第18話 説明されても理解不能。
Side:芽依
結凪が対の元へと転移した事を把握した私は自身の目標となる人物の元へと向かう前に姉さんへと問いかけた。
「姉さんの対に対してはどうするつもりなの? 直接的ではないにせよ、一応は本人を知っているのよね?」
それは同じく対象となっている人物だ。
私だけでなく姉さんも行く必要があった。
姉さんの思考を読めば過去に色々やらかしてやらかされている関係とある。
互いに知神同士だからか、見た目から何からが似通っている二人。
姉さんも私の問いかけに対して誰なのか直ぐに理解を示して問い返した。
「それは深愛の事だよね?」
「ええ、その子しか居ないもの」
名前はともかく同類って点では一人だけだ。
私は話の途中で珈琲を口に含み、
「王女でありながら半裸で勇者の寝所に赴いて、開いちゃった子でもあるし」
姉さんが知らないであろう案件を口にした。
姉さんはポカーンとしたまま飲みかけの珈琲を自身の口からダラダラと溢した。
「はふぇ? な、なにそれ? どういう事?」
溢して自身の白いジャージを汚していた。
シミになると厄介なので私は苦笑しつつ注意した。
「先に溢した珈琲、拭いたら?」
「あ、ああ、神素還元で消してっと」
「拭くよりもそちらを選んだのね」
「実依にバレると挿されるし……」
「ああ、弱点にズブッとあてがわれるわね」
「食後だからいいけど、それは言わないで」
「自分から振っといてその言い草は何なのよ」
話題が脱線したため改めて姉さんに対して何が起きたのか語ってあげた。
姉さんは語りを聞く度に表情が険しくなる。
「あの子は……」
眠っているとはいえ性質が今の人格に悪影響を及ぼしたのは確かだ。
姉さんと同じく知りたい欲だけは本当に半端ない子だと思うもの。
すると姉さんは、
「さっさと回収して折檻しなきゃ」
ガタリと椅子から立ち上がり羽織袴に換装し、刀と脇差しを装備した。
(行く気満々なのはいいけど、その理由が微妙よね。折檻すると言っても当人の意識がない状態の行いだから責任は無いはずだけど……)
と、思ったら私が驚く一言が飛び出した。
「肉体に影響を及ぼさないよう、初っ端に行う状態封印すらしていないんだから」
「じょ、状態封印って?」
「私達の性質を表に出さない封印だよ」
「そ、そんな封印があったの?」
「あったんだよ。父さんが伝え忘れていただけかもしれないけどね。それでも自身で気づいて行うのが女神たる所以なのに。現状で気づいていたのは上の三人だけね?」
姉さんは溜息を吐きつつ天井を見上げた。
(主な原因は父さんのド忘れ、か……)
それが巡り巡って自身の世界の崩壊危機を及ぼすと当時は想像出来ただろうか?
忘却の彼方に置いてきた娘達へと命じたが、
(確か……『完全封印。対が現れると目覚める指定』とか母さんも呆れていたよね)
ド忘れの末、監視しながら崩壊まで気づかなかったとしたら凡ミスどころの話ではない。母さんの呆れが十分、理解出来た私だった。
姉さんは私が語った案件を困り顔で持ち出した。
「備蓄庫の神素残量が減ったのも状態封印を忘れた深愛の行いなら特に」
「ああ、それを行っていたら起きなかったと」
「過去の出来事だから今更感がするけどね」
姉さんはそう言いつつ果菜に伝言を頼んでいた。
「少し出てくるから、あとよろしく。それと、お風呂中の吹有に大トカゲの買い取り依頼をお願いしておいて。現物は吹有の〈空間収納〉に送っておいたから」
「ほいほーい、いってらっしゃ〜い」
「果菜も迎えに行きなよ?」
「うん、考えとく!」
「おい」
それはこのあと出掛けるであろう私の妹へのお使いだった。
(大トカゲって何だろう?)
