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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第一部 第一章 魔王バセリス
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第六話 メンバー募集

 パーティーメンバーの募集を丸投げされてしまった俺は、翌日の朝、まずは冒険者ギルドを訪れた。


 ギルドの建物は俺の泊まる「銀狼亭」からそれほど離れておらず、ほんの数分歩いただけで到着することができた。

 王都の規模を考えればご近所と言ってよい距離だ。


 頑丈そうな石造りの建物だが、昨日行った魔術師ギルドの建物があまりにも壮麗だったので、それと比べると見劣りするような気がしてしまう。


 建物の中に入ると、まだ朝の早い時間だからか、それほど混雑してはいない。それでもクエストでも受けるのだろうか、受付付近には何人かの冒険者らしき男女がたむろしていた。

 俺は受付に向かうと、


「エディルノさんか、エディルナさんという戦士を探しているんだが」


 窓口の係の者に尋ねた。


『ドラゴン・クレスタ』のPCの戦士は男性を選択すると「エディルノ」、女性なら「エディルナ」という名前だった。

 ゲームでは、王女捜索の旅の仲間を求めて冒険者ギルドを訪れたアンヴェルと、猪を狩ってきた戦士との間でひと悶着あった後、その腕を見込んで仲間になってもらう流れだったはずだ。


「エディルナならわたしだけど。何の用だい? 魔法使いさん。もし、わたしと組んで一仕事って言うなら、まずは冒険者登録をしたらどうだい。登録ならあちらの窓口だよ」


 俺の声が聞こえたようで、クエストボードの前からそう言って近づいてきた彼女は、確かに『ドラゴン・クレスタ』で見た戦士だった。


 その戦士は豊かな赤い長髪を無造作に束ね、冒険者らしく少し日に焼けた肌は健康的だ。

 左の腰にバスタードソードとショートソードを差し、皮の胸当てや脛当ては良く手入れされているようで光っているように見える。


 あの剣を扱うのだから力は結構あるのだろうが、身長が俺と同じくらいあるので、どちらかと言えばスラリとした印象だ。

 荷物とともに背後に置かれたラウンドシールドは、普段は背負っているのだろう。


「いや。冒険者には憧れるけれど、今日はエディルナさんにお願いがあって来たんです」


 俺が彼女の目を見てそう言うと、彼女は笑いながら言った。


「冒険者に憧れるなんて、あんた変わっているね。ちょうど新しいクエストを探していたところなんだ。いい話なら聞くよ」


 彼女の言葉を聞いて「この世界では冒険者は憧れの職業ではないのかな」と俺は思った。

 俺にしてみれば異世界まで来てそれ以外の職業って、ちょっと思い浮かばないのだが、普通に生活しているこの世界の人からしたら、そうでもないのかも知れない。


 近づいてきた彼女の大きな瞳は澄んだ鳶色(とびいろ)でキラキラと輝き、腕利きの冒険者のはずなのに何だか少し幼く見える。


「改めてはじめまして。私はアスマット・アマンと申します。エディルナさんを探していたのは確かに仕事の依頼のためです。

 依頼主はシュタウリンゲン卿。依頼の内容は言ってみれば、まあ、依頼主に同行して人を探すことと、できればその人を連れて帰ることかな。

 報酬は一日につき銀貨十枚。もちろん依頼を達成した暁には依頼主から別途褒賞が出るはずです」


 俺の語る依頼内容が彼女はあまり気に入らなかったようで、


「貴族の護衛か……」


 ぽつりと呟いた。


 何となく乗り気でない感じで、過去に同じような依頼で嫌な思いでもしたのかもしれない。


「貴族と言っても依頼主の剣の腕はかなりのものだし、どちらかと言えば魔法使いである私の方が守ってもらう機会は多いかもしれません。

 任務については、ここでは細かい内容までは言えませんが、確かに危険ではあるが実入りは悪くないと思いますよ。エディルナさんには何とか受けてもらいたいんですが」


 俺がそう言っても、彼女はまだ少し逡巡(しゅんじゅん)していたが、


「よし。分かった。指名での依頼なんて久しぶりだし、猪を狩るのにも飽きた。これでも結構、剣の腕には自信があるんだ。このところ割のいい仕事も少なかったから、景気のいい話は大歓迎だ。魔法使いがパーティーにいるんならこっちも安心だし。よろしく頼むよ」


 そう言って、右手を差し出してきた。


「ありがとう。エディルナさん。こちらこそよろしく」


 俺も右手を出して握手をすると、彼女は、


「エディルナ・サローニットだ。エディルナでいい。その代わりこっちも『アマン』って呼ばせてもらうよ。それから敬語はなしってことで。これもお互い様でね」


 いたずらっぽい笑顔で言った。

 俺はゲームでも彼女がよく「お互い様」と言っていたのを思い出していた。




「あっ! 先輩! 良かった。見つからないかと思いました。お願いです。助けてください」


 俺がエディルナと冒険者ギルドから出ようとしたところで、どのくらいの距離を走ってきたのだろうか、息を切らせ頬を赤くした少年が彼女を見つけ走り寄って来た。


「ああミーザウ。久しぶりだな。どうしたんだい? そんなに慌てて」


 エディルナの言葉に少年はもどかしそうに、


「とにかく僕と一緒に教室まで来てください。大変なんです!」


 彼女の手を引いて駆け出さんばかりだ。

 エディルナがチラリと俺の顔を見る。たった今、俺から依頼を受けたばかりだから遠慮があるのかもしれない。


「なんだか一大事みたいだし、急いで行ってやったらどうだ? 良ければ俺も同行させてもらうが」


 俺がそう言うと、彼女は少しほっとした様子で、


「悪いな。アマン。恩に着るよ」


 そう言って少年と駆け出した。


 街中を駆けながらミーザウ少年が、エディルナに彼女を探しに来た理由を話す。


「道場破りが来たんです! サンザックさんもイシナースィさんもやられてしまって。僕が教室を飛び出す時はキヌジーラ先生が相手をすると言っていましたが、どれだけ持つか」


