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ポンコツ女神達の多忙なる日常!〜勇者ではないので、お構いなく〜  作者: 白ゐ眠子
第二章・今度は別の世界を管理するの?

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第34話 不可解な真実。

 Side:芽依(メイ)


 実菜(ミナ)達の転入手続きを終えた日から数日が経った。


「では始めるわよ」


 本日は母さんが示した期日こと統合日だ。


「「「ごくり」」」


 私達は母さんの世界の神界にある保管庫。

 そこに呼び出されて全員がベッドへと横になっている。

 これから私達の神核、私達の個性を形作る心を別人格と統合する。


「や、やっぱり統合はやめない?」

「うんうん。不安でしかないのだけど」

「私も今回は先延ばしがいいな〜って」


 今回は私達の知らない世界。

 その管理に関する記憶を統合するのだけど正直恐くて堪らないのよね。

 例外は比較的ドライな空気を漂わせている結凪(ユナ)だけだ。


「この子達は。素直に諦めなさいよ」


 医師だからか知らないが諦観の面持ちが半端ないわ。

 隣で見ていても呆れの色が見える。


「なんで結凪(ユナ)だけが腹を括っているのよ。いつもなら実菜(ミナ)結依(ユイ)も緊張なんてしないのに」

「い、いや。私がどれだけやらかしているか想像すると恐くてさ。実依(マイ)からもガーベラ刑を何度も受けていそうな気配がしたから」


 実菜(ミナ)はお尻に両手を添えて震えている。

 結依(ユイ)は顔面蒼白で怯えている。


「わ、私も……心労してそうで、ね」


 これは私達が直前に感じた直感の成せる技だろうか。

 それか、私と美加(ミカ)の呟きが原因のような気がしてならない。

 おかしなタイミングで予見の権能が働いたからね。

 自意識で止めようにも簡単には止められない権能だから厄介極まりないのだけど。


「私が姉さんのお尻に挿すのは仕方ない『仕方なくないよ!』足りない記憶を補う際に元の記憶が飛ばないか不安になるじゃない?」

「三人の言いたい事は分かるけどね」


 実依(マイ)の場合は分割体にはない記憶が実依(マイ)に有って、それが消える事を恐れているみたいね……ある意味で上書きだから。

 それは私も同じで大学で得た経営学の知識が飛ぶのは少々辛いものがあるのだ。

 結凪(ユナ)に関しては色々と突き詰めているからか気にしていないような気もするけどね。結凪(ユナ)は権能の範疇でもあるし。

 それは世界中を旅している果菜(カナ)も国内を飛び回る吹有(フウ)も営業先または交友関係の名前を忘れたくないからだろう。

 統合って飛ぶときは飛ぶからね。驚くほどあっさりと記憶が上書きされて都合の良い状態で定着する。不都合な記憶だけが抹消されてね。

 不都合も時には必要だから残したいのだけど融通が利かないのも事実なのよね。


「せ、せめて諦めの時間は欲しいかも」

「うんうん。忘れないよう書き出す時間も」

「相当な猶予を差し上げていたはずだけど」

「「「「「「うっ」」」」」」


 忙しすぎて忘れていただけじゃない。

 子育てとか諸々が間にあったし。

 そんな私達の我が儘を妹達はシラけた視線で見つめていた。


「統合なんて大したことないと思うけど」

「どうしてそんなに怯えるのかしら?」

「全くもって不可解ですね」

「「うんうん」」

「姉さん方。シャキッとしてください」

「私達の見本なんじゃないの?」


 これは未経験だから言える事よね。

 経験者として怯えているだけなんだけど。

 すると母さんは私達の様子から察したのか、


「先にこの子達からやりましょうか」


 私達に記憶を書き出す猶予をくれた。

 結依(ユイ)は即座に記憶保全の魔導書を取り出して複製してくれた。

 私達はそれを用いて消えては困る記憶を記録していった。


「先ずは口座残高と経理の情報」

「次に顧客名簿も忘れずに」

「持ち出しを考慮して記憶に留めて事がこういう形で紛失に繋がるとはね」

「あ、そうか。商売しているものね、三人は」

「「少しでも抜けが出ると詰むの!」」

「信用は得難く失い易いからね」

「そうね。私も担当患者のカルテを忘れないようにしないと。うっかりしていたわ」

「それはうっかりでは済まされないような?」

「仕方ないでしょ。つい引き継ぎしたと思い込んでいたのだから。手術前に全て忘れましたじゃ、患者が手酷い事になるもの。私にも」

「はいはい。これでいい?」

「ごめんね。結依(ユイ)


 社会人組は抜けが出ると不味いから。

 それは学生組である実菜(ミナ)達も同じだった。


「友達との約束は絶対だね」

「お菓子の風味もそうだけど、知結(チユ)の努力とか若結(モユ)の恋心とか風結(フユ)の恋愛事情とか忘れたら大事だよぉ」

「「「何それ聞きたい!」」」

「おぅ。母親達が反応したし」

「それも含めて記録しないとね」


 反応したしって、するでしょ?