何はともあれ、私と姉さんは姉さん達が逃げ延びた宮殿へと再度向かった。
◇ ◇ ◇
水上宮殿のある街の手前に私達は到着した。
到着したのだが、少々状況が変化していた。
私達は〈隠形〉したままの状態で橋を渡ろうとして呆気にとられた。
「あら? 〈転移禁止結界〉が消えてる?」
「本当だわ。何かあったのかしら?」
それは〈転移禁止区域〉を成す、上空を覆う銀膜〈転移禁止結界〉の消失だった。
父さんの管理する神器で見た時は存在していたのに今見たら青空が目立っていた。これは〈魔力感知〉スキルで見た光景なので、スキルを所持していない者には青空に見えるけど。
「そうなると直接飛べる?」
「飛べるかもしれないわね」
そう言いつつ〈遠視〉スキルで宮殿内を視認し、問題の無い場所へと〈空間転移〉で飛んだ。転移が出来なければ橋の手前に戻るだけだったが、問題は無かった。
問題無い場所、それは庭園となっている広場だった。
「見事、宮殿の中へ侵入成功!」
「というか少々慌ただしくない?」
「何かあったのかな?」
私達は広場を抜けて宮殿内の廊下を歩む。
目的の人物達が居るとされる後宮を目指す。
その際に、
「あら? 黒服を着ている者が多数だね?」
誰かが崩御したのか宮殿内の神殿へと向かう者が多かった。
騒がしいのは神殿の周囲だけであり、後宮側は比較的静かだった。
「そうね。というか、ここって誰の管轄?」
「えっと、水上だから……」
「水上? あぁ、私か!?」
大神殿は全員の管轄。
各国家にある小神殿は関連する女神を祀っている。
この国なら迷宮と商業と流通だ。
実依と私と吹有になるわね。
私は近場に居た水精霊達に神力を与え、誰が亡くなったのか事情を聞いた。
というか与えた瞬間に精霊王と大精霊も現れたけど。
そうして事情を聞いたところ、
「そう」
反応に困る状況になっている事を知った。
何でも第二王女と第三王女が投身自殺したというのだ。
それを知って悲しみに暮れるのは母親達と第四王女のみだという。
姉さんは非情となっている第一王女へと怒りつつも感情を抑えて思案していた。
「中身への折檻と肉体への罰も与えないとね」
だがここで、普通の死とは異なる事を私達は気づく。
気づくというか聞こえてきたのよね。
参列者達の声が。
「今の? 聞いた?」
「ええ、どういう事かしら?」
何でも直前までの王女達は豚かと思うほどの腹を持っていたらしい。
それが遺体を見るや細い腹に変化していて本当に王女殿下なのかと解剖した。
偽り姫・当人達以外の誰か。
様々な憶測が飛び交ったが、最後は決定打となる証拠が遺体に存在していた事で当人達であると判明した。産まれた時に刻んでいた洗礼紋。
聖魔力をあてがうとお尻に痕が出るらしい。
この国の国旗が左右の尻肉にデデーンとね。
それを聞いた私達は、
「そうなると、抜け出た時に、そのまま?」
「おそらくそうかもね。疑似魂魄を宿す事すら行わずに落としたんでしょ」
憑依体だけが湖に落ちたと仮定した。
(では肝心の中身は何処に?)
そう思いつつ足跡を探ると大神殿の入口にハイエルフ達が寝転んでいる事に気がついた。私達は〈遠視〉しつつ頬が引きつった。
「自力で到着しているわね?」
「ああ、実依達が顔を出したね」
「そのまま盛大に巨乳を揉んで」
「起こそうとしていると」
これ以上見ても始まらないので私達は目的の人物が居るであろう後宮を目指す。
目標は第一王女と第四王女。一箇所に勢揃いしているのは驚きだけどね。
私達は複数ある個室扉を開けていき、
「先に芽依の目標から確保しようか」
「そうね。あちらは絶賛……」
「肉欲に塗れているからね。近くで見ていて気分の良いものではないし」
げっそりしたのち、ベッドへと横たわる子豚王女の元へと急ぐ。
これから行う目覚めは時間停止下に置いて強引に神体を抜き出すだけだ。
先ずは横になったまま悲しみに暮れる子豚王女の胸へと両手を乗せる。
「平面王女を元平面娘が強引に押すのね」
「元平面娘で悪かったわね?!」
「ん」
姉さんの賑やかしもあったが無事に目覚めたような反応があった。
そのままだと肉体が動き始めるので、体重をかけてベッドの下へと落とした。
『きゃ!?』
「すり抜けて床に尻餅を打った?」
