第23話 有効的な時間の使い方。
Side:実菜
〈異世界時間:七月二十三日・午前十時〉
深愛の折檻を済ませた私は息抜きと称して全員で畑仕事に勤しんだ。
深愛への事情説明は折檻中に済ませたよ。
この畑仕事も果菜に丸投げしている残り一人の回収が出来るまでの余暇でしかないけれど。
「ふぅ。馬鈴薯の種は全て植え終えたね」
「こ、これが、馬鈴薯の種?」
「従来品とは少々毛色が違うけどね」
「そう、なのですか?」
「これは母さんが育てている芋を少し改良した芋なんだよね」
「「「「「い、芋?」」」」」
「〈スキル芋〉って言うんだって。ね、芽依?」
「その〈スキル芋〉を実依が改良して魔力を増やす馬鈴薯として誕生させたのよ。一種のポーションよね、これ?」
「それも生で食べられる特殊な、ね」
「仮に青くなっても毒はないよ〜」
「そ、それなんて……」
「せ、精霊要らずでは?」
「せ、世界の根本を、覆す、馬鈴薯?」
「大丈夫なんですか、そんな代物を拵えて?」
「というより下位精霊に発破をかけるとか?」
「「「仁菜、大当たり!」」」
「「「「えー!?」」」」「やった!」
「これは流石というべきかしら?」
「私と同種故の鑑識眼だよね〜」
畑仕事では合流してきた妹達も共に行った。
土いじりが好きな子ばかりで助かったよね。
これらは世界創造に繋がる重要な行為でもあるので土いじりは本能的な物だけど。
しばらくすると仕事先から戻ってきたお疲れ気味の結凪が合流した。
「期日が近いっていうのに全員で畑仕事?」
結凪は訝しげな視線を私に向ける。
「うっ。それは言わないでよ」
バツの悪い顔になった私を一瞥した結凪は大変大きな溜息を吐いて私達の玄関扉を開けて入っていった。
「結凪ってば、ご機嫌ななめ?」
「あちらで何かあったんでしょ」
芽依は訳知り顔で両手に付いた土をパンパンと払っていた。
私はその一言だけで察した。
「ああ」
おそらく仕事周りで色々言われたのだろう。
あれでも経営者であり一人立ちした名医だ。
自身の担当する患者をほっぽり出してとか言われたに違いない。
結凪が権能を使えば、どのような病も簡単に癒やせるけどね。
それをすると母さんから叱られるので余程の事が無い限り行わないが。
モンペから私服に着替えた私達は家へと戻る。
「ところで果菜は対を見つけたかな?」
「それは……かな、だけに?」
「「芽依?」」
「寒いよ、芽依ちゃん」
「うっ」
果菜も当初は同時進行で見つけ出すと言っていたのだが〈遠視〉してみると対の居る場所が地下神殿から無駄に遠かった。
そうなると、どうあっても期日に間に合わなくなると芽依から盛大に叱られ渋々と現地まで転移で向かった。
肝心の結果は無事に連れ帰ってきて報告で知る事になるかもね。
仮に〈遠視〉してもいいけど果菜から「見ないで」と言われたので額面どおり見ない事にしている私である。
「あの芋はどれくらいで育つの?」
「普通なら数ヶ月先よね?」
「水は芽依さんが与えていたけど」
「魔法でちょちょいってね」
「あれの養分ってなんなんだろう」
「そこは普通に神素じゃないの?」
「「「「あっ」」」」
家の中では結凪が娘の知結を抱いてほっこりしていた。
仕事の疲れも娘の抱き心地で癒やされるって事か。
若結と風結達は畑仕事に参加していなかった。
三人は畑仕事よりぐーたらしている方が性に合っているとか言い訳をしていた。
それはそれで駄女神感がパないけど。
私達に気づいた結凪は知結の頭を撫でながら疑問気に質問してきた。
「果菜が居るかと思ったけど居なかったのね。あの子は何処に?」
問われた私は冷蔵庫から麦茶を取り出しつつ簡潔に答えた。
喉が渇いたから仕方ないよね?
