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レディトを後に…

 オークたちを退け、十分に休息を取った私たちはレディトに来ていた。


「ん~、最近は旅に出る前に細工を目いっぱいしてたから久しぶりかも!」


「そうだね。僕らは別で来てたけど、アスカはひと月は来てなかったもんね」


「来ちゃうと細工の依頼をもらいそうだったし、これ以上の追加はね。人気が出て来たのは嬉しいけど、旅に出るどころじゃなくなっちゃうよ」


「あたしからすれば、それで食っていけるんだから街にいてもいいと思うけどねぇ」


「駄目ですよ。旅に出て世界中を回るのが夢なんですから」


「はいよ。んじゃ、依頼の報告を済ませるかね。ついでに依頼も見ていくか」


「今受けられそうな依頼は薬草の採取だけですよ」


「旅のついでだし、それぐらいでいいんじゃないか? アスカは薬草の採取依頼を受けるのかい?」


「一応は。でも、アルナの食事にも使いたいので量は少なめにしときます。ここから先は分布も分かりませんからね」


 これまで私が見つけてきた薬草の採取場所は旅に合わせて、友人たちに教えてある。どんな情報も持っているだけでは宝の持ち腐れ。年単位で旅をする予定の私にはいらない情報だからね。私は採取が上手い方だけど、さすがに生息地が分からない旅の途中では薬草も貴重だと思って、今回採った分はある程度残しておくことにした。


「あれね。確かに疲れも取れるし、栄養もあるんだろうけど苦いよね」


「でも、アルナは美味しそうに飲んでましたよ?」


「飼い主に似て従魔たちも変わり者だね」


《ピィ》


 失礼なことを言わないでとアルナが反論する。えっ!? 私と一緒にされるのが嫌なのアルナは。


「ティタもその評には同意できません」


 私の従魔たちはもう少し、主人に対して尊敬の念を持って欲しいかな? ギルドでの報告を済ませた私たちはそれぞれ銀貨二枚を受け取った。この世界では銅貨・大銅貨・銀貨・金貨と十枚ごとに繰り上がっていく。ただし、大金貨だけは金貨百枚分だ。ちなみに銅貨一枚以下のものは数を増やしてきちんと銅貨一枚分の価値になるようになっている。

 宿は街で大銅貨三枚から、地方だと大銅貨二枚ぐらいが相場だ。食事は大銅貨一枚ぐらいだから、今日一日の稼ぎだと大体三日間生活が出来る位かな? でも、一日仕事だし装備とかも考えたら十分ではない。冒険者はこれでも結構大変なのだ。


「ほら、清算も済ませたしさっさと宿へ行くよ」


 ジャネットさんの合図で私たちは今日の宿に向かう。今日泊まるのはいつも泊まっている宿だ。カップル風呂って言う二人用のお風呂が売りで、最近お風呂の数を三つに増やしたらしい。何でも長風呂をする人が増えたみたいでそうしたんだって。レディトは街だから土地も高いだろうに宿のお姉さん頑張ったんだな。


「こんにちは~」


「あらアスカちゃん久し振りね」


「はい。今日は旅の途中で寄りました」


「旅? しばらくこの辺には帰ってこないの?」


「そうですね。多分、数年は帰ってこないと思います」


「そうなの、寂しくなるわね。今日は今までのお礼も兼ねてサービスするから泊まっていってね!」


「ありがとうございます」


「ううん。アスカちゃんがアイデアを出してくれたカップル風呂が大盛況だからそのお礼よ」


「そういえば、お風呂の数増やしたんですね。土地だって高いのにすごいです」


「まあ、うちの宿の売りの一つだからね。後はレストランのスープの素もいい売れ行きよ。うちでも使ってるけど、分量も量りやすくて味付けに入れていた野菜がなくなって助かってるのよ」


「あれは私のアイデアを形にした人たちがすごいんですよ」


「いいえ。アイデアがないと考えられないものだったもの。今日は期待しててよ」


 部屋に案内されて料理を待つ。まだ夕食まで二時間ほどあるのでその前に……。


「ちょっと細工の納品してきます」


「あいよ。んじゃ、リュート誘っておいでよ」


「そのつもりです」


 私は同室のジャネットさんに出かけることを告げて、リュートの部屋に向かう。私たちは男一人、女二人のパーティーなので宿は二部屋だ。もちろん、男女一緒に泊まるパーティーもいっぱいいるけど、そこは私たちもC ランクパーティー。宿の部屋を男女で分けられるぐらいには儲けてるからね。


「リュートいる?」


「どうしたのアスカ?」


「時間があるから今の内に細工を納品しようと思って」


「分かった。すぐに行くよ」


 私はリュートと一緒にレディトで細工を納品している、ドーマン商会に向かった。


「店長さんいますか?」


「はい、アスカ様。少々お待ちください」


 私は十五歳だけど商会の取引相手ということで丁寧に対応してもらえる。通される部屋には直ぐにお茶とお菓子が用意されるからそれがちょっとした楽しみだ。数分待つと店長のトーマスさんがやって来た。


