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小物とラフィネ

「さあ、次は小物の店ね。ラフィネはどこか行きつけはあるの?」


「私は表通りのあそこです。ムルムル様は?」


「私はひとつ隣の通りよ。でも、意外だわ。あそこって年頃の少女がよく使う店じゃない」


「なので見習いの言伝てです。私なら警備も要りませんし、たまに頼まれるのです」


「あらそう。面白い話になるかと思ったのに…」


「では、どちらから行きましょうか?」


「う~ん、さっきのドレスを考えると私の方ね。表通りの店は普通の格好に合うものがほとんどだから」


「じゃあ、案内お願い」


というわけで先にムルムルの行きつけの店に行く。


「あら、巫女さま。いらっしゃいませ。お付きの方もどうも」


「ええ。いつもお世話になります」


どうやらここではゼス枢機卿は身分を隠しているようで従者かなにかだと思われているみたいだ。


「ちょっとだけ大人っぽいのを探しているんだけど」


「あら?珍しいですね」


「今日はこの子向けよ。ドレスでも合うものがいいの」


「まあ!お綺麗な方ですね。では、こちらになりますわ。他の方は店内を回って頂けますか?」


あまり広い店でもないので、私とムルムルだけが案内され見て回る。


「グローブがそれでしたら小さめのブレスレットでしょうか?指輪はこちらです。後は…」


さっきの店で揃わなかったもの中心にどんどん揃っていく。グローブなども見せるとパッと決めてくれるのはありがたい。私じゃわからないからね。


「う~ん。でも、ここまで綺麗ですと花冠でも被せたくなりますね」


「わかるわ。髪色に似合いそうよね」


「もう少しこの街に滞在頂ければデザイナーと相談する時間が取れるのですが…」


「大丈夫です。それにみんなを足止めしちゃってるので」


ここ数日はほんとに楽しい日々だったけど、流石に旅に戻らないとね。


「そういえば次はどこに行くの?」


「ハルテアだよ」


「あそこね。ダンジョンに用があるの?」


「えっ!?ダンジョン何てあるの?」


「それ目当て以外だとこの街への中継地点ね。ひょっとして知らなかったの?」


「全然…」


「サイズ合わせが終わりました」


「あっ、ありがとう。アスカつけてみなさいよ」


「うん」


店員さんがサイズ直しを終えて戻ってきたのでこの話はいったん中断になった。


「うん、いい感じよ。みんなにも見せてきたら?」


「そうだね」


私たちは店内のちょっと広いエリアでお互い見つけたものを見せ合う。以外にもお姉ちゃんはふわりとした花の便せんを買っていた。


「へぇ~、お姉ちゃんもそういうの好きなんだね」


「ああ、こういうのを選んで父上に送ると色々と便利なんだ。話が通りやすくなる」


「そ、そっか」


まあ、お父さんからしたらいつまでもかわいい娘だし、しょうがないよね。みんなで一通り見た後はお昼だ。


「お昼はどうするの?流石にこのまま普通に入るのは無理だよね?」


「まあね。でも、いいところがあるのよ」


そのまま通りを進むと一軒の小さい店に着いた。


「ここ?席少なそうだけど…」


「入ったらわかるわよ」


店内に進み、案内されたのは地下室だった。


「こんな感じよ。お忍びには最適なの」


「すご~い。でもどうして地下なんだろう?」


「単純に土地代と、音が響き難い作りで、楽しめるようにです。地下も2部屋のみですので」


店員さんから説明を受ける。じゃあ、今はもうひとつの部屋は護衛の人が使ってるのかな?


「アスカはどうする?お任せでいい?」


「いいよ。名前を見てもわからないかもしれないし」


「では、しばらくお待ちください」


食事が運ばれてくるまでわいわいと話をする。話の中心はさっきのハルテアの町についてだ。


「じゃあ、お姉ちゃんもいったことあるの?」


「研修でな。ダンジョンがどういうものか実地訓練だ。ダンジョンはない国もあるから他国ではないところもあるが」


「へ~、やっぱり大変なの?」


「大変かというとどうかな?自分で実力さえ解っていれば進めるところも解るし、他の冒険者が倒してなければ魔物もいるから楽かもな。ただ…」


「ただ?」


「どういうわけかダンジョンの敵は倒すと消えてしまうんだ。オークなんかもどこかの部位の肉や剣だけ落としたりとな。そういう意味では外とは儲けが異なるから注意だな」


「それに、討伐依頼でもないから討伐報酬が出ないのよ」


「討伐報酬出ないんだ…。ちょっときついかも」


討伐報酬は依頼の報酬より多くなることもあるし、そこがゼロっていうのは大変そう。それにお姉ちゃんのいう通り、肉とかも一部ならさらにだ。1体で大銅貨7枚ぐらいの儲も半分が消えちゃうのはなあ。


「まあ、あそこはアンデッドダンジョンだから初心者はまず無理だな」


「敵強いの?」


「強いというか落とすものがな…。スケルトンなどのドロップは解るか?」


「ほ、骨とか?」


落としたところで使い道が解らないけど…。


「一応それもあるが錆びたボロボロの剣などもある。落とされてもという感じだ。一番辛いのは食料を落とさないことだな。オークなどが出れば道中に補充が利くから攻略しやすいが、あそこはちゃんと管理しないと帰れんのだ」


