第16話 母の期日を厳守したよ。
外で拾ったハイエロフの二人を連れて私と結依は家へと戻る。
その際にハイエロフの二人はキョロキョロと周囲を見回していた。
結依と同じ髪色で私と同じ赤瞳の子は信じられない様子だった。
この空間を知らないのかな?
「こんな広い土地が大森林に?」
私と同じ髪色で結依と同じ紫瞳の子は〈素材鑑定〉を行っていた。
「資源不足なはずなのに、ここは資源だらけ?」
それも〈権能操作〉スキルにある代物だね。
いや、まぁ、うん、私と同種だから認識するのは素材系統だよね。
これは仕方ないかな?
私と結依は家へと戻る間に簡単にこの空間の詳細を彼女達に明かした。
「ここは〈女神の庭〉という亜空間の一つね」
「資源だらけといっても戻ってきたばかりだから完全に活かしきれていないけどね。それこそ実依が頑張って耕す前になるかな?」
「私だけじゃないよ? 姉さんと結依にも手伝ってもらわないと範囲が広すぎてお尻が痛くなっちゃうじゃない」
「そこは腰って言おうよ、実依」
「お尻も腰も似たようなものでしょ?」
「いや、似て非なるものとしか言えない」
「歩きすぎて股関節が痛くなるじゃん」
「それを言われると納得出来てしまう」
ただまぁ、途中より脱線したが。
「ここは亜空間の中でしたか。なるほど」
「活かしきれていない。未開拓と同じ?」
一応、伝える事は出来たかな?
「そうそう。創主は私達の姉さんだけどね」
「母さんの庭を模した物だから何れ慣れるよ」
「庭? 庭とは一体?」
おや? 紫銀髪の子は庭を知らないの?
緑金髪の子は覚えがあるようで頷いていた。
「ああ、そういう事でしたか」
「仁菜は知っているの?」
「知っているというか兄さんから伺っていただけだよ? 由良」
「ああ、それで」
えっと、紫銀髪の子が由良で。
緑金髪の子が仁菜なのね。
というか兄さんとの面識はあるのね。
私達も滅多に会わない生死神だけど。
「二人は兄さんを知っているの?」
「「はい」」
結依の問いかけに実にあっさりと応じた二人。
思考を読むと生まれてからこちらで封じられるまで一緒に過ごしたとあるね。
私達でも時々帰国してから会うだけなのに。
(いいなぁ〜なんて、思ったらダメだよね)
私は自身の羨む気持ちを隠しつつ、
「今は確か、アフリカか何処かに居たっけ?」
兄さんの現在地を結依に問うた。
結依はスマホを取り出して家族。
どちらかと言えば兄さんの予定を流し見した。
「欧米が片付いたから今は中東で掃除中だとか聞いたよ? 何の掃除なのか知らないけど」
スマホはこの世界では圏外で使えなくても、充電は簡単に出来るからね。
ちょっとした予定を書き込むには重宝するから私達も所持したままだ。
肝心の充電器はバスの中で今は無いから自力で創ったけれど。
結依がスマホを取り出したら二人の視線がそちらに集中した。
「「……」」
凝視かってレベルでスマホの画面に集中していた。
こういう面で女神の特性って出るよね?
