第四百八十七話 怪獣大決戦
「パーヴィー。パーヴィー。力を貸して!」
皆がそう唱えると、ララティーの身体が銀色に光り出す。
「むっ。面妖な。お前はいったい何者だ?」
それでも彼女が光る様子を見て、ジャーヴィーには相手がドラゴンに変化することがある程度予想できたのだろう。
そこまで驚いてはいないようだった。
少なくともパーヴィーがアンヴェルの姿を取った時の俺たちみたいなことはない。
「どう。これでも私の言うことを聞かない?」
巨大なドラゴンになったララティーは自信満々って感じだが、現状ではジャーヴィーと同じ土俵に立っただけだ。
もちろん俺が何とかするけどな。
「パーヴィーか! 昔からお前は気に入らなかったのだ。面倒な仕事は全部、我に押し付けおって! いつもロードから命令を受けるのは我ばかり。どうしてこうも不公平なのだとな!」
同族であるパーヴィーの姿を見たジャーヴィーは、俺たちに対した時より、余程不機嫌そうな様子を見せた。
「えっと? パーヴィーって?」
一方のララティーはちょっと混乱しているようだった。
パーヴィーってのはララティーが変化するドラゴンの名前だって教えておくべきだったかもしれない。
「今もちゃっかりと人間の世界でのんびりと。もう六百年ではないか!」
どうやらパーヴィーがバルトリヒとその子孫を依り代としている間、カーブガーズに残ったジャーヴィーは、ロードにパシリにされていたようだ。
いや、ロードを以てしても、パーヴィーに命令を与えるのは不安だったのかもしれない。
こいつは気が短いがまともそうだし、ロードに便利に使われてたってことらしい。
俺の職場でも有能な人に仕事が集中する傾向があるからな。おかげで俺は助かっているけど。
「六百年って。バルトリヒが魔王を封印してからのことかね?」
バルトリヒがエンシェント・ドラゴンの力を借りていたってことは知られていないから、アデーレもジャーヴィーが何を言いたいのか分からないだろう。
でも、今はパーヴィーは引っ込んでいるから、そんなことを言っても意味はない。
それにパーヴィーはそういう嫌味みたいなのが刺さるタイプじゃないから、ジャーヴィーの言葉を聞いたとしても、
「僕もお前は嫌いだよ。いつも怒って乱暴なことばかり。もっと気持ちは大きく持たないとね」
とか返すだけに違いない。
「ちょうど良い。いつか機会があれば痛めつけてやろうと思っていたのだ。ロードの命を受けた我を邪魔だてしたとして、叩きのめしてくれる」
それでもやっぱりパーヴィーの言っていたとおり、こいつは乱暴者らしい。
いきなりララティー(ドラゴン変化中)に尾の一撃をくれてきた。
「キャア!」
ドドーン!!
ララティーがその姿に似合わぬ何とも可愛らしい声を出すが、やっぱりドラゴンの身体に慣れていないからか、まともに攻撃を喰らってしまう。
「どうだ!」
「あれっ? 痛くない……」
ララティーがけろっとした様子で言って、ジャーヴィーとの間で一瞬、沈黙が流れる。
「痩せ我慢か? これならどうだ!」
ジャーヴィーは今度は一気に喉を膨らませると、
ゴー!!
思い切り炎のブレスを吐いた。
「危ないな!」
俺は魔法防御を展開し、パーティーの皆が巻き添えになることを防いだ。
だが、直撃を受けたララティーは……、
「キャーって……熱くない」
またまったくダメージを受けていないようだ。
種明かしをすると、ララティーには俺がバフを掛けたのだ。
こう言うのは最初にやっておかないと、途中から急に強くなったりすると辻褄が合わなくなるからな。
それでも、ちょっとやり過ぎたみたいなのはいつものことだ。
「それでおしまい? 今度はこっちから行くよ!」
ララティーがドラゴンでいられる時間はそれ程、長くはない。
さっさと決めるべきだろう。
ララティーは大きく息を吸うと、
バリバリバリバリ!!
雷のブレスを吐き、それがジャーヴィーを直撃する。
「ぐわあぁぁぁぁ!!」
強力な雷撃にジャーヴィーが苦痛の声を上げる。
かなりのダメージを受けているようだ。
ドドーン!
奴はたまらず魔王の城の前の広場へと墜落してきた。
「続けて行くよ!」
ララティーは一気にジャーヴィーに肉薄すると、
「ええいっ!」
バガーン!!
