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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第五章 最強賢者編
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第百六十三話 アマーサ往来

 俺たちがアマーサの町まで送り届けることになったファナフェル嬢は、孫娘という言葉から、俺は勝手にトゥルタークやメーオのような少女を想像していたのだが、実は俺たちと同じくらいの年齢の女性だった。


「ファナフェルと申します。ご面倒をお掛けしますが、よろしくお願いしますね」


 年齢に見合ったしっかりした挨拶をしてくれた彼女は、年齢に見合ったグラマラスな見た目をしていた。

 自分で言って何だが、本当に言うことがおっさんだな。


 ちなみに年齢の話になると毎回、ややこしくてどうも良くないのだが、もちろん彼女はこの世界の俺や、アンヴェルやアリアなどと同じくらいに見えると言うことであって、決して四十歳オーバーとかではない。

 別に孫娘が四十歳を超えていたって、何も問題はないわけだが。


 それを言うならトゥルタークもメーオも姿形こそああだが、とんでもない年齢だし、片や元魔王に、もう一方は現役の冥王だ。どうも俺の周りは見た目と年齢が一致する方が少数派のようだ。


 でもゲームでは、彼女をアマーサの町まで送り届けたときに、


「私もシュタウリンゲン様と一緒に行けると思っていたのに!」


 と駄々をこねて家に入って行ってしまい。


「いや。彼女ももう少し大人になれば、きっと分かってくれるよ」


 なんてやり取りがパーティーの中であった気がするのだ。

 だから、もっと小さな子どもかと思っていたのだが。



 ファナフェル嬢はかなり発展家の女性のようで、よく話し、ころころとよく笑う。

 とは言っても、相手は偏屈な魔法使いの俺ではなく、王都の近衛騎士様であるアンヴェル・シュタウリンゲン卿だ。


 そもそも今、俺は彼女のご指名によって馬車の馭者を務められなくなった彼の代わりに馭者席に座っている。

 どうやら彼はファナフェル嬢にロックオンされたようだ。


 彼女の大きな声が聞こえ、俺はチラッと背後を振り返る。


「では、エスヒシェキールでぇ、王女様を襲った魔族を退治されたのですね。凄いですぅ」


 大袈裟に全身をくねらせて驚きを表現している彼女を見ていると、年齢に見合ったと言った前言を撤回する必要があるようだ。


(後でエディルナが真似しそうだな)


 なんて俺は思ったのだが、見ると彼女もリューリットも、アリアまでもが、何だかつまらなそうな顔をしている。


(このクエストって、俺たちのパーティーに入って一緒に冒険をするって言い出した女の子を、きちんと隣り町まで送り届けるだけだと思っていたけれど……)


 相手が小さな女の子だと思い込んでいたから、騎士に憧れる女の子の微笑ましいエピソードだと思っていたのだが、実態はこうだったようだ。


 俺は久しぶりにディテールまで描き切った異世界の現実に、衝撃を受けていた。



 ファナフェル嬢の攻撃はさらにエスカレートし、アンヴェルにしなだれかからんばかりだ。


「私もぉ、シュタウリンゲン様の旅に、ご一緒したいですぅ」


 なんて言い出している。


 俺の力を持ってすれば、そういう気楽な旅にすることも可能な気はするが、もちろんそんな気はない。段々とイライラしてきた俺はアグナユディテに、


「ユディ。代わってくれないか」


 そうお願いした。


「えっ。よろしいのですか?」


 逡巡する彼女に俺は黙って頷いて、馭者席を譲る。


 誰か何か言うかなと思っていたが、エディルナやリューリットはおろか、あのアリアまで何も言わないので、俺の行動は皆に支持されたらしい。


 すぐに俺の策は効果を発揮した。


「サラマンダーです!」


 馬車の前に現れたモンスターに、俺たちはすぐに戦闘態勢を取る。

 アンヴェルも「ファナフェルさん。少し失礼」と断って、彼女から離れ、戦闘に参加した。


「ガー!」


 サラマンダーが炎を吐き、それが馬車を襲う。

 だが、アグナユディテが精霊に呼びかけて作り出した「水の護り」が膜となって馬車を守っていた。


「キャー!」


 それでもかなり怖かったようで、ファナフェル嬢は大きな悲鳴を上げた。


(皆、遊んでいるな)


