第37話 確認は最後までしよう。
Side:結依
姉さんが創ったとされる宇宙ステーションに到着した。
私の大ポカでバレてしまった無人島。
聖騎士という名の野蛮人の手に落ちて何も存在しない岩の島に戻った。
「間一髪だったね結依ちゃん」
「本当に……って。何この広大な大地は」
「でしょ。頑張った甲斐があったよ」
私達姉妹は同心円状の筒の中に居た。
中心部から外側に向かって存在するのは実依が喜びそうな田園地帯だ。
畑と湖と森が存在する惑星とは異なる人々が住めそうな一種のコロニー。
「これは遠心力で重力を発生させているの?」
「そうだよ。但し、中心部は無重力だけどね」
「これって酸素もあるの?」
「神力で生成する仕組みだよ。今は余剰分で稼働しているから、数時間後に深愛に注いで貰わないといけないけどね」
「なるほどね。凄まじいわね。我が姉は」
「そう? もっと褒めていいよ?」
「姉さんのお尻を揉んでいいと聞いて!」
「実依ちゃんは話、聞いてた?」
三つの管理神器がある中心部。
惑星側に亜衣達の管理神器。
中心部に深愛達の管理神器。
宇宙側に私達が管理する神器があった。
宇宙ステーションは縦長の筒を三分割して一本の太い棒で繋げた形状だ。
「これは三色団子かしら?」
「三色団子かも。なんか食べたくなってきた」
実依はそう言いつつ権能で三色団子を作って食べていた。
本当に便利な権能だよね?
「色的にも三色団子ね」
「赤、白、緑、か」
「これって地上からは見えるの?」
「見えないよ。景色と同化しているし」
そういえば管理神器からも見えないとあったね。
管理神器が繋がる床には見覚えのない神聖語の陣が描かれていた。
ふぇ? じ、神器の本体?
「というか、いつの間にこんな物を?」
「実は分割体が更新したのは一つ前の正規版だったの。脆弱性ありの物だったから」
姉さんは小声になりつつ内情を明かす。
「創ってみたの。お陰で連結するだけで維持管理が出来るって代物になったけどね」
「そ、それって全自動ってことよね?」
「ステーション全体の維持と魔力場の維持に神力の供給が必須となったけどね」
「でも、それ以外は全自動ってことよね?」
「そうなるかな? それと一応、名目上はこれが最新式になるかな?」
私達が留守でも自動的に判断して対応する的な。
それこそ母さんが使っている神器みたい。
(ん? 最新式? 記憶にあるのは……)
何故だろう。腑に落ちないよ、この言葉?
「夏音姉さんの神器が最新式だったような?」
「だから言ったじゃない。脆弱性があるって」
「あれでも脆弱性があったの?」
「あったんだよ。実は分割体は管理神器が模倣していた……疑似人格だったんだよ」
「「「「「「……」」」」」」
それって。それがあったから?
「じゃあ、更新の瞬間の記憶が無いのは?」
「物理的に止まっていたからだと思う」
と、止まっていたから?
そうなると……会話時は疑似魂魄が反応動作していたって事になるの?
違和感をもたれないように記憶にある通りの言葉を介すだけで?
「そ、それって母さんは知っているの?」
「知っていると思う。但し、この本体は内緒で用意したけどね……てへぺろ!」
「あー。姉さんのお尻ペンペンが確定か」
「それは無いと思う……思う。うん、思う」
「「「そう思うのは姉さんだけだよね?」」」
「うっ」
「お尻にガーベラ挿したうえで叩かれてくる?」
「それはやめて。抜けなくなっちゃうから?!」
ペンペンは姉さんの自業自得ってことで。
そのうち⦅更新したら許す⦆あ、バレた。
姉さんはビクッとなったのち、
「い、今から母さんの元に行ってくる」
「逝ってらっしゃい。姉さん」
「逝ってくるね。結依ちゃん」
トボトボと転移門を潜っていった。
その後、より詳しく触れてみると以前よりも機能が向上していた事が判明した。
各衛星軌道が視認出来たり、見せかけの月と太陽に実体が加わった。
お陰で常陽と常夜が消え失せた。
「惑星の力も増加しているし」
「惑星の総魔力も前以上だよ」
「まさに正規品。最新式なだけはあるか」
「あとは迷宮管理上限が無制限になってるよ」
「仁菜と共同管理するしかないね」
「眷属保管庫も空きが凄い事になっているし」
「新たな魔物を揃える必要があるね。これ?」
「魂魄保管庫も増強されているわね。目に見える範囲はそのままだけど」
「夏音姉さんがおったまげしそうだね?」
「なら果菜がネタバレする?」
「命が惜しいので遠慮します」
死にはしないけど、それに近い罰が下りそうだよね。
母さんからもドSだって聞いたから。
「渦が任意展開になってる?」
「ホントだ」
「これの権限は夏音姉さんに移譲しようか」
「それがいいね」
色んな意味で以前とは別物だった。
これだと⦅誤魔化すのが大変そうだわ。どうしましょう⦆母さんも困惑中か。
これはある意味で邪神対策でもあるから仕方ないね。
お陰で世界中に点在する邪神までも観測可能になっている。
「これ、夏音姉さんに情報共有する?」
「しない方がいいね。どうやって知った的な事を言われるから」
「だよね。地底にもまだまだ居るし」
『どういうことなのぉ、これぇ!?』
「深愛の絶叫が響いてきたよ?」
「終わらせたと思ったら、残り香発見か」
「しばらくはあちらの遮断が出来るまで」
「異物共の侵入は続くと」
「サ終しない限りは続くだろうね」
「この際だから運営元を買収しようかしら?」
「それが出来たら苦労しないよ」
「そうよね」
母さんの神器更新は無事に済んだ。
すると⦅なんでここに複数の穴が!⦆今まで見えていなかった穴の存在に気づいたようで、姉さんと兄さんに穴埋めするよう命じていた。
『に、兄さん』
『実菜か、一緒に頑張ろうな』
『うん』
愛しの兄さんと行動が出来るからいいよね?