尾の一撃でジャーヴィーを吹き飛ばし、奴は魔王の城だった遺跡を次々になぎ倒し、最後に城壁だろうか、分厚い壁にぶつかってやっと止まった。
巨大なドラゴン二体が戦う様子は、すぐ近くから見ていることもあって大迫力だ。
「どう? まだやる気?」
ララティーは得意げだが、これ以上、ここで戦うのはやめた方がいいと思う。
魔王の城の跡がどういう扱いになっているか分からないが、現代社会だったら貴重な遺跡を破壊して、賠償のしようもないはずだ。
今のところ観光地にはなってなさそうだけどな。
「い、いや。もういいです。降参します」
随分と淡白だなって思うが、ちょっと力の差があり過ぎる。
俺の魔法が効き過ぎるのはいつものことだ。
「やったー! これで問題解決ね!」
勝負ありってことで、ララティーはドラゴンの姿のまま、ピョンピョン跳ね出した。
巨大なドラゴンの身体が弾む度、ドシンドシンと地面が揺れるって、えっ?
「アマン! あぶない!」
ララティーには自分の大きさが感覚的にまだ分かっていないのだろう。ドラゴンの身体が俺たちを覆うように近寄ってきて……、
とっさに魔法防御を使えば良かったのだと思う。
いかにドラゴンの身体が重くても俺の魔力に掛かれば……試したいとは思わないけど。
だが、そんな判断をするより前に俺は突き飛ばされて、
ドカーン!!
俺の居た場所をララティーの巨大な足が踏みしめていた。
「えっ?」
何かを踏んだ嫌な感触があったのだろう。
ララティーが恐る恐る脚を上げる。
「ユディ!」
そう呼び掛けたのは俺だったのか。
それともリズかアデーレだったのか。
それも分からないほど、俺は狼狽していた。
慌てて彼女のもとに駆け寄る。
「治癒の魔法を使います」
ヨランもやって来てくれて、大急ぎで回復の呪文を唱えてくれる。
「成功だね」
アデーレがほっとしたように息を吐いて言ったとおり、アグナユディテの身体からは傷が消え、肌は輝くような瑞々しさを見せていた。
だが、彼女は目を覚まさない。
(これはあれだな)
俺は気がついて彼女の内懐を探る。
「ちょっと。アマン! 何をしているんだよ!」
アデーレが俺を非難するように言うが、俺は例の物を探しているだけだ。
本当にそうなのだが……、
「後でユディに言いつけるからね!」
リズもそう言って俺を睨むように見ている。
いや、ペルティリャとヨランの驚いた顔の方が辛いかも。
「あった!」
アグナユディテの服の内ポケットから、俺は『生命の人形』を取り出した。
良かった。
彼女が元の世界にこれを置いて来ていたら、俺は気を失った女性の懐に手を入れる不届者ってことになるところだった。
いや、そうじゃなくて彼女は生命を失っていたかもしれない。
「何だい、それは? 趣味が悪いね」
アデーレが思ったままなのだろう、そう口にするが、そういうことは言わない方が賢いのだ。
「それは王家の至宝、『神秘のアミュレット』。不慮の死を一度だけ身代わりに受けてくれる魔法の品よ。それを持っていてくれたなら、ユディは大丈夫ね」
三分間? が経ったらしく、人間の姿に戻ったララティーが俺の横にやって来て、教えてくれる。
自分がユディを踏んでしまったと知って、さすがに狼狽していたが、安堵の息を吐いたようだ。
一方で、自分が趣味が悪いと言った物が王家の至宝だと聞いて、アデーレは居心地が悪そうだ。
俺も当然、そう思うけど、そうと知っていたからな。
それと「一度だけ」って伝承は間違っているし。
「彼女。それをいつも身につけてくれていたのね。魔王を倒した褒賞としてアンヴェル王から授かった特別な宝物ですものね」
この世界ではどうやらそういうことになっているらしい。
『ドラゴン・クレスタ』のエンディングで彼女は、
「私は、わが一族の誇りと、友人のために戦ったのです」
そう言って、褒美を一切受け取らなかったはずだ。
だが、その後即位したアンヴェルから改めて褒賞としてあれが与えられたのだろう。
ティファーナも国王が何かしてもらっておいて恩賞を与えないなんてあり得ないと、俺がクロンビーエから祠の使用権を譲られた時に言っていたからな。
いや、まさかアンヴェルが気味が悪いからって厄介払いしたんじゃないだろうな?
「それは『生命の人形』。どうしてそれがここに?」
ようやく多少回復したらしいジャーヴィーが、少しヨタつきながら俺たちの側まで飛んで来て、そう尋ねてきた。
「『生命の人形』ってこれのこと? これは『神秘のアミュレット』なんだけど」
ララティーが不審な顔で聞き返すが、その問答は不毛だからやめた方がいいと思う。
俺はどちらかと言わなくても『生命の人形』派だし。
「ユディと違って王家に対する敬意がないのね。またドラゴンになってお仕置きしちゃおうかしら?」
ララティーの言葉にジャーヴィーは口をぱくぱくさせて、二の句が継げないって様子だった。
アグナユディテだって王家に敬意を持ってるかと聞かれると怪しいものだと思う。
そう考えると何だか奴が気の毒になってきた。
ララティーは、今日はもうドラゴンに変化できないのに騙されているし。




