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作成と旅行予定

エクセラス伯爵家から受けたコールドボックス完成のため、私たちは神殿の一室を借りて作業をしていた。


「アスカ~、後どのぐらいで完成?」


「もうちょっと。刻印入れたら終わりかな?でも、不思議だよね」


「何がよ?」


「別に地下室に置くなら刻印なんていらないよね?」


「ああそれ?多分依頼料の値上げのためよ。ほら、報酬は当然アスカに行くんだから、刻印を入れておけば多く払えるからね」


「そ、そんな!悪いよ~」


「まあ、自分の領地の問題を解決してくれたんだし、軽いご褒美よ。考えても見なさいよ、あの部隊を連れて来て数日滞在するだけでもかなりの費用よ。そこから、病気の治療の期間を入れればそれぐらい何でもないわよ。それにコールドボックスって便利じゃない!あの料理、登録されたら神殿に知らせてよ」


「いいけど…高いよ?」


「うっ。だ、大丈夫よ!ゼスに頼るから」


「いいの?ムルムルのことだからみんなの分を頼むんでしょ?」


「それがさ~、この前のことで今度こそ爆発しない様にってうるさいのよね。何でも好きなものを買ってくれるっていうんだけど、ドレスとか似合わないし、結局外に出る時は巫女の衣装でしょ?困ってたのよ、ちょうどいいわ」


は~っ、これでゼスのいうこと聞いてやれるわ~。何てムルムルが言ってるけど、目じりもちょっと下がって嬉しそうだ。心配されてうれしいんだけど、ちゃんと欲しいものが言えなくて困ってたんだろうな。こういうムルムルが見れて改めて神殿に来てよかった。ちらりとテルンさんやカレンさんを見るとし~っと指を口に当てている。2人ともにこにこしているし、この顔を見ていたいのだろう。


「そうそう、この前言ってたこの町の案内だけど、ようやく許可を取ったから行きましょう」


「いいの?っていうか、ムルムルって町によく行くの?」


「良くはいかないわね…。月に2回ぐらいかしら?なぜか目立つのよね」


「ムルムルが素敵だからだよ!」


「あんたには鏡を見させてやりたいわ」


「どうして?」


「いいから準備しといてよね。明日だから」


「分かった。この後用意する。そういえばお姉ちゃんは?最近見かけないけど…」


「ああ、ラフィネね。この前コルタに行く時、ついて行ったでしょ?ああいう時は本当は非番の人は代わりに神殿で警護に就くんだけど、あまりに堂々としていたから誰も気が付かなくて、今は代わりに謹慎という名の休暇中よ。あんなことしたのも日ごろから休暇を取らないからだって」


「ラフィネさんは元々真面目でよく隊長さんにも休暇を取るように前から注意されてたんです。最近は特に勤務日が多かったので半ば無理やりですね」


「あの人、神官騎士になる前から神殿で警護してるから、皆さんも言い難いんですよ。先代の巫女様とも仲が良かったからね」


「そうなの?」


「ええ。多分、やめられる時に私たちのことを頼むって言われたんじゃないかしら?あれ以降、余計にひどくなったのよね」


「そういうところはアスカ様似ですね。やっぱり一族って感じがします」


「そうですか?じゃあ、私ももっと背が伸びてキリッとした感じになりますかね?」


「それは…」


そっとカレンさんが目をそらす。どうして?血がつながってるなら可能性はあるよね。


「まあその話は置いといて、明日は私とアスカとゼスの予定だから」


「えっ!お邪魔じゃない?」


「お邪魔じゃないわよ。それにゼスはお財布だから気にしなくていいわよ。いっつもついてくるのよね。ゼスのせいでますます私のお金の使いどころがなくなっちゃうのよ」


ムルムルが直ぐに気付かれるのってゼスさんも一緒というところも大きいな。あの人もかっこいいし、美男美女のカップルで顔を見たらああ巫女様か…って感じだろう。


「カレンさんは行かないんですか?」


「はい。明日は礼拝に来られる人に会う日でして。アスカ様は気にせずに楽しんできてくださいね」


「なんか悪いですね。すみません」


「悪くないわよ。そんなこと言ったら今だってアスカが頑張ってコールドボックスを作ってるのに私たちはお茶してるわけだし」


「でも、細工は私しか出来ないから…」


「ひょっとして、アスカも礼拝に来た人に舞姫ですって言いたいの?勢力拡大に余念がないわね」


「どうしてそうなるの!そんなの狙ってないから。私はあっ!こんな神様も居るんだって思ってくれるだけで満足だよ。まあ、その過程でアラシェル様を信仰してもらえると嬉しいけど」


