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アスカの呼称

無事にステージでの舞を終え、人々を元気づけることが出来た私たち。しかし、舞も行いこれ以上の滞在は本当にまずいので翌日、帰ることになった。


「本当に今回はありがとうございました。領主代行ともども町長の私からもお礼を言わせてください」


「いいえ。町の人たちが元気になってよかったです。それに、神像の買取まで…」


「あれに関しては町をあげて取り組ませていただきます。つきましては巫女であるアスカ様の呼称なのですが…」


「呼称?別に巫女でいいですよ」


「いいえ、そういう訳にはまいりません。これだけ町に貢献された方を他の人々と同じ呼び方はできません。町のみんなとも昨日話し合ったのですが、今後はアスカ様を”コルタの舞姫”と呼ばせていただきます」


「ええっ!?ま、舞姫だなんて…」


「いいんじゃない別に。町の人たちに昨日の舞が焼き付いた証拠よ」


「それだったらムルムルだって!」


「私は神殿に入った時からずっとやってるのよ。その私について来たどころかあんな不思議なことも起こったんだもの。コルタの舞姫、いい呼び名じゃない!」


「おおっ!同じ巫女様であるムルムル様もそう思われますか?」


「ええ。アスカは若干遠慮気味だからこういう分かり易い呼び名の方がいいわ。それにその呼び名にすればこれからも舞を頑張るだろうしね」


「そんなぁ~」


「いえ。私も見ておりましたが、2度目の1の舞の時はまるで別人のようでした。きっと、舞の名手になられるはずです」


うう~、それ私じゃないんだけどなぁ~。でも、誰だったんだろ?アラシェル様って感じはしなかったし。かと言って浮かぶ人もいないし、今はどうしようもないよね。


「それじゃあ、私たちはこれで」


「ありがとうございました」


町長さんが頭を下げる中、私たちは行きとは違い後発部隊の人が引いて来た馬車に乗り込む。ちなみに他の人の見送りは遠慮した。流石に町の人総出の勢いになりそうだって聞いたからね。それには町長さんも領主代行さんも難色を示して、町長さんが代表して病のまん延を防いだ旅の薬師を見送ったとしたのだ。


「ふぅ~、ようやく神殿に帰れるわね」


「だね。でも、もっと時間がかかるかもしれなかったから早期に解決してよかった」


「それもアスカのお陰だぞ。領主の方に依頼した部隊も催し物の前日にようやく到着したぐらいだ。やはり最初は先遣部隊だけだったしな」


「どうしても病となると経験豊かな薬師を数人近くの町から集めるから、そうなっちゃうのよね」


「どう感染するのかは分からないが、うつることは分かっていますからね。帰ったところで発症されるリスクを考えると仕方ありません」


「でも、ようやく神殿に戻れるんだね~。あっ、そう言えばテルンさんはどうしてるのかな?ちゃんとカレンさんから連絡行ったの?」


「そりゃあね。神殿にとっては私が現地に行ったことが大問題だもの。すぐに連絡が行ったと思うわ。アスカの方こそ大丈夫なの?」


「えっ!?」


「そうだ。確か、女剣士と槍士がいたのではなかったのか?」


「連絡行ってるよね…」


「まあ、テルン様があの宿に泊まってたから伝え聞いてはいるはずよ。アスカは手紙とか書き置きはないの?」


「…ないです」


「知らないわよ、私は」


「そんな!せめて町にいる時に言ってよ」


「言ったところで送る手立てがないぞ。後発部隊も往復したのは先日だろう」


そうだった。第2陣の後発の人たちはようやく日常が戻ってきた町の人たちの代わりに、残った患者の人を看ていたんだった。町の人は疲れが溜まっている人も多かったし、店を経営している人は再開に向けて動き始めたかったので、そうなったんだよね。ほんとはその日に往復する予定だったんだけど、食料とかはまだあったからそっちを優先したんだ。だけど、町の人には喜ばれたし臨機応変にやらないといけないよね。


