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コルタの領主と復興に向けて

いよいよコルタの領主の邸に向かうムルムルと私。もちろん、脇にはラフィネさんともう一人護衛の神官騎士さんがついている。


「じゃあ、さっきも言った通り降りる時も進むのもアスカからね」


「ほんとに私が前でないと駄目?」


「ダメ。公式訪問でないって証にもなるからね」


「邸に着きました」


邸に着くとムルムルの言葉通り、神官騎士さんが馬車の扉を開けて私をエスコートする。正直、街行きの恰好でもないのですごく不釣り合いだ。邸に入ると広間に通された。


「ようこそいらっしゃいました。私はこの町を預かる領主代行のエゼルと申します。この度は町の大事に駆け付けて頂いてありがとうございます」


「い、いえ。私はただの冒険者ですので」


「そんなことはありません。この邸で働いている家族の中にも病にかかっているものがいるのです。貴方は町の希望です」


「そうよアスカ。アスカのやったことは大きなことよ。みんなに終わりを見せてあげたんだから」


「終わりを?」


「ええ。病なんてものは国から派遣された調査隊が帰って、本隊が来て対応して初めて終りが見えるの。今回はその前に症状が広がらないようにできたんだから画期的よ」


「そうです。王国の調査隊も頑張りましたが、原因の特定をする前に多くが病にかかり、やむなく本隊の早期要請に行かせました。この場合はさらに小規模の部隊が先行して、本隊は手前の町に駐留することもあり長期化につながりやすかったのです」


「そんな…それじゃあ、もっと遅くなったかもしれないんですか?」


「そういうことです。領主様より派遣される部隊も領地混成部隊の時があるので、その後のことを考えるとうかつな動きは出来ないんです」


その後も今後の打ち合わせを行ったところで、ムルムルが話を切り出した。


「そうそう、代行様。アスカからの提案なんですが、お風呂を置いてもらうことは可能でしょうか?今回の件をまとめたものをお渡しするので、2人から4人向けの平民用です」


「大衆浴場があるのでは?」


「そこです。アスカの話によると本当は個人の方がいいのですが、病の時は個人で距離を取り、清潔に保つことが重要だそうです」


「なるほど…」


「あ、あの、出来れば病院の案を見てもらえますか?」


「病院?しかし、今でもそういうのはあるが…」


「多分、思われているのとは違うと思います。今ある病院って大部屋で隣室に魔法で治療する人と、薬室があるぐらいではないでしょうか?」


「そうですが、それでは足りないのですか?」


「費用は掛かるとは思いますが、もっといい環境が作れるんです。ここはシェルレーネ教としても大切な街だと聞きました。この町なら実験的に出来るのではないかと思います」


「…興味深い。ぜひ、それの草案をもらえないだろうか。必ず領主様にお見せする」


「ほ、本当ですか!」


「だけど、提出は神殿経由でこっそり時間を置いてよ、アスカ」


「どうして?」


「今、ここでコルタの領主代行からそんな案が領主に行ったら間違いなく、神殿との関係を疑われるわ。旅の薬師の活躍のうわさが必要なの。その活躍を待ってもたらされたのなら、貴族の要請を受けてアスカが教えたことに出来るわ」