由良は動作の仕組みが知りたい。
仁菜は元素材を知りたいってね。
私は苦笑しつつ結依に問いかける。
「この子達、携帯電話自体知らないんじゃ?」
「いや、十六年前からなら知ってるはず」
「そうかな? 珍しい物って感じだけど」
「二人が眠った時代はストレート型でしょ。薄型はそれからしばらくして出たし」
結依はそう言うが、私が二人に視線を向けるとそれだけで驚いた。
「「携帯電話だったんですか!?」」
知ってはいたのね。
結依はそれだけで自慢気になる。
「薄いでしょ? 現時点での最新モデルね」
「それは古いよ。最新モデルは発表されたばっかりで今は発売前だもの」
「うっ。げ、現時点って言ったよ? 市販されているって意味でね」
「はいはい。そういう事にしておいてあげる」
「妹なのに上から目線って」
「上から目線になっていないけど」
「……」
「ウンチクの披露が長くなるから流しただけ」
「うっ」
姉さんもそうだけど結依もガジェッターかってくらいには酷いからね。
ウンチクの披露が。聞く方が疲労する程にね。
このままのほほんとしたペースで歩いていたら時間が無駄に過ぎてしまうから。
現時点で外世界の時間は刻々と過ぎ、母さんが定めた期日まで近づきつつある。
何はともあれ、携帯電話は後回しとして、
「私達の住処に御案内!」
丁度、家の近くに着いたので案内した。
私が家の前で両手を拡げると二人は凝視して固まった。
視線の位置から察するに玄関と外壁。
二階建てと雨が降らないのに雨樋がある事だろうか。
「「……」」
私は困り顔で結依を一瞥すると首を横に振るので結依の代わりに案内を続けた。こういう時にウンチクを披露すればいいのに。
「ごめんね。世界観を崩壊させるような造りの家で。姉さんのやらかしだから勘弁してね?」
「そこで姉さんに丸投げするとか」
姉さんに丸投げして何が悪いの?
(そのツッコミは要らないよ結依)
苦笑しつつツッコミを入れた結依に対して私は溜息を吐きながらツッコミを返した。
「実際にそうじゃない。私達が関わったのは」
「あー、うん、裏の離れだけだもんね」
「離れ以外にもあるじゃん。私の権能で!」
「うっ、そうでございました」
そう言い合いながら玄関扉を開けると、
「ここはどういう仕組みなの?」
「質問は後! 先ずはこちらに来なさい!」
「ま、待って!? 見えちゃう、布が捲れて中身が見えちゃうから!?」
「あらら、下着の概念も消失しているのね?」
「この世界は下着そのものが無いのよ!!?」
「無いなら自分で創りなさいな」
「部分解除がまだなのぉ!」
姉さんと同じ髪色かつ碧瞳の女の子が居た。
薄布で全身が覆われたままのハイエロフが。
呆れ顔の姉さんに両足を引っ張られて脱衣所に放り込まれていたけれど。
もう一人、芽依と同じ髪色かつ吹有と同じ茶瞳の女の子も居た。
「何かすみません。ダメな姉さんで」
「似たような者を知っているから気にしないで」
「に、似たような者?」
「引っ張った者もあの子と同類だから」
「ああ、そういう意味でしたか」
格好は同じだがこちらは下着を着けていた。
今は困り顔の芽依の隣で騒ぐ子の事で頭を下げていたが。
私は突然の事で思考が回らなくなり玄関扉を閉じた。
私の背後で呆然となる子達にも似ていたから姉妹だよね、きっと。
「一体、いつの間に?」
「私達が拾いに行ってる間じゃない?」
「ああ、あの数分で片付けてきたと?」
「そうとしか考えられないよ。天然の芽依はせっかちお化けだから」
「た、確かに」
私と結依がそんな会話を行っていると固まった二人がようやく声に出した。
「なんで深愛が居るのぉ!?」
「美加まで来てるよぉ!?」
同時に名前を呼んでいる事から、家の造りに固まったのではなく姉妹故に感じる絆で固まったようだ。
「私達も近くに姉妹が居ると」
「うん、無意識に知覚するもんね」
「それと同じ事かな?」
「同じ事かもしれない」
私達が自身の対を拾う間に姉さんと芽依も宮殿へ拾いに行ったと。
その間の姉さんは、
「簡単に股なんか開きおって!?」
「やめてぇ! それ以上は言わないで!」
「徹底的に洗って浄めてあげる!」
「私も反省してるからぁ!?」
何故か意味不明な言葉で追い詰めていた。
一体、彼女の身に何があったのだろうか?
姉さんと芽依しか知らないのか、二人は思考封鎖魔法を使っていたよ。