「私たちがおばあちゃんになるころには世界的になってたりしてね」


「そんなことはないってば!信仰を広めるって言っても私一人だけだし」


「あら?でも、今はデグラス王国でも商人さんが頑張っておられるのですよね?」


「まあ…でも、バルドーさん一人ですし、あっちはグリディア様信仰が根付いてますから」


「そうよね~、あっちの人って信仰と言っても都合がいいのよね」


「都合がいい?」


「戦を司るグリディア様を信仰しているせいか、戦いの時にはグリディア様に熱心に祈り、それ以外は気が向いた時だけ。私たちシェルレーネ教についても変わりないわよ。農作物の都合で水源が確保されるまでは寄付とかお祭りもやってくれるけど、終わったらそれっきりのところとかも多いの。舞も終わって雨が降ったら、来年もよろしく~って感じよ」


「へ~、そんな大陸なのにグリディア様信仰が根強いのはどうしてなんだろ?」


「アスカ様はガザル帝国という国があの大陸にあったことはご存じですか?」


「はい」


存じてるも何も今その帝国の本を読んでいる最中だ。


「あの帝国は前身の帝国も含めて成立から滅亡まで常に戦いに身を置いており、その影響で北から南まで対抗できるようにと戦乱が絶えなかったのです。その為、双方がグリディア様信仰の元で戦い、勝った方がそのまま信仰しているのです」


「ええ~!それじゃあ、勝っても負けても信仰がなくならないじゃないですか」


「そうよ。だから、今ある国も国の存亡をかけて他国との戦争に勝って信仰を続けているの。そんな大陸で信仰が強いのは当たり前なのよ」


「それでも最近は信仰が揺らいでいるんですよ」


「今までの話を聞いてたら信じられませんね」


「最近は大きな戦争がないからよ。ガザル帝国が滅亡する時にその戦争で独立したり、一緒に戦ったりした国同士が同盟を結んでいるの。ここ数十年は戦争まで発展したことはないから、平和が長く続いて今の信仰は国や兵士よりも冒険者の方が多いみたいね」


「今、国を挙げて信仰しているのはかつてガザル帝国の帝都があった国、バルディック帝国ね。あそこは今も多くの信徒がいます」


「帝国の後が別の帝国だなんて残った一族が興したの?」


「それが、全く関係ない一族なのよ。ガザル帝国が折角、無くなったっていうのに変わってるわよね。結局、領地が小さくなって帝政は維持したままみたいになっちゃったのよ」


「今でも軍事色が強い国で私たちも南側の砂漠の町に行く以外は帝都にも行かないんです」


「へ~、あんまり自国民以外は移動とかもないのかぁ。行ってみたいなぁ~」


「アスカはあんまり行かない方がいいかも。前身のガザルとこのフェゼル王国は長年戦ってきたから、あんたの髪も目立つと思うわよ」


「そうなの?貴族ってそこまで他国に行くのかなぁ?」


「アスカ様の場合は外交をやっている家ですからね。むしろ向こうの貴族は忘れられない髪色かと思いますわ」


「ひょっとして避けた方がいい?」


コクコクとみんなが頷く。ううっ。折角、ガザル帝国時代の本を探しに行けると思ったのに…。地図を持ってきてもらってテルンさんのおすすめルートはバルディック帝国に着いたら、そのまま馬車でデグラス王国まで入るか、南側まで抜けて、陸路か再び船でデグラス王国を目指す方がいいということだ。


「ただ、海は荒れるわよ。それと海魔と呼ばれる魔物がいるんだけど、手強いから気を付けなさい」


「そんなに強いの?」


「強いというか困りものね。剣士たちは海に飛び込む覚悟でないと立ち向かえないもの。船に簡単に上がらせるわけにもいかないしね」


そっか、船に上がられたら戦えない人もいるし、設備を壊されたら海上じゃ直せないもんね。


「まあ港町のクレイストに着いたら予行演習のつもりで戦ってみるといいわ。厄介さが分かるわよ」


「ムルムルも経験あるの?」


「私?まあ、治療メインならね。そもそも海魔に水魔法なんてほとんど効かないもの」


「まぁ!ムルムル、報告では魔物の襲撃時は神官騎士に守られて部屋にいたはずですが?」


「あっ!?テルン様これは…」


「ちょっと、あの2人に手紙を書かないといけませんわね。次代の巫女があなたのような行動をしていたらみんな苦労しますからね」


「ちょっと、ちょっとだけですよ。甲板に出るぐらいですから」


「甲板に!?てっきり、船室の治療室だと思っていたのに」


「ええと…」


甲板ってことは直接海魔と対峙したってことだ。さっきの水魔法の効きが悪いって言うのは実体験なのかな?


「アスカ様、明日の準備もあるでしょうから今日はこの辺で…」


「はい。テルン様も頑張ってくださいね!」


「ええ。引退前にもう少し頑張らないといけないみたいですわね」


そういうとテルン様はムルムルを引っ張って別室に連れて行った。


「カレン様は付いててあげないんですか?」


「とばっちりは嫌かなぁ」


そう笑顔で言うカレンさんに私は苦笑いを返すことしかできなかった。


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[良い点] うっかり気が緩んで語るに落ちるムルムル様(汗)
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