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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第七章 続編の世界へ
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第四百九十九話 メーオの介入

「早くしないと逃げられるよ!」


 アデーレが俺を急かしてくるが、もともと『レビテーション』の魔法はゆっくりとしたものなのだ。


 自由落下しないように人や物を浮かべるのが、この魔法の真骨頂なのだから。


「確かにいらいらするわ」


 アグナユディテも焦っているようだが、俺が闇魔法を掛けたのだ。

 あの『エターナル・バインド』から逃れるなんて芸当、俺やメーオ以外にはできないだろう。


 ドラゴン・ロードは、


「ぬーん! なんのこれしき。我は無限、無限の力持つ者なのだ!」


 なんて言って全身の力を込めて闇の鎖を引きちぎろうとしていた。


 それでも俺が生み出した魔法の鎖はびくともしない。

 そう思っていたのだが、


「ダメか? だが、我は無限! 限り無い力。無限、無限、限り無いスケール!」


 奴の目が怪しい赤色に輝き、うわごとのように「無限、無限」と繰り返す。

 その尋常ならざる様子に、俺は不安になってきた。


「むっげえぇぇん!!」


 ようやく中庭に降り立った俺たちが奴に向かおうと駆け出したのと、奴がそんな雄叫びを上げたのは、ほぼ同時だった。


「見ろ! あれを!」


 そう言ったのはリズだろうか。

 俺たちの前でロードの身体が金色に輝き、それは見る間に大きくなっていった。


「逃げろ!」


 危険を感じて咄嗟に俺の口を突いて出た警告は正しかった。


 もともと巨大なエンシェント・ドラゴンが、さらに大きくなったのだ。

 闇の鎖が水飴のようにぐにゃりと曲がり、そのまま千切れて消え去った。


 いや、俺はリア充じゃないからお祭りとか行かないし、凝った料理もしないから、水飴なんて見たことないんだけどね。


「ふははは……。誰も我を止めることはできぬ。我は無限、無限そのものなのだ!」


 ロードは声まで空に鳴り響くようなものに変わっていた。

 身体はそのまま巨大化を続け、王宮はすでに奴の巨大な体躯に押し潰されつつあった。


 俺たちは必死で奴に背を向けて走り、距離を取る。


「父上は? 家臣たちはどうなったの?」


 王宮の壁に追い詰められた俺たちの中で、ララティーの悲痛な叫び声が響く。


 俺はすっかり忘れていたが、ハイラディン王はどうなったのだろうか?


 やっぱりバッドエンドで王都の民と運命を共にされるのだろうか。


「ええと……。レビテーション?」


「そんなことしてる時間はないわ!」


 アグナユディテが『精霊王の旋風』で王宮の壁を破壊した。

 後の責任追及のことを考えると、根が小市民の俺にはそこまでやる度胸はない。


「逃げるぞ!」


「待って!」


 俺は皆と町へ逃げ込もうとしたのだが、ララティーが呼び止めた。


「ここで決着をつけないと、町は奴に飲み込まれちゃう。みんな。力を貸して!」


 その言葉に俺はてっきり彼女がドラゴンに変化するのかと思った。


 あの「パーヴィー。パーヴィー。力を貸して」ってやつだ。


 だが、彼女は背嚢からもう一枚の『生命の石板』を取り出していた。


「私一人じゃあ無理だと思う。でも、皆の心を合わせれば、あの石板に愛を表すことができると思う。すべての問題を解決する無限の愛をね」


 そんな無茶なと思ったが、ドラゴン・ロードはさらに巨大化を続けていた。


 王宮や王都の建物から数字やアルファベットのようなものが剥がれ、奴の身体に吸い込まれていっているようにも見える。


(奴は情報を糧に大きくなっているのか? この世界のすべてを吸い上げて……)


 その想像は俺をぞっとさせるものだった。

 いつかメーオやセヤヌスが言っていた世界の蒸発を彷彿とさせたからだ。


「このまま奴を放置すると王都だけでなく、世界が奴に呑み込まれるかもしれない。やるしかないぞ!」


 俺も覚悟を決めた。

 そして皆が手を合わせ、ララティーが掲げる石板の表面に添える。


「みんな! 愛するもののことだけを考えて! その愛の力をこの石板に注ぐイメージでね」


 そんなのでいいのかと俺は疑問を感じたが、当時のB級RPGならそんな程度の設定もありだろう。


「愛するものって?」


 リズが今さらそんなことを聞いてくるが、彼女は自分の愛するものくらい自分で分からないのだろうか?


