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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第三章 冥王ゼヤビス
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第九十一話 帰還の手掛かり

 異世界からの転移について教えてくれなんて、随分と漠然とした内容だとは思うが、他に聞きようもない。


 パーヴィーはアンヴェルの依り代になっても、俺とは話すことができると言っていたが、本当に大丈夫なのかなと思っていると、すぐに俺の頭の中に彼の返答が響いた。


「やあ。アマン。久しぶり。僕はパントロキジアとの生活を楽しんでいるよ。やっぱり彼は最高だね」


 そう言ってご機嫌そうだ。

 先日のサマーニ行きはパントロキジア抜きだったのだが、それは大丈夫だったのだろうか?


 まあ、敢えて彼の機嫌を損ねる必要もないので、その件については触れないよう、俺は黙っていたが。


「残念だけれど、異世界のことについては僕は知らないな。そうだね。パシヤト爺さんなら、何か知っているかも。生命に関わることは、みんな彼のところを通るからね」


 ご機嫌な彼は、俺が質問した異世界のことについても素直に答えてくれた。残念ながら異世界に関する情報は持っていないようだったが、そうアドバイスをくれたのだ。


 エレブレス山の洞窟の前では、彼の手の内で踊らされるように、目を瞑ったドラゴン・ロードと戦うはめになった。

 彼は面白ければ何でもいいという考えなので、今回も簡単に教えてはくれないかもと危惧していたのだ。


 だが、彼は基本的には悪意があるわけではない。だから、そこまで心配する必要はなかったのかも知れない。


 俺だって、最初からそんなに簡単に解決策が得られるなんて思っていない。だからパーヴィーがその手掛かりを知っていそうな人を教えてくれただけで、大きな収穫だ。


「じゃあ、またパシヤトさんを訪ねて、彼に異世界からの転移について聞いてみたいんだけれど、パーヴィーも一緒に行ってくれるかな?」


「僕が一緒に行くもなにも、アンヴェルを誘えばそれまでだから。僕は彼の依り代だから、選択権はないからね」


 パーヴィーは少し不満そうにそう言ったが、二百年前の出来事を考えてみると、どうも少し怪しい気がする。今だってこうして俺と話せているし。


 アンヴェルのことは別として、確かにドラゴン・ロード改め女神以外に、そういったことに詳しそうな者と言えばパシヤト老以外にはいないだろう。


 この世界のすべての生命を管理する彼なら、何か俺の転生に関する秘密を知っているかもしれない。

 俺は『生命の祠』にパシヤト老を訪ねることにした。



 イベリアノやハルトカール公子、さらにはティファーナのおかげもあって、俺の負担がかなり軽減されているとは言え、一応、俺は大宰相だし、カーブガーズの統治にだって責任を負っている。

