第38話 必要な事でも辛い。
Side:果菜
地底で起きているとんでも事案は私達の元でも観測出来た。
「さっそく侵入してきているね」
「姉さんと兄さんが穴埋めを終えるまでは続きそうね、これ?」
「そうだね。穴の数は全部で、六カ所」
「あの子達の管理地域ばかり狙っているわね」
「やっぱり、運営元を買収した方がいいかも」
「だとしてもトカゲの尻尾切りで逃げられるでしょ?」
「誰が仕込んだかって調査中にさ?」
「あー。逃げるわね」
「それがもし、外注先だったら?」
「調査のしようがないわね。知らぬ存ぜぬで返答が届きそうだわ」
何よりそれだけで済まないだろうしね。
難癖で作業が遅延したとか言って逆に訴えるくらいはやって退けるだろう。
その裁判で私達の動きが緩慢になれば邪神の思う壺になることは明白だし。
「今回の邪神は本当に狡賢いわね」
「金儲けにも精通してそうだしね」
「一体誰に取り憑いて動いているのやら?」
「ソシャゲの開発者だっていうのは分かるよ」
「でもそこまでなんだよねぇ」
相手はそれなりに名の知れた大企業。
外部委託で開発していそうな大企業。
そんなところを相手に喧嘩は売れないよね。
田舎の弱小商社が訴えても負けは確定だし。
「なら、ウィルス混入と報告したらどう?」
「通用しないでしょ。見えない形で混入されているのだし。玄人も分からないよ?」
「そうそう。見える者しか分からないし」
「なんていうか質が悪いね。今回は」
「「「「「本当にそう思う」」」」」
ユーザーの命を勝手に奪って異世界転生させるのだから、とんでも事案だよ。
死んだ事にはせず短命な生命力だけ与えて延命しているのだから、質が悪い。
私は母さんから受け取った年間死者数の記録を改めて眺める。
この記録は世界中の死者が現れた時に神器内で追記保管される書類だ。
それの複製物なんだけど微妙な感じがする。
「年間死者数が増えず、微妙に横ばいで右肩上がりなのはコントロールしている?」
「コントロールしているから気づき得ないと」
「逆にこの世界の死者数は極端に増えていて」
「全体の総人口を軽く凌駕しているよね?」
世界の管理を始めた時は日本の総人口と同じ規模だった。
それは地表と地底を合わせてね。
私達の知らない間に出来上がっていた世界。
存在は実菜だけが知っていて、
「姉さんが管理を分割体に移譲してから」
「……極端に死者が増えているよね?」
記憶を封じ学生に転じてからが異常なほど増えていた。
別に実菜が悪いわけではないけど時期が重なり過ぎているよね。
「これって脆弱性を突かれているのでは?」
「多分そんな気がした」
「その穴は新しくしても開いていたよね?」
「分割体がおかしな挙動を示していたしね」
女神のそれとは言い難いおかしな挙動。
すると結凪が思案気に問いかける。
「あれの本体ってどうなっているの?」
私は実菜が取っ払って転がしていた神器の本体を探し出す。
それぞれの本体は引っ越し時に管理神器の中心から剥がしていたのだ。
「えっと……確か、この辺に……」
それは野球のボールのような水晶球。
色は稼働していないので茶色のままだ。
これの稼働中は真っ赤に燃えるような色をしていて高温の熱を発している。
「あった。全部で三つだね」
私は飛んでいかないように金属製のテーブルに空間固定で留めた。
今の管理室が無重力だから油断すると明後日に飛んでいくからね。
「今の神器は魔術陣で構成されているから」
「中心核は不要になったんだよね。確か」
「姉さん独自の神言語だよね。読めないけど」
「私はぎりで読めたけど名称だけだったよ」
「ホント、どうやって開発したんだか?」
「知神独自の感性じゃない? 知らんけど」
こればかりは深愛も読めなかったね。
「キーとなる言語はラテン語かな?」
「それを暗号化したうえで構成してそうね」
「これをいちから覚えるのは至難かも」
「でも穴が開きにくいのは確かよね?」
「解読が出来なければ開けようがないし」
「とりあえず古い方を解析しようか?」
「それが先よね」
先ずは私達の管理神器の核を調べる。
「部分的に開いてはいるけど」
「召喚陣に関する穴だよね。これ」
「私が一番埋めたい穴ね」
「結依的にはそうだろうね」
「一方的な穴だから送還されないけど」
「解決すれば送還穴が開くタイプね」
「大半が解決する前に全員が無事死亡だけど」
異世界人がやたらと死ぬ原因でもあるね。
次に深愛の管理神器を調べる。
「あれ? 最近触れたような形跡があるね?」
「更新時に夏音姉さんが出張っているからじゃない?」
「ああ。そうか、それで……」
「深愛が雁字搦めになったのね」
「胸と股間とお尻を縄で縛られて感じたと」
『縛られていないわよ!?』
「あ? 聞こえたみたいね」
『姉上。落ち着いて』
『って、何処を触っているのよ!?』
『胸ですが、何か?』
『先を抓まないで!』
「元気な姉妹よね。ホント」
「そんなのほほんと言わなくても」
それ以外で穴という穴は無い。
改良を施した跡はあるがそれだけだ。
最後に亜衣の管理神器を調べる。
「ああ、無理矢理こじ開けたような穴が」
「それも偽装された状態で残っているわね」
「でも、これって更新後の核よね?」
「そういえばそうね。なんで穴が?」
「これに繋がっているのって……」
「確か、ミスリル線……よね?」
世界と繋がっている極太の金属線。
亜衣の世界は惑星の中心核。
その中心核めがけて魔力経路越しに接続されている。
これは私達の管理する地表や浮遊大陸とは扱いが異なる接続方式だ。
最新式の接続は地表や浮遊大陸と同じ方式を用いているけどね。
今は宇宙空間にあるから。
(ん? 中心核? 何か、違和感が?)
