第101話 滅多打ちも自業自得。
Side:結依
ようやく身体が動かせるまでになり私と姉さんはお風呂から出て、若い神魔体に宿った母さんと下着を身につけていた。十六才の肉体の母、違和感が仕事してないね。
「やっぱりこちらの方がいいわね。本来の姿だし」
「若干、夏音姉さんに似てるよね?」
「似てるね。生き写しって思えるくらいには。こちらの方が若いけど」
「い、生き写しというか……色々あるのよ」
「「色々ねぇ?」」
そんな中、実依から一斉念話が届いた。
⦅姉さんと深愛の功績で、通信網を全世界に展開するよ! by御爺様⦆
は? 功績? 通信網を全世界? 何それ?
それを聞いた姉さんはあちゃーと天井を見上げ、母さんは大きな溜息を吐いた。
「おぅ……予想していた事態になったよぉ」
「あの子ってば。要らぬ情報を報告書に記したのね?」
「え? え? な、何? 二人だけ分かったような振りして?」
「私は拡散しないでって言ったのにぃ」
「私からも止めるよう言ったのにぃ」
「「暴走癖が酷すぎる!」」
暴走癖があるのは母さんも姉さんも一緒では?
「「うっ」」
そこだけ思考を読み取らなくても。
で、姉さんから事情を聞けば、この件は私も関係あるよ。
「ティルの前でスマホを取り出した時かぁ」
「メッセージが飛んできて、やりとりして返して、叔母さんが興味を持って」
その後、合流したティルにも帰ってきた姉さんが手渡して。
最低限の機能だけは使い熟していたと。
「今回は実依と仁菜の説明に御父様が興味を持って」
「埋もれていた報告書と母さんの報告も相俟って全世界展開が決定したと」
「これさ? 誰が展開するの?」
「実菜が」「姉さん」
「やっぱりぃ!?」
姉さんしか居ないよね?
あと一人対応人員を加えるなら気絶中の深愛だけど。
「遠隔操作が加わると管理神器の更新も含むでしょ? 最新版しか対応してないし」
「おぅ。そうだったぁ……」
「必然的に姉さんの仕事が増えるね。時間はどうにかやりくりしないと」
「私も次の学期は全単位取得する」
「それがいいよ」
深愛も一緒に取得させないとね⦅何のこと?⦆お目覚めか。
すると私のスマホに実依からの懇願が入った。
「あっ……御爺様達も神魔体の魔導書を欲してるって」
「そちらもあったかぁ。実菜、頑張って!」
「うそぉん!」
これはどうも御爺様とティルとの会話の中で発したっぽいね。
あちらに居る間に実依の判断で憑依体から乗り換えたみたいだから。
使い勝手が良くて、とても馴染んだと、ティルの感想まで書かれているし。
「地上で魔物や邪神の相手をするには最適だしね。この身体」
「ま、まぁ、うん。御爺様と伯父さんが使い始めるとルゥと伯母さんも出張るよね」
「それはそうね。自分達だけ使い勝手の良い肉体を使っているってなるから」
「顕現する際の魔法行使で、タイムラグが起きるよりは良いと思うよ?」
「だよね。仕方ない、私も上に行ってくるよ」
「そうしなさいな」
「姉さん。頑張って」
「うん。頑張る」
姉さんは着替えたばかりだったが、渋々と神魔体から出ようとした。
すると母さんが思い出したように姉さんへと忠告した。
「そうそう。御父様へのお土産は買って行きなさいよ」
「あちらで買って来いではないんだね? いつもなら欲するから」
「何を言っているのよ。あちらには売ってすらいないでしょうに」
「そうだった」
姉さんもお疲れ気味だね。
今回は心労とも言うけれど。
「御父様は甘党だから、こちらの甘味を持って行けばいいわ。芽依にお願いすれば適当に見繕ってくれるでしょ? 福袋の中から選んでもいいし」
「うん。そうする」
「あれ? 何か、姉さんの反応がいつもの母さんに対する反応と少し違うね?」
「あー、容姿が若いからかな? 今は姉妹って感じがするし」
「それを言われると嬉しいような悲しいような?」
「素直に喜んでおけば? 本来の容姿はそちらだし」
「そ、そうね」
ま、母さんも今回は巻き込まれた側だしね。
原因が実依にあったとしても……ん? 母さんの伝え忘れ?
「原因、母さんにあるんだけど? 実依のやらかしの発端」
「私? あっ……爺共の事かぁ。それで議長がアホみたいに怒ったのね」
「「爺達?」」
そこで私と姉さんは事情を初めて知った。
「「はぁ!? 封印中の四番に突撃して敗走!」」
「それと二桁台は全部封印よ。管理する神が大怪我を負ってね。代理も居ないのよ」
「延伸の本命はそこにあったのね……1万扉まで増えている理由も」
「い、1万!?」
そ、そんなに世界が増えているの?
というか、そこを姉さんは……更新地獄じゃん!
