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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第四章 異世界の勇者ゼルフィム
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第百二十六話 女神の訪問

 俺たちは一斉に謁見の間に飛び出した。

 その音に奴は振り向いて、にやりとした笑いを浮かべる。


 その隙にアグナユディテが素早く奴の横をすり抜け、女王様を助け起こした。


(いや。アグナユディテ、格好いいな。女王様のナイトみたいだな)


 細剣の切っ先を奴に向け、鋭い視線で睨みつける彼女の姿は俺からはそう見えた。


 彼女に言わせれば鈍重な人間の、しかも魔法使いの俺では、ああはいかないのだ。


「またのこのこと現れたか。今度こそ逃さぬ」


 奴はいきなり腰の剣を抜き、俺に向かって真っ直ぐに切り掛かって来た。


(えっ。何で俺?)


 考える間もなく奴は俺との間合いを詰めてくる、だが、


 ガキーン!


 エディルナが奴の剣を盾で受けるが、そのまま吹き飛ばされ、俺もそれに巻き込まれて尻もちをついた。

 たが、その間にアンヴェルとリューリットが、奴と俺たちの間に入ってくれた。


「メーオ。大丈夫か?」


 俺の横にいた彼女も俺と一緒に突き飛ばされたようだ。

 だが、彼女は俺の腕に頰を寄せて、気持ちよさそうに目を細めている。


「お父様が心配して下さって。メーオ、感激です」


 立ち上がっても、相変わらず彼女は俺の腕にすりすりしていた。


 そんな俺たちの前で、奴はアンヴェルとリューリットに、起き上がったエディルナを加えた三人を相手に剣を合わせていた。

 必死の形相の三人の剣をあるいは受け流し、あるいは弾いて、奴にはまだ余裕がありそうだ。


(えっ。まさか)


 見ると奴は斬り合いながら口を動かしている。どうやら呪文を唱えているようだ。


「アンヴェル。危ない!」


 俺の叫びとほぼ同時に、奴の魔法が完成する。


「光の矢よ!」


 昨日見たのと同じ矢と呼ぶにはあまりに太い光が、奴の前に現れ、俺に向けて放たれる。

 アンヴェルは済んでのところで、その光の直撃を免れたようだ。


 今回は昨日と違い、奴と刃を交えていたアンヴェルもリューリットも、光の矢を妨害することはできなかった。

 奴の顔にしてやったりと思ったのだろう、笑みが浮かぶ。


 奴が呪文を唱えているのが分かった俺は、慌てて防御魔法を張ろうとしたのだが、てっきり剣を合わせている三人のうちの誰かを狙うと思っていた。

 奴は魔法使いを先に倒そうとするタイプなのだろうか。


(間に合わないか?)


 俺は防御魔法の対象を自分に変更するが、奴は既に俺との間合いをかなり詰めていたし、光の矢は一瞬で俺の目の前に迫って来た。


 キィィィン!


 金属同士を打ちあわせた様な音がして、光の矢は俺の目の前で軌道を変え、謁見の間の天井に大穴を開けた。


「なにっ!」


 笑みを見せていた奴の顔に驚愕が浮かぶ。

 俺も驚いた顔をしているだろう。

 今、奴の「光の矢」を弾いたのは、俺の防御魔法ではなさそうだったからだ。


 俺の腕にすりすりしていたメーオが、片眼を開けて俺を見上げる。どうやら彼女の仕業らしい。


 驚きに、奴にできた一瞬の隙をリューリットは見逃さなかった。


 ザシュッ!


 奴の二の腕に彼女のサマムラが届き、鮮血が飛び散る。


「ふざけるな!」


 奴は怒りの形相で、だが、片手で剣を振るって三人を薙ぎ払うようにして、素早く距離をとった。

 そこへようやく駆けつけた衛兵たちが、奴を守るように間に入って来る。


 衛兵など、俺たちにかかれば一瞬なのだが、仮にも王宮の兵に傷を負わせる可能性を考えて、三人の動きが止まる。

 俺は面倒だが、またスリープの魔法が必要なのかと思ったのだが、奴は、


「茶番はここまでだ」


 そう言って、衛兵たちを盾にしたまま呪文を唱え出したようだ。

 いや、お前、昨日もそう言っていなかったか?


