今日は何の日? 12月
「はぁ~、寒くなりましたねぇ~」
「そうだね」
ジャネットさんと宿で食事をしながら呟く。
「そういえば今日はクリスマスかぁ~。結局、あんまり出来なかったんだよね、パーティー」
「クリスマス?なんだいそれ?」
「偉い人の誕生日か何かでその日は家族で美味しいものを食べるんですよ」
「聞いたことないねぇ~。アラシェル様の関連かい?」
「いいえ、全く関係ないですよ」
「おや、アスカはアラシェル教だろ?良いのかいそんなんで」
「私のいたところは寛容でしたから。複数の宗教行事に参加しても良いんです。シェルレーネ教がさらに緩くなった感じですね」
「んで、美味しいものってのはなんだい?」
「大抵はチキンですね。でも、丸々一羽は大変なんで見たことないですね。後はシャンパン…お酒でしょうか?」
「アスカに酒はともかく、鳥ぐらいなら…」
「どうかしましたジャネットさん?」
「いや、ちょっと食べ終わったら出掛けてくるよ」
「えっ!?今日は寒いし、年末で店も閉まり出すからどこにも行かないんじゃ…」
「気が変わったんだよ。リュートたちは…ん~ちょっとまだしゃくだねぇ。今回は良いか」
ぶつぶつ話し出すと食事を終えたジャネットさんはカウンターに食器を返しに行く。珍しいな、いつもは置きっぱなしなのに…。
ピィ
「アルナ、食事は終わったの?寒いから部屋に戻ろうね」
私は疑問に思いながらもアルナを連れて部屋に戻る。
「さあ、しばらくは宿に缶詰だし細工を進めよう!」
年始にはこれで大量に納品でき、2月分ぐらいまではまかなえるだろう。
「新作作る時間もいるし、貴重な時間だよね」
ピィ チッ
「アルナにミネル。ちゃんとわかってるよ。みんなとも遊ぶってば」
子どもが出来てキリッとしていたミネルも、私が旅に出るので最近は甘えだした。
「流石にホワイトクリスマスとは行かないね。私が水の魔法も解放してたら出来たのかな?」
でも、雪って降ると大変だし、みんなに迷惑かかるよね。
「やっぱり、こういうのは自然の贈り物だよね」
細工をしながら時折、窓の外を眺める。
「みんなは今何してるのかなぁ?」
「お~い、ノヴァ。そっちはどうだ?」
「あ~、ちょい腐ってる。変えた方がいいぜ」
「そうか。何とか年末までには終わらせたいな」
「そうだぜ、シュタッド兄貴。俺も孤児院に行くんだからな」
「わかってるって。そんじゃ、さっさと抜いちまうか!」
「若、替わりのは用意できました!」
「よしっ!すぐに取りかかるぞ!」
「皆さん、お茶が入りました」
「ん?フィーナか。済まんな」
「いいえ。寒い中、家で過ごさせてもらってますから!」
「そ、そうか。何だお前ら!遠巻きに見て」
「いえ、若が最初に受けとるべきだと思いまして」
「いらんことをするな」
「さあ、皆さんも」
フィーナからお茶を受け取って飲む。しばらくするとフィーナはお盆を片手に手にはぁ~と息を吹きかけていた。
「何だ寒いのか?ほら」
「あっ!」
「流石に両手は無理だからな」
「はい…」
日が落ち始めた空には星が瞬いていた。
「リュート、こっちのは?」
「温めるだけなんだ。アスカ、ちょっと火を…あっ!?」
「あらあら、リュートはそんなにアスカに頼ってるの?とっさに名前が出るなんて…」
「エステル、からかわないでよ。孤児院の子達にこの休みの間は料理を作るんでしょ?」
「もちろんよ。保存食とかには疎いから、こうして習ってるんじゃない。リュートたちが町にずっといてくれたら済むのにね」
「それこそどうしようもないよ。僕らのリーダーの目的なんだから」
「…リュート。アスカもだけどノヴァもお願いね」