 どうやらその道場破りとやらは相当な使い手らしい。


「ヤザマン先生は。先生がいらっしゃるなら、私の出る幕はないと思うのだが」


 エディルナが確認するとミーザウ少年は、


「大先生は今日はお城で公務です」


 行く先を見据えたままそう答えた。どうやら大先生とやらはそれなりの地位の騎士のようだ。


「まったく面倒なときに来る客だね!」


 エディルナはそう言って、そのまま駆け続けた。



 俺たちが剣術教室に着くと、何人かの若者がある者は腕を押さえ、また別の者は腰に手を当て壁際にうずくまっていた。

 呻き声を上げている者もいる。


 キヌジーラ先生とやらも既に敗れたようで、板敷きの教室の中で立っていたのは右手に木剣を持った剣士ひとりだけだった。


 エディルナがドカドカと慌てて教室に上がっていくと、おそらく道場破りであろうその剣士が俺たちの方を振り向く。


 そうして振り向いた剣士は、意外なことにまだ若い女性だった。


 鋭い視線にきりりとした眉。鼻梁はすっと伸び、小さな顔に濃いブラウンのショートボブがよく似合う。

 しらぎぬに袴を合わせ、手甲がなければ巫女さんのような格好だ。


 姿勢が良いので身長が高く見えているような気がするので、実際には俺よりは少し低いくらいだろうか。

 年齢は俺と同じくらいだろう。もちろんこの世界の俺とだ。


 だが、木剣を提げているだけなのにまったく隙を感じさせない立ち姿や、そこまで大柄ではない彼女が放っているとは思えない威圧感が、素人の俺にさえ彼女が相当な剣の使い手であることを感じさせた。


「ちょっと待ちな。ここの看板は持って行かせないよ」


 エディルナがそう呼び掛けると、剣士は表情を変えることなく、


「看板になど興味はない。それより貴殿もこの道場の者か?」


 逆に問いかけてきた。


「いや。だが、この教室にはお世話になったんだ。二年ほど前に卒業したがな」


 エディルナが答えると、剣士はスッと目を細め、


「なるほど。免許皆伝というわけか。それなりにやりそうだな。では、私と手合わせをしてもらおうか」


 そう言って不敵な笑みを見せる。


「看板には興味がないと言うくせに、わたしには手合わせをしろと、いったい何が望みだ」


 今度はエディルナが聞くと、


「王都の一流の剣士と手合わせをしてみたいだけだ。いや、王都だけではなく、あらゆる強者と試合うことが我が望み。

 道場の看板を質にしなければ遣り合わぬというのなら、こちらはそれでも結構だが」


 剣士は木剣を両手に持ちかえ、剣先を少し引き上げてきた。


 だが、二人の一触即発の状況に俺が割って入った。


「残念ですが、彼女にあなたと手合わせをしてもらう訳にはいきません」


 俺がそう声を掛けると、剣士が「貴殿は?」と尋ねてきた。


「私は彼女の仕事の依頼主の代理人です。彼女にはこれから重要な任務についてもらう予定です。ですからここで怪我などをさせられては困るのです」


 俺の言葉に彼女は少し考え、


「そう言って逃げるのではあるまいな? ならば、こちらはその仕事とやらが終わるまで待とうではないか。三日後でも、三週間後でも、三か月後でも、好きなように期日を決められよ」


 厳しい目つきを見せて返してきた。


「でしたら、あなたもその任務に同行してもらえませんか? あなたは強い相手を探しているのでしょう? 私の依頼を受けてもらえれば、少なくともこのあたりの剣術使いとは比較にならないほど強い相手と戦えるはずです。そして任務が終われば、彼女と好きなだけ手合わせでも何でもなさればいい」


 突然の俺の提案に、剣士は意表を突かれたという顔をしていたが、剣先を下げ、俺の方に向き直ると、


「剣術使いとは比較にならない相手か。剣術使いの私としては聞き捨てならん言葉だな。依頼を受ければ、そのような相手と引き合わせるというのだな」


 そう質してきた。


「ええ。最後には命を懸けねばならないほどの相手と戦うことになるかもしれません。それにこんな風に人を倒すためではなく、人を生かすためにあなたの剣を使うことができるはずです」


 俺は彼女の目を見て答えた。何せ最後は全人類の敵、魔王が相手だからね。


 エディルナが、自分が受けたクエストに命の危険があるかもという俺の言葉を聞いて驚いていたが、とりあえず後で説明するとして、今はスルーしておく。


「命を懸けるほどの敵に人を生かす剣か。大きく出たな。面白い。その言葉に偽りはないだろうな? その依頼、受けた!」


 剣士はそう言って剣を収め、俺たちに歩み寄って来た。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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