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ポンコツ女神達の多忙なる日常!〜勇者ではないので、お構いなく〜  作者: 白ゐ眠子
第一章・召喚に応じたつもりはないよ?

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第17話 説明不足で理解不能。

 Side:結凪(ユナ)


 姉さん達の住処から大慌てで転移した私はラーナ王国の城下街にある路地裏へと到着した。


(先ずは〈隠形〉して背後から歩み寄りね)


 今回の転移は数回に分けていて目標の王女の居場所を何度も探ったのち近づいた。

 最初は宮殿に居るものと思っていたが、


(まさか冒険者をしていたとは)


 自由奔放とでもいうのか王女でありながらFランク冒険者として活動していた。

 父さんの管理する神器(お尻)で見た時は宮殿の中に居たはずなのだが、この数日の間に出奔していようとは思いも寄らないだろう。


(何があったのか知らないけど、好都合ね)


 私は近づきながら出奔理由を当人の思考から読み取る。


(豚公爵の家に嫁ぐより好みの平民の家に嫁ぐ方がマシって考えで城を出たと)


 読み取った結果、降嫁が確定していてそれを嫌がって出てきたらしい。

 その際に趣味的な思考も流れ込んできて頭痛に襲われた私だった。


(おぅ。女の子が大好きって)


 それは医師としてはどう反応して良いか分からない趣味だった。

 外世界的にもそれはデリケートな問題だから表向きには声をあげない私だけど、本音を言えば正統派ではない嗜好だから相容れない気持ちの方が強かった。


結依(ユイ)がノンケと言いつつ同性好きな面も矯正したい気持ちで一杯だし)


 とはいえこれも、今の主人格。

 アイネ・ア・ロ・ラーナ、元・第二王女の性質が表に出ているからだと思う。


(意識が目覚めてどう変化するか、よね)


 私は背後から近づきつつ、のほほんと女の子に視線を向けて「ゲヘへ」と下品に笑うオッサン女子の様子を静かに眺めた。

 頃合いを見計らい、


(海沿いの人気の無い草原に近づいたわね)


 人さらいではないが、人払い結界・積層結界・時間停止結界で元王女を覆った。

 一人行動があだとなる結果よね、これも。


「目覚めていないから時間停止下で止まるか」


 元王女は薬草採取に訪れていたようで中屈みの状態で大きなお尻を向けていた。

 私は〈隠形〉を解除して元王女を鑑定する。


「レベルは30、今の私との差も30。さて、どうやって干渉したものか。百合を否定した手前、そういう部分に触れるのは抵抗あるのよね」


 触診という手もあるが無闇に触れてよいものか悩む。

 意識無き者の身体と同じだしね。

 そうして色々と悩んだ私は結果として、


「ノーブラで擦れていたから治療よ、治療」


 上着を脱がせて患部に薬を塗るだけにした。

 薬はその場で拵えた軟膏。外世界産ではなく神力で創り出した完全治癒軟膏だ。

 塗るだけで傷が癒えて元形状に戻る代物ね。

 外世界で絶対に使う事の無い代物だが、こちらでは関係無いのであえて使用した。


「これで目覚めれば御の字よね。別の意味で目覚めないで欲しいけど」


 私はズボンを脱がせて異常箇所が無いか調べる。

 調べながら脇腹を撫で、お尻の表層が赤く腫れている事にも気がついた。


「綺麗な肌なのにもったいない。叩かれた後みたいに見えるわね。下着文化は無いのかしら」


 こちらにも軟膏を塗って傷を癒やしていく。

 その直後、


「ん」


 ピクリと反応して顔が赤く染まった。

 どうやら触れすぎた事で目覚めたらしい。

 私は忘れぬ内にお尻をグイッと押しておく。


「よっこいしょ!」


 この状態で目覚めると身体が動き始めるから。

 私がグイッと押した事で中身が前のめりで飛び出した。

 赤金髪かつ宿っていた肉体よりも大きな胸を持つハイエルフが飛び出した。


『わぁ!』


 これは中身が目覚めていない状態だと、お尻を押したとしても中身が出てくる事はない。中身が目覚めた事で肉体との境に位相差が発生して、神体に触れる事が可能になっただけだ。母さんも芽依(メイ)の平面胸を押し潰してから引っ張り出したとか言っていたしね。それと同じ事を元王女を相手に行った。

