第35話 派生から本題へと入る。
Side:結依
統合後、母さんが調査した結果。
「辻褄に不都合は起きていないわね」
何故か問題なしの結果が出た。
それを聞いた姉さんは首を傾げた。
「一体どういうことなの? 数は不明だけど私達と亜衣の管理する世界を混乱させるなら一人二人では足りないはずだよね?」
「せめて一千くらいの人員が居ないと混乱させるまでにはいかないでしょうね」
「国会議事堂前に群がるデモ隊みたいな?」
「あれも実際はマスコミが伝えるよりも人員は少ないらしいわ。盛っているだけね」
「でもこちらは盛って出来る事でもないよね」
「カノちゃん曰く三億以上は居たらしいから」
「は? そんなに居たの?」
それって日本の総人口を軽く凌駕している気がするのだけど。
それこそ外国人が含まれていないと、その数は賄いきれない。
「それだけの死者が……それは絶対おかしい」
「辻褄が合って三億以上も魂魄が渡航とか」
「何かしらのカラクリがありそうね。それ」
それこそ先の話ではないけど盛ってそうな気がする。
上の姉さんを疑いたくはないけどね?
ドSだから疑うとあとが恐そうだし。
すると姉さんが、
「運営会社を調べたよ。ゲームも判明した……見た感じ、まともな運営だけど」
スマホ片手に該当のゲームを示した。
(まだサ終にはなっていないのね)
権能を使ってダウンロードしているし。
ちなみに、姉さんが持つスマホは上の姉さん作の魔道具だ。
それを姉さんが即座に改良して基本ソフトを新規構築した。
「深愛達も新しいOS使う?」
「「「「「「「使う!」」」」」」」
姉さん独自の開発言語を用いてサンドボックス化までしているしね。
それ自体は上の姉さんが創った物よりも堅牢な仕組みになっていた。
私達も同じく入れ替えて使ってみた。
「記憶にある物より動きがスムーズだわ」
「CPUに当たる部分の改良も施したから」
「そんなのあったの?」
「機械的ではなくて魔導書的な動きだから」
「ああ。魔導書の基幹部を弄ったのね」
「冗長的だったから簡略化しただけだけど」
「冗長的……無駄が多かったのね?」
「真名を隠す癖が出たんでしょ。あの子って慎重なところがあるからね」
逃げる事に特化してそうだものね。
母さんの補足で何となく分かった。
その後も肝心のゲームを調査する姉さん。
検証しながら呟いては頭を抱えていた。
「アバター機能に疑似魂魄を使用者本人に宿す機能が隠れてる。それも本人の中に宿したあと、本物の魂魄を細切れで転生させる機能があるよ。これは邪神の権能だね」
「「「「「「「は? はい?」」」」」」」
あー。母さんが姉さんと同じ表情になった。
こういうところは親子だよね。私もだけど。
「そこまでするかぁ!?」
「そんなの生きていながら死んでいる事と同じじゃない。個性の死、そのものよね」
「だから三億なんて数が出てくると」
「これはカノちゃんへ情報共有しないと」
母さんはそう言うと私達が管理する世界に飛んでいった。
というか私達もあちらにいかないと空っぽになってそうな気がするんだけど?
「わ、私達も向かう?」
「それがいいかもね」
◇ ◇ ◇
管理世界に到着した。
ま、あれだ……酷い有様になっている。
「抜け殻の分割体が寝転がる……か」
「結依ちゃん。老けてるね?」
「それは言わないで!?」
いや、分かっているけどね。
心労が酷すぎて老け込んだんだね、私。
統合のお陰か幸運値は姉さんと同じ最大に変化したから苦しむ事は無いけども。
「結依ちゃんのおっぱいがしわくちゃだよ。これ、相当苦労したんだね」
「お願いだから死体蹴りしないでよ」
自分でも分かっているからさ。
「これからは若返るのだし気にしない事ね」
「高校生の肉体になっただけだけど?」
「神体って精神年齢が反映されるから」
「それは聞かない方向で……」
分かっているよ。女子高校生は無理だって。
でも肉体年齢は十六才で固定だから夢を見てもいいと思うの。
永遠の十六才ってことでね?
それはともかく!
「神託って。知らないわよ。そんなの自分で考えなさいな」
「こらこら。それは神としてどうなのよ」
芽依は呆れながらそう言うが、
「仕方ないでしょ。思考停止して問うだけで、あとは自分勝手に理解してこちらの意図とは逆の事ばかり行うもの。そんなの真面目に答えるだけ無駄でしょ?」
「おぅ。本音を語らない神が本音を語る、か」
苦労してるのよ。私だって!