「わかってるよ。危ないのはどっちも同じだし。でも、エステルは本当にそれでいいの?」
「私だって好きなことをやってるのよ?なにか言う資格はないわよ」
「そっか…でも悔いのないようにね。僕だっていつ帰ってくるかわからないのだし」
「信じて待つしかないのよね…。私、ノヴァがレディトに行くのでさえいまだに手が震えるの。待てるかしら?」
「それをノヴァにも言えばいいのに」
「ダメよ。言ったらきっと残ってくれるもの。ノヴァはそういう人だから」
やれやれ、この少女の願いを叶えてくれる神様はいないのかとリュートは空を見上げた。夜空には既に幾つもの星が見えた。その中の大きな星にリュートは願いを込めた。かつての思いと共に…。
「は~、疲れた~」
「どうしたんですか、ジャネットさん。わざわざ部屋まで来て」
「いや、あんたが飯を食べに降りたのか気になってね」
「さっきまで頑張って細工に励んでました!」
「そうかい。やりすぎには気を付けなよ。それと、今日の飯はあたしが知らせるよ」
「えっ!?何かあるんですか?」
「あっ、いや、今混んでるってエレンがね」
「そっかぁ、大変なんだね。手伝いに行こうかな?」
「いや、もう注文は終わったから大丈夫だって言ってたような…」
「そうなんですね、よかったです。混む時はすごいですからね~」
何てのんきに言う妹にばれないように下に降りる。
「ライギルさん、間に合いそうかい?」
「何とかな。だが、もう少し早めに言ってくれよ。調味料とかも必要なんでな」
「済まないね。出来たら呼んでくれ」
「ああ」
それから一時間ほどしてアスカを呼びに行く。
「食事、出来たんですね!今日は大変だったのかなぁ?」
そんな疑問を覚えているアスカを連れて下に降りる。あらかじめエレンから宿の連中には話が通っているので今は貸しきりだ。
「さぁ、アスカ。あそこがお前の席だ」
「あれって…」
アスカの目の前には昼に話していた鳥の替わりに、地を這うアースバードのローストと丸々煮込んだものが置かれている。
「今日話してただろ?家族で楽しむ日だって。ライギルさんたち宿のみんなもあたしもあんたを家族のように思ってるからね」
「ジャ、ジャネットさん~」
「こ、こら、泣きながら抱きつくな!」
「いやだなぁ、ジャネットさんたら、おねえちゃんならこうなるってわかってたくせに」
「うるさいエレン。ほら、食べるぞ!」
照れ隠しに、ナイフを鳥に入れるジャネットさん。
「ああ…初めては私が入れたかったのに…」
「こっちがあるだろ!ほら」
ジャネットさんは私の手を取って、もう一羽に切り込みを入れる。
「何でジャネットさん私の手を持ってるんですか?」
「アスカに刃物はまだ早いよ」
「そんな!採取の時とか使ってますよ!」
「あらあら、今日はとっても賑やかね」
「ミーシャさん!」
「ほら、頑張ってさっき仕入れた果物ジュースよ。乾杯しましょう?」
「わぁ~きれい~」
「それでは…」
「「「乾杯~!」」」
「ん~、見た目もだけど味も良い~」
「当たり前だ。俺が作ったんだぞ」
「おねえちゃん、そっちのもちょうだい。ここからじゃ届かないの」
「わかったよ。エレンちゃんあ~ん」
「ちょっと、恥ずかしいよ!」
「今日はそれでも良い日なの、はい!」
「もう~しょうがないなぁ」
賑やかで楽しい時間は過ぎていく。その時ふとジャネットは窓から見える満点の星空を見た。
「あたしの兄妹はどうしてることやら…」
今はもう場所さえ忘れた故郷を一瞬思い出したジャネットだった。
突貫工事のクリスマスイベントでした!一時間ほどで書いたので、誤字とかあったらごめんなさい。
Merry Christmas!