 外部入学した私立高校の情報とかクラスメイトでないと得られないから。


「ところで実依(マイ)? 知結(チユ)の努力って?」

「流血への耐性取得だね。先ずは魚を捌く事から始めていたね。人の形した物以外なら耐えられるみたいだよ。人の形は流石に無理だけど」

「それなりに頑張っていたのね」


 結凪(ユナ)としては忘れ難い記憶になりそうね。

 早速聞いた内容を記録しているし。

 そんな中、


「あれ? あれあれ? 兄さんとの思い出が……」

「な、なんで、消えてるのぉ!?」

「に、兄さんが姉さんに化けてるぅ」

「こんな恍惚とした姉さんはイヤー!」

「おぅ……これは変態だぁ」

「それは至音(シオン)の方ね」

「名前を聞いて理解、出来たかも」

「これが、統合なの?」

「レベルはいいとして、なんか辛い」


 妹達の統合が終わったらしい。

 まさに阿鼻叫喚。保全して正解だったか。

 私達の保全後は姉さんから順に統合が始まった。


「やっぱりぃ!? 感触まで再現しないでよぉ……うぅ。やらかした私のバカぁ!」


 これは何度もブッ挿されていたのね。


「あぁ……私の幸運値、低過ぎる……」


 結依(ユイ)は様々な意味で青ざめた。


「そんなに召喚しなくてもいいでしょ!?」


 それは人族への憤りが主だけど。


「ちょっ!? レシピが古すぎるよぉ。そこはこちらの方が美味しいのにぃ。なんでそっちが美味しいってことになっているのぉ!?」


 実依(マイ)は過去の自分に憤った。


「知らない素材があるのはいいけど。名前変えただけじゃん。しっかりして、私!」


 色々と思うことがあるらしい。

 で、次は私の番かぁ……。


「うへぇ。これといってまともな記憶がない」


 統合された私の記憶は裏方めいた物が多かった。

 つまり怯える必要のない記憶しかない。

 女神としての仕事が無いって言っているのと同じ。

 色んな意味で辛い、マジで。


「うへぇ。そんな。はぁ? その程度で?」


 結凪(ユナ)は原始的な方法を目の当たりにしたみたい。

 私よりも絶望色が酷いから。

 吹有(フウ)果菜(カナ)も私と似たり寄ったりだ。


「「女神としての仕事をしてない件」」


 普段から何をしているかと思えば吹有(フウ)は焼き芋を分別したり、果菜(カナ)は焼き芋を食べては寝たりしているだけだった。

 つまり女房と亭主的な関係か。

 このままだと分割体と同じような事は出来ないわね。

 それこそ打開出来る事から始めないと。

 一通りの統合を終えると記憶保全の魔導書を使って戻すところは戻していった。

 案の定、消えていた記憶が沢山あった。


「上書きの恐ろしさはこれよね」

「本当にそう思うわ。重要な情報が消えたし」

「思い出なんかは忘れていいけどね」

「私達の場合、何度も通った道だし」

「当分、分割体を使わない生活にしないと」

「そうね。とはいえ留守には出来ないから」

「当番制にするのがベストでしょうね」


 現状、結依(ユイ)が常時監視していて私達は適度に関わっているだけだ。

 実菜(ミナ)は研究室に篭もり、実依(マイ)は迷宮管理に勤しむ。

 私と結凪(ユナ)は拝まれる立場のままボケッとしているだけよね。

 吹有(フウ)果菜(カナ)は……言わずとも良いが。

 すると母さんが補足するように一言添える。


「現状の亜衣(アイ)は頻繁に出歩いているみたいだけどね」

「眷属の様子を見て回っているだけだと思う」

優羽(ユウ)は豊胸が趣味よね」

「今以上に育っても意味は無いはず……なんだけど?」


 統合前の子が薄いからでしょう。

 復帰した本体の方が巨乳だとしても。


玲奈(レナ)の不幸は凄まじいわね」

「前は頭が吹っ飛んだのに、こちらでは魔法で縛られているって酷くない!?」

深愛(ミア)はダイエット中よね」

「そ、そんなことは無いと、思いたい」


 単純に焼き芋の食べ過ぎね。


由良(ユラ)はお出かけ率が高いわよね」

「う、うん。自覚はないけど」

仁菜(ニナ)の知識不足が凄まじいわね」

「うっ。実依(マイ)さん手伝ってぇ!」

「はいはい」

「そんなあっさり流さなくても!?」


 実依(マイ)もそれどころではないし。

 今は忘れた記憶を取り戻し中だしね。


美加(ミカ)は……まぁどんまい」

「酷っ!?」


 これといって変化が無いのが美加(ミカ)なのね。私と一緒だわ……。


実菜(ミナ)はあちらでも色々創っているから、いい加減処分しなさいね」

「うっ」


 最後は実菜(ミナ)で落ちたわね。

 な、何はともあれ、統合は無事に終了したようだ。

 いや、無事とは言い難いか?

 とても反応に困る情報が記憶にあるからね。


「このゲームって何?」

「何だろうね。製作元を調べてみようか」

「それがいいかも。勘違いが大量発生して私達の世界に転生するとか有り得ないし」

「母さんも把握出来ていなかったの?」

「気づいた時には……って状態だったのよ」

「母さんを出し抜く者が背後に居るかもね」

「あー。邪神とか?」

「あ、あり得る。あれなら遣りかねないわ」


 私達の世界に送り込んでまで邪魔する者。

 母さんへの恨みか何か不明だけど頻繁に絡んでくるなら邪神が妥当でしょうね。

 すると実菜(ミナ)が思案したように、


「それだけの規模の魂魄が異世界渡航したように放出されたら、辻褄合うの?」


 きょとん顔の母さんへと問いかける。

 そう、辻褄だ。母さんの世界の人族の魂。

 それが異世界渡航したならば何らかの形で影響が出ているはず。

 ようは遺体過多って奴よね。

 なのに現実は不可解な事になっている。


「辻褄、ね……ちょっと調べてみましょうか」


 世界神を出し抜く邪神が何をしたのか?

 私はそれだけが不可解だった。




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