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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第五章 最強賢者編
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第百七十一話 巨人ガラヴィデ

 スニユ山のジャイアント・ゴートを退治して、俺たちはもと来た道を戻り、再び大トンネルへと向かう。

 ここまで俺たちの脚になってくれた馬車とも麓の村でお別れした。


 大トンネルの中を馬車で行くわけにはいかないから、考えてみれば結局この村に寄らなければならなかった。

 アンヴェルはそれも考えていたみたいだが、ゲームではそもそもここまで馬車で来ることはなかったので、俺はまったく考慮していなかった。

 ゲーム知識に頼る俺の限界だな。

 


「『月光の石』もあるし、これで大トンネルに入ることができるんだよな」


 石の多い歩きにくい道を進みながら、エディルナが改めて確認してくる。

 彼女が大トンネルに対して一番畏れを抱いているようだ。


 確かに彼女は冒険者だからバルトリヒの英雄譚にも詳しいみたいだし、冒険者たちには大トンネルの恐ろしさが伝説として知られているのかもしれなかった。


「まだ魔族や魔物が各地で暴れているのかも知れないが、僕たちだけですべてを退治する訳にもいかない。王命もあるし、そろそろ敵地へ乗り込み、禍根を断つ必要があると思う」


 アンヴェルがそう言うと、エディルナを除いたパーティーの皆が頷いていた。いや、俺も頷いていないからアンヴェルを除けば過半数ギリギリだな。



 アンヴェルはそう言ったが、前回を経験した俺に言わせれば、今回の魔物たちは大人しいものだ。

 前回は各地でかなりの被害が出ていたし、ボムドーの町ひとつ取っても今回の比ではない。


 魔王が支配する地「カルスケイオス」へ続く大トンネルは、『ドラゴン・クレスタ』最大の難所だ。

 だからこそ、しっかりと準備をした上で臨むべきなのだ。


 だが前回は、魔族や魔物による被害が著しく、これ以上の被害を見過ごすことはできないとレベルが足りない中で大トンネルに挑んでしまった。


 そして、焦るアンヴェルが無謀な突破を図って全滅の憂き目を見ないようにと、強制エンカウントも罠も無い道を進んだことが仇となってしまった。

 結果としてカルスケイオスに入ってすぐにレベル不足を露呈して、悪魔ジロイドに死の呪文を喰らい、アンヴェルが命を落とすことになったのだ。


「エディルナらしくないな。それとも、もう少し各地を回ってみるかい?」


 不安を抱えているように見えるエディルナにアンヴェルがそう提案した。

 だが、エディルナは彼の言葉に却って吹っ切れたのか、自分の迷いを断つように首を振ると、


「いや。大丈夫だ。待っていたって魔王が滅んでくれる訳じゃない。行くしかないね」


 強い目でアンヴェルを見て言った。


「賢者アマンもそれでいいかい?」


 やっぱり俺が頷いていなかったのも分かっていたらしい。


「もちろんだ。トンネルの中の案内は任せてくれ」


 俺の言葉にエディルナが、


「賢者アマンの案内か。またいっぱい魔物が出そうだな」


 そう言って首を(すく)める仕草を見せる。まだ不安はあるのだろうが、これならもう大丈夫そうだ。

 もちろん強制エンカウントを網羅するつもりだから、その心づもりをしてくれるなら有り難い。



 だが、大トンネルに挑む前に片付けなければならない相手がいる。 

 魔王の四人の腹心のひとり、巨人ガラヴィデだ。


 暗赤色の身体を持つ巨人ガラヴィデは物理抵抗が極端に高い。

 だから魔法で倒すのがセオリーなのだが、俺は今回のメンバーなら剣でもいけると思っていた。


 俺の膨大な魔力を隠すために、今回は魔術師なしの縛りを掛けているような進行になっているが、俺はそれも経験済みだ。それでもレベルがある程度高ければガラヴィデを倒すことは可能だった。