 この程度の魔物、エディルナやリューリットにかかれば一瞬で叩き伏せられるはずだ。

 だが、誰もそうしようとせず、エディルナなんかは真面目なアンヴェルがサラマンダーに向かって行こうとするのを、押しとどめようと羽交締めにせんばかりだ。


「ちょっと。おい、エディルナ」


 アンヴェルが戸惑いの声を上げるが、その隙にサラマンダーはもう一度、炎を吐く。


 炎は馬車を覆うように襲い掛かったから、こちらも真面目なアグナユディテが精霊の護りを展開していなかったら、丸焼けになっていただろう。


「キャァァ……」


 今回は悲鳴が途切れ、どうやらファナフェル嬢は失神したようだ。

 その直後、リューリットのサマムラがサラマンダーの胴を薙ぎ、魔物は真っ二つにされた。



 俺はアグナユディテと代わって馭者席に戻ると、レビテーションの魔法を使い、馬車を曳く馬のすぐ後ろから後方と左右のかなり広い範囲に存在する物を、すべて浮かび上がらせた。


 あの初めて馬車に乗って、エスヒシェキールに向かった時と同じ要領だ。


「じゃあ行くぞ!」


 俺が声を掛け、馬を操ると、馬車は凄い速さで街道を進んでいく。


「この馬車速ぁい。凄いですぅ」


 そんな声が聞こえたが、もちろんファナフェル嬢のものではない。やっぱりエディルナが真似をしたようだ。


 別に俺たちに敵対した訳でもないし、ちょっと可哀想な気もするが、それは今、彼女が気を失っているからだろう。


 リョー婆さんが次々に繰り出す、あれを取ってこい、それが必要だという攻撃に皆はかなりダメージを受けていたし、ファナフェル嬢の攻撃もかなり効いていたからな。


 さっさと馬車を走らせ、アマーサの町が近づいた頃にはファナフェル嬢は意識を取り戻した。

 まだ少し朦朧としているようだったが、彼女の案内で彼女の住まいに馬車をつける。



「皆さん。どうもご面倒をお掛けしました。ありがとうございました」


 丁寧にお礼を言ってくれたと思った彼女は、実はまだ懲りていなかったらしかった。アンヴェルの手を握り、放そうとはしない。


 その様子に前の世界の出来事を思い出した俺は、


「シュタウリンゲン卿。あまり特定の女性と親しくされると、エルクサンブルク侯爵家のティファーナ様に言い付けますよ」


 冷たい声でそう言ってみた。


「えっ」


 ファナフェル嬢は驚いたようにアンヴェルの手を放して彼の顔を見る。

 アンヴェルも驚いたように俺の顔を見ていた。


「ひどいですぅ。そんな方がいたなんてぇ。私もシュタウリンゲン様と一緒に行けると思っていたのにぃ!」


 彼女はそう声を発すると、そのまま建物の中へ走り込んで行ってしまった。


「さあ。さっさとサマーニに戻ろうぜ」


 エディルナが疲れたように俺たちに声を掛けた。俺もその意見に完全に同意だ。


「ファナフェルさん、大丈夫でしょうか?」


 アリアが心配そうな顔をしていたが、エディルナはうんざりしたといった顔で、


「いや。彼女ももう少し大人になれば、きっと分かってくれるよ」


 なんだか投げやりな態度で、そう言った。

 いや、大人になるって、そういう意味だったのか。



 彼女のことは別にして、俺はアンヴェルに一言、釘を刺されてしまった。


「賢者アマン。ティファーナはまだ婚約者も決まっていない身だ。僕も彼女のことは大切に思っているし、彼女に迷惑が掛かると心苦しいから、ああいった誤解を招くような発言はやめてもらいたいな」


 いや、誤解もなにも俺は「言い付ける」と言っただけで、それ以上のことは何も言っていない。

 それにティファーナはきっと俺のことを誉めてくれると思うのだ。

 だが、それは所詮は言い訳、詭弁の類いだから、俺は素直に謝っておいた。

 

 アンヴェルもそれ以上は何も言わず、俺たちはサマーニに向けて馬車を走らせた。

 彼だって別にアマーサまでの道中が楽しかった訳ではなかったのだろう。


「急いで戻らないと、あの女がリョー婆さんに、『シュタウリンゲン様に(もてあそ)ばれたんですぅ』とか言い付けるかもしれないからな」


 いや、まさか俺たちの馬車が着くより早くサマーニまで戻るなんて非現実的だと思うが、あの手の玉は何かを起こしても不思議ではない気もする。


 俺は往きと同様、レビテーションの魔法を使い、高速で馬車を走らせた。


 街道を往く旅人や商人たちには迷惑を掛けたと思うが、損害は発生していないと思うから許してほしい。これも俺たちが対岸へ渡り、魔王を滅ぼすためなのだ。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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