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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第三章 冥王ゼヤビス
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第八十九話 海峡の町の守護神

 政庁の前の広場まで跳んだ俺たちは、広場を横切って政庁の建物を目指して進んだ。

 俺たちが通っていく側の広場のそこかしこで、何人かの市民たちが集まって話をしていた。


「どうも王都から来た奴らがやったらしいぞ」


 そんな声が聞こえ、俺はドキリとする。噂って伝わるのが早いんだなと感心してしまう。


 俺たちがシードラゴンとケートスを倒したのはついさっきのことなのに、それ程距離がある訳ではないとは言え、もうここまでそれが伝わっているのだ。

 まあ、シードラゴンを退治してからと考えれば、それなりに時間は経ってはいるのだが。


 だが、周りから聞こえる声の中には、


「まったく。王都の奴らはやっぱりろくなことをしないな」とか、「やってくれるもんだな。どう始末をつける気なんだ」などという、ちょっと危険な香りのする言葉が混ざっており、俺は段々と不安になってきた。


 何しろ俺たちは目立つ。


 がっしりとした体格で背が高く、いかにも近衛騎士然としたアンヴェルがいるし、何よりエルフのアグナユディテとダークエルフのベルティラは、話には聞いたことがあっても、本物を見るのは初めてだという人も多いだろう。


 トゥルタークだって、その姿はサーカスの人気者だった可愛らしい少女なのだから、人目を惹くことは請け合いだ。


 実際に、広場の中央を行く俺たちは注目の的になっているようで、中には指をさしている者さえいるようだ。

 このメンバーの中では俺が一番、目立たないのかもしれないな。



 そうして、何だか周囲からの厳しい視線を浴びながらも、俺たちは政庁にたどり着き、領主のカルロビス公に面会を求めた。


 シードラゴンは倒したし、もう、その対策で忙しいということもないだろうから、今度こそすぐに対面が叶うだろうと思ったのだが「ひとまずはこちらでお待ちを」と言われ、また控えの間に通されてしまう。


 俺は(またかよ……)と思ったが、控えの間の前の廊下をバタバタと多くの足音が慌てた様子で行き来しているようだし、シードラゴンが倒されても、その後の対応で思った以上に忙しいのかもしれないと思うことにした。


 俺もカーブガーズの領主として普段は忙しくしているから、この規模の町を無事に治めていくことの大変さは、多少は理解できるつもりだ。

 それでも、こう待たされてばかりで気分のいい訳もないが。



 そうして控えの間で待っている俺たちのところに、俺たちをチジャム岬まで案内してくれたエレオナオス家老が息を切らせながらやってきた。


「こちらに戻られていたのですか。突然、消えてしまわれたから、あのまま逃げたのかと思いました」


 エレオナオス家老はそう言って、何だか不機嫌そうだ。


 何で俺が逃げなければならないんだと思ったが、確かに理不尽にも石を投げつけられていたあの場から、逃れたことは間違いないから、そう思われても仕方がないのかも知れない。


「とにかく一度、ご主君の前で弁明を」


 などと、家老は不穏な言動だ。

 あまりそういうのは俺に似合わないと思っているし、アグナユディテにも偉そうだと言われるだろうが、カーブガーズ大公で王国大宰相である俺が女王様にならいざ知らず、どうしてカルロビス公に弁明をしなければならないのだろう。

