第四百九十五話 古竜王との戦い
「いえ。本当に私ではないのです。そうだ! きっとパーヴィーの奴です。気まぐれな奴の仕業に違いありません」
ジャーヴィーとロードはさすがに何が起きたかは理解しているようだが、俺がやったとは思っていないようだ。
セヤヌスが上手く調整して、俺の力を隠してくれたんだなと安堵した。
アグナユディテは当然、俺の方を見ていたが。
「パーヴィーか。あり得るな」
ロードはそう言ってララティーを見る。
俺はパーヴィーが「僕じゃないよ。濡れ衣はやめてよね」とか言いながら姿を見せるんじゃないかと気が気ではなかった。
これからロードと戦うんだろうに、そんな展開はあり得ないだろうって思ったのだ。
いや、そっちがシナリオ的に正しいのか?
「これでお終い? 今度はこちらから行くよ」
ララティーが皆を見回して、
「ドラゴンになるから力を貸して!」
そうお願いしてきた。
俺はあの『金色の光』を見た後で、よくロードと戦う気になるなって思ったのだが、ロードもジャーヴィーも自分の仕業じゃないって言っているし、そこは考えないことにしたのかもしれない。
俺には無理な芸当だが。
「いや。ララティー。ちょっと待ってくれ。ここはあの『生命の石板』を使うんだ」
それでも俺は元の世界の経験から、ララティーを止めた。
ここで一度、あの石板を使ってロードの生命力が無限だってことを知るべきなのだ。
あの時は絶望に囚われたが、考えてみればあれこそイベント戦闘だったのだろう。
こういったゲーム感覚は危険なのかもしれないが、無限の生命力を誇るドラゴン・ロードに、俺のバフがあるにせよパーヴィーになったララティーが敵うとは思えない。
「あんな物が役に立つの?」
ララティーは不満そうだ。
大賢者と名前が同じだけのどこの馬の骨とも分からぬ魔法使いが王族の私の意見に反対するなんて、身の程知らずだって思っているのかもしれない。
「ララティー。試してみる価値はありますよ」
ヨランがララティーを宥めてくれる。
学問の師にまでそう言われて、彼女は仕方ないって顔で俺を見て言った。
「皆が心を合わせないとドラゴンになれない。だからあの石板を使ってみるけど、ダメだったらすぐに力を貸すと約束して」
「ああ。分かった。約束する」
彼女は自分の切り札でけりをつけたいのだろうが、それは無理なのだ。
それにおそらくパーヴィーに呼び掛けられるのは俺だけだ。
だから俺がパーヴィーと話したいと思って声に出さないと彼は力を貸してくれないだろう。
「生命の石板?」
俺たちの会話を聞いたロードがほんの僅かだが不安そうな様子を見せた。
奴を滅ぼす鍵となるアイテムなのだから当然だろう。
「これを使えばいいのね」
一方のララティーは気乗り薄って様子で『生命の石板』を背嚢から取り出した。
あんなところに無造作に入れて、割れてしまったらどうするんだって、俺は呆れる思いだった。
「なっ。貴様。それをどこで!」
ロードは驚愕の声を上げる。
その反応は元の世界の奴と同じようだった。
「これの表面を撫でればいいのね。あの緑色をイメージして」
ララティーが誰ともなしに尋ねるが、こんなことなら『生命の祠』でパシヤトさんに練習させてもらうべきだったかもしれない。
今回はジャーヴィーを滅ぼす分が不要だし。
一方でロードはこれまでの尊大な態度が嘘のように焦りを見せる。
「ふざけたことをするな! それを寄越すのだ!」
奴は前脚でララティーを襲おうとするが、
ガキーン!!
「なにっ?」
俺の魔法防御によって奴の攻撃は防がれ、ララティーはその隙に石板をロードに向け、その表面に右手を滑らせた。
「こんなのでいいの?」
パシヤトさんがイメージが重要だった言っていたのに、あの程度の意欲で大丈夫なのかと心配になってしまう。
それでも黄緑色の「HPゲージ」が石板の表面を埋め尽くすように伸びていくのが見てとれた。
そしてすぐに石板が白く輝き、粉々に砕け散る。
「きゃあ! 何よこれ? 不良品じゃない!」
ララティーが不満の声を上げるが、不良品じゃない。
パシヤト印の純正品だし、ああなるのが正しいのだ。
「ふははは……残念だったな。そのような小道具で我を滅ぼすことはできぬ。わが生命力は無限。何者も我を滅ぼすことはできぬのだ」
ドラゴン・ロードの高笑いを聞きながら、ララティーは憮然とした顔をしていた。
「やっぱりあんな害虫退治くらいにしか使えない道具でドラゴンと戦うなんて無理なのよ。目には目を、ドラゴンにはドラゴンを。私がドラゴンになるわ」
俺を睨むように見て言ってきた。
いや。これは必要なプロセスだから。
それに「目には目を」って、この世界でも楔形文字とか存在するんだろうか?