「私は愛するこの国と民のことを考えます。私は王族なのですもの。当然です」


 ララティーは随分と高尚なんだなと思って、俺はちょっと恥ずかしくなった。

 そして、こんなことが何処かであったなって気がした。


 俺は以前、確かに似たような経験をしている。


 あの別の異世界の邪神グズィユールを元の世界へ飛ばしてしまった時だ。

 あの時は奴を滅ぼすのが遅れ、大魔王ヴァダヴェスティーンの居城の跡に地獄の門が開いてしまい、大変だったのだ。


(あの時、メーオは大切でかけがえがなく、思い出すと心が温かくなるもののことを考えろって、そう言っていたな)


 そんな強い想いを使って、彼女は世界に開いた穴を塞いでくれたのだ。


(よし! 俺は愛する『ドラゴン・クレスタ』のことを考えよう)


 俺の愛するものって、きっとそれだと思うのだ。

 RPG全般って言い方もできるが、それだと対象がぼやけてしまう。あと、ラノベもあるしな。


「アマン。また世界を救うのよ」


 その時、アグナユディテが俺に身を寄せて、そう言ってきた。


 気がつくと彼女の美しい顔がすぐ側にあって、俺はこんな時なのにどきりとしてしまう。

 エメラルドグリーンの瞳に俺の姿が映っていた。


(俺の愛するものは……)


 俺は自分の瞳に映っているであろうものを考えて、そう自問した。


「みんな! 心の準備はいい?」


 ララティーがそう言って皆を見回し、合わせた右手を石板の上に滑らせる。


 エンシェント・ドラゴン・ロードはますます巨大になっていた。

 いつの間にか奴は宙に浮かび、膨らんだその身体は王都全体を覆ってしまう程だ。


 そのせいで王宮を中心に、王都の空は真っ暗だった。


「お願い! 消えてっ!」


 ララティーが叫ぶと、次の瞬間、石板が虹色に輝く。

 予期せぬ出来事に一瞬、皆の顔に困惑が浮かぶ。


『生命の祠』でパシヤト老がこの石板の使い方を教えてくれた時、そこには黄緑色の棒のようなものが浮かび上がったのだ。

 そして、その状態の石板を地面に叩きつけて割ることで、対象の生命を奪うことができた。


『生命の石板』はそんな力を持ったアイテムだったはずだ。


(ダメか?)


 元の世界でドラゴン・ロードを滅ぼした時は、微かな黄緑色の光をその中に宿したのだ。それと同じことが起こらなかったということは、ロードを滅ぼすことに失敗したのではないか。

 俺はそう思ったのだが。


「うわっ」「眩しいっ!」


 石板の輝きは瞬く間に恐ろしい程に強さを増し、そこから放たれるあまりに強力な光で周りは真っ白になって、俺たちは目を開けていることができなくなった。


(あの光は……)


 その光に俺は一縷の望みを見出した。

 あの時も同じように強力な光がロードの中から放たれた。

 その後、その光の中にエレブレス山の女神が姿を見せたのだ。


 だが、それとは少し勝手が違うようにも感じられた。


(あの虹色の光って……)


 俺は右腕で顔を覆いながら、今見た光のことを考えていた。


 元の世界で見た強力な光は真っ白なものだった記憶がある。

 それに引きかえ、今回の光は間違いなく虹色をしていた。


 案の定、俺の頭の中に聞き覚えのある声が響いた。


(はーい。お父様。もう目を開いてくださって大丈夫でーす。お姉様には悪いけど、ちょっとまずそうだったからメーオが調整しちゃいました。でも、この後はまたお姉様にお任せしますからね」


 どうやら何らかの理由があって、メーオが力を行使したらしかった。



「おい! みんな。もう大丈夫だ」


 俺がメーオに言われたとおり目を開くと、あの強烈な光は消え、同じようにロードの姿も消え去っていた。


「やったのかい?」


 アデーレはそう言って、腰が抜けたようにぺたりと地面に座り込んだ。


「町は? 大丈夫なの?」


 ララティーが心配そうに辺りを見回す。

 空は既にいつもの明るさを取り戻し、みたところ町にも大きな被害はなさそうだ。


 王宮だけは奴に圧し潰されて、かなりの建物が損壊していたが。


「あれは……、国王陛下もご無事のようです!」


 それでもリズが王宮の瓦礫の中からこちらへ向かって来る人影を見つけ、嬉しそうな声でララティーに告げたように、ハイラディン王も辛うじて無事で済んだようだ。


「ララティー。良かった」


 王はドラゴンに挑んだ娘の身を案じて、ここまでやって来たようだった。

 ララティーの姿を見て、そう口にすると安堵の表情を浮かべる。


「父上。ドラゴンは滅びました。王宮は壊れちゃったけど、町が守られて……そして、父上がご無事で本当に良かった。お怪我はありませんね?」


 ララティーもそう言って王に歩み寄る。

 王は彼女を迎えると、両腕でしっかりと抱きしめた。


「父上。これで私の資格停止処分は解除していただけますか?」


 ララティーは王に抱きつきながら、悪戯っぽい声でそう聞いていた。


「ああ。もちろんだ。お前は王都を、いや、世界を守ったのだからな。その功績は比類なきものだ。解除に反対する者はおらぬであろう」


 ハイラディン王は嬉しそう、と言うよりも安堵したって口ぶりで答えていた。



「アマン。やったわね」


 その様子を眺めながらアグナユディテが俺にそう伝えてきた。


「あ、ああ。終わったな」


 俺は彼女にそう答えながら、何となく気恥ずかしくて真っ直ぐに顔を向けられない気がしていた。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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