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細工の街への道中 レディト発

「そろそろ休憩しませんか?」


「またかいアスカ。もうちょっと前に休んだばかりだろ」


「でも、ほとんど変わり映えしない景色ですし……」


「アスカの言いたいことは分かるけど、野営の回数増えるよ?」


「それはヤダ」


「ならキリキリ歩きな」


 レディトを出発して北上していた私たちだったけど、右手の奥には森が左手側にも近くに森がある景色が続いていた。歩くのには慣れているけど、景色が変わらないし旅も始まったばかりで特に話す話題がなくてつまんない。目指す細工の町には誰も行ったことがないので、噂程度しか話せないしね。


「アルナもティタもそう思うよね~」


《ピィ》


「ティタはたのしい。はじめてのけしき」


 アルナも自然がいっぱいで嬉しいみたいだ。街っ子だったアルナはどこへ……。


「従魔にも裏切られて分かっただろ。ほら、さっさと歩く。せめて今日中には山を見たいからね」


「じゃあ、山が見えたら休憩しましょう」


「いいよ」


 この時に私は気づくべきだった。ジャネットさんが簡単に返事をした意味を……。



「あの~、まだですか~」


 あれからかなり歩いた筈だ。しかし、一向に山は見えない。反対側かなとちょっと経つごとに見ているが、そうでもないみたいだ。


「リュートも疲れたよね?」


「えっ!? あ……うん」


「アスカ、出発前にフォローしやすいようにって、お互いのステータスを確認しただろ? アスカの体力が100ちょい、リュートは200近くあるんだよ。まだまだ大丈夫に決まってるじゃないか」


 確かにジャネットさんの言う通り、リュートの足取りはしっかりしている。マジックバッグの容量も一番小さいから、背負う荷物が多いのにだ。私は杖を手に持っているだけ。後は、腰にマジックバッグと小さいポーチを下げている。


「でも、ちょっと疲れたかも」


「そうだよね! やっぱり荷物も多いからそうだと思ったんだ~」


「リュート、こんな旅の最初から甘やかすんじゃないよ。そのうち、町にしか泊まらないって言い始めるよ」


「そ、そんなこと言いませんよ。私、結構野営好きですよ? 景色が綺麗ですし」


「ほら、こういう非常識なところだよ。普通の冒険者は景色がどうこう言う前に、魔物に襲われる野営自体が嫌いなんだよ。全く……」


 ジャネットさんの指摘に意見すると今度は呆れられてしまった。ううむ、手強いなぁ。


「あっ、でもアスカの作ったバリアの魔道具は風の魔力がある僕にも使えますし、ちょっとぐらいなら……」


「そうそう。あれもあまり人前で使わないでおきなよ」


「何でですか? 別に凄いものじゃないですよ?」


 魔道具だから効果が低く、風魔法使い専用でも金貨一枚。汎用魔石を使い誰でも使えるなら金貨五枚ぐらいはするものの、私の専売ではない。


「アルバやレディトはあんたから仕入れられたけどね。他の町は誰かが広めないと知らないんだよ? 珍しいものに食いつかれて、変な騒ぎは御免だよ」


「そういうことですか。気を付けます」


「特に野営が好きですなんて、合同パーティーで言わないように。何かあるってバレバレだからね」


「は~い!」


 元気よく返事する。私はちゃんと学習できる子なのだ。この話の流れで休めるかと思いきや、足が止まることはなかった。くぅ~。


「ん? そろそろかね」


 それから更に歩き続けると、ジャネットさんが立ち止まった。私も見上げると山が……木で見えない。


「ほら、掴まってな」


「わっ、見えました!」


 ジャネットさんに脇を持ってもらい、掲げてもらうと木の先に山脈が見えた。


「やった。休憩だ~!」


「アスカって本当に十五歳なの?」


「えっ!? そんなに大人びて見えるかな? 最近ちょっと鏡を見て思ってたんだよね~」


「あ、いや、うん。そうだね」


 怪訝な顔をしてリュートかこっちを見ている。まあいいや。今は休憩だ!


