到着、ダンジョンの町ハルテア
なんか中途半端な始まりで申し訳ありません。
急ぎ足で移動した私たちは何とか午後一にはダンジョン都市ハルテアに着いた。
「ふぃ~、久しぶりに疲れました~」
「アスカ、あんた途中からそのブーツで空飛んでただろ?危ないからちゃんと注意するんだよ」
「うっ…気を付けます。まさか、フォールバードに出会うとは思いませんでした」
フォールバードは寒冷地や砂漠以外の地域に住むそこそこ大きい鳥の魔物だ。名前の通り、急降下して攻撃を仕掛けてくるため、レンジャーなどの軽装職の天敵だ。まあ、重装備でも攻撃を当てられないということがあるんだけどね。
「で、本当にその肉食べるのかい?」
「物は試しですよ。きっとおいしいですよ。多分、筋肉質だから筋張ってると思いますけど」
「アスカ、鶏肉でも野菜とか食べるのと違って、肉食のはまずいよ」
「そうなの?」
「そうだね。臭いのもあるし、質もねぇ~」
ピィー
アルナも野菜の方がいいっていうし、ダメかぁ~。そうなると矢羽根ぐらいにしか使えないんだけど、自分で作るのは手間だし、武器屋さんに引き取ってもらおうかな?矢なんて武器屋からしたら何本売れても知れてる売上だから、こういう時に渡しておいて作ってもらわないとね。ここじゃ買えないかもしれないけど、回り回って他の町で買えるようになるわけだし。
「それじゃ、宿だけどどの道一泊だ。適当に決めるよ」
直ぐにギルドに入って宿を聞くとそこに荷物を置いて、いざダンジョンへ。私たちも経験がないからアルナたちはお留守番だ。
「ジャネットさんは入ったことあるんですよね?」
「ああ、試しにね。ほんとに試しだから2階層ぐらいまでだけど」
「ダンジョンごとに特徴はあるんですか?」
「もちろんさ。ここはアンデッド…それも相手は物理攻撃だけのダンジョンだ。ランクはボスを除けばCランクと比較的優しいダンジョンだな」
「物理攻撃だけですか?」
「ああ、面倒なレイスやリッチなどの不死者の中でも物理が効かないものや、魔法攻撃を仕掛けてくる奴がいない。だから、浄化の魔法なんかが使える冒険者ならある程度楽に戦えるのさ。あたし達ならアスカの火魔法だね。森なんかと違って燃え移る心配もないし、敵のドロップは倒した後。つまり、手加減はいらないってところも大きいね」
「何階層まであるんですか?」
「さあ、そういう情報は買わないといけないからねぇ。でも、20はないって噂だよ。ただ、ボスだけは解ってる」
「ボス…なんですか?」
「デスドラゴン。いわゆる、不死のドラゴンさ。原理は知らないがブレスも吐くし、高い耐久があってボス部屋までは行けても、その先は無理ってダンジョンさ」
「そういえばダンジョンに行くのに依頼は取らなかったですよね?」
「ダンジョンはあくまでこっちから行くもので、依頼を受けるとしたら素材だけなんだよ。討伐依頼何てもんはないから、帰って来てから清算がてら受ける感じだね」
話しているとダンジョンの入り口に着いた。みんな朝から行くようで、そこそこ空いている様だ。
「ん?挑戦者か。1人銀貨2枚だ」
「はいよ」
「ぎ、銀貨2枚って高くないですか?」
「弱いやつが行って助けに行くのも大変だろ?最低限実力がないと挑めないようにだってさ。もっとランクの低いダンジョンだと安いよ」
いよいよ、入場料を払って初ダンジョンだ。
「緊張する~。あっ、ちょっと涼しいかも?」
「アスカ、もうちょっとしっかりしよう?まるで初めて大きな街に来たみたいになってるよ」
「い、いいんだもん!待ち遠しかったんだから」
夢にまで見たファンタジーの代表の一つだよダンジョンなんて。
「倒した魔物は数時間ごとに再び現れるらしいから気を付けなよ」
「はいっ!」
初めてのダンジョンにきょろきょろする。
「こういうところって地図描いたりしないんですか?」
「入るたびに構造が変わるんだよ。描いても無駄さ」
そんな話をしていると、奥の方からカキィンと音がした。
「わぁ!冒険者!冒険者ですよ、ジャネットさん!」
「あんた…まあいいか、リュート行くよ」
「は、はい」
私たちは冒険者とスケルトンらしき魔物を避けて進んでいく。
うぅ~
「ひぃ!ゾ、ゾンビ」
「ああ、そうだね。じゃ、倒すよ」
ジャネットさんが予備動作もなくスパッと一刀両断にする。すると不思議なことに魔物がかき消えていく。そしてそこには…何も残っていなかった。
「あれ?ドロップがあるんじゃないんですか?」
「そこがダンジョンの面倒なところさ。簡単に魔物に会える代わりに絶対に何か落ちるわけじゃない。外でオークに会えたら解体できるが、ここじゃ倒したとしても何もないこともあるし、手に入る部分も一部だ。出ればラッキー位の感覚でないとね」
「へ~、大変ですね」
それからも魔物の相手をしながら進んでいく。1Fにはさっきのゾンビらしき魔物とスケルトン以外はいないようで大した相手でもない。
「ほい、ファイア」
カランカラン
スケルトンがバラバラになって消えていく。見ると小さなものが残っていた。
「なにこれ?小さな指輪?」
私の指でも合うかなぁと思っていると手首をトンと叩かれ指輪が落ちた。
「なっ、何するのリュート!?」
