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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第七章 続編の世界へ
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第四百九十八話 大賢者の弟子

「あれってハイラディンだよな?」


 俺は小声でアグナユディテに聞いたつもりだったのだが、突然の国王陛下の登場に皆が静まり返っていて、ヨランに聞き咎められてしまう。


「アマン。お静かに。陛下のお名前を直接お呼びするのは畏れ多いことです」


 確かに周りの皆はララティーを除き、陛下とお呼びしているから、ただの名前だけが大賢者と同じ魔法使いに過ぎない俺なんて、下手すれば打ち首だろう。


 だが、小物であり過ぎる俺のことなんて、国王陛下は眼中にないようだった。


「おとなしくしていたのなら、適当な時期に処分を解除することも考えていたのだが……。これでは廷臣たちも納得するまいね」


 元の世界のハイラディンは聡明で立派な国王なのだが、この世界の彼はそうでもないらしい。


 いや、ララティーがこれまでやらかし過ぎなのか?


「父上! ドラゴンの王が王都を襲おうとすぐ側まで迫っているのです。今すぐ町の住民たちを避難させてください」


 ララティーは構わず、ハイラディン王に進言するが、あのラディアン卿とか言った男が反論する。


「殿下……ではなくララティー殿。住民たちはドラゴンの襲来に驚いて或いは逃げ出し、或いは家に閉じこもり、町は大混乱です。いったいあなたは何をなさったのです?」


 俺のサラリーマン的経験からすると、相手が少し立場を悪くしているからって図に乗らない方が良いと思う。


 人生、どこでその人と関わることになるとも知れないからな。


 でもラディアン卿とやらにはそう言った配慮はないらしい。

 資格停止処分中のララティーを激しく責め立てた。


「まさかこのベランダから住民たちに向かって避難を呼び掛けるおつもりだったのですか? 王国の処分に不満を抱き、要らぬ混乱を引き起こすおつもりなら、反乱罪に問われることになりますぞ!」


 奴の言い種は将来、ララティーが資格停止を解かれたらどうする気なんだろうと人ごとながら心配になるくらいだ。

 俺が心配してやる義理はこれっぽっちもないんだけどね。


「そんなことはありません! 父上。本当にドラゴンが襲って来るのです。早くご決断を!」


 必死な顔で懇願するララティーを、今度はルジェーナ卿がせせら嗤う。


「ドラゴンなどこの王都へ現れるはずがないではありませんか。大方、先ほど何人かが見たと騒いでいたドラゴンも、幻覚の魔法か何かでしょう」


 俺はサマーニでは何度かその手を使ったが、今回はそんなことはしていない。


 そんなことを考えているとアグナユディテが何かに気がついたように東の空を振り向いた。


「来たわ。ドラゴン・ロードよ。間違いない」


 そう言って彼女が睨む東の方角に、最初は微かな黒い点のようなものが見えたかと思うと、それは見る見るうちに大きくなり、すぐにドラゴンのシルエットだと分かるようになった。


「ド、ド、ドラゴンだ!」


「大きいぞ!」


 声を上げたのは誰かと思えば、ラディアンとルジェーナの二人の貴族だった。


 おまけに二人は国王への挨拶もそこそこに、その場から逃げ出した。


「まさか本当にドラゴンなのか?」


 ハイラディン王もさすがに狼狽を隠せない。

 傍らにイベリアノでもいれば安心していられるんだろうが生憎、ここにも彼の姿はなさそうだった。


「本当にドラゴンです。ですが国王陛下、ご安心を。ララティーが奴を滅ぼすマジックアイテムを持っています」


 ここはシナリオをある程度、知っている俺がしゃしゃり出るしかないだろう。


 そう思って普段にはない積極性を見せたのだが。


「マジックアイテムってまさかあれのこと? 害虫退治用の透明な板?」


 ララティーに呆れたって顔で返されてしまう。


「あれは害虫退治用のアイテムなんかじゃない。ララティーだって見ただろう? どんな強力な相手だって、その生命力をイメージすることで、生命を石板の内に取り込んで滅ぼしてしまえる物なんだ!」