「ん~、美味しい! ティタもはい、魔石。アルナはまだ特製ジュースがあるから飲んでね。それにしても、リュートの干し肉は美味しいよ。ジャネットさんが道案内もしてくれるし、快適だなぁ~」


「言っとくけど、あたしが案内できるのは王都周辺程度だよ。町に着いたら無理だからね」


「なら、地図を買いましょう! それなら大丈夫ですよね?」


「はぁ~、うちのリーダーはこんなに人任せだったかねぇ」


「仕方ないですよ。小さい頃はろくに出歩かなかったらしいですから。慣れてきたら落ち着きますよ」


「リュートがそう思いたいだけだろ?」


「まあそうですね」


 従魔たちと食事を取っていた私はそんな会話も露知らず、楽しく休憩をしていた。


「本当にあの山の近くまでいくんですか? 結構まだ距離があると思いますけど……」


「手前の草原で休むには危険すぎるからね。近いところだとこの先だけど、そうすると明日も同じぐらい歩くか、あの山の麓まで進んでまた泊まるかだよ?」


「ううっ、ここで二泊かぁ。先は長いし細工の町には早く行きたいんですよね。私も細工をしているから昔から気になってた町ですし」


「なら、もうちょい頑張りなよ」


「分かりました」


 目的地の距離も考えて休憩を終え、再び進み始める。途中山脈に続くような森を越えて、ようやく今日の野営地に着いた。


「それにしても今日は魔物に遭いませんでしたね」


「この辺はいつも商隊が通る街道に近いからね。魔物だって冒険者が通る近くで襲撃なんて馬鹿な真似はしないさ。襲われる時は襲われるけどね」


「それじゃ、今日の見張りの順番はどうしますか?」


「初日だしリュートが最後でいいんじゃないか? あたしが間で、アスカは最初だ。その方が飯の支度は楽だろう? 起きてから作ったら時間も無駄だしね」


「火は使っても大丈夫ですか?」


「あたしたちが起きてきたらね。それまでは材料を切ったり、用意だけにしてくれよ」


「分かりました。それじゃ、その手はずで準備します。煮込んだり焼くだけなので直ぐですけどね」


「ティタもてつだいする」


「お願いするよ。ティタは水の魔法が使えるから頼りにしてるからね」


 ティタは特殊なゴーレムで食べた魔石の力が使えるようになる。その代わり、今は合計でLV3までの制限付きだ。例えば水の魔石を食べて水の魔法がLV3まで上がっていると、火の魔法を身につけたら水の魔法が2へ下がってしまう。以前は私の魔力の影響で風と火の属性だったんだけど、それだと私の方が強いので別の属性に変えてくれたのだ。魔石をくれる人も水の魔法の使い手だったから、入手しやすかったのもあるけどね。


「うちは火はアスカかあたしが、水はティタが出せるから野営は楽でいいね。どの属性もないパーティーなら薪と水を用意して火を起こすところからだからね」


「おかげで野営は楽ですね」


《ピィ》


「ん、アルナも水が出せるって? そうだね。適性が低いから大変だけど、いざって時は頼りにするからね」


《ピィ!》


 張り切っているアルナだが、風の力の遺伝が強く水魔法の適性は生活魔法程度だ。それも、かなり低いので高い魔力で補ってようやくだ。だけど、本人のやる気は認めてあげないとね。とりあえず今日は薪集めからだ。火をつけるのは出来てもさすがに出し続けたら疲れてしまうので仕方ない。


「まあ、燃やしながら湿気った木も乾燥させられるし、適当に拾うだけでいいのが救いだよね」


「本当だよね。本来だったらちゃんと燃やせる木を集めないといけないから大変らしいし」


 今はリュートと二人で薪拾いだ。ジャネットさんはお留守番という訳ではなく、置いている荷物の見張りだ。風魔法を使える私とリュートの感知力が高いというのもあるけど、逆に殺気とかを感知できない私たちはこういう位置取りの方がいいらしい。