「最初に言ってたでしょ。呪いの指輪だったらどうするの?それっぽいものは引き取りするか鑑定に回すかって昨日話してたでしょ?」
「そ、そうだった。ごめん」
ダンジョン産の装備は2つの道がある。一つはよくわからないから、商人かギルドに格安で引き取ってもらう。これは余り儲けにはならないが、いちいち鑑定しないのである程度知識があると、価値のないものを引き取ってもらえる。もう一つは鑑定に出してから引き取りをする場合だ。こちらは鑑定料がかかるので本当に利益がバラバラになる。
「どうします?鑑定に回しますか?」
「アスカから見てどうなんだい?細工のレベルとか」
「細工としては普通ですね。石はちょっと黒っぽいですがきれいですよ」
「ん~、指輪は安いのがほとんどだからねぇ。ただでさえスケルトンのドロップだし。まあ、記念に鑑定するかい?」
「いいんですか?」
「初めて手に入れたもんだからね。銀貨1枚ぐらいならやってもいいんじゃないか?」
「じゃあ、キープですね」
ダンジョン用に各々のマジックバッグをキープ用と引き取り用に分けていたのでキープ用に入れる。それから、簡単にフロアを歩くと下への階段があった。
「まだ、見きれてないですけど降ります?」
「ああ、最初の3階層位まではろくなのが落ちないから良いよ。ただ、敵も強くなるから降りた直ぐは注意だよ」
「了解です!」
ジャネットさんの指示の元、私たちは進んでいく。
「リュート、奥だ!」
「はいっ!」
「ウィンド!うわっ!?飛び散った…」
「アスカ、大丈夫かい?」
「怪我はないですけどグロいです…」
「なら、さっさと燃やすことだね」
「そうですね。ところで気になったんですけど…」
「どうしたんだい?」
「ここってアンデッドダンジョンですよね?最初の一体はどこから産まれたんでしょう?」
「…さあね。あたしたちにとっちゃ、どうでも良いことさ。溢れでるわけでもないし、宝も枯渇しない。それだけで十分だよ」
「う~ん。そういわれるとそうですね」
「でも、アスカみたいなやつがいつか謎を解き明かすかもしれないね」
「そうですか~」
「アスカ!右っ!」
「っ!ウィンドカッター!!」
リュートの声に反応して、とっさに魔法を放つ。
ドタッ
「ふう、ビックリした~」
「大丈夫?」
「うん、ありがとリュート」
「取りあえず今は謎より警戒だね」
「そうですね。えいっ!」
私は周囲に風を撒いて地形と生物の反応を探る。
「あっちに4体ほどですね。ここからやりますか?」
「それヒト型でしょ?人間かも」
「そっかぁ。面倒だなぁ」
「流石に誤射はあたしも許容できないよ」
仕方がないので、場所を確認しながら進む。さっきの反応は人だったみたいだ。危なかった。
「このフロアも何もないね。すぐに降りるよ」
途中で階段を見つけたので、そのまま降りていく。これで次は3階層だ。
「3階層ですね~。なにか違うのかな?」
そんなに広くもないエリアを歩いていく。この辺は初心者向けなのか人の数もほとんどいない。
「20階もないだろうから、気をつけな」
注意して進んでいくと、とうとう出会ってしまった。
「た、た、た、宝箱だぁ~」
「ああ、うん、そうだね。でも気をつけな…」
「開けても良いですよね?ジャネットさんのことだからもう一回は開けたんでしょ?ここは譲って下さいね」
「別に良いけど罠が…」
「えっ!?」
カチャ
勇み足で開けた後にそんなことを言われたので、ピタリと動きが止まる。
「ば、爆発したりしませんよね?」
「そんなのこんな上の方じゃしないよ」
「ほっ。ビックリさせないでくださいよ~」
何もないことを確認して、宝箱を開けると中には…。
「小型の盾?」
「ま、そんなもんだろうね。どれどれ…質はこの階層にしては良いね。鉄だからやや重量はあるけど、それでも軽装の戦士にはありがたいよ」
「じゃあ、ジャネットさん使いますか?」
「いや、要らないよ。これでも重すぎる。これならガンドンの革を張り合わせた方がましだね」
「リュートは?」
「僕はアスカが作ってくれた魔道具の盾があるじゃない。出番はないよ」
「折角の宝箱が…あれ?」
少し時間が経つと宝箱も消えてしまった。なんとも不思議だ。
「ま、これならある程度は金になるし持ち帰るか」
ジャネットさんは引き取りの方に盾を入れる。そしてちょっと歩くと魔物に出会った。
「ゾンビですかね?」
「ちょっと動きが早いからグールだろ。少し強くなったみたいだね」
とは言うものの早さが20から30ぐらいの微々たる差で、スパッと一刀両断出来るところは同じだ。
「続いてはスケルトンだね。こっちは盾つきだ」
今までボロボロの剣を持っていただけのスケルトンにも盾が追加された。でも、構えはしないし本当に持ってるだけって感じだ。
「やっ!」
スケルトンはリュートが槍を一突きすると、避ける間もなく崩れ落ちた。
「あっ、なにか落ちたみたいだよ」
「ほんとだ!剣だね」
「ボロボロのね。放置しようか」
放置してると数時間後にはダンジョンに吸い込まれるらしい。でないと、ゴミが散乱しちゃうからね。つくづくすごい作りだよ。
「この階層も大したものはなさそうだし降りるよ」
「は~い」
こうして、初めてのダンジョンを3階層まで踏破したのだった。




