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山道

「おふぁよ~、リュート」


「あっ、アスカ起きたんだね。水はあるから顔洗ってきなよ」


「そうする~」


 昨日の見張りは特に何事もなく終わった。ティタが見張りを手伝ってくれるので、細工をして時間を過ごせるのは助かる。旅に出ると中々細工に集中する時間がないのでこういう時にやらないとね。


「でも、さすがに宿にいた時ほど集中できないからあまり難しい物は作れないんだよね」


 細かい細工や難しい付与などはやはり落ち着ける場所でないと無理だ。


「ん? 起きたのかい」


「はい。顔洗ってすぐ用意しますね」


「ああ。まあ、朝早くに出発しても今日はそこまで動かないけどね」


「そうなんですか?」


「今日はこの山の反対側、西側まで回り込んで終りさ」


「えっと、じゃあ昨日あそこまで頑張らなくてもよかったんですか?」


「ん~、山近くの天気は変わりやすいし雨が降るかはあたしには分からないからね。代わりのルートの森を迂回するには距離が長い。それなら、レディト側の安全な道で距離を稼いだ方がいいだろ?」


「確かにそうですね」


「アスカ、旅をする時は確かに道や距離も大事だ。だけど、こうやって安全な道で距離を稼いで、魔物が出そうな道ではちょいとゆっくりになる。そういうのも覚えときな」


「はい!」


 ジャネットさんから旅の知識を教わると、顔を洗ってリュートの作ってくれた朝食を食べた。


「朝ごはんも美味しかったよ」


「昨日の残りに食材を足しただけだけどね」


「ううん。スープが少なくなって濃くなってるのにちゃんと調節してあったし、さすがはリュートだよ! これで、リゾットにでも出来てたらなぁ」


「アスカはコメが好きなんだね。僕らはレディトのマスターの店でしか食べたことないから、そんなに気にならないけど」


「そう言っていられるのも今のうちだよリュート。市場に出回るようになったら我先に駆け込むようになるよ」


 特にこの前食べた鳥の照り焼き。あれこそご飯があれば食が進むよ。カツも美味しいけど、こっちじゃ動物性の油で揚げてて脂がきついからね。もちろんその分、香ばしくて美味しいけどね。


「さあ、それじゃここを引き払って出発しようか」


「そうですね。アルナとティタは私の肩においで」


「うん」


《ピィ》


 アルナは右肩に、ティタは左肩に専用の道具を使って乗せる。この道具は魔力を通せば浮くような感じになり、三十センチほどの見た目と違って重たいティタも楽々だ。


「この〝ティターニア〟を作ってよかったよ。じゃないと中々ティタを持てないもんね」


「小さくても重たいよね。前の体は岩石だったけど今はどうなの?」


「あまり良く分からないんだ。岩じゃなくて鉱石っぽいけど金属の感じもあるんだよね」


 食べた魔石の属性が使えるようになることも普通じゃないみたいだし、謎が多いゴーレムだ。


「本来、体を動かすこと以外に魔力を使わないゴーレムなのに魔法が得意だってんだから、不思議なもんだ」


「ティタの身体を調べるのも似た金属や石を見たことがないので出来ないんですよね。一応アイアンゴーレムで通してますけど」


 ティタの見た目の色は黒っぽい金属色なのでアイアンゴーレムということにしてある。本来の種族はオーアゴーレムだけど、それにも?が入っていて詳しくは分からない。もし、旅先で魔物に詳しい人がいたら聞いてみたい。



「で、道を進んでいたんだけど、お出ましかい?」


 道を進んでいるとジャネットさんが立ち止まり、私に話しかけて来た。私も探知魔法で魔物を探す。


「どうやら森の方からみたいですね。大きさからするとオーガでしょうか?」


「やれやれ。まあ、ここで逃して商隊が襲われたり、レディトに行かれても悪いし倒すか」


「僕は後ろから狙いますね。アスカ、数は?」


「ん~、三……四体だね」


「なら、アスカはその木の後ろに。リュートは正面からだよ。アーチャーがいることも注意しなよ。あたしが右から回り込む」


「「了解」」


 私たちは直ぐに配置につくとオーガを待ち構える。二分ほどでオーガはリュートを発見してこっちに来た。


「三・二・一……アスカ、今だ!」


「ウィンドカッター!」


 相手の間合いに入る寸前で、リュートの合図に合わせて私が木の左から身を出して魔法を放つ。正面に近いとはいえ不意をつかれオーガの足並みが乱れる。そこへリュートが魔槍を投げてまずは一体。そして私の魔法が敵を切り伏せ二体目。こっちに気づいたオーガたちが私のところに向かってくる。

