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神殿を回って

「ここが一般エリアだアスカ。今は10時前ぐらいだから、商人や商店を持っている人は来ないし、一般人も買い物に行く時間だから一番人が少ない。巫女様を連れているのだから一番いい時間だろう」


「そうなんだ。ありがとうお姉ちゃん。でも、巫女がここに来ることってあるの?普段は区画も別れて生活してるのに」


「別に毎日じゃないけど来るわよ。ただ、あんまり入り浸ると警備とか色々あるからいい顔されないけどね」


「そうですわね。お勤めの関係もあるけれど、あまり巫女が人前に姿を現すと神秘性が薄れるということでいい顔をされませんの」


「う~ん。でも、みんなが応援してくれるからここがあるんですよね?」


「そうです。だけど、神殿ってここだけじゃなくて王都はもちろん他国にもたくさんあるから難しいんです。私も昔、そう言われました」


ちょっと意外だ。カレンさんってあまり外出するイメージがなかったけど、そういうところはすごくしっかりしてる。やっぱり巫女ってすごいんだな。体が弱いのに努力して舞を身に付けたって言ってたし。


「おおっ、巫女様だ。それも揃っておられる」


「まぁ、本当だわ。いつぶりかしら、ご一緒の姿は…」


足を踏み入れるとすぐに祈りに来た人に目線を向けられる。何やら神殿の人とも話しているし、普段からよく来ている人らしい。


「あら、こんにちは。今日もお元気そうですね」


「はい。巫女様たちのおかげですわ」


「いえ、いつもありがとうございます。見習いの子たちも差し入れて頂いたお菓子を気に入っていました」


「それはよかったわ。私たちの好きなものなんだけれど、どうしても若い子の好みになるとね…」


私が誰だろうと思っていると、小声でラフィネさんもとい、お姉ちゃんが教えてくれた。


「あの方々はレーネ湖周辺を治める領地の先代領主夫妻だ。あそこの領地の方は引退されるとこうやって神殿の町に居を構えて熱心に通われてな。寄付はもちろんのこと、よくお土産も頂いている。巫女見習いたちも頂くこともあるんだぞ」


「へ~、いい方だね」


それに見習いの人にまでお土産だなんて結構しちゃうんじゃないのかな?貴族みたいだし、50円の駄菓子でって訳には行かないよね。


「そういえば、今日は見慣れない方もいらっしゃいますな」


「ああ、この子はアスカと言って私の友人で聖霊様の巫女なんです。たまたま訪れた先で気が合って。今は旅をしているということでちょっと案内しているんです」


「あら、そうなのね。ちょうど、うちの孫と同じぐらいかしら?でも変ね…」


「どうかしたのか?」


「どこかで見たような気がしたのよ…。初めてお会いするのにね」


「あはは、気のせいですよー」


親は貴族らしいし危ない危ない。王国的にも神殿近くの土地の貴族だし、もしかして身分の高い人なのかも。


「どこだったかしら?引退の時のパーティーだったような…」


「そ、それより奥様。本日はどうか一緒に祈りませんか?彼女を案内の途中でして、ぜひどのように一般の方が祈っているか見せてあげたいんです」


「そう?それもそうね。では…」


そう言って、貴婦人は祈り始める。でも、元貴族家の当主の夫人だし一般人とは言えないような…。


「あれ?でも、シェルレーネ教は昼の一回のみ祈るんじゃなかったの?」


「もちろん決まっているのはそうよ。でも、祈ること自体は別に個人の自由だから。だけど、強制的にやらせるのは天罰下すって言われてるから、そう言うことは起きないの」


「天罰下すかぁ…フフッ」


思わずそう言っているシェルレーネ様を思い浮かべてしまった。


「あら、どうかしたの?」


祈りを終えられたので話しかけられた。


「いえ、シェルレーネ様が『天罰だよ』って言ってる姿を想像したら面白くて。すみません…」


「いいえ。あの方は実に明朗活発な方と聞いておりますから。貴女は何と言う聖霊様の信者なのですか?」


「私はアラシェル様という女神さまの信者です」


「まあ、巷で噂になっている聖霊様ね。うちの産気づいた子がお守りに買ったと言っていたけれど、とてもきれいな木像だったわ。あらいけない。うちの子って言うのは邸で働いている子のことよ」


「へ~、それは心配ですね。私もお祈りさせてもらいます」


昨日見た見習いの子のお祈りの姿を真似て祈る。


「どうか妊婦さんとその子どもが無事でありますように…」


「ありがとう。流石は巫女様のご友人ですわ。彼女も喜びます。もしよろしければあの像を作った方をご紹介いただけないかしら?無事に生まれたら、同じ細工師のものと言って渡したいのよ」