 領地の内では、領主の権限が強いということはあるにしてもだ。




「あの白クジラはサマーニの守護神なのです。守護神はこの町を、海の魔物から守ってくださっているのです」


 カルロビス公のすぐ横に控える側近らしき文官は、俺たちに向かってそう言った。


 やっと面会できたカルロビス公の前で、俺たちは査問会さながら、彼の家臣たちから厳しい言葉を浴びせられていた。


 確かに白い鹿や、白い蛇なんかを神様の使いとして崇めるなんてことは、前世の日本でもあった気がする。

 それが白いクジラだなんて、ちょっとどうかとは思うが、まあ海峡の町ならあってもおかしくはないのかもしれない。


 けれど、あのケートスはかなり狂暴だったし、シードラゴンの海峡への侵入をまったく妨げていなかったから、守護神だなんて冗談だろう。


「いや、あの魔物は何の躊躇(ちゅうちょ)もなく、わたしたちを襲ってきたぞ」


 エディルナがそう言って、俺が思っていたのと同じ主張をするが、


「海を氷で閉ざしたりしたら、守護神の怒りを買うに決まっているではないですか!」


 今や領主の側に立つエレオナオス家老まで、そう言って俺たちを非難する。

 まあ、彼のもともとの立ち位置は、そちら側で間違っていないだろう。


 俺はこれまでカルロビス公のことを、NPCだから仕方がないと諦めていたのだが、もうこれはそういう次元を超えていないかと思う。

 さすがに温厚な俺だって、もう我慢の限界だ。


「では、何とかします」


 俺が不貞腐れたようにそう言うと、当たり前だが、カルロビス公の家臣たちから、


「何とかするとおっしゃるが、どうされると言うのだ?」


 と声が上がる。



 俺はアグナユディテとベルティラと三人で、政庁を後にした。

 残りの五人には、政庁の控えの間で、俺たちが戻ってくるまで、待っていてもらっている。


 まあ、はっきり言って俺を逃げ出させないための、体のいい人質だ。


 そうしないとカルロビス公以下の面々が、納得しないということもあったが、俺はこれからすることを、あまり仲間に見られたくはなかったのだ。

 本当はアグナユディテにも知られたくないのだが、彼女は俺の側を離れないから仕方がない。


 俺はベルティラに頼んで、こっそりとチジャム岬の突端の下の、生贄の乙女を捧げる崖のくぼみに跳ぶと、もうひとつベルティラにお願いをした。


 彼女は俺の言葉に驚いたようだったが、すぐにニヤリと邪悪な笑みを浮かべると、


「さすがは『我が主』だな。もちろん、お考えのとおりにしよう。それにしても、あの屋敷のことを憶えていてくれたのだな」


 そう言って、何だか嬉しそうだ。

 そしてアグナユディテに向かって、


「お前もたまには『我が主』の役に立ったらどうなのだ。お前だって闇の精霊は使役できるのだろう」


 挑発するような態度で、そう話し掛けた。


 俺とベルティラの遣り取りに呆れた様子だった彼女は、突然のベルティラの言葉に虚を突かれたようで、


「わ、分かったわ」


 と、珍しく素直に応じる。


 そして、二人は目を瞑ると、揃って小声で精霊に語り掛けるように呪文を唱えだした。


 その様子を見ながら、エルフとダークエルフが協力して呪文を唱えるって、この世界で過去にあったのだろうかと俺は考えた。

 正直、ちょっとありえない気がするよな。



 アグナユディテとベルティラの精霊魔法は見事なでき栄えで、白いクジラのような魔物の姿が海の上に浮かび上がる。


(うん、どこからどう見ても本物の白いケートスだな)


 前の世界で見たプロジェクションマッピングだって、ここまでリアルではなかった。お願いした俺でさえ、闇の精霊による幻影の魔法であることを忘れてしまいそうだ。


「見ろ! 守護神さまだ!」


 俺たちの上の方から、そう叫ぶ声がする。

 どうやら岬の上に立つ、この町の人たちにも、ちゃんと認識されているようだ。


「守護神さまは生きておられた。いや、復活なさったのだ」


 俺はその声を聞いて、ほくそ笑む。だが、


「王都の偉い奴だか何だか知らないが、守護神さまを倒せるものか。やっぱりサマーニが一番だ!」


 そんな声に、もう一度、倒すところを見せてやろうかと、沸々と昏い感情が湧き上がってくるのを、俺は何とか堪えていた。




 結局、俺たちのサマーニの町の守護神、白いケートスの討伐はなかったことになった。


 唯一の証拠であるその遺骸は海の底に沈んでしまっていたし、アグナユディテとベルティラの幻影の魔法を見た多くの町の人たちが、目撃者として名乗りを上げたので、まだ存在しているということになったようだ。


 もともと守護神って、そんなに頻繁に人前に姿を見せるものではないのだろうから、それで問題はないのだろう。



「賢者アマン。ユディから聞きましたよ」


 アリアにそう言われて俺はまずいと思い、とっさに「えっ。何のことかな?」としらばくれようとした。


 だが、彼女の水色の瞳を見て俺はすぐに悟った。

 俺程度の人間がアリアの追及をかわすなんて、どだい無理なことなのだ。


 俺はもう、エルクサンブルクでティファーナの亡き父である侯爵を口先で誤魔化した時のように、アリアから説教を受ける覚悟で、サマーニの町の人たちに幻影の魔法を使ったことを白状をした。


「町の皆さんは喜ばれていたそうではないですか。いつも本当にお見事です」


 だが、鎮痛な面持ちの俺とは対照的に、アリアはそう言って、俺にいつもの優しい笑顔を向けてくれた。


 そう言えば、あのスニユ山の出来事から、アリアは俺を説諭するようなことがなくなったのに俺は今更ながら気がついた。


 これはまずい気がする。


 ただでさえ、この世界の俺は高い爵位と広大な領地に、大宰相というこの上ない権威と権限を与えられ、しかも、強力な魔法という実力を持つ存在だ。


 堕落、腐敗する要素が満載なのに、数少ない意見をしてくれる人であったアリアを失ったら、ダメ人間に一直線な気がする。


 俺はそんな高潔な人格者ではないのだから。


 焦った俺は今回、自分がこの町でやらかしたことを、もう一度よく考えてみることにした。


(いや、でも、やらかしたとは言っても、ケートスが襲いかかってきたのだから正当防衛、不可抗力だし、俺は悪くないよな)


 でも、そう考えてしまうことこそが堕落の第一歩なのかもなどと思っていると、タイミングよくトゥルタークが俺に問いかけてきた。


「アスマットよ。対魔族の結界を使う方法は試してみないのか?」


 つい先ほどまで、俺はもうこの町のためにそこまでしてやる気にはならなかったのだが、アリアのおかげで思い直すことができた。


「先生。海峡の出入り口に結界を張れば、大型の魔物は入って来られなくなりますよね」


 俺が念の為に確認すると、可愛らしい少女の顔に莞爾(かんじ)とした笑みが浮かぶ。


 でも、俺はサマーニの町の魔術師ギルドに知り合いなどいないから、王都の魔術師ギルドのマスターのペラトルカさん経由で、この町のギルドに伝えてもらう手がいいかもなと思った。


 彼なら王都嫌いのこの町のギルドのメンバーだって、上手く動かしてくれそうだ。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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