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薬師アスカ

何とか患者さんたちがいる建物を清潔な状態にした私たちは話をして休んでいた。


「おおっ!本当に巫女様直々に来ておられるとは…」


「あなたは?」


「このコルタの町を治める領主代行です」


「そういえば町に着いた時に衛兵に伝言を頼んでたわね」


「もっと早くにお目にかかるつもりだったのですが、邸に招こうとしたところそこの騎士に邪魔されまして…」


「巫女様はプライベートで来ておられる。当然、必要以上に王国からの干渉を受けるいわれはない」


「しかし、我々にも立場が。それに今この町では病が流行っておりまして…」


「それを聞いて私の友人が駆け付けるというのでついて来たのです。流石に護衛なしということはできませんでしたので、彼女の判断は間違っておりません」


「ですが、現状を確認いただくのにも邸にと思いまして…」


「必要ありません。むしろ、いままで私たちは彼女の指揮の下、この事態を解決するために動き回っていたのです。騎士の判断がなければ、それを阻害することになったでしょう」


「…流石は中央神殿ですな。もう解決策がおありとは。こちらは調査隊も病にかかり身動きが難しく、何とか応援を要請したところだったのです」


これがムルムルの言ってた神殿と王国との立場の違いかぁ。うう~、私には無理そう。ちょっと離れていると邸から人が出てきた。


「アスカ様、お待たせしました。こちらが各人の症状です」


「きちんと番号ごとに症状書いてもらえました?」


「はい。それでこれをどうするのですか?」


「私は薬の知識もちょっとあるので、それを元に臨時の製薬をと思って。ただ、レシピとか変わってるので参考になりませんけど」


ここでかっこよく症状に合った薬を作りたいんだけど、私の『特異調合』のスキルのお陰で、普通の薬は望めない。ならばと、アルバ出発前にフィーナちゃんから買い込んだシェルオークの葉を利用して万能薬を作り、それを薄めて使っていくつもりだ。もちろん、症状に応じて混ぜる時に個別に薬草を追加してね。


「そちらの方が?」


「そうよ。彼女はアラシェルという聖霊様の巫女なの。たまたま、ちょっと病に詳しいので来てくれたのよ。神殿としては彼女を客人として迎えておりますので、あくまでその要請に沿った行動です」


「こちらから何かできることはありませんか?」


「そうね…。まずは、今私たちがしてる行動を取ってもらうことね。手洗いやうがい、それにマスクなんかを町中で働く兵士にさせることと、それに伴う費用はもちろん持ってください。後は収まれば即時、商人たちに働きかけて戻ってきてもらうことです。すでに流通が滞りそうなんでしょう?」


「そこまでご存じとは…」


「町の住人が気づくのです。他の町の商人たちは恐らく知っているでしょう。それと治安維持ですね。それでも不安な人はいるでしょうから、きちんと兵士たちがいて町中が安全だということをアピールしてください」


「分かりました。邸には泊まられますか?」


「泊まってしまえば公式の訪問と取られます。こちらで手配します。後、今日と数日後には神殿から人が来ますのでそのことを門番に言って通させてください。必要な物資が運ばれますので」


「それはありがたい。すぐに手配しましょう。それで現状は?」


「とりあえず患者のいる施設を清潔な状態に保ちました。彼女の話ではこれで感染や悪化を防げるようです。それと、明後日ぐらいに食料も運んで来るはずですので、今ある食料をある程度供出してもらえませんか?見たところ患者は栄養状態が良くないようなので…」