「ヴィガーゾフィ フォゴーゴ ヴィガーゾ ヴェズーペタ ヴーガ」


 奴の唱える呪文は、またしても俺の知らないものだ。

 闇魔法とも違うし、いったいどんなものなのか見当もつかない。

 だが、膨大な魔力が奴を中心に集まっていくことが分かる。かなり大規模な魔法を使うようだ。

 ここは室内なのに、いったいどうする気なのだろう。


 奴は憎しみのこもった目で俺を睨むと、


「王宮もろとも皆、消し飛ぶがいい! スーパー・ノヴァ!!」


 奴の身体が、カッと白く輝き、恐ろしいエネルギーの奔流が俺たちを襲う。

 俺は咄嗟にメーオを庇い、奴に背中を向け、目を閉じた。



「お父様。もう、目を開けても大丈夫です」


 メーオの声に俺は我に返った。


「助かったのか?」


 俺はようやくそれだけを口にして、目を開いた。

 そこは見覚えのある場所だった。カーブガーズの俺の屋敷の前だ。

 そして、周りには王宮の謁見の間にいた者たちだろう。正装し、着飾った男女の姿が、そこかしこに見受けられた。


「アマン。大丈夫?」


 アグナユディテが声を掛けてくれる。彼女は俺のすぐ側にいたようだ。

 彼女の後ろには、ウェディングドレスを着た女王様が横たわっていた。


 こうして近くで見ると、純白のドレスをまとわれた女王様は本当に輝くようにお美しいなと一瞬思った。だが、アグナユディテに見透かされると思って、すぐに邪念を打ち払う。

 今回、女王様を奴から救った功労者は彼女だしな。


「お父様が私を庇ってくださって、メーオ、とっても感激です。だから奮発して、みんな助けちゃいました」


 声のする方を見ると、彼女は俺を見上げ、眼をうるうるさせている。


 こんな自然の摂理を完全に無視したような現象を引き起こせるのは、彼女くらいだろうとは思ったが、やはりそうだったようだ。

 それにしても、この人数を王都からカーブガーズまで、しかもベルティラの瞬間移動には必要な接触という条件なしで運ぶなんて、いったいどれだけの魔力が必要なんだろう。しかも、


「メーオ。あのプルプルとか言うような呪文は唱えていなかったよな。それにステッキも」


 俺の問い掛けに彼女は、


「呪文もステッキも飾りです。お父様がお好きかなと思って」


 いや、別に嫌いではないけれど、アグナユディテとか他に人もいる中で、そう面と向かって言われのは、さすがに遠慮したかった。


 俺の周りに倒れていた人たちも一人、また一人と起き上がってくる。皆、怪我もないようだ。

 中には俺のことを「成り上がり者」とか、「下賤な魔法使い」とか言って、忌み嫌っていた大貴族が何人か含まれていて、メーオもこんな奴ら放っておけば良かったのにと思わないでもない。


 まあ、それでも救えるのに救わなかったとなると、俺だって心が痛むだろうからな。多分。


「アスマットよ。無事だったようで何よりじゃ。このカーブガーズならば、王都よりは余程ましであるからの。まあよい。それよりも、まずは彼女の話を聞くことじゃな」


 トゥルタークがそう言って俺に近付いて来た。


 その横には白くゆったりとした衣服を着た、美しい女性の姿があった。


「お姉様。今、戻りました」


 メーオの言葉に、俺には彼女の正体が分かった。

 だが、その姿にはかなりの違和感があった。俺がすぐにエレブレス山の女神だと分からなかったのは、彼女が以前見たときの輝きを大きく失っていたからだ。


「まずは今、起きていることについてお話ししましょう」


 そう俺に話し掛けてきた女神とともに、俺は自分の屋敷へと向かった。





(さすがに今回はやったか?)


 天井も壁も、床までも一部が失われた王宮の広間で、私は辺りを見回した。

 ここに集まっていた奴らも一緒に消滅したのだろう。周りには誰もいない。

 だが、私はすぐに気がついた。


(奴は生きている!)


 この忌々しい世界が、まだ存在していることが、それを表していた。


 あの大爆発からどうやって生き残ったのか、奴には神の加護があるのか?

 いや、あるのだったなと私は思いなおした。だが、その加護を除くために私は手を打ったはずなのだが。


「あの女を使って、奴を誘き寄せるところまでは上手くいったのだがな」


 私はそう独りごちた。


 たかがNPCにずいぶんと入れ込んでいた奴が、危険を省みず、やって来るかもしれない。

 私はそれ程、期待してはいなかったのだが、その目論見はまんまと当たったのだ。


 考えてみれば、ほんの僅かだが、あの女のせいもあるのかも知れない。

 ヴェールの下であの女は涙を流していた。そして思い返すだけでイライラする。

 あの女はおそらく奴のことを呼んだのだ。「賢者様」と。


 それに気を取られたこともあったのだろう。あんな単純な『風の護り』に気づかず、不意を突かれて慌てふためくとは。我ながらお笑い種だ。

 そして、呼ばれるの知っていたかのように奴が姿を現した。


 私は自分の計画があまりに上手くいったことに、あの女のことなど忘れ、有頂天になった。


(ここでひと息に決めてやる)


 そう思って、一気に奴に襲い掛かったのだ。


 だが、私の剣は戦士の盾に阻まれ、必殺の魔法も何かに弾かれた。一体、あれは何だったのだ?

 いかに奴が高レベルとはいえ、あの『光の矢』を弾くとは!


 そして驚きによって生まれた私の一瞬の隙を、剣士は見逃さなかった。この私が、まさか人間の剣士などに傷を負わされるとは、思いもしなかった。


 どうも奴を前にすると、私の思ったとおりに事が運ばなくなる。

 今回も、おそらくはあのダークエルフが何処かへと奴を運び去ったのだろう。

 あれもNPCのはずなのに、何故いつまでも奴に従っているのだ。


 まさかこのような好機を、しかも二度も逃すとは、我ながら情けない限りだ。

 奴だってさすがにもう、私の狙いに薄々気がついていることだろう。


「仕方がない。別の方法を使うか」


 こうなった時のために、私は次の手段を用意してきたのだ。使わずに済めば良かったのだが、まあいいだろう。これでさすがに次こそは奴も終わりだろう。

 私は絶対にこの世界の存在を許す気はないのだ。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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