怯えるんじゃないわよ。別に獲って食おうなんて思っていないから」
「じゃ、じゃあ、なんで?」
「母さんから聞いた」
あ、あー。遭遇した主な理由はそれかぁ。
「現在進行形で困っているってね。残り香が大量発生しているんでしょ?」
「う、うん。そうなんだ」
「水くさいじゃないの。そういう事ならちゃんと相談しなさいよ」
「ご、ごめんなさい」
い、意外と妹思いな姉さんなのかも?
あとはそれほど怒っていなさそう。
理由が理由だし仕方ないよね、うん。
「で、原因は掴めているの?」
「え、えーっと。掴めてはいます」
「それは何?」
「ここから先は私が」
「実菜」
私は深愛と交代して現状で分かっている情報を全て伝えた。
「ふふっ。ふふふふふふ……」
なんで笑っているの?
「わ、私が欲していたから、自ら現れたのね。これはとっても愉快だわ」
しかも舌舐めずりしたし。
恍惚とした表情になったし!
おっぱいも揺れに揺れているし。
まるで悪役みたいだ。
善神のはずなのに不思議だ。
「表はとりあえず兄さんが動いていますので」
「ああ。あの子が動いていると」
「ええ」
そういえば長女だったもんね。
兄さんが怯える相手が姉さんか。
「それなら邪神の居場所が分かったら即、連絡をもらえる? 直ぐにでも駆けつけるから」
「は、はい。わっかりました!」
もうね、敬礼するよね。
歴戦の戦士って風格だし。
すると姉さんは空気を温和に変えた。
「というか怯えないでよ。私よりも強いのに」
「え? 気づいていたの?」
「私が気づけないと思った?」
「お、思いません!」
「怯えられるだけでショックなんだけど?」
「あっ」
悲しい顔をされ、私の表情が抜け落ちた。
「私も女の子よ。可愛い妹達を怯えさせたら正直辛いわよ。但し、シオンは除く」
ああ、次女は除くんだ。
姉さんって結構可愛い?
美形ではあるよね、うん。
「ま、まぁ、そういう訳だから怯えないでね」
「う、うん。分かったよ。姉さん」
「というか貴女ってそんな性格だったの?」
「ふぇ?」
そんな性格?
ああ、ちゃらんぽらんとは違うからか。
私は右頬を掻きつつ苦笑した。
「えっと……はい。こちらが本体なので」
「ほ?」
おや? 今度はきょとんとなった?
「本体?」
「そこで怯えている深愛も含むけど全員が本体だよ?」
「ど、ど、どう、どういう事なのよ!?」
分割体の事までは聞いてないと。
なので、その後は経緯を事細かく教えた。
「じゃ、じゃあ、あのポンコツ加減は?」
「疑似人格だったからじゃないかな?」
「そうそう。私達も本来は戦えるし」
「兄さんと邪神戦を何度も経験していますから」
「い、色々とボロボロだったのは?」
「本来の人格を完全再現出来なかった的な?」
「知識もそうだけど分割体の年は世界と同じだから。私達の場合、そこに実年齢が」
「実質、私よりも年上じゃないのよ!」
それを言われるとそうかもね。
「時間加速下で数億年はザラだったし」
「あったあった。姉さんが蘇る兵士と」
「殲滅戦したもんね。あとは魔王の母親だし」
「は?」
魔王君が滅したあとだもんね、今は。
私にとって姉さんは姉さんなんだけど。
母さんと同じ風格は真似出来ないもの。
「じゃあ、アップルパイは?」
「アップルパイ? 知ってるけど?」
「ちゅ、中華料理は?」
「昨日も餃子を作って食べましたね」
「そう。そうだったの」
どうも色々と記憶に齟齬があるらしい。
分割体共が行ってきたポンコツの印象が強いのかもね。
私達も基本はポンコツなんだけど。
「というか戦えるのに私を寄越した理由って」
「単純に渦の所為かも」
「それがあったかぁ」
「機能停止寸前だったからね。あれ」
「そうそう、亜衣が夜な夜な胸を揉んで慰め」
『そんなことはしてないわよ!?』
「「そうだっけ?」」
隣の管理室から亜衣が叫んだし。
分割体が自家発電に及んでいる事は知っていたけど私達には不要な行為だからね。
身体を慰めるくらいなら何か創る。それが基本だ。
私は元気の無くなった姉さんを眺めて逡巡し姉さんの目前で大太刀を拵えた。
「とりあえず、お詫びとして……これを」
聖属性神力が集まるだけ集まって一振りの大太刀が姿を現した。
