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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第七章 続編の世界へ
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第四百九十二話 中断の提案

「神聖なこの地を汚すのは何者だ!」


 俺たちが押し問答を繰り返しているうちに、洞窟の奥からそんな声が聞こえてきた。


 どうやら今回は洞窟に入るまでもなく、ロードと対話できるようだ。


「ジャーヴィー! 彼に事情を説明してって、えっ。ジャーヴィー?」


 洞窟から現れた者の姿を見て、ジャーヴィーはすっかり固まっていた。


 パーヴィーは「はーい。僕でーす」なんて答えていたが、あんな芸当は誰にでもできるものではないらしい。


「ジャーヴィーか。もう盟約を破った代償を取ったのか? 随分と早いではないか?」


 ロードの目には俺たちは入っていないらしい。

 訊かれたジャーヴィーは相変わらず固まって、碌に息もできないみたいだ。


「盟約が失われたことについて、あなたと話し合うために来たの。私の話を聞いてちょうだい」


 ララティーが大きな声で呼び掛けると、ロードはやっと俺たちに顔を向けた。


「お前たちは何だ?」


 尋ねて吟味するように順に俺たちに視線を送る。

 そうして俺と目が合うと、今度はロードが固まった。


「どうしたの?」


 ララティーが不思議そうに尋ね返すが、これはまずい兆候だと俺は思った。


 俺の実力に気がついたに違いないと思われたからだ。


 考えてみればあのトゥーズ湖を縄張りにしていたビュラーティカでさえ、俺の実力を見抜いたのだ。


 他にもアルプナンディアや隠者のコーンウィルジーなど、俺の正体に気づく者は一定数いる。


 オーラエンティア最強の存在である奴がそうであっても不思議ではない。


「ララティー。俺が事情を話してくるよ。込み入った話だから洞窟の中でゆっくりとな」


 苦し紛れにした提案に、意外なことにヨランが反対してきた。


「そんな! 危険過ぎます。アマン一人でなんて行かせられません!」


 俺のことを思って言ってくれているようだが、ちょっと皆には聞かせられない話をするから、席を外してほしいのだ。


「急にどうしたんだい? ここで話せばいいじゃないか」


 アデーレの疑問はもっともだが、ここでは話せない内容になると思う。

 俺はロードにこの先も、俺のことは気がつかないことにして進めてくれってお願いしなきゃならないからだ。


 このままだと奴は世界の支配を諦めて、平和が訪れてゲーム終了ってことになりかねない。


 この世界に暮らす人にとってはベストな選択なのかもしれないが。


「アマンの好きなようにさせてあげて」


 アグナユディテは何か感づいたのだろう、俺を援護してくれた。

 でも、彼女の言葉でも唐突過ぎた俺の意見に皆は納得できないようだった。


「な、ならばお前たち全員を我が洞窟へ招待しよう。来るがよい!」


 ロードは尊大な態度で俺たちを誘ったが、何だか声が裏返りそうになっていた。

 奴には何か考えがあるらしい。


「そうだな。こんなところで話すのもなんだし、中で話そう」


 俺は皆に反論する時間を与えず、さっさと洞窟の中に足を踏み入れた。


「行きましょう」


 アグナユディテが皆を促して、俺の後に続いてくれる。

 皆も顔を見合わせながら、それでもアグナユディテの説得が効いたのか、ぞろぞろと洞窟へと足を運んでくれた。



「光の精霊を呼ぶわね」


 アグナユディテが精霊魔法で洞窟の中を照らし出してくれる。


 俺たちはロードを先頭に、洞窟の中を進んで行った。


「ここも平らだね。長い年月を掛けてきれいにしたのかね」


 アデーレがそんな感想を口にするが、ゲームの設定上はいざ知らず、ここはそんな場所ではないはずだ。

 それにほかの場所に比べれば平らに見えるこの洞窟の入り口も、この先の部分からしたらごつごつした岩に過ぎない。


 アグナユディテは少しずつ仲間内での位置を後方に移し、この後に起こることに備えていた。


 カツーン!


