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魔道具とスクロール

マディーナさんが私に手紙を書いて会いたいと言っていたのは、魔道具の変換効率の件だった。ティタから私もきちんと聞いたのは初めてだったのだけど、魔道具を作る際に補助として使われるスクロールは付与成功率を上げてくれる。その組み立ては基本陣形があり、そして実際に作る際に各属性の陣が組まれて生成される仕組みだ。


「それで、各属性の陣を作る前の基本陣形を専用の属性の陣に置き換えるのね」


「うん。そうすれば、いい」


ティタが言うにはその基本陣形をあらかじめ作りたい魔道具の属性の陣形にしておく。そして、実際に付与する時にその属性の陣を乗せてやることでより効率的な魔道具になるという。


「う~ん。確かにこれは盲点だったわね。スクロールは別に誰が作ってもさほど品質は変わらないって言われてたし、変にいじると成功率に関わるから失敗の時のリスクが大きいものね」


クズ魔石でも数が多くなれば結構するし、ある程度の出力が出せる魔石でないと評価しにくいということもある。そうなると膨大な失敗作はどうなるかということだ。金貨1000枚単位の研究になるという。


「で、その各属性の基本陣形ってどうやったらわかるの?」


そんな疑問をムルムルが言った瞬間にみんなピタッと動きが止まった。そうだよね、そんなことみんな知らないよね。スクロールだって、ただ買ってるだけだし。


「そう言われると辛いですね」


「マディーナもスクロールは買うだけだったな」


「別にどこでどう買おうと品質は一定だもの。昔試しに銘入りのものを買ってたでしょ?あれ全く変化なかったわよ。紙の質はよかったけど」


まあ、ティタの話が本当なら大事なのは陣であって何に書いてあるかじゃなさそうだしね。


「ティタは各属性のわかる?」


「うう~ん、LV3をこえれば」


すごくふわっとした答えだった。でも、ティタによると単属性でLV3を超えると効率的な陣の書き方が浮かんでくるんだという。それ未満だと使えるけど説明できないんだとか。


「そう…残念ね。もし解るんだったら土属性とかも聞きたかったんだけど」


「マディーナさんは多属性持ちだったからね」


「流石は『水の聖女』ね。研さんに余念がありませんわ」


「おやめください、ムルムル様。その呼び方は巫女様方に失礼です」


「でも、神殿に寄付もするし孤児たちの面倒も見てくれるし、いいじゃない?」


「ですが、聖女という呼び名は巫女と同じ扱いの宗教も多いです。恐れ多いです」


「そうです。聖女だなんて呼び名はよくありません」


「アスカ?」


「ん?どうかしましたか」


「い、いえ。ですが、水の陣形だけでも教えて頂けますか?決して外には漏らしませんから」


「私は構いませんけど、ティタ大丈夫?」


「うん。おしえる。かわりにませきと、あすかにもつくる」


「分かった。アスカの分は私が最高の力を込めて作ってあげるわ。魔石も飛びっきりのを用意するわね」


「えっ、そこまですごいのはいいですよ」


「何言ってるのよ。これはどんな魔石で作っても後々おつりがくるぐらいのことよ。もっとも実力があってのことだけどね」


他にも効率的な配置や魔石の他にも魔力を含んだ鉱石など、魔道具に必要そうなことを聞きたいとのことでティタはマディーナさん預かりになる感じだったんだけど…。


「それならば私も一緒に研究させてください。これでも魔力には自信があるんですよ」


そう名乗りを上げたのはテルンさんだった。元々の魔力に加え、巫女としての上昇分があってテルンさんの魔力はほぼ私と同じぐらいだった。セティちゃんが巫女になってこれでも少し下がったんだそうだ。巫女強い。


「でも、研究はどこでするんですか?流石に神殿内部で研究してたら人目に付きますし…」


「そうね。なにかゼス枢機卿に頼んで外に出向く依頼を作ってもらいましょう。その間、私はここに泊まるわ」


「良いんですか。そんなことをして」


「これは護衛をしてくれる騎士たちのためにもなることだもの。彼らの危険を減らすためなら多少は無理を言ってもらうわ」


「じゃあ、テルン様はこのまま宿ね。私は支配人に話してもう3部屋取るように言うわ」


「3部屋?2人だし2部屋でいいんじゃない?ムルムル」


「何言ってんのよ。護衛がいないと流石に許可自体下りないわよ」


どこまで行っても警備が必要なんだな。私だと気疲れしちゃうよ。こうして、話もひとたびまとまったので一旦、神殿に帰ろうとしたのだけど、折角ジャネットさんたちにも会えたのでちょっとだけお部屋で話をする。