 

「甘いよっ!」


 そこへ、反対側からジャネットさんが身を乗り出して一閃、さらに返す剣でもう一閃。四体いたオーガたちをたちまち倒して戦闘終了だ。運よく今回は亜種もいなかったみたいだ。


「ふぅ、今回は楽でよかったね」


「そうですね。でも、さすがジャネットさんです。一瞬で二体もなんて」


「不意を突いてあれぐらいやれないようじゃね。さあ、素材だけさっさと取るよ」


「は~い」


 オーガの素材は牙と角だ。皮は硬いし、身も食べられたものではないので巨体の割には得るものが少ない。一見、駆け出しには強敵なだけで旨味がないように思えるけど、素材が少ないのは悪いことばかりでもない。

 出発してオークに出会ったら、マジックバッグがすぐに埋まっちゃうからね。埋めるか帰るかしないといけないけど、素材が少ないオーガは手加減の必要もなく正面から向かってきて戦いやすいかも。


「まあ、お肉があった方がいいんだけどね」


 旅をするとなると食料は大事だからね。現地調達できるならそれに越したことはない。


「リュート、取り終わったかい?」


「はい」


「それじゃあ、埋めちゃうね」


 魔物はきちんと倒したら埋めておかないとね。まだまだ街道から近いから、魔物を呼び寄せてもいけないし。強い魔物は放っておくと魔物が近づかなくなるけど、この周辺じゃオーガはそこまで強くないから処理しないといけないのだ。


「気を取り直して進もう」


 私たちは再び森と山の間を進んでいく。森に入っちゃうと視界も悪いし、道もくねっている。山側は足を取られるところも多く、疲労がたまりやすい。その間を私たちは進んでいる。森なら薬草も生えてるから寄りたいところなんだけどね。


「そういえばジャネットさん。この山に薬草は生えてないんですか?」


「そりゃもちろん生えてるさ。まあ、あたしはろくに知らないけどね」


「細工の町へ行くまでお金使ってばかりですし、ちょっと寄りながら行きませんか?」


「あたしは別にいいけどアスカは大丈夫かい? 結構道も悪いよ」


「うう~ん。午前中ぐらいなら大丈夫だと思います。リュートもいい?」


「僕は助かるよ。アスカと違って細工で稼げないから、倒した魔物だけが旅の頼りだからね」


「なら、行きましょう!」


 今日の行程はちょっと余裕があるので私たちは山へ入ることにした。私は元々薬師の子どもの設定だから、薬草を採るのは得意だ。リュートも慎重な性格がいいのか結構上手い。ジャネットさんは……あんまり得意じゃなさそうだけど、開き直って見張り役を買って出ている。見張りも大事な役目だから二割ぐらいは貰えるって割り切っているみたいだ。


「さて、ここには何があるかな~」


 山の中腹までは行かないけど、ちょっと登って草木のあるところを進んでいく。


「おおっ、これは! 確か帝国植物図鑑で見た気がする……。やっぱり、レンネ草だ!」


「僕は聞いたことのない植物だね」


「うん。効果はリラ草と一緒で傷を癒すの。同じくポーションの材料になるんだけど、同じ量でも効果が良くて中級ポーションが作りやすくなるんだって! もっと早くに来れてたらジェーンさんにあげたのになぁ」


「ま、あいつは腕がいいしこいつは必要ないかもしれないけどね」


 ジェーンさんはジャネットさんと仲のいい冒険者で、少し前にアルバで薬屋さんを開いたばかりだ。どっちかというと質で勝負をする小さい店だから、持って帰ったら喜ばれただろうな。