 私は草原に転がる中身を一瞥しつつ、


「次は疑似魂魄を身体に宿して、脱がした服と共に裸で外へ放出!」

『あっ!』

「次は中身の憑依体を隣に用意して。封印解除すらしてないのね。なら、私が解放しますか」


 諸々の処置を実行する。

 そのまま放出すると肉体的に死亡するだけだもの。

 出奔していたとしても、一応は王女だ。

 簡単には片付けられない者でもあるからね。

 私は神力を練りつつ転がる者の左足首を掴んだまま封印解除の鍵言を唱える。


「【ラン(彼女の)メインス(封印陣を)ユーラ(此処に)エナミーア(神力解放)】」

『えっ!?』


 彼女が(どういう事!?)と混乱する最中も彼女を無視して解放していった。

 無効化していた彼女のスキル群も勝手に弄って有効化した。


「ああ、憑依体にも下着を着けないと」


 彼女は何が何やらという様子で起き上がり、


『えっと、これはどういう事なのでしょう?』

「下はヒモパンでいいわね。上はヌーブラを」

『あの? 聞いてます?』

「聞いているわよ。でも、諸般の事情によって今は説明する時間が惜しいの。とりあえず、これに宿ったら戻るから、そこで理由を聞いてね」

『え? はぁ? はい』


 切羽詰まった私の表情を見て察したらしい。

 時間的に余裕が無いのは本当だが表情だけは演技だ。

 最初から事情を説明するのは面倒なのよね。

 こういう面倒な説明は説明が大好きな姉さんに委ねるに限る。

 彼女は私に言われた通り下着姿で放置していたグラマラスな憑依体に宿って起き上がる。


「おぉ、重い」


 ブルンブルンと揺れる両胸。


「それは胸が重いだけよ」


 彼女は両手で揉みながら困惑する。


「こ、こんなに胸は無かった気が?」

「姉妹の誰かが大きいってだけでしょ」


 それは私もだけど。私達は姉妹が育ったら姉妹も同じように身体が育つ。

 元々一つの個体。それを分割した存在が私達姉妹だから。

 但し、知結(チユ)達は別個体だけども。

 彼女はそれだけで納得していた。


「ああ、そういう事ですか」


 私は全ての結界を完全解除して〈隠形〉する。

 彼女も空気を読んで〈隠形〉した。

 というか〈隠形〉しないと半裸で歩き回らないといけないから。


「ああ、アイネ()が離れていく」

「最後に別れくらいはしておきなさい」

「そうですね。さよなら、アイネ()。今までありがとう」


 元王女は裸に気づいて慌てて着替え、盗賊に遭遇してお持ち帰りされていた。

 これも出奔した弊害と思うしかないだろう。



 ◇ ◇ ◇



 私の名は神月(カヅキ)亜衣(アイ)

 またの名をアイネ・ア・ロ・ラーナという。

 本日の私は王宮近くの宿から冒険者としての初仕事を行うために城壁外へと出ていった。冒険者になったのは降嫁が嫌だった事とアイネの性癖が悪さした結果だった。

 私個人は正常だけど男兄弟で育った弊害から異性に幻想を抱けなくなっただけね。

 同性の方が気を抜いてくれたりしたし。

 薬草採取を行っていると突然身体中を弄る不可思議な感覚で意識の目が覚めた。

 この数日間の間に身体を触られる感覚には慣れていたはずなのに身体の内側を触れられる感覚もあって今まで以上に身悶えした。

 そのままお尻を掴まれ強引に押し出された。


(で、説明無きまま目の前の女性に付いていっていると。神体に触れることが出来るってことは同類ってことよね? レベル差で鑑定は出来ないけど)


 押し出されて新しい憑依体を与えられ、私と同じ髪色をした女性と街中を歩いた。

 下着姿という少々恥ずかしい格好だが、今は水着と思って歩くしかないだろう。


(ヒモだけのパンツは若干、心許ないけど)