「今回のこれ……功績の褒美だよね? どう考えても更新地獄に思えるけど」
「うん。でもさ? 創造特化にとっては褒美だよ。自分色に世界を染められるから」
「ああ、そういう風に捉えることも……」
「御父様も実菜の性質を正確に理解している証拠よね」
「正直に言えば時間を作る身にもなって欲しいけどね。こちらでは学生だし!」
「単位を取れば時間が作れる学生はともかく世界管理はやりくりするしかないね」
「そうだね。段取りも含めて相談してみるよ」
「あちらの邪神共については夏音達がどうにかするでしょ」
「そこは餅は餅屋で丸投げすればいいね」
何か、姉さんが更に老け込んだ気がする。
褒美としては嬉しいけど悲鳴を上げたい的な。
「この際だからティルも連れて行ったらどうよ? 付与も創造も出来る子だしさ」
「そうだね。補助で連れて行こうか。ポンコツさえ無ければそれなりに使えるし」
「寝起きの深愛も連れて行きなさい。直ぐに対応しなくても、段取りだけは話し合って理解させないといけないし」
「そうする」
本当にお疲れ気味な姉さんだった。
これは考える事で一杯一杯なのかもね。生返事が多いから。
その後の姉さんは深愛の部屋へと向かい、
「わ、私もぉ!?」
「御爺様からのご褒美だって。行くよ」
「御爺様? ご褒美?」
「ちょ、ちょっと! 着替えてないし! お風呂も」
「そこは自力で浄めなさいな」
「そんなぁ!? 由良、あと、よろしく!」
「は? はぁ?」
芽依の元へと福袋を貰いに向かったのだった。
「本拠地に行くのに福袋? 菓子がいいの?」
「うん。出来れば甘い菓子が沢山詰まった品をお願い」
「それはいいけど。本拠地へ菓子折り?」
「一体、本拠地に何があるの?」
「「王宮」」
「「「「ふぁ?」」」」
いやいや、王宮発言には流石の芽依達も困惑するって。
様子見していた私は仕方なく母さんから許可を得て説明に向かった。
(もう隠せる状況では無いしね。今回は知識神達が揃って出張するから)
前回のような変則的なシフトを組まねばならないしね。
幸い、今月から結凪が手隙となるから、吹有と外出座敷童の代わりで入ってくれるだろう。芽依については夜だけになるが。
「「「せ、世界の王!」」」
「それって、マジで?」
「「「マジで」」」
「信じられない」
「わ、私達は、その方の親族って、こと?」
「王侯貴族風に言えばね。父さんはその中で侯爵家の当主に位置するの」
「「「「侯爵ぅ!?」」」」
これが一番信じられないよね。
母さんの裸婦像を創る変態⦅何だと?⦆認めてね?
「で、母さんは王女殿下だったの」
「「「「それは納得かも!」」」」
何故か納得される母さん⦅理不尽!⦆それは仕方ない。
「え? でも、待って? それなら、父さんって、王女殿下の裸婦像を……大変だぁ! じゃなかった、変態だぁ!」
座敷童から変態発言いただきました⦅解せぬ⦆果菜から言われるとそうなる不思議。変態だと認めようよ、父さん?
「普通に考えると不敬よね?」
「貴族社会で見たら不敬ね?」
「しかも酒の席で自慢していたけど、それって……婚約前でしょ? アウトよね?」
「十分アウトでしょ。よく母さんが許したものよね。ドン引きしなかったのかしら」
娘達から酷い言われようだ⦅父さん、泣いていいか?⦆自業自得って事で。
父さんのライフが削られる前に本題へ戻す⦅もっと言え!⦆母さん!?
「母さんも本音では文句を言いたかったみたいね」
「でもさ? 婚姻してずっと尻に敷いているから、それが文句だったのかもね」
「だとしても、父さんって何処か鈍感だから、感づいていない部分があるよね」
「分かる! そもそもさ? 私達の成長記録! 本気で壊そうかと思ったもの」
だね。あれは無いなって私も思ったし⦅……⦆戻そうと思ったけど戻らず。
「はいはい。脱線してるよ。父さんへの死体蹴りは酒の席で行ってあげてね」
「それはそれで酷な状況になりそうだけど、そうね。それが一番かもね?」
「ええ。あの下らない自慢話を止めるならそれが一番かもね」
「何か、兄さんに慰められてそう……ああ、自業自得って返されてるし」
「それは仕方ないよ。深愛達の事だって直前まで忘れていたし」
「そうよ! 私達は忘れ去られていたのよね? 私だって文句を言いたい!」
姉さんの一言で深愛まで参戦した。
(これ? 今日中に終わるのかな?)
実依が早く着てって泣いていそうな気が⦅いいぞ、もっと言え!⦆煽ってきたし。
(私達姉妹って変なところで暴走するよね……暴露大会になりつつあるけども)
父さんのライフはゼロかな⦅大丈夫だ、問題無い⦆兄さんまでも参戦かぁ。
⦅父さん、実家に帰らせていただきます⦆
送り返されるオチしか見えない⦅何だと⦆ドンマイって事で。
こうして父さんについての暴露大会もとい苦情大会は夜まで続き、吐き出すだけ吐き出した私達は夕食を食べた後、本拠地へ向かう姉さん達を見送ったのだった。
「父さんは真っ白だけどね」
「あとで母さんが慰めるでしょ?」
「何だかんだ言っても父さんを愛しているのだし」
「今は本来の容姿だしね。もう一人、妹か弟が増えるかもね?」
「あの容姿だしね……増えそうな気がする。但し、弟で!」
「芽依が言うと本当になりそうで怖いけど」
「幹菜ちゃんも可愛かったし、増えてもいいかな?」
「そうね。娘達も親離れしたし」
「「うんうん」」
見送って可能性として増えるであろう将来の妹弟に思いを馳せた私達であった。
「あんな事、言われてるけど」
「が、頑張る」




