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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第一部 第一章 魔王バセリス
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第十三話 冒険者の思い出

 小さな子どもの頃から自分は冒険者になるのだと思っていた。

 私が大好きだった父も冒険者だったから。


 父は凄腕の冒険者で稼ぎは良かったのだろう、家は比較的裕福だったと思う。


「冒険者になるにせよ何か別の職業に就くにせよ、文字の読み書きや計算くらいはできた方がいいからな」


 父はそう言って私を私塾に通わせてくれた。


 授業はそれほど楽しいものではなかったが、一緒に学ぶ同じ年ごろの子どもたちとすぐに仲良くなり、授業が終わった後、暗くなるまで遊んだ。

 縄跳びやボール遊びなど、いろいろなことをして遊んだが、私の一番のお気に入りは『冒険者ごっこ』だった。


「冒険者さん。町の外に魔物が出ました。退治してください」


「よし。分かった。何とかするよ!」


 私は父がいつも言う言葉を真似して依頼を受け、魔物退治に向かう。

 魔物がいるのは町の外の草原だったり、ダンジョンだったり、また、塔の上だったりしたが、私は冒険者仲間役の友だちと一緒に魔物役の友だちを倒し、勝どきを上げるのだった。


 だが、そうした楽しい日々が続いていたある日、いつも一緒に遊んでいた友だちの一人がもう冒険者ごっこはしないと言い出した。


「冒険者は、はみ出し者だから、そんな遊びはしちゃいけませんってお母さまに言われたんだ」


「はみ出し者ってなんだい?」


 私がそう聞くとその子は、


「よく分からないけど悪い人っていうことじゃないかな?」


 難しそうな顔をしながらもはっきりとそう言った。

 私の中ではありえない言葉にびっくりして、


「冒険者は悪い人じゃないよ。みんなを助けるいい人だよ」


 そう答えたのだが、その子はかえってムキになったように、


「そうかも知れないけど、お母さまがダメっていうんだからダメなんだよ!」


 大きな声で言って、これからは絶対に冒険者ごっこはしないと断言した。


 いつも楽しく遊んでいた友だちなのに、冒険者ごっこでは遊ばないと言われたことが私にはとてもショックだった。

 その子以外の友だちはどちらでもいいようだったが、もう冒険者ごっこに少し飽きていたこともあったのかもしれない。その子が新しい遊び道具で誘うと、そちらに興味を示して行ってしまった。


 私はまだまだ冒険者ごっこをして遊びたかった。そうしていると大好きな父と一緒になったような気もしていた。

 だが、ひとりで冒険者ごっこをすることはできないし、そんなのはちっとも楽しくなかった。


 私は冒険者ごっこをして遊ぶことを諦めるしかなかった。



「エディルナは母さんそっくりだから。きっと大層な美人になるぞ」


 父はそう言っていつも私の赤い髪を撫でてくれた。

 私の下には弟が二人いたが、その二人よりもずっと可愛がってくれていたと思う。


「父さん。また冒険のお話をして」


 父には依頼がかなりあったらしく、王都から離れて仕事をすることも多かった。

 だから父が家へ帰って来ると私は嬉しくて、いつも冒険の話をせがんだ。


 父の話してくれる見たこともない遠い町や村、高い山や広い海の様子、そしてそこに巣くっていた魔物や人に害を為す猛獣を退治して人々を救う話はとても面白く、私は夢中になった。



