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街を練り歩こう

「じゃあ、後は街を楽しむだけね。まずは中央広場ね」


「中央広場?」


「そ、この街のシンボルもあるのよ」


ムルムルに連れられてちょっと歩くと、おっきなシェルレーネ様の像がある広場に出た。


「ここがそうよ。神像は魔道具で守られていて、像に向かって四方から水が噴き出すの」


「へ~、綺麗だね」


「それに、気が向いたら像から空に水が上がることもあるのよ」


「気が向いたらって…」


「もちろん、シェルレーネ様のね」


「ムルムルは見たことあるの?」


「何度かね」


「私も一緒に見ましたね」


「私は一度だけだな。月に一度の時もあれば、数年ないこともある」


「えっ!?そうなの?」


「それだけ私たちとは時間の感覚が違うのよ。私も前に見たのは数ヵ月前だもの」


そんな話をしていると像からちょっとだけ水が出てきた。


「いや、別に私は水が上がっても特に何も思いませんよ?」


ムルムルが像に話しかけるとしょぼんとしたような感じで水が止まる。


「わ、私は見たいかなぁ~、せっかくこの街に来たんだし」


慌てて、精一杯のフォローをしてみる。


「あ~あ」


プシャー


そういうと像から一気に空へと水が舞い上がる。そして落ちてきた飛沫はキラキラと光を反射しながら消えていく。水のはずなのに辺りを濡らさないなんて不思議な光景だ。


「きれい~、ありがとうございます、シェルレーネ様」


私の返事に満足されたのか二度目が上がることはなかった。回りの人たちを見ると驚いていたのが歓喜の声に変わっている。


「私たちは下がりましょうか」


「そうですね。アスカ、こっちに」


「うん」


みんなが空を見ている間に私たちはその場から離れる。


「そんなに急がなくても…」


「巫女の目の前で水しぶきが上がったのよ。囲まれる前に逃げないとね」


「あの時は大変でしたからね。なにか良い神託でもあったのかと、皆さんに聞かれましたから」


ムルムルだけでなくゼス枢機卿まで苦い顔をしている。相当大変だったんだな。


「そういえば中央広場なのにそのまま真っ直ぐ行くと神殿ってわけじゃないんだね」


「ああ、定期的に建て替えもしてるからね。全部じゃないけどそれに合わせて正面に来たり来なかったりなのよ」


「時間がかかることですし、その間に仮の建物で儀式をという訳にもいかないのですよ」


「大変そうですね」


「なに他人事みたいに言ってんのよ。アスカだって覚えておかないといけないわよ。将来どうするのよ?」


「えっ!?小さな街でこじんまりとした教会があればいいよ」


「ダメよ!それじゃ信者の人がぎゅうぎゅうでかわいそうよ」


そんなにいっぱい人が集まると思えないけどなぁ。でも、心配してくれてるんだし、メモだけしとこうかな?


「後、私のお勧めは小物類と服だけどどうする?」


「先に服かな?気に入った服があればそれに合った小物を付けたいし」


「ならこっちね」


目立たないように通りをひとつ外れて、ジグザグに動いて店に入る。


「いらっしゃいませ!」


「こんにちは、久し振りね」


「まあ!お久しぶりです。御二人とも…あら?今日はお客様ですか?」


「ええ。巡礼先で知り合ったアスカよ。この店のお勧めを見せてあげて」


「畏まりました。しかし、お綺麗ですね。服に着られることがなくて羨ましいですわ」


「そ、そんなことないですよ」


「さ、こちらに…」


そのまま店員さんに連れられて奥に行く。


「こちらは新作や当店で抱えているデザイナーのものです。気に入ったものがあれば言って下さい」


「はい!」


勧められるまま見ているとふと気が付いた。神殿にある店だから地味なのが多いと勝手に思っていたけど、結構派手なのもある。


「わっ!これとかすごい」


「まぁ!お似合いですよ」


「どれどれ…ってアスカ。あんた旅先で何する気よ」


私が見ていたのは肩がバッチリ出るタイプの淡い色合いのワンピースだ。


「ふむ?これでアピールしたい男でもいるのか?」


「い、いないよ!こんなのもあるんだなって思っただけだよ」


「ですがお似合いですよ?1着ぐらい持っていて困らないかと」


「け、結構です。せめてこれぐらいなら大丈夫ですけど」


慌てて横にあるドレスタイプのものを指さす。そちらは肩がバッチリというほどではなく、ちょっと見える程度だ。とはいえそんな服を着たことはないのでそれでも私からすれば大冒険なのだけど。