「そちらも手配しましょう。ただ、兵士たちの中にも病に怯えるものがいるので、施設の前でよろしいですか?」


「…分かりました。ただ、不足があれば手配できるように配置をお願いします」


「感謝します」


それっきり、ムルムルと領主代行さんは話をせずにお互い必要な人と会話をしている。私はその間に万能薬を作っていた。


「薬屋さんはこの町にありますか?」


「一応ありますが、今の分では足りないのですか?」


「効力が強すぎます。これは薄めてそれぞれの症状にあったものを混ぜるんです。でも、そんなに薬草を持っていないので…」


「分かりました。すぐに呼んできます!」


「待ってよ。薬屋のおばさんは今邸だよ」


「そうか、最初にみんなを見てたから…」


その人は気のいい人で病が広がる前に一番に皆を見て感染したらしく、今は奥の部屋にいるとのこと。


「それじゃあ、来てもらうわけにはいきませんね。誰か付いて来てもらえますか?薬草を持って来ます」


「じゃあ、私が行くわ。あの人には昔遊んでもらってたの」


お姉さんと昔話をしながら薬屋に着く。


「ここですか?入り口というか受付は狭いんですね」


「そんなに病人なんて出ないから。でも、奥は結構揃ってるのよ。昔瓶を割って怒られたもの」


そう言って、奥の調剤が出来るところに通してもらうと、確かにかなりの種類だ。見慣れないものも結構ある。


「それでどれを持っていくの?」


「えっとですね…これとこれとこれ。この棚はこれと後あれもですね」


「そんなに一杯必要なの?」


「症状もたくさんですから。頭痛に寒気などでも種類が違いますし、複数の症状がある人と単一の症状の人で分けたりもしないといけないので」


「細かいのね」


「特に今回は皆さん体力が落ちてますからね。副作用にも気を付けて常に適量でないと駄目なんです」


「来てくれたのがあなたみたいな人で良かったわ」


「知ってれば誰でも出来ますよ」


「誰でもね…。ありがとう」


お姉さんと薬草を取り終えると邸の前に戻る。


「アスカ、戻ってきたのね」


「うん。作業再開だよ」


「何かまだ手伝えることある?」


「じゃあ、この薬草を分量ごとに分けるから調合してもらえる?」


「ええっ!?そこは自分でやらないの?」


「私、特異調合持ちだから失敗するかもしれないんだ」


「でも、私もそんなことやったことないわよ」


「私、やってみます!いえ、やります」


さっきのお姉さんが私たちの会話を聞いて名乗りを上げてくれた。


「経験は?」


「ありませんけど、見てたからちょっとは分かると思います」


「じゃあ、入れる順番とか横で言いますから慎重にやってください。こっちのもとになる薬品は次作れるとは限らないので」


「は、はい!」


「そうです。そっちの薬草はちょっとだけ…う~ん、秤とかあればもっと楽なんですけどしょうがないですね。これだけ入れてください。最後にこっちの万能薬を薄めたものを入れてできたはずです」


「ほ、本当?ちゃんとできてる?」


「そのはずですよ。ここって冒険者ギルドは?」


「受付だけの小さい支部なら…」


「鑑定系の魔道具を持ってる商人さんから借りれませんかね?」


「領主代行に一部権限をもらってるからそれを使いましょう。話してきてもらえる?」


こうして鑑定した薬はちゃんとできていた。


「私が本当に薬を出来るなんて…」


「この調子でバンバン作りましょう。夕食後までに全員分必要ですからね」


「ええっ!?ちょっと休憩は…」


「ダメです!私たちは後で休めますから」


「…分かった。やります!」


「アスカ様、少々お休みを…」


「ラフィネさん、気遣いはうれしいですが余裕がありません。明日以降は休めると思いますから」


「分かりました。分量は私も覚えますから明日は必ず休んでください」


「もちろんです」


そうこうしていると、門の方から音がした。


パカパカパカ


「後発の部隊です。誰か迎えに行ってください」


ラフィネさんの指示で騎馬隊がこちらに来る。


「お待たせしました、ムルムル様。アスカ様も」


「いいえ。よく来てくれたわ。物資は?」


「ひとまず、個人のマジックバッグと馬に乗せられるだけ。後は明日以降の部隊が」


「そう、ご苦労様。でも、よくそんな直ぐに許可が出たわね」


「枢機卿様や司教様が一度大きく動けば隠す意味もないと」


「流石というか思い切りいいわね。じゃあ物資を運び込みたいんだけど、都合のいい小屋とかないわよね?」


「ない訳もないんですが、浄化もしてませんし正直…」


「私たちの泊まる家は手配してもらったけど食料はね」


「取り合いにならないように管理も必要ですし、どういたしましょう?」


「ねぇ、ムルムル。私たちが泊まる予定の家ってどこ?」


「その先よ。何とか近いところにしてもらったわ。浄化の魔法は使ってあるから大丈夫なはずよ」


「その先は…大丈夫そう。そこの木ってもらったりできます?」


「えっ!?別に誰のものでもないけど…」


「じゃあ、貰いますね。お姉さんちょっとだけ作業待ってもらえますか?」


「ええ、いいけど…」


「ウィンドカッター!」


なら、遠慮なく。私は周辺の木を切り倒すとさっさと角材にする。


「後は石を四角に切って土台にしてと。ああ…アースウォールで基礎作らないと、その上に石で木を立てるけど、4隅の間を角材でつないで…」


「ア、アスカ。なにしてるの!?」


「小屋づくり。これぐらいならすぐだよ。板を作って上から床板を引いて行って、柱は溝を作って壁板をそこに滑り込ませてっと。屋根は…まあ、簡易だから適当でいいよね」


片側を楔型にして山形に組み合わせたものを軽く固定する。まあ、数日だけならこれでも十分だよね。


「はい、これで小屋は出来たよ。どうせ、護衛の人も交代で立つんでしょ?これなら大丈夫だよね」


「え、ええ、そうね。でも、あんた家も作れたのね」


「これを家なんて言ったら怒られちゃうよ。まあ、作ったこともあるけどさ」


「流石はアスカ様!このような時のために素晴らしい技術を身につけておられるとは」


「いや、ラフィネさん。そんなわけないです。たまたま、知ってたんですよ。屋根は時間がかかるので省略しましたけど」


「いえ、これなら持ってきた物資を効率的に置けます。流石、ムルムル様のご友人です。お心だけでなく手腕も素晴らしい」


他の護衛の人まで…。う~ん、ほんとに急作りのものだし、褒められるほどでもないんだけどな。


「あっ!」


「どうしたの?」


「ちょ、ちょっとだけ汗かいちゃったから…」


私は着替えに使った場所に入るとすぐにマジックポーションを飲む。


「うう…ちょっと魔法を使いすぎたみたいだ。でも、早く戻らないと心配かけちゃう」


1本では足りないのですぐに2本目を飲んでササッと戻る。


「ほんとに大丈夫なの?汗かいた様子はなかったけど…」


「気の所為みたい。さ、お姉さん製薬の続きをしようね」


「ええ」


それから、夕食までの時間を製薬に費やした。食事は町の食堂の人と騎士のひとりを中心に作ってもらった。食堂の人は料理全般を、騎士の人は体調が悪い時でも食べられる食事に詳しかったので、それを伝えてもらった。後は食材を切ったりするのに数人を手配してもらいやっと夕食になった。



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― 新着の感想 ―
[一言] >柱は溝を作って壁板をそこに滑り込ませてっと。屋根は…まあ、簡易だから適当でいいよね >たまたま、知ってたんですよ。屋根は時間がかかるので省略しましたけど  雨が降ってからじゃ遅いし、水を…
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