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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第四章 異世界の勇者ゼルフィム
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第百三十七話 主宰者の戦い

「ここで決着をつけてやる」


 俺は奴に向かって、そう宣言した。


「やっと逃げずに戦う気になったか。望むところだ」


 奴も腰の大剣を抜き放ち、俺に向き合う。


 この世界の主宰者の力を手にした俺に、最早、魔力が不足する心配などなかった。早口に呪文を唱え、半ば強引に魔法を具現化する。


「ライトニング・マールニュ!」


 ビシャーン! ガガガーンッ!!


 凄まじい速度で大魔法が次々と炸裂するが、奴の方も平然としてそれを防ぐ。


「つまらぬな。これでどうだ!」


 当然、奴もただ防戦一方になどなるはずもなく、俺の魔法が途絶えた一瞬の隙を突いて、大剣で一気に切り掛かってきた。


 だが、今の俺は最早ひ弱な魔法使いではない。


「この程度! そらっ!」


 奴の太刀筋を紙一重で見切り、拳をひとつくれてやって、そのまま素早く距離を取る。


 だが、奴も俺の拳を際どく躱し、後退する俺に向けて、恐ろしい威力の魔法の光を連続して放ってくる。

 俺は防御魔法でそれを防ぐが、弾かれた光が王都の町の方へ向かいそうになった。


「しまった!」


「大丈夫です」


 だがその光をセヤヌスが再度弾き、空の彼方へと逸らしてくれた。

 奴はこの世界の住民のことなど考えもしないのだろう。俺が気をつけるしかないようだ。


「ありがとう。セヤヌス。レビテーション!」


 俺は魔法で空高く浮かび上がる。

 そして竜巻の魔法を制御して高速で移動し、上から奴に突進を掛けた。


「それでは避けられまい。喰らえっ!」


 奴がまた光の矢を続けざまに放ってくるが、すべて魔法防御で弾く、今度は空に向かって弾いたから、王都に被害が及ぶことはないはずだ。


「これでどうだ! ライトニング・マールニュ!!」


 俺が再び放った雷撃の魔法が奴のいた場所に大きな穴を穿つ。

 だが、奴は驚くべき反応でそれを避け、逆に光の矢を放って来る。


 圧倒的な魔力の奔流が奴を、そして俺を撃つ。

 覚醒する前の俺なら、いくらレベルが高かったとはいえ、一撃で致命傷を受けかねないクラスの攻撃ばかりだ。


 だが、俺も奴もその魔法を難なく躱し、弾き、お返しとばかりにそれに匹敵する威力の魔法をお見舞いするのだ。



「神々の戦いか……」


 アンヴェルが呆然として、奴と俺の戦いをそう形容する。

 メーオが側にいて、彼らを俺たちの戦いの巻き添えにならないように護ってくれているようだ。


「とても私たちに手の出せるものではありませんね。今は祈りましょう。神となられた賢者アマンの勝利を」


 アリアはそう言って目を瞑り、俺の為に祈りを捧げてくれている。


「口惜しいがアリアの言うとおりだな。人間には祈ることしかできぬか」


 リューリットもさすがに手を出せないと分かったのだろう。腕を組んで、戦いの行く末を見守ることにしたらしい。


「アマン。頼むぞ! そんな奴に負けるな!」


 エディルナの応援の声は何となく部活の対外試合のノリのような気がする。まあ、気持ちは伝わってくるのだが。



 皆の声を聞きながら戦う俺は、だが、少しずつ焦りを覚えていた。

 奴の呪いがいつ発動するのか分からないが、少しずつその時は迫っているのだ。

 そうなった後、奴を倒したとしても、アグナユディテは元に戻らない可能性が高いのだろう。


 それにベルティラも心配だ。

 気を失っているだけだと信じたいが、確認した訳ではない。

 それでなくても王都の真ん中に、こんなに長時間滞在させられて、もうすっかり正気を失ってしまったかもしれない。


 だが、奴も何か時間に追われるかのように、引き延ばしを図ったりすることなく、次々と攻撃を繰り出してくる。


「ちょこまかと往生際の悪い奴め!」


 奴はレビテーションとトルネードの魔法を駆使して宙を飛ぶ俺に向かってそう毒づくが、その言葉、そのまま返してやりたいところだ。


 どんな盾でも貫く槍と、どんな槍をも通さぬ盾を、お互いが持って戦っているようなものだ。簡単に決着がつくはずもない。


「もういい! すべてを吹き飛ばしてやる!」


 奴は遂に痺れを切らせたようにそう叫ぶと、あの呪文を唱えだした。


「ヴィガーゾフィ フォゴーゴ ヴィガーゾ ヴェズーペタ ヴーガ」


 女王様の結婚式で奴が見境なく唱え、謁見の間をこの状態にした魔法。おそらく奴の切り札なのだろう。


