第21話 不調原因の調査?
Side:明日華
〈八月三日・午後一時〉
あの子達が例の世界に赴いてからおよそ十二日が過ぎた。
その十二日が過ぎてから状況がようやく動き始めた。
「どうにか姉妹の合流が叶ったはいいけど期日が近づいて慌てて行動を始めたか」
こちらの時刻は午後一時過ぎ。
この日の私は寝る間も惜しんで監視に徹していた。
隣には眠そうな主人も居るけれど。
私は主犯の栄一さんを詰りつつビール片手にツマミを食べる。
「貴方は他人事を言っている場合ではないでしょう? 大陸核の調査をしないと!」
「うっ」
「元はといえば忘れていた事が原因でしょう」
「反省はしている」
「しているなら行動で示してよね?」
「は、はい!」
傍目に見たら離婚の危機にも見えるだろう。
私が主人を尻に敷いて鬼嫁として命じているようにも見える。
(実際にはそんな危機は絶対に無いのよね)
栄一さんは私に惚れ込んでいるから。
反応に困る裸婦像を世界の中枢に据えるくらいには惚れ込んでいるもの。
(定期的に弄っては精密に造り替えていたりするし。そんな事をする前に大陸核の異常を把握すれば良かったのに。ホント、困った人だわ)
こちら側で大陸核の異常を発見したのは、あの子達が向かってからだ。
つまり数日前に発見して、寝ずの番で原因の調査を行っていたの。
調査を行いながら、あの子達の動きまで見てしまうから困りものなのだけどね。
すると今度は、
「由良と仁菜が自発的に行動したまではいいが、あの手段はどうなのだろうな。一応でも自身が宿っていた肉体だぞ?」
結依と実依が干渉した娘達の行動に文句を言っていた。
この人は文句を言える立場ではないはずだけどね。
私はツマミを咀嚼してツッコミを入れた。
「手段が無かったからでしょう。国の内部事情には干渉しない。それが鉄則でしょ」
「そ、それはそうだが」
「はいはい、手がお留守よ〜」
「うっ」
本当に困った人だわ。
その二人が姉達に合流するよう動いただけマシでしょ?
姉達に回収される事を待つよりも自発的に離れる事を優先しただけに思えるしね。
それでもなお、実況するように娘達の動向を見てしまう栄一さん。
「結凪も無事に回収したか。しかし、あの方法しか手が無いのか?」
「そういう解除方法を指定した人が何を言っているんだか……」
「あれは現れると目覚める指定だったはずだ!」
「だったはずって。よく見ると触れるって指定が入っているけど? 妹達の身体に触れて神体を直に押すって指定がね?」
「あ、こ、こんな小さい文字は知らないぞ?」
「知らないって? 創造者が承認しないと指定が出来ないでしょ。どうせこれも急いでいて見ていなかっただけでしょ?」
「うっ」
案の定、バツの悪い顔でそっぽを向いた。
(十六年前なんて、ほんの少しの時間でしょ。当時は何を急いでいたのやら?)
呆れてしまった私は栄一さんの思考を改めて読んだ。
(あ〜、あの子ってばそんなに前から居たのね。入学手続きを行うために栄一さん自らが保証人として出張ったと……)
読んだ結果、ここには居ない長女へと苦言を呈したくなった。
(あの子もいつのまに干渉していたのかしら? 十六年前まで島内に隠れていて暇だから高校に通ってみたいと栄一さんに願ったのね。それなら私に言えば、この島の分校に通わせてあげられたのに……)
それがどういうわけか私立高校に通うようになっていて十五年後には妹達の通う学校の先輩になってしまったけれど。そのまま想定外の出来事に遭遇して、今に至る。
(お陰であれこれ用意する必要も無かったのに。直接こちらから送り込めたから)
そんな居ない者を詰る間も状況は変化する。
実菜と芽依が自身の対を回収するため再度宮殿へと赴いた。
「実菜の奴、それは過干渉が過ぎるだろう。状況によっては別の勇者召喚がなされてしまうぞ?」
「王女のおっぱいを二メートルも伸ばしてしまったのね。あんなに伸びる物なのね」
何を思ってあんなに伸ばしたのか定かではないが、うどんのように伸びきった王女の乳房を変態へと持たせていた実菜だった。
(ドSな部分は姉妹だと思えるわね)
私があっけらかんと様子を眺めていると、
「それどころではないと思うが?」
栄一さんは狼狽えていた。
おそらくこれは先ほどの件と似通っているからだろう。
〈国の内部事情には干渉しない〉
この場合は実菜がやった風にはならないため影響外だと思う。
あの子もそれが分かってプリン頭に持たせているからね。
私も彼らが被害者であると理解しつつも、
「勇者の体裁より変態の体裁が全面に出ている男共の事はこの際どうでもいいわ」
いずれ罰する予定であった事を思い出した。
それは被害者多数って意味でね。
あとはあの子にも唾を付けようとしていた過去があるし。
それがあの子の特性故の事故だとしてもね。
冷たいようだが、それが私の対応だ。
栄一さんは私の対応に対して食い下がろうとする。
「いや、だがな? 一応でもこの世界の民で」
私は空っぽのビール缶を握り潰し、
「それならもし、こちらに残していて同じような被害者が出ていたらどうする? 娘の誰かが狙われたりしていたらどうするの?」
目を据わらせてから問いかけた。
「うっ。そ、それは」
「嫌でしょ?」
「うむ」
例に挙げれば理解は容易いわよね。
私はその上で召喚の原因を読み解いた。
「彼らは元々、そういう類いの者達よ。性加害者。今回の召喚は召喚主達の精神性が作用した結果でしょ。あとは私が罰する指定を行っていたから、影響しあって……」
「召喚されたっていうのか?」
「こればかりは大陸核を読み解かない事には、分からないけどね?」
「そ、そうだな」
召喚に関してもそうだが、全ては大陸核の異常が原因に思える。
一体、中で何が起きているのやら。こればかりは私達にも判断出来なかった。