「パーヴィー。パーヴィー。力を貸して!」
皆で声を合わせて唱えると、ララティーの身体が銀色に光り出す。
そしてすぐに巨大なドラゴンの姿になった。
「我が眷属の力を借りて、我をどうしようと言うのだ?」
ロードはせせら嗤うように言ったが、ララティーは構わずブレスを吐いた。
バリバリバリバリ!!
「グワアァァ!」
古竜王を相手にララティーのブレスはかなり効いていた。
俺が元の世界で使った「禁呪」より余程、威力があるようだ。
「貴様、いったい何者だ?」
セヤヌスの調整が上手くいって、奴は俺の仕業だと気づいていないようだ。
本当ならこうなることが分かりきっているから、奴が降参してゲームエンドってことになってしまっただろう。
「私はララティーよ! エエーイ!」
別にロードは名前を聞いたわけではないのだろうが、ララティーは律儀に答えていた。
そして尻尾の一撃をロードに見舞う。
ドガーン! ガラガラガラガラ……。
ロードの巨大な体躯が吹き飛んで洞窟の入り口に当たり、周囲の壁が崩れてロードに岩が降り注ぐ。
「キャア!」「あぶない!」
リズたちが叫ぶが、岩やその破片は俺たちを避けるように弾かれて、岩場から落ちていく。
いや。俺の魔法防御に当たって軌道を変えているんだけどね。
「どう? まだやる気? 降参した方が身の為だと思うけど」
ララティーは上から目線でロードに降伏を促すが、奴は岩の中から立ち上がる。
「何か面妖な術を使うようだが、我はオーラエンティア最強の存在。戦って我を滅ぼすことはできぬのだ」
ゲームの設定上、そうなっているのだろうが、それをララティーに理解しろって言うのは酷だ。
「そんなのやってみなければ分からないじゃない!」
PCの対応としては、ララティーの台詞が正しいよな。
ドガーン!!
再びララティーの尾がロードを張り倒し、それは思った以上の衝撃だったのだろう、奴は岩場から転げ落ちる。
「グギャアァァァ!」
斜面を転がる途中で奴は何とか体勢を立て直し、浮かび上がって岩場の前まで昇ってきた。
バリバリバリバリ!!
奴が岩場に顔を覗かせた瞬間を狙って、再び雷のブレスがロードを直撃した。
ロードはもんどり打って吹き飛ばされたが、墜落することなく浮かび続けていた。
「これで終わらせてあげる!」
ララティーはとどめとばかりにブレスを吐くが、ロードは機敏に動いてそれを避けた。
「逃げてばかりで卑怯だわ!」
今や洞窟の前の岩場にはララティーが陣取り、ロードは容易に近づけなくなっていた。
「なら、こちらから行く! それっ!」
「ララティー! よせ!」
俺が叫ぶのとララティーがふわりと浮かび上がったのはほぼ同時だった。
それでもドラゴンの大きさで浮かび上がったのだ。
その高さは優に人の身長の数十倍はあっただろう。
俺が警告を発したのは、ララティーの胸のペンダントが赤い点滅を繰り返していたのに気がついたからだ。
「キャー!」
突然、ララティーから銀色の光が溢れてその姿が人間のそれに変わる。
「レビテーション!」
俺は慌てて浮遊の魔法でララティーが地面に激突することを防いだ。
だが、俺にできたのはそれだけだ。
「ふはははは! 我が眷属の力に耐えられず、元の姿に戻ったとみえる。貴様はドッペルゲンガーのようなものか」
ロードが勝手な結論を出しているが、世界の主宰者たる俺の力さえ模したあの魔物なら、エンシェント・ドラゴンの力を借りることも可能だろう。
ララティーはドッペルゲンガーじゃないんだけど。
「あと少しだったのに……」
勝ち誇るロードを悔しそうに睨み、ララティーはさすがに気落ちした様子を見せた。
俺のバフが効き過ぎて、あのままララティーがロードを滅ぼしてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしていたが、それはなかったようだ。
いや、仲間なんだし俺だってララティーを応援していたけどな。
本当だ。
「どうやらお前たち人間には、改めて我の力を思い知らせる必要があるようだな。町をいくつか滅ぼしてやろう。その悲嘆のうちに自らの身の程を知るがよい」
ロードは空から俺たちを見下ろして、そう告げた。
「待って! 町の人たちは関係ない! 戦うなら私たちと戦いなさい!」
ララティーの必死の呼び掛けにロードは冷ややかな声で答えた。
「お前の暴挙がこれから起こる惨事を招いたのだ。その悔恨を生涯抱えて生きるがよい。そうだな。まずは手始めに人には過ぎたる美しき山の見える町を襲うとするか」
ロードは俺たちにそう告げると、そのまま身体を反転させて西へと飛び去って行った。
「はっはっはっはっ! やはり人間などこの程度の者。我らドラゴンに敵することなどできぬのだ。お前たち。よくも我を痛めつけてくれたな。今こそその借りを返す時」
ララティーがロードを倒せなかったのを見て、ジャーヴィーが急に強気になっていたが。
「ライトニング!!」
ズガーン!!
俺の雷撃が直撃し、いい気になっていた奴をズタボロにした。




