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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第三章 冥王ゼヤビス
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幕間その四 リヴァイアサンを探して

「なあ、メーオ」


「はい。お父様。メーオに何かご用かしら?」


 俺はカーブガーズの屋敷のダイニングで、お茶を飲んでいた。

 すると、そこにメーオがやって来て、当たり前のようにメイドにお茶を頼み、当たり前のように俺の隣の椅子にちょこんと座って、彼女もお茶を飲みはじめた。


 だから、別に俺が用事があって彼女を呼んだ訳ではないのだが、彼女の言葉では、俺がお願いして一緒にお茶をしているように聞こえそうだ。

 だが、せっかくの機会なので、俺は彼女に気になっていたことを聞いてみることにした。


「あのリヴァイアサンって、どうなったんだ?」


 俺の問いに、彼女はメイドが淹れたばかりのお茶をグッと飲んで、


「あの子なら、まだ海にいるはずよ。お父様は興味がおありなの? お姉様なら、どこにいるか知っていると思うけれど」


 平然と答えた。見た目の年齢は近いのだが、トゥルタークと違って熱いお茶も平気なようだ。


 いや、俺たちからしたら最強の海の魔物であるリヴァイアサンを指して「あの子」って、やっぱりスケールが違うよな。


 彼女は見た目は本当に可愛らしい少女だし、普段の服装もレースやフリルのいっぱい付いた、ふわふわした感じのものを好んで身に着けているから、どうも実感が湧かないのだが、やはり冥王であることは間違いないのだ。

 その実力は俺などとは比較にならないもののようだ。


「あの子はお父様に失礼なことをしたのよね。メーオが串刺しにして、地獄の業火で焼き尽くしてあげようかしら」


 にっこりと愛らしい笑顔を見せながら、そんな恐ろしいことを口にする。

 道理で熱いお茶も大丈夫なわけだ。

 見た目とその可愛らしい口から出る言葉にギャップがありすぎて、もう、どんな顔をすればいいのか分からない。


「いや、ありがとう。メーオ。その気持ちだけで十分だから」


 俺は曖昧に笑って誤魔化すが、メーオは「また、ほめられちゃった」とご機嫌なようだ。

 まあ、あまりの惨劇は、俺も望むところではないからな。


 だが、奇しくも彼女が言ったとおり、俺がリヴァイアサンに興味があることは間違いない。

 だって俺は奴を倒していないのだ。


 ゲームのメインシナリオさえクリアして、真のエンディングを見られれば、それで満足という人も中にはいるのかもしれないが、俺はそうではない。

 俺はやり込み系のゲーマーだから、クリアしていないクエストや、倒していないモンスターがいると寝覚めが悪いのだ。


 これはゲーマーとしての(さが)としか言いようがない。

 カンスト上等、すべてのマップを舐め尽くし、あらゆるモンスターを倒してレアアイテムまで揃えてこそ、クリアしたと胸を張って言えるのだ。


 これはゲームの制作者とゲーマーとのある種の闘い、いや、高度なコミュニケーションなのだ。

 実際、複雑怪奇なダンジョンを攻略したり、恐ろしく強力なボスキャラを倒した後って、ああ、制作者はこの風景が見せたかったのだなって思うよな。俺だけかな?