「んしょ。このぐらいでいいかなぁ?」


「大丈夫だと思う。後、もう一回ぐらい集めれば十分だね」


「それなら、リュートは食事の用意をお願い。私が後は集めとくから」


「分かったよ。くれぐれも気を付けてね」


「うん」


 こうして薪拾いを私がやり、リュートは食事の準備をしに野営地へ戻って行った。戻ったらテントも出来てるだろうし、食事の用意が終わるまでに集めて帰らないとね。


「ただいま~」


「お帰りアスカ。もうちょっとでできるからね」


「今日は何?」


「野菜とか肉とか色々入れた鍋。明後日ぐらいまでは野菜も何とかなるかな?」


「本当? やったあ!」


「はぁ、ほんとにアスカは食にうるさいねぇ」


「食べることは大事ですよ。新しい調味料の使い方もマスターしたみたいだし期待大です!」


 新しい調味料というのは醤油のことだ。数か月ぐらい前から船を経由して、輸入が始まったらしい。

一瓶で銀貨一枚という高価な品だけど、料理の幅が広がってとっても楽しみなのだ。料理はリュート任せだけどね。


「それで、今日は何なの?」


「今日はスープの素を使って野菜と肉を煮込んだ後、最後に醤油を入れたものだよ」


 和風ポトフだ! 初めてだけど、美味しそう……。


「ほら、アスカ。涎たらす前に食器だよ」


「はっ! そうでした。風よ……エアカッター」


 その辺の木を使って即席の器を作る。切った後に乾燥させればいいので結構便利だ。水洗いすれば何度か使えるのもいいところだね。


「それじゃあ、いっただっきまーす!」


 料理が完成して早速、器に盛って頂く。


「ん~、相変わらずいいスープだ。そこに醤油の味が加わって大変美味しゅうございます」


「アスカ、なんか口調変だよ?」


「こういう時はそう言わないといけないんだよ」


「またおかしなことを言ってこの子は。おっ! 確かにこれはいけるね。塩っ気もあるし、いくらでも食べられそうだ」


「今は食材も余裕ありますからどんどん食べてください。スープが残れば明日の朝ご飯に使い回すので」


「そうなんだ。折角だからここにご飯を入れてリゾットにしたかったかも」


「ご飯ってあの飼料の?」


「そうだよ。まあ、確かにあれは味もあんまりよくないからそこまで好きじゃないけど、貴重なご飯だからね」


 この世界ではお米は主に飼料として使われている。それも本格的な栽培ではなく、その辺に生えているのを刈る程度だ。一部の地域では栽培もされているものの、水が豊富な地域の飼料として消費されている。それもこれも品種の改良が進んでおらず、コメ自身が美味しくないのだ。ところが以前、滅びた村で美味しいコメを見つけたので、今はエヴァーシ村の人にお願いして試しに作ってもらっている。


「そういえば、コメをエヴァーシ村で作ってるんだってね。本当に食べられるもんなのかい?」


「あのコメは大丈夫ですよ。癖もなくて美味しいお米でしたから、絶対に人気出ますって!」


 何より、醤油が出てきたのだ。ご飯に合う料理がどんどん開発されるはずなので、コメの未来は明るいはずだ。もちろん、私の和食生活もね!



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― 新着の感想 ―
エヴァーシ村は数年後くらいには米を街に売るくらいになれるといいね。 これと言って何も産業の無い村に特産品が出来れば、米の生産者もどんどん必要になるわけで、そうすれば働き手や現金収入も増えて「次男以降は…
[一言] 歩くのにアスカが、だいぶ疲れていますが、地面の上を滑るように移動していた魔法を今回の話では、使用しないのかな?
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