「大丈夫かなぁ。ジャネットさん心配してないといいけど…」


「心配してるでしょうね。あの人、過保護なくらいアスカに構ってるし」


「そ、そっかな?毎回町に着いたら結構別行動だけど」


「いや、今ならわかる。あの剣士は同士だ、まず目が違う」


判っちゃうんだお姉ちゃん。しかも、同士ってことはジャネットさんもこんな感じになっちゃうってこと。う~ん、流石に2人はきついかなぁ。


「それにしてもこの馬車、紋章は入ってないけど豪華だよね。揺れも少ないし」


「まあ、紋章外しただけのものだからね。どこに行くにも紋章付きの馬車ってやっぱり不味いから、各地を回る時は行き先に合わせて変えるのよ。別の宗教が主だった国とかね」


「馬車ひとつとっても大変なんだね」


「それぐらい他の準備や行程に比べればなんてことないわよ。行先に出る主だった魔物に対応できる神官騎士の選抜とかもあるしね」


「どんな感じなの?」


「北に行くなら寒くなる季節は、数少ない火属性の神官騎士必須ね。迷ったり、天候悪化に出くわしたりした時を懸念してね。暖かい地方は氷使いを連れて行くし、他にも最近の病の有無とか騎士の出身地だったりすると、選ばれやすくなるわね」


「選ばれるのって志願制なの?」


「基本はそうだけど、さっき言った通り出身地だったりすると神殿から話を先にすることもあるみたいよ」


「そうなんだ。お姉ちゃんはそういうのあるの?」


「私はないな」


「意外!風魔法も使えるし、腕もいいのに…」


「だが、出身が王都北西の領地だからな。その地理では別に誰でもいいし、街道も発達している。フェゼル王国なら海を挟んだ南側や、北方都市ラスツィアより遠方でないと、対象にならないぞ」


「そっか~、大変なんだね。じゃあ、それ以外で付いて行くことはあるの?」


「ある程度はな。だが、毎回となるとバランスもあるし、中々難しい。以前はあの2人がいたしな」


「あの2人って前にアルバに来てた2人の騎士さん?」


「そうよ。どっちも貴族で腕も立つ。当然魔力も高いからパーティーにも連れて行けるし、便利なのよ」


「でも、男性だから難しいんじゃないの?」


「そう思うか?アスカはパーティーと聞けば何が思い浮かぶ?」


「う~ん、美味しい料理とか?」


「広い会場なら?」


「広い会場かぁ~。だったら、ダンスとかかなぁ~。あっ!」


「気づいたみたいね。貴族とか町の責任者のパーティーだとダンスとかもあったりするの。そうなると当然、エスコート役が必要よね。女性騎士にしてもらう訳にも行かないし、そういう時に彼らは便利だったの」


「今後はどうするの?」


「今後といっても別に同じような神官騎士はいるから心配いらないわよ。彼らはその筆頭だったってだけだし。それよりあと少しで着くから覚悟しておきなさいよね」


「覚悟、やっぱり必要だよね…」


「いまさら何を言っても始まらないわよ。出来るのってそれぐらいよ」


「心配するな。もし、パーティー解散になったら私がついて行ってやる!」


「お、お姉ちゃん、シャレにならないよ。しかも、ついてくるって神官騎士は?」


「アスカの安全に勝るものは無いからな」


「勝るものはあると思うよ。折角頑張ってなった神官騎士なのに…」


「いや、誰かを守るために騎士を続けるより、本当に守りたいもののために守る騎士の方がかっこいいだろう?だが、ついて行ったらアスカが迷惑をかけたと思ってしまうと遠慮していたが、1人になるなら関係ないからな」


「お、お姉ちゃん…」


「感動しているところ悪いけど、大丈夫だと思うわよ」


「はっ!?そうだった!それじゃあ、宿に寄ってから帰ってもらえる?」


「はいはい」


こうして、コルタの町から中央神殿の帰路についたのだった。



---

それから数か月後のコルタ


「うむ。寄付によって作られた台座もアスカ様の作られたアラシェル様の像も素晴らしい!町の中央に飾って見栄えもいいしな」


「そうですね、町長。魔道具のお陰で水など汚れもつかないように出来ましたし」


「ドーマン商会だったか?魔道具師も紹介してくれたし、ありがたいことだ」


「でも、このアラシェル様の像ってちょっと寄ってますよね。どうして、中央じゃないんですか?」


「それはな…」


「町長!ようやくできました!」


「おお!ナゲールか。ようやくか…」


「はい。シェルレーネ刻印使用許可証持ちの細工師の捜索から制作まで長かったです」


私はナゲール。アスカ様によって救われたコルタの町で薬師を目指し修行をしている。アスカ様が町を出発する前にアラシェル様のやや幼い絵を描いていただいた。その目的は…。