 前の肉体ことアイネは盗賊に捕まってしまったがこれはこれで仕方ないと思った。


(女子を抱きたいから王女は辞めますだっけ)


 それを王妃に発したからお尻ペンペンを喰らって涙ながらに王宮を飛び出した。

 なけなしの給金で冒険者登録を済ませ、着の身着のままドレスを売り払って装備を調えた。だが、宿代すらも用意する事が出来ず同性に身売りする事で食費を稼いで今に至ると。


(自由奔放より、世間知らずの王女様よね)


 それが私の宿っていた王女様の正体。

 それとこの国の事は全然覚えていない。

 私が目覚めてすぐというのもあるけど大半の記憶はアイネの中に置いてきている。

 亜衣(アイ)として覚えているのは使命と過去の記憶のみ。

 下に六人の妹達が居て、共にこの世界の緊急時の代行者として降りてきた。

 降りてきたのだけど、何故か覚えていない箇所が多々あって何が何やらだ。


(この人に付いていけば、何かが分かる?)


 今は黙って付いていく事しか出来ない。

 直後、不意に浮遊感に似た感覚に襲われた。

 いつの間にか転移していたようで私達は街中ではない田畑の目立つ道を進んだ。

 すると私の前を進む女性が立ち止まり指をさす。


「あとは中に居る者達に説明を聞いてね」

「ふぇ?」


 私を連れてきた女性は奥の社に向かって大急ぎで移動を始めて消えていった。

 その場に放置された私はポカーンと呆けた。


「な、中に居る者達に説明をって? それだけ言われても?」


 憤りにも似た謎の感情に包まれながら左側に建つ大きな建物に目を奪われた。


「は?」


 そこにあるのは世界観を完全に無視した異世界の建物。

 白い外壁に掃き出し窓、カーテン越しに駄弁る者達の両足が見える。

 私が一人でぼけっとしていると、


「「姉さんが居るぅ!?」」


 今度は背後から驚く声が響いた。


(こ、この声音は、まさか?)


 何事と思って振り返ると深愛(ミア)美加(ミカ)が驚いた顔で立っていた。二人は薄布を身につけた格好であり下着のまま放置された私とは色々と異なる姿だった。二人の背後には先ほどの女性にそっくりの女性達が苦笑しつつ立っていて下着姿の私を見つめて話し合っていた。

 片方の髪色と瞳は深愛(ミア)と同じ。

 片方の髪色は美加(ミカ)と同じだった。

 瞳だけは私と同じ銀色だったけど。


「あらら、結凪(ユナ)ってば」

「下着姿で街中を歩いてきたのね」

「せめて薄布を与えてあげたら良かったのに」

「それだけ時間が無いって事だったのかもね」

「となると、この分なら?」

「説明すら終えてないわね」


 それは苦笑というか呆れというか。

 私は説明される前に室内へ連れて行かれた。

 そして、


「事情説明は全員が揃ってから行うから、リビングで寛いでいてよ。私は緩くなった子の折檻をしてくるから」


 意味不明のお願いをされ下着姿のままダイニングテーブルの椅子に座らせられた。

 深愛(ミア)とそっくりの女性は泣き叫ぶ深愛(ミア)の両足を引っ張って奥へと入っていった。

 一方、美加(ミカ)とそっくりの女性は美加(ミカ)と共にこちらに戻ってきてリビングにて寛ぐ玲奈(レナ)とそっくりの髪色を持つ女性に問いかけた。


「ところで吹有(フウ)は?」

風結(フユ)とお出かけしたよ」

「なるほどね。で、果菜(カナ)は行かないの?」

「大陸核へ向かうなら、その時でもいいかなって。二度手間になるじゃない」

「それもそうね」


 二人は大陸核と言っていたが、一体何がどうなっているのか。

 理解不能に陥った私だった。

 そんな呆然としている状況で追加が届いた。


「「姉さんも居るぅ!?」」

「あらら、この子達も長女が相手だと」

「呼び方が私達と同じになるのね……」


 私の妹である由良(ユラ)仁菜(ニナ)が同じ髪色の女性達と入ってきた。


(私の周りで何が起きているの? 誰かこの状況の説明を行ってよぉ!?)




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