「そうかもしれないですね。確か中級ポーションの調合成功率も高いって聞きましたし。レンネ草は単価が高い他にも欠点がありますし」


「欠点なんてあるの?」


「うん。効果が良いのはそうなんだけど、品質の差が出にくいの」


「それっていいことじゃないの?」


「普通はそうなんだけど、質が良くても中級ポーション以上にはなりにくいの。リラ草ならAランク以上のものを使えば上級ポーションが出来る可能性があるからね。安定して中級ポーションが作れるのは魅力だけどその分、山にしか生えないからレンネ草は高いのもあって、ちょっとね」


「確かにリラ草はどこでも見かけるもんね」


 一応、中級ポーションの製造に失敗しても初級ポーションとしてものは残る。そうなると上級を作る人は中級が良くできてしまうわけだ。結果、安定して中級が作れるといってもそこまで大きな価値を持たない。腕が良くないと上級は作れないので、中堅の人が使って中級を作るぐらいだろうか。


「そういえばレンネ草って、味はどうなのかな?」


「アスカが気になるのってやっぱりそこなの?」


「やっぱりって何よリュート。アルナがリラ草を混ぜた飲み物を飲んでるでしょ? あんな風に作れないかって思ったんだよ」


「ご、ごめん。僕はてっきり……」


 そんなに私、四六時中食事のことばかり考えてないもん。試しに生えていたレンネ草を三本ほど混ぜてリラ草と同じように作ってみる。


「ん、んん?」


「どうかしたのアスカ?」


「不味かったのかい?」


「い、いえ。思ったよりスッキリするっていうか……苦味はちょっとあるんですけど香りも強いし、肉と一緒だと臭いも消えて美味しい気がします」


 以外にもレンネ草はセージのような感じだった。落ち着くし好きな味だ。


「これ、乾燥させて一部持ってたら駄目ですかね?」


「あたしは別にいいよ。どうせ他にはろくなものが採れないしね」


「僕もいいよ。アスカの言ったことも気になるし」


「じゃあ、決まり。ここには三十本ぐらい生えてるからちょっと残してと……。この周辺を探したらまだまだありそうだね」


 私たちは目的をレンネ草に絞って周りを探しながら歩いていく。どうやらこの周辺にはあまり冒険者も来ないようで、かなりの数のレンネ草が見つかった。その内の半分を乾燥させて私が預かり、もう半分は細工の町ショルバに着いたところで売るつもりだ。


「後は買い取りの依頼があることを確認しないとね」


「えっ!? 採取の依頼は常時じゃ……」


「常時なのは一般的な奴だけだよ。季節性のサナイト草の買取だって年中は出てないだろ?」


「そうでした。なら、着いてから残りは考えましょう」


「だね。売るとなると最悪は商人ギルドで買取か、薬師本人との交渉になるかもね。アスカの話だと使う人間もある程度限られるだろうし」


「そうですね。もし売れなかったら追加で貰います。もちろん、その分はちゃんとお金払いますから」


「じゃあ、話は決まりだね。で、結局どのぐらい集まったんだい?」


「全部で百十本ぐらいです。結構生えてるもんですね」


 私はかごに入れたレンネ草をジャネットさんに見せながら答える。単価は知らないけど、結構な金額になるのではないだろうか?


「まあ、この周辺なら王都から港町までの護衛依頼の方が安定してるし、わざわざ他の依頼を蹴ってまで来ないだろうね」


「細工の町からは来ないんでしょうか? 二日ぐらいで着くんですよね?」


「準備も入れたら往復一週間かかるんだよ。それなら、港町まで行けるし向こうについたら運次第だけど、異国のものも見れるから来ないだろうね」


「そうですか……もったいないなぁ」


「採取上手なアスカがいればだろうね。下手なやつは見向きもしないし、場所が誰かにばれたら収入も少ない。長く冒険者を続けたいなら護衛依頼だね。こっちじゃ強い魔物に遭っても救援が来る可能性はゼロだしね」


「僕らもこっちの道に入ってから誰ともすれ違ってませんしね」


「そういうこと。残ってるのにもちゃんと理由があるんだよ。ま、そのおかげであたしらは儲かるわけだし、いいじゃないか」


「そうですね。そうだ! 折角ですしいい景色でお昼にしませんか?」


「いいねぇ。と言いたいところだけど、薪がないよ。干し肉でもいいのかい?」


「はぅっ!」


 折角名案を思い付いたと思ったのにな。



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