「あ、え~と。わかりました、ちょっと待ってくださいね。実はその人の作ったものを何点か持っているので持って来ます」


そう言って私はリュックを取りに部屋に戻ってすぐに帰ってきた。


「お、お待たせしました。今おすすめなのはこの三つです!」


私は持ってきたブレスレットとイヤリングとブローチを近くにあったテーブルに置く。


「まぁ、悪いわね。どれも綺麗であの子も喜びそう。あら?これは…」


「気になったら手に取ってください」


「そう。では失礼して」


夫人はお付きの人から手袋を受け取り順番に見ていく。


「素手でも構わないですよ」


「いいえ。立派な美術品ですもの。それでは失礼ですわよ。それにしても、どれもいい出来だわ。あら?ブレスレットに使われているのは魔石かしら?」


「はい。一応生活魔法ぐらいは使えます。ちょっと変わった術式らしくて、効率がいいみたいですよ」


「なるほど。でも、あの子はそれなりに魔力があるからこれは必要なさそうね。生活魔法用の魔石を使っているからかこの中では一番、細工物として価値は低いし別のにするわ」


流石は元領主様の奥方だ。一目で細工の価値を見極めたみたい。きっと、その時代はもっといいものを見てきたんだろうなぁ。私もちょっと見せてもらいたかったかも。


「ブローチはいい出来ね。それも、彩色が見事だわ。彩色に関しては結構大変なのよ。注文しても粗があったり、付ける当日までに色味が変わったりと苦労してきたの」


「頑張って細工しましたし、塗料の配合も気を付けたから大丈夫ですよ。彩色自体は慣れっこですし!」


「アスカ、ちょっと…」


「あっ!?って、その人が言ってました!」


「そうなの?そう…。最後のこれは確かショルバで見たわね。2重水晶だったかしら?珍しいけれど、水晶で覆うだけだし最近は廃れ気味なのよね」


「あっ、それはちょっと頑張って作った…と言ってたやつです。キショウブという花をモチーフにしているんですが、一番外の淡い水色が水面を、2番目が茎を、最後の3番目がキショウブの花を形取ってるんです」


「レーネ湖の一部にも生えていたわね。縁起もいいしこれにするわ。でも、3重の水晶だなんてすごいわね。確か、私が行った時には並んでいなかったと思ったのだけれど…」


「最近、並ぶようになったんです。ここに来るまでに神殿に合う物をって作った新作なんですよ!」


「なら、まだ市場に出ていないのね?」


「そうですね…。もうちょっと数が出来たら出すんですけど、作るのが難しくて中々出来ないんですよね。失敗とかもあったりで…」


「ジョーンズ」


「もちろん構わないよ。これだけの物、次のパーティーに付けていこう。彼女にとっても友人たちにもいい土産話だ」


「えっと、仕えている方へのプレゼントですよね?」


「そうよ。でも、使用人にプレゼントって言うのも難しいのよ。立場もあるし、一番簡単なのは私が一度付けたものを下賜することなの。これならパーティーに付けていっても問題ないし、むしろ彼女にはあげやすいわ。真面目な子でそういうことも気にするの。それに、とても苦労してきた子であげたいのは山々なのだけれど、1人を特別扱いする訳にもいかないからぴったりね」


「あっ。でも、ちょっとだけ高いですよ」


「おいくらかしら?」


「金貨7枚の予定です?」


「えっ!?アスカこれそんなに安いの?」


「や、安いかなぁ?」


「安いですわ。私も子爵家の令嬢として色々つけますが、この細工と彩色のものだと金貨10枚では買えませんわよ」


「まあ、一般向けのものですから。貴族の方に卸すのは仕入れ以外にも費用が掛かっていると思いますし」


「では、こちらはまだ市場に出回っていないということも付加価値として金貨15枚ではいかがでしょう?」


「ええっ!?平民価格でお願いします」


「いいえ。その代わり、市場に流すのを待ってもらいたいの。数日後のパーティー以降でお願いするわ」


「そ、そんなの大丈夫ですから!せめて、金貨10枚で!それ以外なら売りませんからね」


「困ったわね…」


「仕方ないじゃないか。彼女がこう言っているんだから」


「あなた…」


見かねた前領主様が間に入る。少し2人で話をするとまとまったみたいだ。


「分かったわ。その代わり、この見事な細工を売ってくれた人として彼女に紹介したいから、パーティーが終わったらもう一度神殿に来てもいいかしら?」


「それは構わないですけど、妊婦さんなんですよね。大丈夫ですか?」


「もう少し先の予定だから大丈夫よ。じゃあ、約束ね」


金銭に関しては後日のやり取りになり、先にイヤリングを渡す。まあ、神殿の人と顔見知りだし、万が一直ぐにもらえなくても神殿経由で渡してくれるから大丈夫だ。


「それじゃあ、購入ありがとうございました」


「いいえ。こちらこそ素敵な細工をありがとう。こちらの細工師さんはどちらの商会に所属の方なの?」


「トリニティってところです。でも、普段は卸専門なので細工とかはドーマン商会までお願いします」


「ああ、あそこね。ありがとう」


夫妻と別れて案内を続けてもらう。


「このエリアはあんまりアルバと変わらないね」


「まあね。大体、ここが変わっちゃったらイメージが変わるからできるだけ同じにしてあるのよ。もちろん、村と都市だと違っちゃうけど」


「他に回ってないところは?」


「う~ん。神殿外の外周部には水路と木が植わっているけど、見るほどのものは無いわね。物々しくなっちゃうし」


「じゃあ、いい時間だし戻りましょうか」


「そうですね。あんまりここに居ると目立ちますしね」


こうして神殿の案内は終わったのだった。




アスカさぁ、ちょっと褒められたら身バレするのよくないよ。

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