「確かに…。これ以上お互いが接近すると他国からも言われかねません。重ね重ねありがとうございます」


「いいえ、神殿としてもこれ以上は問題になることですから。安心してアスカ。そのぐらい遅くなっても建築時期に影響は出ないから」


「ありがとう、ムルムル!でも、建築ってまだ決まってないよ?」


「決まったも同然よ。重病化はしにくいとはいえ、病名のわからない病を抑える手立てがあるってだけでも大きいのよ。それを実現できる施設なんて貴族がやらない訳がないわ」


「そうですね。王族や貴族は真っ先に興味を示すでしょう。何より、実績のあることですから、今までの対応が間違っていたかの確認にもなります」


「必ず、届けさせるからその間、町のことは頼みます」


「はい。お力添えばかりで申し訳ない」


「いいえ。それより、思ったより食糧なんかを融通してもらって助かりました。衣類や布類の新品は直ぐに尽きそうで…」


「私も報告を聞いた時は驚きました。洗濯をするにも持ち込まれた量が多く…」


「でも、必要なんです!特に子どもとかお年寄りはかかりやすいし、治りにくいので気を付けないといけないんです!」


「アスカ、落ち着きなさい。あなた、ここに来る時からちょっと変よ。予算だってあるんだから、やり易いやり方を考えていくしかないわ」


「…分かった」


「アスカ様は医学においてとても熱心な方のようですな」


「いえ。私自身がそのような環境で、手を尽くしてもらったことがあったので…」


「そうでしたか。こちらでもどこまでできるかはともかく、程度によって予算を出すことにしましょう。もちろんそれによるデメリットも考慮して」


「お願いします」


その後も少し話をしてこの町に病院を建てるのと、有事の際には今回のように臨時病床にもなる領主出資の宿を建てることを確認した。普段は貴族や裕福な商人向けの宿になるらしい。


「もう少し話をしたいところですが、巫女様方もお忙しいでしょう」


「そうね。話を聞いてもらえて助かったわ」


「いいえ。私どももこれで王国にも領民にも顔向けができるというものです」


こうして無事に領主の邸を出た私たちは町に戻ってきた。


「お戻りですか?」


「はい。状況は?」


「あれから、容体が悪化したものはおりません。しかし、一部のものはまだ体調を崩しております。これがそのリストです」


「分かりました。お姉さんを呼んでください」


私は昨日調合してもらったお姉さんを呼ぶと、今日も体調が悪い人のために薬を作る。私は指示するだけだけどね。


「こうして薬を作って、その人が元気になると嬉しいものね」


「元気なままの方がいいですけどね」


「それはそうね」


「そうだ!元気になるとはちょっと違うんですが、2種類の薬の作り方を教えます。これは知り合いの人に頑張ってもらったから誰でも作れますよ」


「どんな薬なの?」


「一つは睡眠薬の一種です。でも、これは副作用が少なくて2時間ぐらいしか効かないんです」


「2時間?短くないかしら?」


「これはどっちかというと眠りに付けない人が眠るためのものなので効果が薄いんです。一旦寝てしまえば起きない人には重宝されます。まあ、あまり多用はダメですけど。もう一つが栄養剤です。野菜とかの余った部分から作っていて、そういうものを取りにくい人に良いんです。それに薬草を混ぜたものなら体調を整えられますよ。こっちも一日1本までですけど」


ジェーンさんと協力して作ったこの薬なら町の人たちの力に成るだろう。


「ありがとう。本当にあなたはシェルレーネ様から遣わされた方ね。でも、アラシェル様という聖霊様を信仰しているんだったわね」


「はい!シェルレーネ様もすごいですけど、アラシェル様もすごいんですよ」


「私だけだと無理だけど、ぜひアラシェル様の像を町に飾らせてもらえないかしら?町長もきっと賛成すると思うわ」


「で、でも、この町ってシェルレーネ様を奉るレーネ湖のお膝元ですよね?」


「問題ないわよ。それにアスカは私があげた刻印使用許可証があるでしょ?あれを使えばいいのよ」


「こ、刻印使用許可証をお持ちなのですか?」


「まあ、ムルムルにもらったけど…」


「素晴らしいです!流石はアスカ様です。もう、様付けなくしては呼べません!」


ラフィネさんといいこのお姉さんといい大げさだよ。


「という訳だけど、ここに置けそうな像は持っていないの?」


「ないわけじゃないけど、持ってきてたかな?」


マジックバッグをごそごそと探す。あ~、これか。ほぼ完成している像があった。しかも、ちょっと厄介なものが。


「あるにはあるけど、大丈夫かな?」


「何か問題があるの?」


「いや、今までって家に置いてもらうとか商会にちょっと置いてもらうものを作ってたんだけど、神殿で紹介してもらえるようになったよね」


「まあ、そうね」


「だから、もっと分かり易くできるようにちょっと大き目の神像を作ってたんだ…」


「ちょうどいいじゃない!」


「目立っちゃうよ、これじゃ」


「いいえ!町の救世主の像になるのですからこれで構いません。ぜひ!」


「で、でも、話が済んでないんでしょ?流石にそれじゃあ…」


「分かりました、直ぐにみんなを集めて話をしてきます」


そういうと返事も聞かずにお姉さんは去っていった。



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