「クレース! セヤヌス!」


 俺は二人の女神にそう声を掛ける。

 エレブレス山の女神は一瞬、(えっ、わたし?)という顔をしていたから、やっぱり本当の名前ではないのだろう。


 だが、二人とも俺の意図を理解してくれたようで、彼女たちと俺の間に三角形の光る壁が生まれる。

 俺が渾身の魔力を込めた防御魔法の障壁。あまりに膨大な魔力量の為に物質化したようにそれは見えた。


「そんなもので何を守る気だ?」


 奴が嘲るように俺に向かって言った。

 確かにその防御魔法は、パーティーの皆とまったく反対方向を向いていた。


 だが、俺が奴の知らない、もう一人に声を掛けるのと、奴の魔法が発動するのとは、ほぼ同時だった。

 いや、俺は奴がもう後戻りできない瞬間を狙って、彼女に声を掛けたのだ。


「吹き飛ぶがいい! スーパー・ノヴァ!!」


「メーオ!」


「はい。お父様!」


 メーオは俺たちの行動から、自分の役割を理解してくれていたのだろう。

 彼女が返事をした瞬間、三角形だった防御魔法の障壁が、俺とクレース、セヤヌスにメーオを頂点とした四面体へと変化し、奴を閉じ込めた。


 奴の顔に驚愕の表情が浮かぶ。だが、もう魔法の発動を止めることはできない。

 貫けない盾ごと俺を粉砕しようとした必殺の魔法が、防御魔法の障壁に閉じ込められた奴に襲い掛かった。


 奴もこの一撃にありったけの魔力を込めたようだ。俺の張った防御魔法が突破されるのではと、少し不安になる。

 これが破れたら、少なくともここにいる皆はただでは済まないだろう。


 脈動するように何度も光が漏れ、俺の不安を掻き立てる。

 だが、何とか耐え切ったようだ。


 弱体化していたエレブレス山の女神はもとより、セヤヌスもメーオも、さすがにぐったりとした様子を見せる。

 もう一度やれと言われても無理だろう。


「さすがにやったのか?」


 エディルナの言葉に、俺は(いや。その発言は危険だろう)と思ったが、もう遅かった。

 防御魔法を解くと案の定、そこには奴の姿があった。


「やってくれるな。でき損ないに、それにそいつは何だ? 四人掛かりとは、このふざけた世界にお似合いの卑劣さだな」


 いかにも何の影響も無いかのように軽口を叩いてくるが、さすがにかなりのダメージを受けたようで口の端からは血を流し、足どりも少しだがふらついているように見える。


 メーオのことなんて、奴が知っていたら逆に驚きだ。彼女の存在を知る者なんて、俺以外にはいないからな。

 だからこそ狙い目だと思ったし、それは的中したのだが、もうこの手は使えない。


 俺もさすがに疲労感を覚えていたが、ここを逃してはと一気に畳み掛けた。


「無駄だ! 勇者である、至高の存在である私を倒すことはできん!」


 俺のライトニングが再び奴を襲うが上手く躱され、致命傷を与えることはできない。


 このまま、また先程までと同じように戦いが延々と続くのか? 俺はそう思って焦燥感に駆られた。

 それではアグナユディテが呪いに囚われてしまう。


 奴は俺の焦りを見透かしたように、俺の攻撃をあるいは躱し、あるいは弾き返して回復を待っているように見えた。

 いや、焦る俺の心がそう思わせていたのかも知れない。

 奴は急に攻勢に転じてきたからだ。


 俺は慌てて奴の魔法を弾いたが、危なかった。

 のらりくらりと俺の攻撃を躱し、時間を稼いで俺の焦りを誘い、カウンターを狙っているのかと思っていたのだが。


 俺が後退すると、奴は慌てて間合いを詰めてきた。


「卑怯者め! また逃げる気か! 戦え!」


 そう言いながら滅茶苦茶に大剣を振るってくる。

 さっきまでの俺を見下し、自信に満ちていた奴とは、まるで別人だ。


「見ろ! 奴の足もとを」


 アンヴェルの声に、俺は言われたとおり奴の足下に目を向けた。


(えっ!)


 奴の脚は薄ぼんやりとして、ゆらゆらと揺れて見え、この世の物ではないようだった。

 目の錯覚かと思ったが、アンヴェルにも同じように見えているのだろう。


(いったい、どういうことだ?)


 何かが起こっていることは確かなのだが、それが何なのか、俺には見当もつかなかった。

 だが、奴も自分の身に起きている異変に気がついたようだ。


「ついにタイムアップか」


 大剣を下ろして鞘に収め、自嘲するような笑いを見せると、俺に向き直り、


「思っていたよりも早かったが、ここまでだな。最後に私の恨み言を聞いてくれないか」


 突然、そんなことを言い出した。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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