「いつもお世話になっております。ですが、納品には早いのでは?」


「それなんですけど、前からお伝えしている通り旅に出ることになりましたので、今日はまとめて納品しようと思って……」


「分かりました。今後の納品ですが、旅のついでで構いませんので納品いただける場合は商人ギルドへお願いします。ギルドの納品便でこちらに届くよう手配しておきますので。もちろん、配送費に関してはこちらでお持ちします」


「それって『トリニティ』名義でも構いませんか?」


「ええ、結構です。こちらでも納品の実績はあげておりますので、簡単に受付できるでしょう」


 トリニティというのは私を代表とした商会で、今まで活動はジャネットさんを中心に行っていた。というか、知らない間にやってくれたみたいだ。何でも、私が取引をしている中ですぐに高い報酬を遠慮してしまうから、その差額を埋めるのに使っていたらしい。なので、私は旅に出る直前に知ったけど、すでにトリニティの名義で金貨三十枚以上入っている。

 そんなトリニティ商会の今後の方針は納品時に代理を立てること。代表者は誰でもいいけど、取引時には取引した人の名前が載るので、常に代理を立てれば代表者の名前は目立たないってわけだ。


(転生者が巻き込まれやすいのはその言動が目立つからだ。貴族の追及をかわすにはこれが一番だよ)


 ※アスカは偏った知識があるため、貴族は危険な集団だと思っています。



「……スカ、アスカ!」


「ん、リュート?」


「それで、納品するもの出さないの?」


「おっと、そうだった」


 考えごとをしていて周りの話を聞いてなかった。私はマジックバッグから今回の納品分を出す。


「ほ、本当に多いですね……」


「はい。いなくなって直ぐに在庫切れは申しわけないので、頑張りました」


 普段なら二か月で十点前後の納品だけど、今日は四十点ほど持ち込んでいる。普段、二個ぐらいの魔道具も今日は六個用意した。


 一つはアクセサリだけど、魔力を込めることで守りの壁が作られる仕様だ。風の魔法を使っているので、不可視なところもいいと思っている。


「アスカ様、こちらは買い切りでよろしいですか? それともいつもと同じ販売後に振り込みでしょうか?」


「買い切り?」


 聞きなれない言葉だ。


「買い切りとは多少安くはなりますが、即金にてお支払いいたします。旅をなされるということで手持ちに不安があればこちらを。いつものように販売実績毎でしたら、旅をしておられますので二か月に一度、まとめて振り込ませていただきます」


「いつも通りで構いません。今はそこそこ貯まってるので!」


「分かりました。私ども商会員一同も旅のご無事をお祈りさせていただきます」


「ありがとうございます。それじゃあ」


 用事も終わり商会を出る。こう見えても私は今、金貨百枚近く持っているから資金には余裕がある。トリニティの資金も合わせると百三十枚だ。私のメインウェポンは弓と魔法。弓は良いものを一つ持ってるし、魔法は杖を一本持っている。矢は消耗品だけど安価だ。

 そんなわけで、冒険者として稼いだお金は結構手元に残るから細工の販売金と合わせて貯まるんだよね。これが前衛となると、属性武器各種と鎧などの防具が必要でかなりお金がかかるらしい。


「んで、無事に納品は出来たかい?」


「はい!」


 宿に戻りリュートと別れた私はジャネットさんとお話をする。食事までまだ時間があるので雑談タイムだ。


「そういや、リュートのやつは何してんのかね。ノヴァもいないし、一人だろ?」


「どうでしょう? 本でも読んでるんじゃないですか?」


「あいつも本好きだったか。そういやあんたも分厚い本持ってたよね?」


「『ガザル帝国所感』ですね。まだ冒頭ですけど、下位の貴族がガザル帝国のことを思ったまま書いてるみたいで結構面白いですよ」


「あたしはパスだね。面白いって言いながらあれ、辞書引いて読んでるんだろ?」


「まあ、ガザル帝国は二百年以上前の国ですし、今使われている共通語を頑なに拒否していた国ですからね。でも、文章自体は堅苦しくないから読むのは苦ではないですよ。お勧めされた本の中には共通語でも読めない文体の本もありましたし」


 私は転生者特典で文字の読み書きは出来るけど、残念ながら全言語ではない。共通語と言われる、この世界で恐らくどこでも通じるであろう言葉以外は無理なのだ。だから、この帝国の本を読む時は辞書を引いて読んでいる。一見大変だけど、娯楽も少ないこの世界だといい時間の消化の仕方じゃないかな? 一応、ガザル帝国で使われていた帝国語は他の旧言語と似ていて、今後も古語の本を読むなら無駄にならないらしいしね。



 こうして、レディトで一泊した私たちは翌日、目的地である細工の街ショルバを目指して歩みだした。


「二人とも用意はいいかい?」


「「はい!」」


「んじゃまずは王都街道を北上するよ。左手に山が見えたらそっちに入るからね」


「どれぐらいで横道にそれますか?」


「丸一日かね」


「遠いですね」


「あたしたちは別に王都に寄っても良いんだよ?」


「喜んで歩きます!」


「じゃあ、出発だ」



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― 新着の感想 ―
アスカがここまで頑なに王都を拒むのは、アスカの思い込み以外にも「本当に王都に行くと貴族に囲われてしまう」という危険性があり、それをアラシェル様の加護で本能的に遠ざけさせているのかな?
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