付与も同時進行で行ったから、一種の神器になってしまったよ。
「こ、これは?」
「姉さん専用の大太刀。通常はなまくら何だけど膨大な魔力を纏わせるだけで刀身が鋭利に変化するの。あとは空間を切ろうと思えば切れるイメージ在りきの御神刀ね」
「そんな物を? で、でも、これがあるわよ」
「それね。分割体が用意したから劣化してて」
「ふぁ?」
分割体は邪神の影響下にあった。
お陰でまともな強度が出せていないのだ。
姉さんが宿る憑依体は母さんから呼び出された私が創った身体で劣化はない。
見た限り、魔力も安定しているしね。
それは次女と娘……姪っ子も同じだ。
「それね。あと数回で刀身が崩壊するんだよ」
「そ、そんな、だったの?」
「世界の中心核に潜んでいた邪神の眷属が悪さしたみたいでね。管理神器も影響下にあって想定外の動きになったの」
「そ、そうだったの」
考えれば考えるほど、邪神は厄介だよね。
私は納刀の鍵言で刀身を消す。
「は? 消えた?」
「使わない時は柄だけになるんだよ」
「そうなのね。便利だわ」
「使う時は抜刀って宣言すれば出てくるよ」
「ば、抜刀。あら、出ない?」
「構える動作が条件に含まれているからね。そうしないと何かの拍子に出現して大事でしょ」
「なるほど」
「これは神核認証でね。姉さんが持つだけで所持者が固定化されたよ。仮に妹さんが持っても刀身は出現はしないの」
「そうなのね」
その後は試し斬りを敢行する。
宇宙ステーションに併設された訓練場に移動して地上に存在する最強の魔物を倒してみる。それは実依が用意した迷宮の大ボスである。
「な、なんて切れ味なの?」
「少し纏わせるだけでも、金属がペラペラに切れるよね。通常は打撃でも使える優れものね」
「ああ、そうか。なまくらだから」
「金属の種類は管理室を構成する物と同じで神素結晶とミスリルの合金だよ」
「は? 神結晶は分かるけど? 何それ?」
そういえばそこまで詳しくなかったね。
私は姉さんの見ている目前で現物を示す。
「これが神素結晶。神結晶を高純度化した物だよ。今は金属塊の見た目に成形しているけど、これ自体はイメージだけで形状変化も融合も常時可能なんだよね」
私はそう言いつつ鋼やらミスリル塊を混ぜていく。
神素結晶が相手だと熱する必要もない。
世界の元素。その大本だからね、これ。
「ああ、高純度の神素が元だから?」
「魔法やスキルを使う時も神素あるいは魔素が変化して事象改変するから」
「便利な金属もあったのね」
「神族しか扱えないけどね」
この件がきっかけなのか知らないが姉さんは更に強くなるのだった。
私達も負けてられないよね。実際は任意でレベルを上げられるけど。
「ところで本当のレベルは?」
「す、数値化が出来ないくらい?」
「ふぁ?」
「私達は管理者だから地上では制限されるの」
「そ、それはそうね。うん」
「「それは私達も同じ」」
「……」
姉さん、沈黙!
深愛達の本体も数値化出来ない。
あえて抑えて実10000で留めているだけだから。
これは姉さんに遠慮しているだけね。
私達は遠慮していないから更に上だけど。
「現に経験値も無制限だしね」
「そうですね」
「ふ、二人から経験値を吸ったら、勝てるかもしれないわね」
「か、カノンさん? 恐いのだけど」
「ですです。プルプルと震えないで」
「わ、わ、わ、私も無制限が欲しいわよぉ!」
仲間はずれズルいって怒る母さんを見ているようだ⦅娘だもの⦆さいですか。
私は苦笑する実依にお願いして例の焼き芋を用意してもらった。
姉さんは深愛達を魔力糸で雁字搦めに縛っていた。
ああ、あんなに食い込んで。
「姉さん、姉さん、この芋」
「い、芋? なんで芋?」
「スキル芋。姉さんが持っていないスキルが詰まってる。複製神核からは入れられないスキル群はこの焼き芋から直接摂取するしかないの」
「え? あの子達が食べていた焼き芋は?」
「あれはただの焼き芋だよ」
分割体には適用出来ないもの。
「うん。わ、私達も過去にそれを食べた」
「食べましたね。それでカンストです」
「それなんてチート芋……頂くわ」
姉さんは黙々と焼き芋を頬張る。
まるで⦅実依みたい⦆だね。