◇ ◇ ◇
Side:仁菜
実菜姉さんが用意した新しい管理室。
それだけでなく管理神器は凄まじかった。
「もう姉さんって呼ぶ方がいいかな?」
「実際に姉さんだもんね。それか姉上?」
「表向きは姉上呼びだものね」
「但し、深愛は除く」
「深愛は同種だしね」
見せかけの太陽が消えて実体ある太陽が煌々と大地を照らしたから。
常陽と常夜が無くなった事を神託で知らせないと騒ぎになるよね。
すると深愛の管理区画から、
『どういうことなのぉ、これぇ!?』
大きな叫びが響いてきた。
私は何事と思いつつ美加と深愛の元に移動した。
「何があったの? 深愛」
「ああ。仁菜か」
「どうしたの? 意気消沈して」
「お、終わってなかった」
「「はい?」」
「終わっていなかったの! 侵攻が!」
こ、これは、どういうことなのか?
疑問に思った私は思考停止したように田園を眺める由良に問いかけた。
「何があったの? 由良」
「新兵が続々と追加されてた」
「「は?」」
「夏音姉さんが片付けたと思った矢先、追加人員が送られてきた事を知ったの。ついさっき」
え? えっと、それって、つまり?
「例の勘違い勢が新たに追加ってこと?」
「どうも夏音姉さんが地表でかかりきりになる事を見越していたようでね。離れた頃合いを見計らって」
「つ、追加されたの?」
「追加されてて見なかった事にした」
私は美加と顔を見合わせて頷きあい、
「「姉さん。大変大変!」」
亜衣達が寛ぐ管理室へと戻った。
「どうしたのよ。顔面蒼白になって?」
「何があったのよ? 二人して?」
「というか深愛は大丈夫だったの?」
何も知らないのはホント気楽でいいよね。
私は固有名詞を口にしたく無かったので、
「例の問題児達の侵攻が再開したみたい」
「「「……」」」
伏せた状態で三人にも伝えてあげた。
管理神器を詳細表示に切り替えてね。
「北極に三万、南極に一万、魔王国周囲に八万、他にも大量に出現してる。ほら?」
美加も苦笑しているが気持ちは同じだろう。
ようやく終わったと思っていたのに。
それを見た亜衣は頬が引き攣る。
「え、えっと……これって夏音姉さんが片したわよね? ご、誤表示じゃないの?」
「残念、リアルタイム映像よ。これ」
「嘘っ」
亜衣は表層に触れ所属などを洗っていく。
未所属と出るそれは新たに増えた第三勢力のような者達だった。
イリーガル部隊と称するしかないかもね?
「嘘でしょ。続々と増えていってる」
「これだと今までが前哨戦みたいな感じかしら」
「本格的に喧嘩を始めるみたいな?」
「最強の生死神が居ないから狙ってきたと?」
「私達は取るに足らない女神って事?」
「それはそれでイラッとするわね」
すると美加が突然呟いた。
「先の聖騎士達も裏に邪神が隠れています」
「「「「は?」」」」
これは権能の予言だろうか。
呟いたあとの美加はきょとんとした。
「あれ? あ、力が発現していたかも」
「それはもう少しはやく発現して欲しいわね」
「しゅ、修行不足ってことで」
「なんとも言えない回答ね」
「流石に今回は仕方ないわ」
「裏に居ると判明しただけ救いよね」
「ああ、そうね。そう思いましょうか」
当面は惑星の防衛機構を稼働させる事になった。
それは衛星だけではなく魔力経路に追加された生者還元陣の最大稼働も含む。
前みたいに封印処理されでもしたら大変だからね。
それと共に世界中に散らばる問題遺物群。
姉さんのやらかし品を完全消滅していった。
「当面は時間稼ぎにしかならないけどね」
「あれがあるのと無いのとでは違うもの」
「以前みたいに指を咥えてはイヤだしね」
「分割体の尻拭いを本体である私達が行う事になろうとは想定外よね」
「そうですね」
同じ対応は由良達も行っているだろう。
浮遊大陸側でも不要神器が消えていく様子が見えたから。
『最底部の魔法物理防御結界最大稼働!』
『以前のような真似はさせないわよ!?』
姉さんの構築した新神器のお陰か余力は十分過ぎるくらいあるので助かった。
「当分は寝られない日々が続くのね」
「それなら交代で見守りましょうか」
「それがいいわね」