 彼女は俺の愛する『ドラゴン・クレスタ』の続編の主人公のはずなのに、どうして俺の心を分かってくれないんだって、俺は泣きたい気分だった。


 このままだとせっかく来たこの世界はバッドエンドに陥ってしまう。


「あなたはいったい何者ですか?」


 俺があまりに大きな声でララティーを叱責するような口ぶりだったからだろうか、ハイラディン王に尋ねられてしまった。


「彼はアスマット・アマン。だけど大賢者じゃない。同姓同名の魔法使いよ」


 ララティーはあくまで(こだわ)るなって思ったが、この世界の人にとっては重要なことかもしれない。

 俺も大賢者の名を騙る詐欺師的な扱いは御免だしな。


 だが、ララティーの紹介を聞いたハイラディン王は、俺が思っていなかった答えを返してきた。


「大賢者は先日、亡くなられましたからね。大賢者に仕えていた弟子がわざわざ王都へ来て、伝えてくれましたから」


「大賢者の弟子だって?」


 俺はまた普段と同じ感覚で国王にタメ口をきいてしまった。

 このままだと本当に地下牢にでもぶち込まれるかもしれない。


 緊急事態が迫っているからか、誰もそんなことは言い出さなかったのは幸いだった。


「ええ。たしかイベリアノとか言う名の聡明そうな若者です。彼は大賢者の末期(まつご)の言葉を伝えてくれました」


「!」


 思わぬところからイベリアノの名前が出てきて、俺には返す言葉もなかった。


 大賢者の弟子って俺のことかと思ったのだが、師匠はトゥルタークではなくこの世界のアスマット・アマンなのだ。

 アスマット・アマンの弟子がアスマット・アマンだったら紛らわし過ぎるよな。


 俺は「彼をここへ呼んでください!」って言いたかったのだが、ロードはもう間近に迫っている。

 イベリアノがまだ王都に滞在していたとしても、王宮のベランダまで来てもらう時間はなかった。


「大賢者の末期の言葉って?」


 アグナユディテもイベリアノと聞いて驚いたのだろう。ハイラディン王に聞いてくれた。


「あなたは大賢者とともに魔王を倒したエルフの英雄のアグナユディテさんですか。大賢者の言葉、お聞きになりたいでしょうね」


 さすがに父親である彼には、ララティーの仲間に英雄のアグナユディテがいることは伝わっていたらしい。

 俺のことは……考えると淋しいだけだからやめておこう。


「ええ。是非」


 エンシェント・ドラゴンが今にも襲ってきそうな中で、そんなこと話してる場合なのかと思ったが、さすがはバルトリヒとアンヴェルの子孫なのか、王は落ち着いたものだった。


「すべては『愛』だと。無限の『愛』がすべての問題を解決するのだと、大賢者はそうおっしゃっていたそうです」


「はあ?」


 俺は思わず変な声を出してしまった。

 この世界の大賢者であるアスマット・アマンは、俺とは似ても似つかない考えの持ち主らしい。


 でも、俺は王が教えてくれた彼の言葉の中に「無限の」って言葉があったことを聞き逃さなかった。

 アグナユディテも俺の顔を見てきたけどな。


「そうだ! 愛だよ。ララティー。無限の愛を胸に抱いてあの『生命の石板』の表面をなぞるんだ。きっと上手くいくはずだ!」


 自分でも似合わないなと思いつつ、でもきっとそうなんだろうと考えて俺はララティーにクリアの鍵となるであろう言葉を伝えた。


 だが、ララティーは戸惑ったように固まっているばかりだ。

 俺みたいな奴にいきなり『無限の愛』とか言われても、そりゃあそうなるよな。


 この辺りは普段の言動というか、人間性の問題なのだろう。


「無限の愛って言われても、どうすればいいの?」


 ララティーはゲームの主人公なんだから「私の愛の力を見せてあげる!」とか言って、ロードを倒してくれるんじゃないかと期待したのだが、そうでもないらしい。


 彼女は戸惑いを見せるばかりだった。


「もう。まどろっこしいわね! ララティー。あの石板を貸して!」


 そう言って彼女に手を差し出したのはアグナユディテだった。


「えっと……」


 いきなりの要求にララティーは考えがまとまらないようだったが、彼女の迫力に押されたのか背嚢からあの『生命の石板』を取り出すとおずおずとアグナユディテに差し出した。


「アマン。奴を止めて!」


 俺はその様子に以前、別の『ドラゴン・クロスファンタジアⅡ』の世界でラファルディから三つの試練を受けた時のことを思い出した。


 あの時も今みたいに、プロメイナがシトラに『ダイヤモンド・クリスタル・ロッド』の提供を強制したんだよな。


 ロッドは無事には済まなかったけど。


 今はそれよりもロードのことだ。



「ドラゴン・ロードよ! 俺は丘の上に建つ王宮のベランダにいる。ここへ来て、俺たちの話を聞いてくれ!」


 俺は奴と話したいと強く念じて、大きな声で話し掛けた。

 今回はブロックされていないから、これで奴に声が届くはずだ。


 案の定、奴は驚いたように進路を変え、王都をぐるりと巡るように南から西へと回る。

 そして一段高い王宮のベランダに俺たちの姿を認めたのだろう、ゆっくりと近づいて来た。


「お前たち。どうやって我より先にここへたどり着いた?」


 そんなの俺の魔法の力に決まっているじゃないかって、教えてやる必要もないだろう。


「ドラゴンよ。お前が王都を破壊すると言うのなら、俺たちは今度こそ『生命の石板』でお前を滅ぼすぞ。その覚悟があるのか?」


 俺が奴にそう問い掛けると、奴は俺に並んで立つアグナユディテの腕に抱かれた『生命の石板』の存在に気がついた。


 奴の動きが一瞬だが止まる。

 さすがに警戒しているのだろう。


「まだ隠し持っていたか。だが、そんなもので我を滅ぼすことはできぬ」


 尊大な態度で俺たちに告げる奴を滅ぼすには、奴の動きを止めて石板を向けるしかない。

 アグナユディテもあの時と同じ俺の魔法に期待しているのだろう。


「エターナル・バインド!」


 俺は魔法の鎖で奴を縛り、自分たちは『レビテーション』で奴の墜ちた中庭へと降りて行った。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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