 ロードの次を行く俺の足音が明らかに変わり、床の素材が岩ではなくなったことを示した。


 だが、皆は気にしなかったようで、俺に続いてそのまま進んで来る。


「ぐっ!」、「なんだ?」、「ううっ!」


 何の警戒をすることもなく、禁域に足を踏み入れた四人は次々と頭を抱え、膝を突いて耐えようとするが既に遅かった。


「騙したのか?」


 ララティーが恨みのこもった目で先を行くロードを睨むが、そのまま崩れ落ち、気を失った。


「ララティー!」


 リズが必死で駆け寄ろうとするが、彼女も二、三歩が限界だった。

 ララティーに手を伸ばすようにして倒れてしまう。


 アデーレとヨランも同様だった。


「レビテーションっと」


 俺は魔法で四人を浮かべると、そのまま床が金属らしき素材に変わる境目の向こうまで運んだ。


 そして念の為「スリープ」の魔法で皆を眠らせる。


「もう皆に信用してもらえないかもしれないわよ」


 アグナユディテが呆れたように言ってきたが、俺も随分と酷いやり口だって自覚はある。


 でも、この先をシナリオどおり進めるには、避けて通れないプロセスなのだ。


「ご主人様は大丈夫なのですね?」


 ペルティリャはアグナユディテの後ろにいて、難を逃れていた。


 彼女は戦闘要員じゃないから、いつも最後尾なのだ。

 俺の隣りとも言うけどな。


「ええ。アマンは特別なの。でも、このことは内緒にしてね」


 アグナユディテが人差し指を口に当てると、ペルティリャは頷いてくれた。


「では、参ろうか」


 ロードが俺を振り向いて洞窟の奥へと誘う。


「ああ。行こう。ユディはここで待っていてくれ」


 そう言い残して、俺はドラゴン・ロードとともにさらに奥へと進んだ。



「ようこそ『ドラゴン・クレスタⅡ』の世界へ」


 少し進むと俺とドラゴン・ロードは眩い光に包まれ、その姿が消えた後、優しい女性の声が俺に歓迎の言葉を伝えてくれた。


「セヤヌスか? 今さらだけどな」


 そこはあの積乱雲の中の神殿のように、淡い光に満たされた場所だった。


 普通は異世界に転生する前に、こういう場所で女神からチートな力を授かるはずなのに、俺は着の身着のままで『賢者の塔』に飛ばされたのだ。


 それなりにイケメンの若い男になってはいたけどな。


「そうですね。でも、私がここで人を迎えるのは初めてです。何だか新鮮ですね」


 彼女は笑顔を見せてそう言った。


『ドラゴン・クレスタⅡ』は発売されなかったから、訪れる人もいなかったってことだろう。


「セヤヌスに相談があるんだが……」


 俺はこのままだとシナリオが破綻するんじゃないかと心配だった。


 『ドラゴン・クレスタⅡ』の真のエンディングを経験したくてこの世界へやってきたのに、それが果たされなくなってしまう。


 本来、この世界にはいないはずの俺が存在することで、セヤヌスが苦労することは分かるが、そこを上手く調整してほしい。そう思っていた。


「私もあなたに相談があります。でも、まずはあなたのお話を伺いましょう」


 セヤヌスはそう言って俺に話の続きを促した。

 光の中にいる彼女は、その容姿も相まって、正に女神って感じがする。


 実際に女神なのだが。


「じゃあ、俺からだな。俺の存在がドラゴン・ロードの動きを止めるようでは困るんだ。奴は俺のことに気づいていただろう? そこを上手く調整してもらってだな……」


 俺の話を聞いて彼女が笑っていることに気づき、俺は言葉を止めた。


 その笑いは何となく淋しそうで、自嘲しているように見えたからだ。


「申し訳ありません。ですがそのご相談にはお応えしかねるのです」


 セヤヌスは相変わらず笑みを浮かべながらも、困ったような顔をした。


「えっと。どうしてだ? だってセヤヌスは……」


 この世界では何でもできるんだろうって言い掛けて、俺はおそらくそうではないのだろうなと思った。


 もしそうなら、俺をこんな場所へ呼び出して話す必要なんてないはずだ。


 でも、彼女は『ドラゴン・クレスタⅡ』そのものと言ってよい存在のはずだ。

 その彼女が俺に相談しなければならない事態って何なのだろうと思う。


「何か問題があるんだな。じゃあ、セヤヌスの相談とやらを聞かせてくれないか?」


 俺が彼女に話すように勧めると、彼女は恥ずかしそうな顔を見せた。


 だが、それはすぐに真剣なものに変わる。


「あなたに謝らなければなりません。この世界にお誘いしながら、この先を楽しんでいただくことはできないのですから」


 セヤヌスが口にしたことは俺にとってあまりに意外なことだった。


「いったいどういうことだ? やっぱり俺のせいなのか?」


 この世界では俺は異質な存在だ。

 アグナユディテもそうではあるが、俺はこの世界の主宰者で次元の違う存在なのだ。


 セフィーリアも俺が『ドラゴン・クロスファンタジアⅡ』の世界へ行った時、俺の力は本来アルスウィードにあるべからざるものだったから調整が追いつかなかったと、とても迷惑そうだったから、セヤヌスも同じなのだろう。


「いいえ。そうではありません。あくまでも私の側の問題なのです」


 その後、彼女が告げたのは、俺たちがこの先に進むことの危険性とその根本的な原因だった。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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