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ポンコツ女神達の多忙なる日常!〜勇者ではないので、お構いなく〜  作者: 白ゐ眠子
第二章・今度は別の世界を管理するの?

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第33話 厄介は隠れ潜む。

 Side:実菜(ミナ)


 子育てに費やした時間はおよそ一週間だった。

 赤子の育児は時間加速結界内で行った事が功を奏し、比較的最短で事を成した。


「その子供達が今や……」

「集落の住民ってことよね」

「壮観だね。過去を知るだけに」


 私達の行った子育てが目に見える形で街を形成しているからね。

 私達の立場は神主の娘という体裁でかつての子供達から可愛がられている。

 少々不思議な気分だけど。


「あのトサカの男性。実菜(ミナ)のパンツ脱がして股間を弄った子じゃない?」

「ブッ! 変な事を口走らないでよ若結(モユ)!」


 いや、そんな子も確かに居たけど大声で発しないで欲しい。

 そのスケベ男子は美人な嫁が居るイケメンに成長しているけどね、うん。

 ちなみに、本日の私達は転校手続きをするため高校の分校へと訪れている。


「というかあのトサカ。体育教師だって」

「うげぇ。女性教員は居ないの?」

「ここは分校だからどうだろう?」


 それと亜衣(アイ)達もクラスメイトとして編入学が決まっていて、今は遅れに遅れている高校一年の授業内容を頭に叩き込んでいる最中だ。

 肝心の教師役は深愛(ミア)だね。

 あの中では無駄に頭が良いから。


(権能をフル活用しているだけだけど)


 分校の校長は本土の本校で主任をしていた引退教師らしい。

 余生を島で終わらせたいがため自薦で教育委員会に直談判したそうだ。


「先生。要らない情報をありがとう」

「そうですか。失礼しました」


 私達の担任となる先生は妙に既視感がある。

 実依(マイ)なんて視線を合わせようともしないよね。

 結依(ユイ)は彼女に覚えがあるのか訝しげな視線を向ける。


「以上で手続きは終了です。何か気になる事でもありますか?」

「いえ……あ。保健医の先生が居ませんが?」

「保健医は本土から訪れる女医の先生が担当しますよ。この島出身の女性ですが」

「そうですか」


 もしかしてあれかな?


芽依(メイ)が男性の身体に入って、子育てした女の子が女医になったのかも。もしそうだとすれば実現力の高い子だと思えるよ)


 一方の若結(モユ)達は廊下を歩く生徒達を眺めて念話で語り合っていた。


⦅この子達って私達が育てた子達じゃん!⦆

⦅やりづらい、クラスメイトやりづらいよ……色々見てしまっているのにさぁ?⦆

⦅それは男の子の……って事だよね?⦆

⦅もちのろん。大きい子は大きかったから⦆

⦅何処の事を言ってるのよ風結(フユ)は?⦆

⦅男の子の股間にぶら下がる逸物だけど?⦆

⦅その残念な思考回路は絶対隠そうね⦆

⦅女の子達は見慣れているから平気だけどプールで見るのはダメだよね?⦆

⦅ダメだね。ジロジロ見て怪しまれるよ⦆


 少々反応に困る念話をしているね。

 会話に参加すると面倒なのでスルーした。

 部活動の生徒達を眺めつつ校舎から出た私達は校門を抜けて予定を話し合う。


「手続きは完了したけど。この後どうする?」

「役場の隣に出来た喫茶店に行かない?」

「ああ。あの……喫茶百合ってお店だっけ」

「そうそう。一見さんと男性お断りの」


 その店は最近出来たばかりの喫茶店。

 私も結依(ユイ)も気が向いたら伺おうと思っていたが……正直、遠慮したい。

 すると結依(ユイ)が心配気に念話してきた。


⦅姉さん。それってあの子だよね?⦆

⦅あの子だね。私達の素性に気づいた子⦆

⦅調べたら異世界転生してて⦆

⦅異世界で王女をしていたと⦆

⦅どういう訳か私達の素性を把握して⦆

⦅うん。頭を垂れて対峙していたよね⦆


 その子は私達が女神であると物心がついた段階で気が付いた。

 そこから先は両親ではなく恭しい態度でこられて辟易したよ。

 最後は離婚という体で結依(ユイ)が離れ、私が母親の死去で離脱した。

 すると実依(マイ)がボソッと参加した。


⦅そういえば……担任教師も同じかも⦆

⦅はい? それってどういうこと?⦆

⦅わ、私が育てた女の子だったんだよ⦆

⦅⦅ああ。実依(マイ)が単身で育てた⦆⦆

⦅あの先生も見える人だから厄介だよ⦆

⦅それって神力……とか、言わないよね?⦆

⦅姉さん、大当たり!⦆

⦅マジで? それって厄介じゃん!⦆

⦅厄介な人物が勢揃いしたね。この島は⦆

⦅⦅うん⦆⦆


 住民不足を補った途端に別の問題が顔を出すってね。


(問題に愛され過ぎでしょ……この島?)


 何はともあれ、神力の発露に慣れていない三人だけ喫茶店に向かい私達は家に帰る事にしたのだけど……。


「すみません。神月(カヅキ)診療所の場所を教えて下さいませんか?」


 道中、定期船の待合室から出てきた妙な色香を持った女性から声をかけられた。

 彼女の右手には大きなスーツケースと旅行鞄が存在していた。

 これは出稼ぎか何かかな?