「対を見つけに行ってるよ」
私の答えに結凪はきょとんとする。
「後回しにするんじゃなかったの?」
芽依が隣に座りつつ結凪に応じた。
「どうも神殿から遠い場所に居たみたいでね」
結凪と同じように若結を抱き寄せ、頭を優しく撫でている。
若結は身じろぎして悶えている。
子離れが出来ていない母親が二人、か。
「ついでに拾うことが不可能になったのよ」
「なるほど。それで家の中に居なかったのね。面倒そうにしていたけど」
「果菜もなんだかんだ言っても根は真面目だからね」
「老けに老けた婆様だから余計にね」
「姉さん、果菜の老けは関係なくない?」
「あ、うん。関係ないかもね」
「「まぁ言いたい事は分かるけど」」
「分かるんだ」
そういった事情で全員が揃うまでは地下神殿へと向かう行動は起こせなかった。
どれだけ期日が迫ろうともね……。
◇ ◇ ◇
Side:実依
〈異世界時間:七月二十三日・午後十二時〉
「時刻は丁度、お昼か。何か食べる?」
「ええ、いただくわ」
「実依ちゃん、お昼はどうする?」
「あー、それなら温野菜でも作る?」
「それがいいね」
私は姉さんと共に昼食の準備を始める。
結凪達は娘達を抱き締めたまま先々を憂いていた。
「外時間は既に五日になったのね」
「はやく同期を取り戻さないとね」
「原因究明と共にね」
「同期がズレているのは問題だもの」
「「母さんでも分からない事ってあるんだ」」
「それこそあるわよ」
「私達が管理しているわけではないし」
「今回の召喚事故は父さんが目を離した隙に起きた事案だしね」
目を離した……ああ、芋を外で焼いたのね。
そのまま自動承認で。この世界、脆弱性が大きすぎる。
その最たる弱味を人族に利用されて今に至っているのだから頭が痛いよね。
「改めて聞くととんでもないね。姉さん」
「そうだね。形状を母さんに似せた弊害かな」
「ああ、それで自由奔放な世界になったと」
母さんがこれを聞くと⦅違うわよ⦆って言いそうだ。
形から入って世界の概念がそうなったなら流石にどうしようもないしね。
「中に住まう住人も含めてね」
「但し、姉さんのお気に入りは除く!」
「お気に入りって……まぁそうだけど」
「否定しないんだね」
「私が創って育てたも同然だしね」
「そういえばそうだった」
そうそう。魔王は姉さんが創ったもんね。
(脳筋になったのは姉さん由来だけど)
そう思った直後、姉さんが私の後頭部をパシッと軽く叩いた。
「私は脳筋でもなんでもないよ」
おっと、思考を読まれたよ。
私はきょとん顔であっけらかんと応じた。
「そうだっけ?」
「そうだよ」
姉さんは否定しているが私は脳筋だと思う。
知識神としての権能はともかく、ね。
昼食の準備を終えるとリビングに残る全員が自分の席に着いた。
「改めて見ると壮観よね」
「ええ。こんなに姉妹が居たのね」
外出中の果菜と吹有。
風結と合流出来ていない妹達。
念話では優羽と合流したとあるから残りは一人だけになるけれど。
「数名足りないけどね。外のパン窯でパンを焼いている結依も含むけど」
「はーい。パンが焼き上がったよ!」
「ありがとう結依ちゃん」
元々十人姉妹だったのに追加で七人増えた。
「母さん、私達も姉妹なの?」
「ええ。姉妹よ」
「「叔母さん達が姉さん?」」
「やっぱり信じられないかぁ」
「同級生の方がしっくりくるわよね」
「「「何よ?」」」
「「なんでも」」
そう言いつつ目をそらさなくても。
一応、説明はしたんだけどね。
まだ信じられないみたいだね。
◇ ◇ ◇
Side:結依
〈異世界時間:七月二十三日・午後十三時〉
昼食後は思い思いの時間を過ごす。
パン窯の後始末を終えた私は実依に紅茶を淹れてもらいながら、それぞれの様子を眺めた。最後に合流した亜衣は深愛の腹を撫でてどうだったとか聞いているよ。
「どうもこうもないわよ!」
「男性経験が出来ただけ儲けものじゃない?」
「い、要らない経験だったわよ。あれは!」
由良は仁菜と共に縁側に座りお茶を飲む。
「良い天気だね」
「そうだね」
「雨降らないもんね」
「そうだね」
美加は若結達の隣で沈黙していた。
末っ子と思ったら三人も妹が居たのだから。
「……」
二人の会話に参加しようとして参加出来ないで居るけれど。
だが、妙にそわそわしているのは若結達以外の全員。
世界の崩壊前だからこそのそわそわだよね。
気が急いているというか何というか?
「果菜、遅いね」
「そうだね。外時間は五日の午後かな?」
「姉さん。残り時間で片付くの?」
「こればかりは分からないよ」
「仮に同期が戻ったとして」
「私達の主観時間が狂いそうだね」
「狂ったとしても微々たる変化でしょ」
「それはまぁ、そうなんだけどね」
「でも、若結達の主観時間は?」
「あっ」
私達はそれ相応の年月を生きている。
でもあの三人は年齢イコールの新神だ。
「その時はその時として受け流すしかないね」
「やっぱりそうなるかぁ」
「私達も最初はそうだったし」
「まぁ、ね」
理屈を解いたところで頭で理解は出来ない。
それならば思考停止を選ぶ方が無難だよね。
そうなんだって流した方が不安もないから。
「時間が迫っている時に限って」
「待機するって地味に辛いよね」
「「「「辛い!」」」」
それも世界が崩壊する直前だからこの待機時間がもどかしいよね、ホント。
「座敷童、はやく帰ってきてぇ」