私は不可解な違和感からボソッと呟く。
「中心核……に、何か潜んでいる?」
それを聞いた吹有が何かを感じ取る。
「あっ!? そうよ。それかもしれないわ!」
空間的な違和感は吹有も感じたと。
「急激な異世界転生は地底で起きているわね」
「今は防衛機構の返り討ちに遭っているけど」
それが地表ではなく地底でのみ発生している時点で原因が判明した。
「浮遊大陸は絶賛防衛中よね」
「出現位置はすべて地底だね」
私達は惑星核もとい地底の管理権限を取得して中心核を輪切りにする暴挙に出た。
といっても表示方式を変えただけだけど。
「あっ。中心部に大穴があるよ!」
「ここから六つの穴に繋がっていると」
「その穴の先に……何か居るね?」
ここからじゃ良く見えないね?
空間的に歪んでいて術者が見えない。
すると吹有が指先から一本の神力糸を生成する。
それは夏音姉さんが得意としていた滅殺方法だ。
兄さんも出来るけどね。
「空間なら私の領分ね」
「微妙に時空神の権能を持っているからね」
「そこで微妙とか言わないでよ」
結凪と言い合いしつつも神力の糸は伸びていく。
吹有は限定的に〈任意制限〉を解除して本来のレベルで不審者の滅殺を始めた。現状、夏音姉さんよりも強いからね、私達。
「捕まえた。最強が居るだとって驚いてる」
「こいつは鑑定スキル持ちかぁ」
「実レベル22000の滅殺を味わってね」
吹有は神力糸で縛り上げ細切れに変えて消し去っていく。
それこそ空間を圧縮するように。
「記憶も確保したから……結依」
「りょうかい。保全するよ」
結依は吹有から記憶を受け取って魔導書に記していく。
だが、
「こいつトカゲの尻尾だぁ」
「まさか、使い魔ってこと?」
「うん。親玉の記憶が無かったよ」
「面倒な」
中継役だっただけで本命ではなかった。
それとこちら側の穴を封鎖する必要があったので私達も〈任意制限〉を解除して属性変換で空間の大穴を閉じていった。
「訪れた転生体共は仕方ないけど」
「これで打ち止めになればいいね」
「果菜、それフラグだから」
「あっ」
私の安堵で問いかけた言葉で転生体が続けて訪れる可能性が出てしまった。
◇ ◇ ◇
それから数日後。
結依が女神の体で夏音姉さんに会いに行った。
それはロケットの打ち上げね。
⦅めっちゃ、母さん!⦆
⦅⦅⦅マジで?⦆⦆⦆
⦅若い頃を見ているみたい⦆
⦅私はまだまだ若いですぅ!⦆
⦅今、幻聴が聞こえた気がした⦆
⦅結依ちゃん、酷い!⦆
表向きの念話を行いつつ裏では別口の念話を行う私達。
母さんまで割って入っているし。
「というか、わざわざこれする必要ある?」
「私が未来視したから仕方ないじゃない」
表向きの念話のために実菜のお尻を抱える実依は何処か楽しげだった。
「姉さんのお尻は柔らかいねぇ」
「ちょ。揉んじゃダメだってぇ!」
結依は予定通りネタバレを遂行していく。
現状、常陽と常夜は終わったけどね?
先日、兄さんの方でも邪神の中継役を滅したそうだけどトカゲの尻尾だったよ。
(トカゲの尻尾。本命は何処に居るのやら?)
ロケットが打ち上がる直前、結依が興味深げに質問していた。
それは魔法を魔術にするという代物だった。
「それで夏音姉さんの変換術陣は知ってる?」
「問題無いよ。ここでも使っているしね」
「ああ。ドヤ顔が絶望色に変わりそうね」
「この件は言わなければいいだけの話でしょ」
「確かに」
すると念話で絡んできた母さんが顔を出す。
「まったくもう。人の事をババア扱いして」
念話で割り込みをかけつつ訪れたのね。
状況を上空から覗き込んでいる私達の元に。
「面倒ね。カノちゃんを騙すための演技って」
「面倒だけど必要な事だったもの」
「夏音姉さんはかつての私達だと認識しているからね。本当の事を伝えてもいいけど、母さんの目的遂行のためには秘する方がいいでしょ?」
「まぁね。でも、母としては少し複雑だけど」
真面目な顔して話し合う母娘。
突っ伏したまま浮いている実菜の格好が真面目な雰囲気を壊している。
「コロニーも無事に軌道に乗ったよ!」
「なら、私の腰、返してね」
「もう少し揉んじゃだめ?」
「ダメだって!」
モチモチの大きな桃尻を取られたまま。
「わ、私のお尻、返してぇ」
「モチモチで柔らかいねぇ」