「それはダメかも」


「そんなに辛いの?マジックバッグがあるじゃない」


「あ~、うん。そうなんだけどね。あれって結構生活に使うのも入ってるし、なんでも入れられるほど場所余らないんだ。食料とかもある程度に抑えたいんだよ」


「じゃあ、行かないの?」


「どうしようかな~。どんなものか見てみたいし、興味はあるんだよね」


「行ってみるのはいいことだ。入場料はかかるが、低い階層は魔物も弱いからな」


「みんなと相談してみる。ありがとう」


話も終わり、食事が運ばれてくる。こういうところだからコースかなと思ったら普通にプレートだった。内緒のお話やプライベートな空間が欲しい人もいるからなんだって。


「ん~、このお肉なんだろ?柔らかいけど味付けは変わってるなぁ」


「でしょ?ここの料理人は別の大陸の人なのよ。料理の仕方もちょっと違うんだって」


「しかし、よろしかったので?私まで席が一緒で」


「ラフィネは非番でしょ。問題ないわ。そこら辺で立たれてる方が落ち着かないし」


「お姉ちゃんも来たことあるの?」


「来たことはあるが護衛だからな。食べたことはない」


「大変だね~。匂いとか気にならない?」


「気になるな。だが、そういう解りやすいのはまずないからな」


「そうじゃなくて!お腹減らないのって聞きたかったの」


「それぐらいなんともない。外へ行けば数日野宿で、ろくに食べる時間がないこともあるからな。むしろ、こういう匂いの時は変な匂いがしないかそっちの方が気になる」


「うわぁ、職業病だよ。美味しいんだからなにも考えずに食べられたらいいのにね」


「だが、自分がそうすればアスカや巫女様たちは安心して食べられるだろう?それでいいんだ」


「そういうのを気にしなくていい日が来るといいね」


「そうだな」


食事が終わり次はお姉ちゃん行きつけの店だ。


「えっと、本当にこの店?」


「そうだ。なにか変か?」


「変ってことはないけど…」


案内された表通りの店はこれでもかとファンシーな飾り付けがなされていた。外壁もピンクだし、目立つというより浮いてる感じだ。


「よくここに入れるね」


「まあ、お使いのようなものだからな。自分の用事だけでは流石に入らないしな」


「ま、入りましょうか」


連れだって店にはいると数人客がいた。思い思いに商品を見ているけど一人の子はいない。


「この通路じゃ4人は無理ね。半分に別れましょう」


「じゃあ、私とお姉ちゃんね」


「なに言ってるのよ。せっかく来てるんだから私とよ」


そういうとムルムルと私の組とゼス枢機卿とお姉ちゃんの組に別れてしまった。


「ムルムル、いいの?」


「ええ。この店だけのことだし。それより店内を案内したげる。なにか欲しいものないの?」


「それじゃあ…」


ムルムルの言葉に甘えて、店内を散策する。かなり種類もあるみたいで、案内がないとどこに何があるか解らないほどだ。


「やはりああしているのがいい。年頃の少女なのだからな」


「なぜ、親目線なのですかラフィネは…」


「いえ、つい…。しかし、このような店まで入られるとは視線が気になりませんか?」


「ムルムルが興味のあるところですからね。本当に大変なのはあちらですよ」


枢機卿がチラリと視線をやると、さほど仲の良くない男女の騎士が私服姿で恋人の振りをして護衛任務についていた。別に入らなくていいという女騎士と任務だから仕方ないという男騎士のやり取りは、ギリギリ喧嘩する恋人に見えている。果たしてよいことなのかどうか…。


「お姉ちゃん、そっちはどう?いいものあった?」


「あ、いや、特には…」


「奥なんて見てどうしたのよ。何かあるの?」


「いえ。なにも」


すぐに彼らから目線をそらす。あんなのが同じ護衛とは思われたくないからな。


「それじゃあ、私たちは会計しちゃうね」


「ああ」


会計を済ませて店を出ると不意にアスカが話しかけてきた。


「お姉ちゃん、これ…」


「これは便箋?選んでくれたのか?」


「うん。でも、お姉ちゃんのお父さんとじゃなくて、私がもうすぐ旅に出るから、ムルムルみたいにお手紙のやり取りできたらなって思ったんだけど、ダメ?」


「いいぞ。だが、こちらからは送れないな。場所がわからない」


「う~ん、そっかぁ。でも、行き先が決まってたりする時に早めに送るようにする!」


「わかった。旅先で退屈しないようにたくさん書くからな」


「そ、それは届ける人が大変かも」


「ハルテアの次は港を使って西に出るんだったな。まずはそこに向けて書くとしよう」


「うん。楽しみにしてるね!」


「ラフィネ、出す時はちゃんと私にいいなさいよね。一緒に届けさせるから」


「よろしいのですか?」


「手間でしょ?教会の便なら融通聞くしね」


「わかりました。アスカ、欲しいものがあったら手紙に書くといい。遅くなるが送ってやるからな」


「じ、自分で買うからいいよ。あっ!?でも、珍しい本とかは欲しいかも」


「どんなものだ?」


「どんなっていわれると困るけど、今はガザル帝国の本を読んでるんだ。そうだなぁ~、教会の人だし教会の歴史書とかないの?」


「歴史書か…。枢機卿、よろしいですか?」


「簡単に人に見せないなら許可しましょう」


「えっ?なにか難しいこと頼んじゃった?」


「一般向けのはいいんだが、アスカの言っているのはそうじゃないだろう?間にシェルレーネ様の神託や各国の政治的なものも入っていてな持ち出し許可は下りづらいんだ」


「そんな大変なのはいいよ」


「折角だからもらいなさいよ。本音と建前じゃないけどこういうのもあった方がいいって参考に出来るわよ」


「なら、お願いします!他にもちょっと昔の本とか変わった魔法とか載ってるのがあったらお願い」


「任されたぞ。あっ!?と言わせてやるからな」


「あんまり高いのとかはいいからね」


「言うだけ無駄よ、アスカ」


こうして、賑やかな散策は終わったのだった。




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ラフィネさんが「推しのジュニアアイドルに貢ぐ快感に目覚めたOL」にしか見えなくなってしまった…
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