正確に言うと数時間前の私だけど。
「当面は神託拒否ってことで」
「あらら。神も留守になることがあるって返してる」
トイレには行かなくていいけど、お風呂は入りたいからね。
分割体を見れば不潔になっているから、お風呂に入れなかった事が分かった。
「この子も弔わないとね」
「死んでない死んでない」
一方の姉さんは研究室からズルズルと引っ張り出してきていた。
「おぅ。見るも無惨な有様だぁ」
「女の子として終わっているわね」
「それは言わないで」
実依も同じく穴蔵から、
「どう反応していいか分からない」
裸の自分を引っ張り出して困惑していた。
何故そんな格好なのか不明過ぎるよ。
分割体の挙動は本当に不可解だ。
その後、分割体は魂魄諸共魔力還元した。
残していても意味が無いし。
「私達も同じく片付けたよ」
「あれは見ていて気分の良いものではないし」
「芋で膨れた果菜の腹とか?」
「そうそう。ボテ腹だったよ」
それはそれで可哀想だよね。
吹有も肥っていたらしいし。
芽依と結凪も分割体を片付けたのか、お疲れ気味な表情だった。
「仕事しない女神は要らないでしょ」
「座っているだけの仕事とか、何をやっているのよ。魔族が相手であってもダメね」
「ポンコツ女神感があったのね」
「「まさにそれ!」」
どうしてこう、本体とは異なる挙動なんだろう。
姉さんの分割体だけは本人っぽいけどね?
姉さんは管理神器を弄って管理室内の灯りを消していた。
留守を決め込むつもりかな?
「当分は自動応答でいいね。ほぼ完成した世界だし、することなんて無いでしょ?」
「結依の神託くらいよね?」
「それも当分はお休みで!」
心労でクタクタだもの。
女神だって休みたいのよ。
そのまま階下へと降り、
「こちらも地獄の様相ね」
「頭を抱える玲奈と」
「胸を揉み込む優羽と」
「外出の準備中の亜衣とかね」
地中の女神達の様子を眺めた。
本体達はそっちのけで管理神器に触れていたけどね。
それは隣の部屋に居た深愛達姉妹も含むけど。
「現時点のレベルが400かぁ」
「もちろん分割体で、ですね」
「私達、既に1000あるんだけど?」
「今後はどう誤魔化すかが、鍵と」
「鑑定でバレそうよね?」
「きっとバレますね」
由良の口調が分割体と同じになっている。
(これは仕方ない話かな?)
それと私達のレベルも2200だった。
統合前は500だったから急成長した。
問題は何処まで偽装するか、なのよね。
「上の姉さんに気づかれないようにするには」
「前の数値で維持でしょうね」
「やっぱりそれしかないか」
「でも上の姉さんよりも上だから鑑定が出来ないって言われない?」
「あっ。偽装では隠せないかもしれないね」
すると実依が〈権能操作〉スキルで母さんが創った芋を改良して手渡してきた。
「〈任意制限〉というスキル創ってみたから食べてよ。試しに使ったら落とせたよ」
「「「「「「は?」」」」」」
「そ、それって?」
「一種の負荷スキルでは?」
「デバフともいうけど」
「あえて低くして誤魔化すか」
困っていたらそうきたから驚いたよ。
統合後の迷宮神は油断出来ないね?
これはあとでお尻を揉んであげようかな?
「結依ちゃん。それは止めて」
「あ。うん、分かった」
思考を読まれてお尻を隠しつつ引かれたよ、冗談だったのにな。
上の姉さんに勘づかれないよう分割体のレベルまで制限を加えた私達だった。
流石にスキルまでは詳しく鑑定されないと分からないけどね。
「実際にレベルが必要になるのは地底よね」
「地底に降りて冒険者として仕事するならね」
学生の合間に降りて登録って手もあるか。
チート級の女神が世界中を巡るのは流石にどうかと思うけど。
但し、上の姉さん達は除く。
芋を頬張る深愛達は別の言い訳を考え中だった。
「というか太陽の件。どうしようか?」
「それも誤魔化すしかないわね」
地底と地上の差違を知ったから、どうするか話し合い中と。
未来で私がネタバレするから意思疎通しておかないとダメかもね、きっと。
「上手く出来るかしら?」
「現状は仁菜だけが知っているみたいだから」
「私がなんとか誤魔化してみます」
「それがベストよね。あとは演技が下手だとバレるから練習が必要よね」
大根役者のままだとバレるものね。
そんな中、美加がボソっと呟いた。
「というか、何故……分割体の事後処理なんてしないといけないのかな?」
ありのままの自分で応対したいって事ね。
それが出来たら苦労はないけど上の姉さん達に疑われると面倒なのよね、色々と。
「分割体とはいえ私達でもあるからね」
「それに急に態度が変わったら面倒じゃない」
「それはそうですが」
「まだ納得出来そうにない?」
「ええ。まぁ……」
まだ納得出来ていない様子だね、これは。
すると姉さんが美加を相手に宣言した。
「納得出来るかどうかはあれだけど、今後の私達が行う事は上の姉さんの陰で極秘裏に邪神共をお片付けする事だから余計な心配を与えないに越した事はないでしょ?」
「それもありましたね」
「それが本題だけどね。生死神の姉に丸投げ出来るのは不法渡航者の対応だけだよ」
「今後は私達が世界を管理しますもんね」
「最低限の排除は私達で行わないと。最悪、上の姉さんが出張ると滅亡するし」
本人が聞くと『そんなことはしないわよ!』って怒鳴りそうだけどね?
知らんけど。