「町から出ると怖い魔物がいるから、町から出てはいけませんって、先生が言ってた」


「ああ。そうだな。でも父さんと一緒なら大丈夫だぞ。父さんが魔物を何とかするからな」


 そう言う父は自慢気だった。


「えー。父さん、魔物怖くないの?」


 私が顔を覗き込んでそう聞くと、父は涼しい顔をして言った。


「怖くないさ。父さんは冒険者なんだから。魔物なんて父さんがちょっと頭を撫でてやれば、すぐに逃げていくさ」


「えー。そんなの嘘だよ。魔物は怖いよ」


 私塾で私たちは先生から魔物は怖いと何度も言って聞かされていたのだ。


「嘘じゃないさ。何しろ父さんはクレスタラントで一番強いからな」


「えー。じゃあ、バルトリヒより強い?」


 私は前に父が話してくれた魔王を封印した英雄の名前を挙げた。


「バルトリヒか? お前よく覚えてたな」


「うん。前にお父さん教えてくれたよね。バルトリヒ。一番強い人だって」


 私がそう言うと、父は少し困った顔をした。


「うーん。やっぱり人間ではバルトリヒが一番かな」


「じゃあ。人間以外なら?」


「人間以外か。バルトリヒは魔王より強いんだからなあ。それ以上となると、もう神様か古竜、エンシェント・ドラゴンくらいしかいないんじゃないか?」


 父は本当に物知りだ。私の疑問にどんどん答えてくれる。


「エンシェント・ドラゴンって?」


「神様と同じくらい強くて、大昔から生きているドラゴンだ。本当にいるかどうかも分からないけどな」


「じゃあ。やっぱりバルトリヒが一番強いんだね」


 私がそう言うと父はまた自慢気に、


「その一番強いバルトリヒだって最初は冒険者だったんだぞ」


 そう言ってニヤリと笑った。


「じゃあ。私も冒険者になる!」


「おお、いいぞ。エディルナが冒険者になったら、父さんがみっちりと鍛えてやるよ」


「やったー。父さん。約束だよ」


「ああ。約束だ」


 父はそう言って私の頭を撫で、今度は嬉しそうに笑った。



 だが、その約束が果たされることはなかった。


 私が八歳の時、王都から東にある大きな町へと向かう貴族を護衛していた父のパーティーが、盗賊に襲われたのだ。


 父が亡くなった地を治める領主の使いと名乗る者が、父の遺髪と形見となったバスタードソードを王都まで持ってきた。


「あの人は盗賊なんかに後れを取るような人じゃないのだけれど……」


 その後も母は形見の剣を見ては、よくそう言っていたが、いつまで待っても父は帰ってこなかった。



 父が亡くなって少し経って、私は私塾をやめた。

 父の残してくれた貯えはあったようだが、私には小さな弟が二人いたし、読み書きはある程度できるようになっていたから、後は弟たちに譲ってやりたかった。


 そして、それよりも私は剣が習いたかったのだ。


 母には無理を言って申し訳ないと思ったが、私は冒険者になりたかった。

 父が亡くなった時、まだ小さかった弟たちは父との思い出もおぼろげで、冒険者に興味もなさそうだった。


 父の跡を継げるのは私しかいない。そう思っていた私には、剣を教えてくれる先生が必要だった。


 母が大切にしまっていた父の形見のバスタードソードをこっそりと取り出してみると、その剣は私を父のところに連れて行ってくれるような気がした。

 あの日の父との約束を私だけでも果たしたい。父の笑顔を思い浮かべながら、私はそう思っていた。



 幸い、剣の教室は私にはとても合っていたようで、先生にも「筋がいい」とよく褒められた。基礎的な読み書きを教えてくれた私塾よりよほど私には合っていたのかも知れない。


 早く一人前の冒険者になるという目標があった私は練習に熱心に取り組んだ。実践が最も重要だと思っていたから、模擬戦闘にも積極的に参加した。


 おかげで生傷が絶えないことになってしまったが、不思議と父が母にそっくりだと言ってくれた顔にだけは傷をつけずに済んだ。


 教室の先生や先輩、後輩などほとんどの人は私に好意的で、私は日々楽しく教室に通っていた。

 だが、そうでない人も一部にはいた。


 私が入るまで同年輩では一番強いと言われていた男の子は、先生方が私を褒めるのを最初はつまらなそうに聞いていた。

 だが、その表情が憎々し気なものに変わるのにあまり時間はかからなかった。

 それまでその場所は彼のものだったのだから、彼にしてみれば私がそれを奪った邪魔者に思えたのかもしれない。


 模擬戦闘で私に敗れたとき、彼は突然、


「何だよ。お前の父ちゃんは盗賊にやられたんだろう。冒険者なんか盗賊より弱いんじゃないか!」


 そう言い放ったのだ。


 私は自分の顔から血の気が引くのが分かるような気がした。

 だが、教室では私闘は禁じられている。

 おそらく蒼白な顔色をしていたであろう私は、その日はその後、練習もそこそこに教室から引き上げた。


 父との思い出が汚されたようで悔しかった。



 剣術教室へ通い、一通りの型や技を教えてもらったことで、剣の腕前にはそれなりに自信がついた。

 先生からは、このまま師範候補として教室に残らないかと誘われる程度には、熱心に稽古に励んだからだ。


 だが、私が剣を習ったのは冒険者になるという目的のためだ。

 だから教室をやめ、いよいよ冒険者ギルドに登録をして、これからは冒険者としてやっていこうと思うと母に言うと、母は父の形見のバスタードソードを取り出して私に手渡してくれた。


「その剣はあの人の自慢の得物だったからね。良かったら使ってあげて」


 母はそう言って寂しそうに笑った。


 確かに父の剣は装飾もなく無骨で、野暮ったいと言ってもいいくらいのバスタードソードだった。

 だが、実際に使ってみると不思議と手に馴染んだ。



 冒険者ギルドに登録を済ませ、晴れて冒険者となった私だったが、三百年前、魔王がオーラエンティアを統べようと世界中に魔物が溢れ、魔族が跳梁跋扈した時ならいざ知らず、平和な今の時代では、冒険者とはいっても熊や猪などの害獣退治くらいが求められる主な仕事だった。


 それに、まれにある魔物の討伐などの高度な依頼は、信頼できる仲間もいない駆け出しの冒険者の私には手に余るものだった。


 剣術教室から誘われた時には、あくまでも冒険者になりたくて通っていたのだからと断ってしまったが、こんな毎日が続くなら、いっそ剣術師範として身を立てた方が良かったのかも知れないと思うこともあった。



(今日も目ぼしい依頼はないな)


 クエストボードの前にたたずみ、私はため息の出る思いだった。

 焦りは禁物。自分はまだまだ修行中の身と言っていい年齢だ。


 そうは思うものの、この先、本当に自分が冒険者として必要とされる時が来るのだろうかと不安になるときもある。

 その前に盗賊にでも襲われ、どことも知れぬ地で(むくろ)をさらす日が来ないとも限らないのだ。


(まあ。それでもこうして暮らす分には何とかなるか)


 私は今日も猪でも退治するかと思うのだった。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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