「診療所? ああ、結凪(ユナ)が境内から公民館に移転させた小屋だっけ?」

「多分そうだと思う。ログハウス式の」

「大きな建物が建ったよねぇ」

「それを建てたのは姉さんでしょ」

「そうだね(棒)」


 ここでそれを言わないで欲しい。

 こんな小娘が建てたとか信じられない者が多そうだもの。

 今のところはエロい女性しか居ないけど。

 私達の会話を聞いた女性は何故かきょとんとした。


結凪(ユナ)? それって神月(カヅキ)院長の事ですか?」

「「そうだけど?」」

「!? ま、まさか、ご親戚か何かで?」


 ご親戚……にはなるかな?

 ここで妹ですとは言えないしね。

 いや、表の立場は姉になるのか。


「え、えっと。私の姉ですけど」

「あの名医の妹さんに出会えるなんて! 神に感謝いたします」

「お、おう」


 神様に感謝だって。

 この神って誰? 母さん?

 母さんだよね、普通に考えると。

 私達は女性を連れて集落の中心部。

 神社の階段前まで案内した。


「こちらですね」

「ああ。ありがとうございます」

「では、失礼しま……」

「待ってください。お礼を」

「そこはお気になさらず。私達も家に帰るついでですから」

「あっ……」


 彼女からの引き留めに応じず階段を駆け上がった私達だった。

 結凪(ユナ)の関係者と知ってあれこれ聞かれても困るしね。

 私達が階段を駆け上がると結凪(ユナ)が苦笑しつつベンチに座っていた。

 右手には銀缶があり祝杯をあげているように見えた。

 おつまみは……割きイカ、か。


「あの子と出くわしたみたいね」

「見ていたの? それなら助けてくれても」

「女神でしょ。自力で抜け出しなさい」

「それは時と場合によるでしょ?」

「それもそうね」


 あの子……結凪(ユナ)達が育てた女の子。

 医師を志して一人前になって帰省した女性。

 結凪(ユナ)にとって感慨深い相手だね。

 結凪(ユナ)はおもむろに空を見上げて呟いた。


「今回の一件。上の姉さんが発端だけど資金的にも助かったのは姉さんのお陰よね」


 これは感謝されているのかな?

 実は今回、土地購入に際し莫大な費用がかかったのだ。

 それは大地主である母さんではなく何処からともなく現れた土地管理会社。

 大地主を無視して土地を管理していると宣ったから母さんも怒り狂ったね。

 その会社を調査した結果、邪神の息がかかった者達が暗躍していて兄さんが出張ったのは記憶に新しい。それと共に意味不明の戦争が海外で勃発した原因も邪神が悪さしていた。お陰で材料費が高騰するだけ高騰して土地の購入資金だけではままならない状態にまで発展した。


「土地の造成までは出来ても次が、ね」


 そこで私が復活した父さんの世界に目を向けて最上層へとマンションを建てる際に伐採した木材を結凪(ユナ)に無償提供した。


「ああ、ね。資源不足だったから父さんの世界から伐採してきたんだよね。あれらは最上層に生えた最高品質の木々だけど」

「その木々を製材して家具とする際に高額になったものね。業者から何処で手に入れたのかと問われたのは鬱陶しかったけど」

「建物の躯体は私がなんとかしても、家具だけは本職に頼らないといけないからね」

「餅は餅屋、ね」


 造成後の建造は私が一人で行った。

 そこは神のなせる技ってことで。

 元々副院長の息がかかった工務店が入る予定だったが前金だけ持って逃げられた。

 そして逃げられた責任は結凪(ユナ)にあると副院長と一部の理事が糾弾した。

 これも邪神かなって思ったら単純に金儲け主義の連中が絡んでいただけでね。

 結凪(ユナ)の権限で遙か遠くに島流ししたのは言うまでもない。


「ところで経営権はどうなったの?」

「大学の後輩に全て委ねたわ」

「そうなると結凪(ユナ)の立場は?」

「本日付で診療所の所長になったのよ」

「ああ。今後は島に居続けると」

「理事の一人ではあるけどね。遠隔手術が必要な時は私が出張るけど」

「なるほどね」


 建造後は土地と建物が医療法人の所有物となったので、肝心の責任問題は副院長と一部の理事が責任を取る形になった。それが島流しとなった一番の原因だね。

 何せ持ち逃げしたのは工務店ではなく問題児達が裏で暗躍していたのだから。

 結凪(ユナ)から経営権を奪うため、あれこれ動いて神を敵に回して島流し。

 悪事が隠せると思うなかれだよ?

 それはともかく。

 私は結凪(ユナ)の手に持つ銀缶が気になり始めた。

 それは会話を黙って聞いていた結依(ユイ)達も同じだ。


「ところで、それ。私も飲んでいい?」

「未成年が何を言っているのよ?」

「「「中身は未成年とちゃうもん!」」」

「……」


 その沈黙は何?

 呆れの色が滲み出てるけど?


「飲みたいなら着替えてきたら? 身体毎」

「「「あっ」」」


 成人の憑依体で現れろってね。

 久しく使っていなかったから忘れていたよ。

 私と結依(ユイ)達は大慌てで社務所に入る。

 自室に保管していた憑依体を取り出して着替えて宿った。

 胸が小さいのはご愛敬かな?


「久しぶり過ぎてちょっと微妙」

「この背丈は少々慣れないね?」

「元妊婦の身体だし大丈夫だと思いたい」

「「だね!」」


 この身体で産んだ子は存命しているよ。

 私は魔王、結依(ユイ)はダークエルフ王。

 実依(マイ)はドワーフの息子が居る。

 彼等は創ってから産んだだけなんだけど。


「久しぶりに飲んだビールは美味い!」

「あの身体だと絶対に飲めないよね?」

「「ほんそれ!」」

「この割きイカもうまー!」




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