第100話 身内だなって思う。
Side:実菜
私と結依は姉妹で愛し合った後、
「ここで、そうきたかぁ」
「これは参ったね。下手したら湯あたりするかも」
二人でお風呂に入っていたのだけど突然身体が動かなくなった。
それは神体とて同じであり、何が起きているのか何となく分かってしまった。
「あのスキル。こういう厄介が控えていたのね」
「運転中でなくて良かったよ。事故まっしぐらだし」
「だね。今は誰も運転していない事が救いかな?」
「幸い、三箇日で近隣に居るか、部屋に居るかだしね」
「気絶中の深愛達は除くけど」
「またもや攻守が入れ替わったのかもね」
私達もそれなりに攻守が入れ替わったが、いつものスキンシップなので慣れたものだった。結依ちゃんの腰部を回収してからが、私の勝ちとなったから。
「実依の暴露を利用するなんて」
「結依ちゃんのここ、感じやすいね?」
「身体は硬直しているのに指先は動くって何なの?」
「肉体操作スキルだよ〈スキル芋〉で取得していたのよ」
「な、何て都合の良いスキルを持っているのよぉ!」
「神力糸の操作が必須だけどね。操り人形のように、こことここ」
「や、やめて……。湯船が汚れるからぁ!」
「大丈夫、大丈夫。私の神力は浄めだよ?」
「そうだったぁ!?」
という母さんから『うるさい!』と叫ばれる事案はともかく、硬直は早々に解除されず、そろそろお湯から出たくなった私であった。
なお、このスキルを与えた母さんも何故か脱衣所にて固まっている。
神力糸で扉を開けると、見たくもない痴態が見え⦅失礼ね!⦆お尻が御開帳だし。
肉体は妙に若く夏音姉さんを彷彿とさせる肢体だった。
「「誰得なの?」」
「誰得って……王女時代の容姿に宿り直している時にこれだもの!」
王女時代って……巫女服オバさんとか言われたのかな?⦅ギクッ⦆当たりか。
「もう! 早く議長のバカを捕らえなさいよぉ!」
「「議長!?」」
もしかして私達の複製神核を攻撃しているのって?
「議長? 何でまた?」
「これは実依が何かやらかしたかな?」
「可能性は高いけど……あー、熱い! 我慢出来ないから、氷をドーン!」
「ちょ! こ、今度は冷えすぎたけど? 寒いんだけど?」
「文句があるなら、ぬるま湯に変える魔術を創ろうよ。結依ちゃん」
「創るのはいいけど、姉さんが私の腰を返してくれたらね!」
「ああ、ごめんごめん」
「この姉妹はマイペースが過ぎる」
「「私達は母さんの娘ですから!」」
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
ちなみに、両親の出自を知っているのは私と結依、実依と深愛だけだったりする。
母さんも夏音姉さんには言っていないんだよね。
現状だと仁菜とティルは知ったみたいだけども。
「それで、恥ずかしい姿のアスティ王女殿下。いつになったら身体が動くの?」
「神名と昔の尊称で呼ばないで! そ、そうね、あと五分くらい、かしら?」
「「五分もこのままかぁ」」
このまま母さんの恥ずかしい姿を眺め続けると。
「そういえば、いつ以来かな?」
「あー、中学に入学する前だね」
「あの時も似たような出来事があったね」
「うん。母さんだけが固まった事案だね」
「そういえば、そんな事もあったわね……」
「あれって複製神核への攻撃を防御していたのね」
「今だから分かる母さんの恥ずかしい気持ち、か」
「分かるならその話題を今すぐ止めなさい!」
「「はーい!」」
◇ ◇ ◇
Side:実依
ルゥちゃんに動いてもらい、伯父の命令で衛兵ゴーレムが宝物庫に殺到した。
私と仁菜が〈遠視〉で注視すると宝物庫内が酷い有様になっていたよ。
「えぇぇぇぇ!?」
「やり過ぎでしょ? あの爺、何を考えているのよ?」
幸い、私達の複製神核は神器も含めて無事だった。
爺は私達の複製神核を狙って大規模魔法を放っていたが、命中する事なく周囲に被害を与えているだけだった。下手くそ!
直後、衛兵ゴーレムが殺到し、暴れ爺は特殊神器で神体から神核が抜き取られた。
「あれが神に対する無効化手段ですか」
「神核状態になると手も足も出ないよ」
神器を行使したのは他でもない、私達の祖父である。
「あの方が御爺様?」
「そうそう。雰囲気は伯父にも似てるよね」
「若干、老けた姿の兄さんにも似ていますが? 伯父は兄さんぽかったですけど」
「似ていても不思議ではないよ。身内だしね」
「それで」
しばらくすると神器の警戒態勢が解かれ、身体が動いた。
安堵した私はスマホを取り出し、髪型が乱れていないかチェックした。
仁菜も同じようにチェックして、身形を整えた。
その様子を戻ってきたルゥちゃんに見られてしまったけれど。
「二人の持つ、その道具なんなの?」
「「通信神器」」
「は?」
このきょとん顔、本日二度目だよ。
私と仁菜は目配せして簡単に説明した。
「例えばね。こうやって耳元に当てると」
『繋がりました?』
「問題無いよ」
「会話が出来てる?」
「これはね? 遠隔での会話が可能なの。管理世界だと魔力場が必要なんだけどね。こちらだと私達の神力だけで通信を行うから途切れる事は無いの」
「へぇ〜。他には? まだ何かあるのでしょう?」
「あるよ」
私はメッセージアプリを開いて管理世界に居る妹達にメッセージを飛ばした。
「大丈夫? 身体動いた?」
ピコンという音の後に返信が届いた。
『さっきの何? 戦闘中だったからヒヤヒヤしたよ!』
『幸い、夏音姉さんが倒してくれたけどさぁ』
『こういう状態になるなら先に説明して!』
連続で三バカから返信が届いた。
しかも、夏音姉さん達と倒した魔物の写真付きで。
「はぁ!?」
「いきなりドラゴンを潰しに行ったのですね?」
「ここは地表の山脈……そこに住まうドラゴンだね」
「こ、この絵って……どゆこと?」
「ティルも姉さんから貰っているでしょ? これだよ、これ」
「あ! 写真かぁ! それで撮影して?」
「送信すれば、リアルタイム情報のやりとりが、常時可能ってわけよ」
「「リアルタイムぅ!?」」
ティルはともかくルゥの絶叫が凄まじい。
「他にも様々なアプリがあるけどね」
「そういえば二人の画面には見慣れない丸があるけど?」
見慣れない丸? ああ、管理神器か。
私達しか入れていないもんね。
「これは世界管理を行う神器を遠隔地から操作するアプリね」
「「……」」
あら? 沈黙?