 まあ、もともと俺はコミュニケーション能力に難ありだし、そもそもこの世界の海での冒険って、俺が考えて、あの黒い表紙のノートに記したものみたいなんだよな。

 だから俺が過去の俺とコミュニケーションを取ることになって、自家撞着もいいところな気がする。


 でも、やっぱり奴を倒していないのは気分が悪い。これは俺のアイデンティティに関わる問題なのだ。


「おーい。セヤヌス。聞こえるか?」


 俺が彼女の姿を思い浮かべ声を出して呼びかけると、すぐに返事があった。


「アマンさん。お変わりはありませんか? 妹がご迷惑をお掛けしていないでしょうか?」


 セヤヌスは三姉妹の中では、俺にとって一番、話しやすい気がする。

 女神なのにあまり偉そうな態度はとらないし、細かいことにも気を使ってくれる。


 まあ、偉大な姉と我が儘な妹に挟まれて、苦労していたのかもしれないな。妹には身体に居候されていたし、俺でさえ少し同情してしまう。


「いや。メーオは元気にしているぞ。ところで以前、俺たちを襲ったリヴァイアサンって、今どこにいるんだ?」


 メーオについては本人が隣にいるし適当に流し、俺は奴の居場所を彼女に聞いた。


「リヴァイアサンなら、あなたの訪れた島のすぐ西の海に潜んでいます。もう使命からは解放しましたから、気ままに船を沈めたりしながら静かに暮らしているようですよ」


 彼女の言葉に、俺の額から汗が流れ落ちる。

 いや、気ままに船を沈めたりされたらとても困るし、それって静かにしているとは言わないんだが。


「島の西に潜んでいるって。あの島の人たちは大丈夫なのかしら?」


 突然、すぐ横からアグナユディテの声がして、俺はびっくりしてしまった。


「ユディ。いつからそこにいたんだ?」


 俺が少しドギマギして訊ねると、


「大きな声で話している声が聞こえたから、誰かいるのかしらと思って。聞かれてはまずい話だったのかしら?」


 いや、そんな話はしていないけれど、こちらにも心の準備ってものがあるから少しは配慮してほしい。


 それはそうと彼女の言うとおり、俺の訪れた島ってミリナシア姫が治める島のことだよな。

 そのすぐ側で船を沈めてるって、とても迷惑な気がする。


 俺がメーオの名前を当てて、あの神殿を後にしてから、海にも魔物は現れなくなっていた。

 まあ、海の中も平和になりましたってことなのだろうが、俺にはこれは結構大きなことのような気がするのだ。


 これまでは魔物がうじゃうじゃいて、実質的に閉じられていた海が開かれたのだ。

 一気に船を使った海運が盛んになり、オーラアンティアの発展が進むかもしれない。

 船の輸送力は陸上とは比較にならないみたいだからな。


 でもそれはこの世界の人たちに任せるとして、今はリヴァイアサンのことだ。

 あの島の西に危険な魔物が棲みつき、せっかく近くなった大陸との航路を塞いでいるとすれば、さぞかし島の人たちは迷惑を被っていることだろう。


 奴を退治することは島の住民たちを助け、この世界の発展にも資する公的な使命を帯びたものなのだ。

 さっきはあんなことを思ったが、決して俺個人が全てのモンスターを倒したいとか、そういった私的な欲を満たすためのものではない。

 いや、どう言い繕ったところで、やっぱりゲーマーとしての欲だな。


 まあ、普段かなりストイックに暮らしているから、こんな時くらいは許してほしい。人の為にもなる訳だし。


「リヴァイアサンは倒してしまって構わないのか?」


 念の為セヤヌスに尋ねるが、彼女の答えは思いもよらないものだった。


「何も悪いことをしていない、あの子を倒すと言うのですか? 人間とは野蛮な生き物なのですね」


(いや、これまで散々やらかしているだろう!)


 そのやらかし度合いは俺なんかの比ではないだろう。

 しかも、現在進行形で船を沈めていると言うし。


 やっぱり女神と呼ばれるような者の考えることなんて、俺なんかの理解が及ぶものではないらしい。

 でも、禁止はされなかったから、別に倒しても構わないよね。




 と言うわけで、やって来ました大陸東のあの島へ。

 例の海域消滅のおかげでカーブガーズからグッと近くになったので、ベルティラの瞬間移動で来られるようになったのだ。


 最初は俺と、アグナユディテとベルティラだけで来ようと思っていたのだが、何処から聞きつけたのかトゥルタークが、


「アスマット。抜け駆けは許さんぞ! わしも連れて行くのだ」


 とやって来るし、アリアも、


「人々の生活を脅かす魔物を退治されるとは、さすがは賢者アマン。敬服いたします」


 なんて、是非一緒にと同行を申し出てくれた。


「さてはあの島で。また、ゆったり過ごすつもりだね。私も行くよ」


 エディルナは何を勘違いしたのか、そう言ってきかないし、リューリットは何も言わずに、だが、俺の側から離れなかった。

 さらにはメーオまでが、


「お父様と離れているのは不幸せです。私もご一緒します」


 そんなことを言い出して、思っていた以上の大人数になってしまった。


 アンヴェルは王都滞在中だったから声を掛けなかったのだが、後で不満を漏らされるかもしれない。

 いや、何で皆、そんなにリヴァイアサンと戦いたいんだ? 俺にはさっぱり分からない。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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