「これがその、アスカ様像です!!」


「おおっ!やや、成長したお姿ではあるが、まさにアスカ様だ!」


そう、私がなぜアラシェル様の幼い絵を依頼したかというと、アラシェル様の姿がアスカ様の大人になった姿に見えたからだ。アスカ様は謙虚なお方なので、アラシェル様の像と一緒に飾られると言えば絶対作ってくださらない。そこで思いついたのが、あの絵だ。残念ながらアスカ様制作ではなくなってしまうが、あの絵を元にアスカ様の像を作ってもらったのだ。


「では、町の代表者を集めるとするか」


そうして、町の領主代行様から前領主様夫妻まで訪れての完成式となった。


「前領主様までいらっしゃるとは…」


「私たちもあの子にはお世話になったのよ。ねぇ、あなた」


「ああ。邸の者が世話になってな。何か礼をと思っていたところだ。この像の件で何かあればすぐに言うがよい。伯爵家が誠意をもって対応しよう」


流石はアスカ様、すでに王国貴族の方ともお知り合いだなんて!


「それにしてもこの像、いい仕上がりね」


「はい!しかも、どういう訳かアスカ様の像に祈るとアラシェル様の像からわずかに光が見えることがあるとか」


「それは不思議だな。しかし、アラシェル様の像に祈った時ではないのか?」


「そうなんです。不思議なことにアスカ様の像に祈った時のみでして。最初はみんな目の錯覚かと思っていましたがどうやら違うようだと分かりまして…」


「きっとこの町の病を取り除いたことを女神さまも称賛しておられるのです」


「ナゲールの言う通りかもな。最初に祈ったのも彼女でしたので」


「なんにせよ。この町が救われたことをうれしく思う。今後は息子たちにも保養に来るように言っておこう」


「ありがとうございます」


こうして、このコルタの町はアラシェル教生誕の町アルバとともに、舞姫アスカが初めて舞を披露した場所として、後々聖地になったのだった。



おまけ 神界にて


「何でアンタの像じゃなくてアスカの像に祈った時に光るようにしたんだい?」


「だって、アスカのことであの人に負けなくなかったんだもん!」


「はぁ、それぐらい我慢しなさいよ。目立っちゃったじゃないの」


「でも、大人バージョンもそっちの方が後々いいって言ってたし」


「げっ!この神連中地雷だらけじゃない。まともな女神はいないの…」


ポン


「シェルレーネ。私は下級神であなたは中級神です。ですが、あえて言わせていただきますが、”げっ!”というのはいかがなものでしょうか?神の品格を落としてしまいますよ」


「アラシェル。神の品格なんてあんたたちのお陰で下がってるわよ」


「確かに普段の私は小さく思考も幼いですが…」


「思考のことじゃないわよ。アスカへの対応よ」


「話の途中で遮ってはいけません!それにアスカに対して最大限の配慮をするのは当然です。なぜなら…」


グダグダ


「もうやだ、こんな担当…」


「話を聞いていますかシェルレーネ。そもそも、神託というのは希少な地上との連絡手段で…、アスカは神界から見ているだけでも…」


「やれやれ、この2人は全く。アタシが見ておかないとね」


などと1万年もの間、子孫を見守っているグリディアはつぶやいたのだった。



このサブタイトルは2話前からの使い回しです。つまり…。

とうとう、アラシェル信者ではなくアスカ信者が誕生してしまいました。

当初から旅編は自重しないようにいくことを決めていたので、しょうがないですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「心配するな。もし、パーティー解散になったら私がついて行ってやる!」  この人は……(呆れ顔)  でも実際、実家へ神官騎士を辞める報告した時に、その理由が理由だし。  多分それが本家へ伝…
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