するとアプリに通知が入ってきた。
「あっ。夏音姉さんが倒したドラゴンのドロップ品が無かったっぽい」
「それは不味いですよ! 直ぐに用意しないと」
「だね。えっと……三バカ向けに、これとこれとこれで」
「そんな、雑なぁ」
「あの子達は何でも喜ぶから」
「そこでビキニアーマーって」
ダメだったかな?
「返信が……仁菜と同じ反応だったよ」
「やっぱり。もう少し、選んであげた方がいいですよ」
「でも、返品は受け付けないから、そのまま着てね?」
『『『何だってぇ!?』』』
「絶叫してますね?」
「防御力だけは折り紙付きだから無視の一択で」
「神装甲って事ですか」
「そうそう」
そんなやりとりを行っていると、
「ほぉ! 面白い! それは誰が創った神器なのだ?」
妙に図太く渋い声音が響いてきた。
ダンディとも言うけれど。
「御爺様!?」
「「「え?」」」
先ほど見ていた御仁こと御爺様がルゥの執務室に顔を出した。
左隣には苦笑気味の伯父も居たが。
「それで、その神器は誰が創った物なのだ?」
原形は夏音姉さん。改良は姉さん。
「夏音と実菜か」
思考を読まれたしぃ!
「だが、夏音は原形故、こちらでは使えぬのだな?」
「ですね。実菜がこちらでも使えるようにしたようで」
今度は記憶を読まれたしぃ。
「そういえば実菜と深愛が例のこびり付き案件を片して下さいましたよ」
「何と! ルゥでさえ倒せなかった邪神共か?」
「不本意ですけどね。あの二人は邪神共にとって存在して欲しくない劇薬ですので」
「「確かに」」
そうね。強烈な神聖力を身体の内に秘めているものね。
「しかも、アスティの報告にあった最新版の神器までも操作可能と」
「良く考えられているな」
主要知識は母さんの世界発なんだけど。
こうして姉さんと深愛の功績の褒美で神々が用いる連絡手段。
通信網の全世界展開が御爺様の鶴の一声で決定したのであった。
何でも手紙の配達人が議長の犬で届いていない世界もあったそうだ。
お陰で重要会議が何度か頓挫した事もあったと。
私は決まった瞬間、家族全員へと一斉念話で伝えてあげた。
⦅姉さんと深愛の功績で、通信網を全世界に展開するよ! by御爺様⦆
◇ ◇ ◇
Side:夏南
父さんと酒を飲み交わしている際に身体が固まった。
これは俺が父さんのグラスに酒を注いでいる最中に起きた困惑事案。
「これ? 何が起きているんだ?」
「あー、本拠地で問題が起きたな」
「問題?」
「複製神核を収めている場所へ、何らかの攻撃が行われているのだろう。随分前にも母さん相手に実行したバカ神が居たが、またもや現れるとはな」
「攻撃されているのに悠長な。溢れた酒で父さんのズボンも酷い事になっているが」
「もったいないな。実依が居たら浄められて胃に注がれる事案だぞ」
「ここに実依が居なかった事が唯一の救いか」
「そうだな。攻撃の発端は実依にあるが」
「は?」
父さんは遠い目をして実依が発端と言う。
一体、本拠地で何が起きたというのか?
「詳しい事情は母さんに止められている手前、言えないが」
「い、言えない?」
「この問題も直ぐに義兄さんが解決してくれるだろう」
「に、義兄さん? え? 母さんって兄さんが居るのか?」
「居るぞ。超絶ドSの義妹と違って優しい義兄だ」
「そ、そうなのか」
しばらくすると身体の硬直が解け、動かせるまでになった。
直後、驚くべき内容の念話が家族全体へと響き渡った。
⦅姉さんと深愛の功績で、通信網を全世界に展開するよ! by御爺様⦆
声の主は実依だった。
それを聞いた父さんは庭に向かって酒を噴き出し、
「ブーっ!」
綺麗な虹を創っていた。
「貴重な酒が、もったいない……」
「実依! 一斉念話してくるなぁ!」
おぉう! 父さんが珍しく声を荒げるなんて。
「ところで全世界って何だ? 御爺様とか誰なんだ?」
「……」
ここで、黙りかよ。