「では一度、着てみてはいかがでしょうか?普段はしないのですが、お客様にはお似合いでしょうから」


そういうとさっと店員さんは私の手を取って一室に連れていった。


「あ~あ、まんまと乗せられちゃってアスカったら」


「しかし、似合ってはいたな。今の内にあれに似合うネックレスでも見繕っておくか」


「でしたらこちらに…」


「うむ」


「ラフィネ、あなたお金は?」


「普段から節制しておりますので」


そういうとちょっと濃い目のドレスに合うようにクリーム色のネックレスを手に取る。


「この中央部の宝石は交換可能か?」


「はい!贈答用に変更可能ですよ」


「ではこちらを頼む」


私はあらかじめ持ってきていた魔石を取り出すと店員にそれに変えるように伝える。


「その石、高いんじゃないの?」


「アスカより大切なものはありません」


「見たところユニコーンの魔石のようですね。良く手に入れられましたね」


その言葉を聞いた店員がピクッと動きを止める。そして、慎重に慎重をきたした動きに代わる。


「あれってめちゃくちゃ高いでしょう」


「まあ、それなりには。父上に頼み、伝手もありましたので」


「何て言って紹介してもらったの?」


「大切な方が出来たので、その方をお守り出来ればと」


「絶対それ勘違いされてるわよ…」


ユニコーンは知性も高く、人に害を加えない魔物として知られている。乙女を背に乗せるとも、気に入った相手に魔力のこもった角を与えるとも言われている。その魔石は死に際して、好意を持っていた相手に託すのだという。手放す相手もそれなりに高潔な相手なので、入手難度の高い魔石の一つだ。


「お待たせ」


そうこうしているうちにアスカが帰ってきた。装飾品もないのにドレスだけで貴族に見えるとはすばらしい素材だ。


「似合ってるわよアスカ。巫女の衣装も似合ってたけど、こっちもいいわね」


「そ、そうかな?あんまりこういう格好もしないし、褒められると嬉しいよ」


「アスカ様、ぜひこの服に合うコーディネートをさせていただけませんか?この服だけなんてもったいないです。価格も抑えさせていただきますので!」


「えっ!?いいんですか?確かにこの服に合うものは持ってませんけど」


精々、持っているとすればブーツだけど、それすらただの編み込みでドレスに合うようなものではない。荷物になるのはマイナスだけど、たまには女の子らしい格好もしたかったのでお願いすることにした。


「では、後は…」


「レニーさん、ネックレスはこちらで石はこれになります。後は他のものをお願いします」


「あら?そうなのね。では、まずは靴ね。おみ足を少々」


そういうと私の足を取ってサイズを測ってくれる。


「ふむ、可愛らしいですわね。この感じですとあまり背も伸びないようですし、わずかに詰め物をすればいいサイズにしておけば長く履けますよ」


「そ、そうですか…」


エヴァーシ村のシャスさんに続いて、ここでも身長は伸びないと宣言されてしまった。


「では、靴はこちらがいいですわね」


「わぁ~、白っぽくて光沢がきれいですね」


「はい。この光沢は海で取れたものを加工して着色しているんです。定着させるには技術が必要でやや高いのですが、他のものでは出ない色になります。後はグローブですね。こちらも種類がございますのでいくつか用意させますね。後はコサージュとブローチですが、あいにくとブローチはまだ納品前でして…」


「大丈夫です。ブローチならこっちでも用意できますから」


私は次に使うつもりだったヒルガオのスケッチを見せる。


「まあ!映える花ですわね。どなたか細工師に知り合いが?」


「はい。他にも考えているのがあるのでそれを使います」


最後に髪飾りについては光を反射するものを選んでもらった。ちょっとした明かりでも一緒に来た人に見つけてもらいやすくなるらしい。


「ありがとうございました。私共も選ばせていただいて楽しかったですわ」


「こちらこそ、お世話になりました」


こうして店を出て、私ははたと気づいた。


「ねえ、ムルムル。あの髪飾り、見つけてもらいやすいってことは目立つってことじゃない?」


「いまさら何言ってるのよ。だから、買ったんでしょ?」


「あぅ。それにしても結構安かったね。もうちょっといくかと思ったよ」


私の服屋のイメージは高いといってもアルバにあったベルネスというお店だ。そこでさえ銀貨5枚位が相場だったのに、ドレス一式で金貨5枚でおさまったのだから。


「このネックレスとか高そうだったのになぁ~」


「アスカ、安くとも良いものはある。だが、大切にするに越したことはないぞ」


「そっか~、流石お姉ちゃんだね!」


「何言ってんのあんた…」


「ラフィネがここまで面白い人間だったとは」


そんな話をしながら私たちは次の店に向かったのだった。



ああ、終わらない…。

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ラフィネの実家の親父さん泣いてそう… ラフィネ父「誰かイイ男を見つけて結婚を決めたと思っていたのに…まだ孫の顔は見られないのか…」
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