「打っていないでしょ? そのまま階下に落ちたみたいだし。その間に憑依体を創って、こちらには疑似魂魄を宿して」
私が姉さんにツッコミを入れつつ用意していると床下から頭が生えてきた。
「あ、戻ってきた」
『い、一体何が?』
姉さんは準備の間に彼女に対して意思疎通やら事情説明を行った。
「平面からデデーンとおっぱいが生えたね!」
『え? あ!? 大きい!!』
「ところで君の名前は言える?」
『え? 名前ですか? えっと、神月美加です』
「問題は無いね。私の記憶にある子と同じ名前だよ」
『これはどういう事なのでしょうか?』
「簡単に説明するとね……」
そうして説明に納得した美加は、
「今までありがとう、それと、さよなら」
新しい憑依体へと宿り第四王女へ別れを告げた。
おそらくこれで出くわす事も無いだろうから。
次いで姉さんの怒りの矛先が向く者の寝所へと移動する。
姉さんは寝所へと転移すると同時に、
「時間停止ドーン! からの勇者共の汚ブジェもドーン! 汚物は見たくないから物理的に隠して!」
怒りの汚ブジェを寝所に拵えた。
それは三匹が互いのブツを口に咥え、姉さんの手で顎を強く閉じさせられた大変痛々しい姿だ。おそらくだけど千切れたかもしれないわね。
そののち、裸で横たわる第一王女の両胸を押すのではなく強引に引っ張った。
「実は逆に引っ張り出してみたかったんだ」
「姉さんの興味本位の洗礼を受けるとは」
「ミ、深愛、生きて」
両胸が極限まで伸びきる寸前で反応が現れた。
「痛!」
姉さんは気にせず引っ張り続け、胸が伸びきってから知神の神体が外に出てきた。
『わぁ!? あれ? ここ何処?』
「深愛、起きた?」
『え? 貴女はどちら様? 何で私の名前を』
「とりあえず、そこに置いたエロフに宿ってね」
姉さんはそう言いつつ、あっという間に憑依体を用意した。
『え? お、おっぱいが育ってる!?』
「はいはい。宿らないとお尻を押すよ」
『わ、分かりましたぁ?!』
私の時と違って美加の顔に姉さんと同じ容姿だから、あっさりと用意が出来たみたいね。
その間の姉さんは第一王女の身体に触れ、
「両胸が伸びたね。このまま治療せずに汚ブジェと合体させようかな? そうすれば誰の仕業か確定するでしょ? こいつらは勇者ではなく、女目当ての変態だもの」
「姉さんの罰は相当な代物になったわね」
「どちらに対してでも、ですね」
「それと流血沙汰になるから汚ブジェの部位だけはきっちり焼いておこうかな」
「つ、使いものにならなくなったわね」
「お、女の子にジョブチェンジですね」
「ついでに玉も焼き切っておこうか。どうせ使えなくなるし」
「「ボトボトと落ちた」」
肉体への罰と称した固定化を行った。
三匹の中心に収めてプリン頭の両手を動かして伸びきった両胸を掴ませ頭上へ移動させた。第一王女へと疑似魂魄も埋め込み、あまりの激痛により第一王女が叫ぶ事が確定した瞬間でもあった。
「い、一体何が起きているの? あ!?」
それを見たエロフもとい深愛は頬が盛大に引きつっていた。
「わ、私、ではないか。ユリスの胸が伸びて……」
すると姉さんはニヤニヤ顔で深愛へと問いかける。
「先ほど腰を振られていたけど、記憶ある?」
問われた深愛はきょとんとするも、
「こ、腰を、振られ……!? いやー!? なんでぇ!? 私、そんなつもりなんて無かったのにぃ!」
思い出したのか顔面蒼白へと変化した。
勇者共に触れられた場所を思い出しては何発もの浄化魔法で浄めていた。
姉さんは深愛の様子を眺めて苦笑した。
「潔癖症が表に出たね。こちらが出ていたら良かったのに。好奇心よりも、ね」
「ああ、潔癖症が出ていたなら、そうね?」
「ええ、安易に股を開く事も無かった、と」
幸い、胸の伸びた身体だけが影響を受けているので神体と憑依体は純潔だけど。
何はともあれ、そんな騒ぎののち〈隠形〉した私達は姉さんが時間を動かすタイミングで部屋の外へ出た。
私達が出た直後、
『ぎゃー!?』×4
室内から四人分の叫びが響いたのは言うまでもない。
大事な物を焼き切られた者達と胸を伸ばされた王女の叫びは延々に続いた。
「私達も大神殿に転移して深愛の折檻を行わないと! 何をしようかな?」
「えっ! なんで?!」
「ゆるゆるになっているから!」
「そんなぁ!」
「「深愛、生きて」」