 もちろんゲームの中での話だが。


『黒い壁』と呼ばれる急峻な崖が迫ってくると、道はほとんど人が通ったことのなさそうなものとなった。

 巨大な岩がそこかしこに転がる坂道を登って行くと、ゲームで見慣れた傾いたオベリスクのような真っ黒な岩が近づいて来る。


 俺が足を止め、隣りを歩いていたアグナユディテの方を見ると、彼女は俺の意図に気がついたのか、皆の行く先に注意を集中した。


「魔族がいます! 気をつけて!」


 彼女の叫ぶような声と同時に巨大な岩の陰から巨人が現われ、俺たちに襲い掛かってきた。



「いくぞっ!」


 アンヴェルの声に、彼を含めた前衛の三人は巨人との間合いを一気に詰める。

 離れていては奴の攻撃を受けるばかりだから、危険を冒して懐に飛び込んだのだろう。


「てやあっ!」


 アンヴェルが掛け声とともに英雄の剣を振るうが、奴は左腕を挙げてそれを受けようとする。


 ゴリッ


 鈍い音がして奴にダメージが入ったようだ。物理抵抗の高いガラヴィデ相手に、だがこれならやれそうだ。さすがは魔族に絶大な威力を発揮する『英雄の剣』だ。


「来いっ!」


 アンヴェルの気合の入った声に巨人の注意が彼に向いたところで、リューリットが横合いから奴に迫る。

 咄嗟に伸ばされた腕を、彼女は蝶のようにひらりと()(くぐ)り、


「せいっ!!」


 掛け声のような声とともにサマムラが一閃し、奴の脇の下から血しぶきが上がる。

 俺みたいな素人には、その太刀筋さえ見えなかった。


「オオオォォーン」


 傷ついた脇を痛そうに押さえ、大きな呻き声を上げるガラヴィデをアグナユディテの矢が次々に襲う。


 何本かは弾かれてしまったが、そのうちの一本が奴の右目を射抜き、今度はのけ反るように右目に手をやった。

 その隙にエディルナが迫り、『光の剣』を肩まで引き上げ、上段から一気に叩き落とすように振るった。


 一瞬、俺の目に輝く残像が残ったが、それが消えたとき、巨人は左腹を大きく割られ膝をつく。

 それでも右腕を伸ばしてエディルナを握り潰そうとするかのような様子を見せた。


(いや、これって。ガラヴィデって物理抵抗高かったはずだよな)


 俺がそう思ってしまうくらいパーティーの皆の攻撃が鋭く、奴に確実にダメージを与えていた。

 だが、流石に魔王の腹心のひとりだけはあり、まだ倒れそうにない。


 俺はちょっとだけ魔法を使ってみることにした。

 ヴァミルダン戦の時も出番がなくて、ちょっと気晴らしに飢えていたのだ。


「ライトニング メガパワー グランブースト!」


 適当な名前を唱えるが、ライトニング系最弱の呪文を最低出力で放っただけだ。


 ジッ!


 俺が放った魔法の光が巨人の厚い胸板を貫き、後ろの壁に穴を穿つ。

 相手はガラヴィデだし、後ろは『黒い壁』だから大丈夫だろうと考えたのだが、思っていた以上に深い穴をあけてしまったようだ。


 ガラヴィデは胸に開いた穴を両手で押さえ、茫然とした様子を見せる。


「たあっ!」


 そこへ最後はアンヴェルの英雄の剣が巨人の首を深々と切り裂き、奴はドウと倒れて動きを止めた。



「巨人か。恐ろしい敵だった」


 またアンヴェルが言っているが、間合いをはかっていたとはいえ、アグナユディテを除けば皆、数回しか攻撃していないし、危なげなく見えたのに、本当にそう思っているのだろうか。


「大トンネルももうすぐなんだから門番くらいいるだろう」


 エディルナにかかれば、魔王の四人の腹心のひとりも門番に過ぎないらしい。

 まあ入り口を守っているという点からすれば、そう言っても間違いではないのだが。



 しばらく歩くと道は黒い岩肌に突き当たる。右にも左にも大きな岩が転がる荒地が広がり、人の通れそうな道には見えない。


「行き止まりかい?」


 エディルナが俺にそう聞いてくる。


 月光の石をポンポンと叩くと、壁の方向がぼんやりと光った。


「ここで間違いないみたいだな」


 分かってはいるが、俺は一応、そう言って辺りを探すふりをする。

 皆、何も言わないが、俺の下手な演技は疑われていないのだろうか。そもそも「お約束」って思われているのかもしれないが。



 以前発見した俺の胸あたりの高さにある岩の裂け目が目に入るが、俺は「どこかに入り口があるはずなんだが」と言いながらその周りの壁をぺたぺたと触ったり、背伸びして上を見たり、今度はしゃがみ込んで下を覗いたりする。


 皆も俺と同じように周りを探していたが、リューリットがいきなり俺の隣にやって来て、無造作に岩の裂け目に腕を突っ込むと、


「これではないか」


 そう言ってレバーを探し当てたようだ。


 小柄な彼女が体重を掛けると、岩の裂け目からガコンと音がする。

 それに続いて、以前見たのと同じように、ズズズッという大きな音を出しながら岩壁の一部がずり下がっていく。

 すぐに俺たちが並んで入れるくらいの洞窟の入り口が現れた。



「これが大トンネル」


 エディルナが息を呑むように声を上げる。


 バルトリヒの活躍を謳ったサーガでも「苦難の隧道」と呼ばれる場所だ。

 数多の魔物とトラップが俺たちを待ち受ける。ゲームの評価的には、制作スタッフのバランス感覚が褒められたものではないことを物語るダンジョンなのだが。


「ここで待っていても仕方がないな」


 リューリットの言葉にアンヴェルが、


「そのとおりだな。よし、行くぞ!」


 皆を見回し、エディルナと頷きあうと、俺たちは大トンネルの中に足を踏み入れた。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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