 そのため、思い立ったが吉日と、すぐに『生命の祠』を訪ねることはさすがに難しかった。


 それに、パーヴィーの依り代であるアンヴェルには一緒に行ってもらいたかったから、彼にそうお願いすると、


「他ならぬアマンの頼みなら、その祠へ同行するのはやぶさかでないが、騎士としての勤務もあるから、次の非番の日まで待ってもらえないか」


 そう言われてしまった。


 非番の日に俺に同行してもらうだなんて、ティファーナに恨まれそうな気がするが、アンヴェルは真面目だから、勤務中に抜け出してもらうことは難しそうだ。


 次の非番の日を聞くと、二日後とのことだった。


 そのため、相変わらず俺の屋敷に滞在していたベルティラにお願いし、俺が『生命の祠』を訪ねたのは、それから二日後のことだった。


 当然だがパーヴィーにも同行してもらっていることになる。彼を依り代にしているアンヴェルは、そう気づいてはいないだろうが。


 突然の訪問ではあったが、パシヤト老は俺たちを歓迎してくれた。

 今回の訪問は目的が俺の私的な問題に関することだけに、同行者は俺たちを祠まで運んでくれるベルティラの他は、アグナユディテとパーヴィーを含むアンヴェルだけだ。



「会えて嬉しいの。パーヴィーは息災にしておるようじゃな」


 パシヤト老がそうアンヴェルに語りかけると、彼の身体が弛緩し、目の焦点が合っていないような表情になった。


「僕もパシヤト爺さんに会えて嬉しいよ。毎日のようにパントロキジアの背中に乗って楽しんでいるし、パシヤト爺さんの言うことを聞いて良かったよ」


 俺の頭の中にも、そう言うパーヴィーの声が聞こえてきた。


「ほっほっほっ。それは良かったの。わしの言うことは間違っておらぬであろう」


 パシヤト老はそう言って満足そうだ。

 その瞬間、アンヴェルの眼に光が戻り、


「はっ。僕はいったい。パーヴィーとは誰のことなのだ」


 そう口にした。


 その様子に、俺は二日前にパーヴィーを呼び出したのは、実はまずかったのかなと考えさせられた。


 俺がパーヴィーと話している間、アンヴェルがどういう状態なのか気にはなっていたのだ。

 今のアンヴェルの様子を見ると、周りに人がいたり、重要な任務の途中だったら騒ぎになったり、大問題になっていたかもしれない。


 パーヴィーもそこは配慮してくれるのかも知れないが、エンシェント・ドラゴンの常識は人間の非常識のようだから、昼間はあまりパーヴィーに呼び掛けない方が無難かも知れない。今さらだが。


 パシヤト老はアンヴェルの言葉を笑ってやり過ごし、俺たちに向かって、


「訪ねてくれたのは嬉しいのだが、危なかったの」


 そう珍しく神妙な表情を見せた。


「最近、この祠の側に人間の姿を見るようになっての。このままでは、知らぬうちにここに入り込む者が出るのも時間の問題。そこで、結界を張ろうと思っていたところだったのじゃ」


 どうやら俺たちは、すんでのところでパシヤト老の張った結界の中に突っ込みそうになったようだ。


 ベルティラの瞬間移動にその結界がどう作用するかは定かではないが、良い影響があるはずがない。

 最悪、俺たちの存在自体だって保障されない可能性だってある気がする。


 確かにカーブガーズは急速に発展している。今後、さらに住民が増えてくると、パシヤト老が憂慮するように、『生命の祠』にも不用意に足を踏み入れる者が現われないとも限らない。


 そのため、この祠を閉じるのだと言って、彼は奥から三つの宝珠を持ってきた。


 不思議な光を放つその宝珠は、俺がトゥルタークから預かってエルフに返した『光のオーブ』にそっくりで、俺もアグナユディテも驚いた。


「それはグリューネヴァルトの至宝、『光のオーブ』と同じものに見えるのだけれど。まさかそのオーブがグリューネヴァルトにある三つ以外にもあったなんて」


 アグナユディテが思わずそう指摘すると、パシヤト老は、


「なんの。こちらがオリジナル。おぬしたちエルフが持っておるのは、このレプリカに過ぎんわい」


 そう言って自慢気だった。


 確かに『光のオーブ』は、あの強大な魔王バセリスの力を完全に抑え込むほどのパワーを、その内に秘めていた。


 その力を与えられるのは、この『生命の祠』こそ相応しい気がしないではない。

 ここは、やはり人間などが気軽に足を踏み入れてはいけない場所であることは確かなのだろう。


 それにしても、エルフたちの至宝をレプリカだなんて、結構、失礼な物言いの気がする。

 だが、アグナユディテはあまりの驚きに、そんな物言いに対して怒りの感情も沸いてはこないようだ。


 そんな中、パシヤト老は続けて「はて、どう使うのだったかの?」とも小声で言っていたので、少し心配だ。

 最悪、その「レプリカ」を持っているアルプナンディアに使用方法を聞くしかないのかもしれない。



「まあ。何にせよ、わしも早まらないで良かった。逆におぬしたちの到着がもう少し遅れておったら、大事になっておったかも知れぬの。ほっほっほっ」


 そう言って笑うパシヤト老を見ていると、あまり大したことはないような気がしてくる。


 だが、アルプナンディアが言っていた恐ろしい呪いのようなオーブの効果を考えてみると、パーヴィーに聞いてから二日でここを訪れることができたのは、幸いだったということになりそうだ。



「それで、今回はどういった用件かの? 悪いがそうそう毎回、大サービスという訳にも行かないのじゃがな」


 俺は逆に、時々なら大サービスしてくれるんだと思ったが、彼にとってはそれ程大したことではないのかもしれなかった。


 どこまでも果てしなく続くように見える『生命の石板』を見ていると、確かに、この中の一枚くらいがどうなろうと、この世界全体に大きな影響を与えることはなさそうだ。


 だが実際には、その一枚の石板に多くの人が繋がり、その想いが込められているのだ。


 元いた世界の俺をどうするかも、その方が本質的な問題で、明日するはずの仕事だの、その段取りだのは些末な事柄に過ぎないのだろう。


「実は俺は異世界から転生した人間なのです。ですから異世界からの転移について、詳しく知りたいと思いまして」


 俺はパシヤト老に、そう言って話を始めた。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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