「そういえば2人とも静かだったね」


「あんたねぇ。Aランクの冒険者2人に巫女が2人。そして、神官騎士が扉の向こうから気配を探ってるんだよ。どう発言しろって言うのさ」


「僕もだよ。本当にこういうことはダメだよ。事前に知らせてくれないと」


「ええ~。だって、別に貴族とかじゃないし…」


「アスカのその分け方は何なの。下手な貴族よりもよっぽど大変だよ」


「でも、リュートだってセティちゃんには普通に接してるよね?」


「セティ?あの子が何なの?」


「えっ!?シスターさんから聞いてない?あの子も巫女なんだけど…」


「あっ、バカッ!」


「そ、そんな…シスターさんは見込みがあるからって一緒に勉強してるって…。確かに、それだけじゃ説明しきれない部分も…」


「みんなに避けられない様にって、時期が来るまでは伏せられてたんだよ。全くもう…」


「そんなこと、知らなかったんですよ」


「まあ、元気でやってるようでよかったよ。出発する前日位になったら呼びなよ」


「はい!」


もうちょっと話していたかったけど、リュートが使い物にならなくなったのでちょっと早めに切り上げて、神殿に戻ったのだった。


「アスカ、こっちは大丈夫よ」


神殿に戻ると早速、ムルムルはゼス枢機卿様に連絡を取って依頼を作り出すことに成功した。


「あれ、テルン様は?」


「カレンにはまだ言ってなかったわね。ちょっと用事が出来たから数日留守にするわ」


「大丈夫なの?」


「その許可もさっき貰って来たとこ」


その後は楽しくおしゃべりしていたんだけど、ドア前に立っていた神官騎士の人から声がかけられた。


「何?」


「急用だと司祭が言っているようです。お時間は大丈夫でしょうか?」


「急用?司教様は?」


「現在、教会で対応中でしてこちらに話が来たようです」


「分かったわ。すぐに向かうから部屋の用意を」


「はっ!」


「急用ってよくあるの?」


「あるわけないでしょ。もしかしたらケガ人かもしれないし、アスカも一応来てもらえる?」


「分かった」


私はムルムルとカレンさんと一緒に用意された部屋に行く。


「巫女様、わざわざ対応していただいてありがとうございます」


「いえ、それで急用とは?」


「はい!それなのですが…そちらの方は?」


「来客よ。ケガ人だと思ったから一応来てもらったの」


「そうでしたか。ケガ人ではないのですが、私はレーネ湖より北にある小さな町の司祭をしております。そこでは今、病が流行っておりまして…」


「そうなの?報告は貰っていないけれど…」


「最初は大した症状ではなかったのですが、どんどんと広がり、今ではかなりの人数がかかっています。今日は何とか助力いただけないかと急いで来たのです」


「それは分かったけど、王国の対応は?」


「それが、疫病の広がりが急で調査隊止まりで。その調査隊も数人罹患し、十分に対応が取れない状況なのです」


「その人や病にかかった人たちはどうしているの?」


「現在は町の広い家にまとめて収容しています。気温も下がってきているので、部屋も暖めているのですが一向に良くならず…」


「それって、換気ちゃんとしてますか?」


「換気?しかし、それでは冷えてしまいます」


「病気が空気感染するならちゃんと換気しないと駄目ですし、面倒を見る人はちゃんとアルコールで手指消毒とかしてますか?」


「くうきかんせん?しょうどく?」


「アスカって薬師の娘だったわよね。医術も詳しいの?」


「そんなことないよ。それぐらい常識だと思うけど…」


この世界はこういうこともまだ未発達なのかな?そういえば、歴史の授業で昔は流行り病はすごくたくさん人が亡くなったって言ってたっけ。


「巫女様!無礼を承知でお願いいたします。どうか、この方を遣わしてはくださいませんか?」


「無理ね。知識だけはともかく、この方は巫女が招いた方です。そのように危険のある場所に行かせるなど到底容認できません」


「そうです。確かに、アスカ様の知識は素晴らしいかもしれませんが、それを死地になるようなところに送るなど、神殿として無理です」


ムルムルに続いてカレンさんも否定する。しかも、結構口調は強い。どうやら私が客人であることが一番の障害なようだ。


「しかし、私どもでは知識をうまく利用できるか…」


「解決策が少しでも浮かんだとするしかないでしょう。それに、本来これは王国の管轄よ。あなた、相談とか報告はしているの?調査隊は王都や領主に相談はしてるか把握している?」


「そ、それは…。調査隊も被害の少ない時期に送られたので、何分指揮系統も未熟で…」


「心苦しいとは思うけど、下手に対応してしまうと王国とのバランスが失われるわ。国にシェルレーネ教が入り込むことはあってはならないのよ」


「くっ!」


双方立場がある。司祭さんは無理を押して協力が欲しい。ムルムル達も協力したいけど、王国から依頼もないのに勝手に行動しては政治に関わってしまう。ここは…。


「あの…私行きます!」


「アスカ!?」


「大丈夫だよ、ムルムル。私は旅人だからたまたまそこが目的地になることもあるもんね」


「だけど、危険よ!どんな病かもわからないし」


「でも、知ってる病なら薬も作れるかもしれないし、魔法で治せるかもしれない。このままここでお話してるのも楽しいけど、それは違うと思うんだ。だって、2人もほんとは行きたいんでしょ?」


「そりゃ、そうだけど…」


「司祭様、直ぐに向かいますからおおよその位置を地図で教えてください。いいですね?」


「ほ、本当によろしいのですか?安全の保障はできません」


「良いんです。私も多くの人に診てもらいましたから」


たとえそれで助からなくとも、必死に手段を探してくれたり、励ましてくれたりしたあの日々に背を向けることはできない。


「…分かったわ。カレン!私も行ってくる。ゼスには伝えておいて」


「ええっ!?む、無理ですよ。そんなところに許可なんて…」


「取れないなら、今すぐにでも巫女なんてやめるっていえばいいわよ。アスカが行くのに私は待ってるなんて、ダメ。それにアスカがどうしてその町に行くのか説明がいるでしょ?」


「うう~、必ず帰ってきてくださいね」


「もちろんよ」


神殿で楽しく過ごしていた私たちは一変、疫病に侵された町に向かうこととなった。




本来ここから街編だったのになぁ…。

5章は病気関連となります。あくまでこの世界のことであるかもしれない誤った知識や

病気表現が気になる方は飛ばしてください。

8話程度を予定しております。



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