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案内 教会エリア

「ムルムルお待たせ!そっちはどうだった?」


女性騎士の生活エリア見学途中で、私の身辺調査のために離れたムルムルと合流する。


「ゼスの信頼できる人にちゃんと頼んだから大丈夫よ。ちょっと時間はかかるけれど、こっちの人員で届けるから」


「でも、私旅をしてるんだけど…」


「構いませんよ。おおよその移動ルートだけ仰ってもらえればこっちで見つけますから。それに、普段あまり休暇を取れない人たちなので、いい休みになります」


「そうなんですね!それじゃあ、お願いします」


「あんたの頼んだ部隊って…」


「しっ!聞こえますよ。では、案内を続けましょうか」


「次はどこに行くんですか?」


「次は信者の方たちが訪れる教会エリア…の手前になります。普段は目にすることのないところですね」


「何だか神聖な気がします」


「そんなことはありませんわ。どちらかというと信者の方と直接会う前の場所になりますから実務的な場所ですの。会話のメモや筆記具だったり、簡易の化粧室だったりと人と会うのに必要な場所ですね」


「そうです。そこにはおっきい鏡もあって、そこでみんな最後の身だしなみチェックをするんです。私は苦手ですけど…」


「鏡を見るのは私も苦手です。カレンさんとお揃いですね」


「アスカ様もですか?意外です」


「そうよね。こんな美少女つかまえて鏡が見たくないだなんてどういう了見なのかしら?」


「それはその…私の顔って結構アラシェル様に似てるから。しかも、年々似て来てるんだよね。ほら、ムルムルだって自分の顔がシェルレーネ様に似てきたら思うところがあるでしょ?」


「うっ、そう言われるとそうね」


「はぁ~、アスカ様はアラシェル様のお顔を覚えていらっしゃるんですね」


「えっと、まあ、巫女ですから」


「アスカ、言っとくけどそれ常識じゃないからね」


「ええっ!?で、でも、シェルレーネ様は神託も多いって…」


「確かに神託は多いけど、ほとんどは頭の中に言葉が残るぐらいよ。その後で祭られている神像を見て『ああ、こんな感じの姿だった…』ってなわけ。しかも、そう思えるのも重要な神託の時だけで、普段のどうでもいい時はそれすらないわよ。言葉だけが残ってるのよ」


「そうだったんだ…」


「アスカ様には巫女の舞の他にも覚えて頂くことが増えたみたいですわね」


「そうね。こんな巫女が一般的だと思われたらこっちが困るわ」


「そ、そんなことはないと思うよ。ほら!知名度だって段違いだし」


「でもね、考えてみなさいよ。アスカが行った土地に私が行ってね『あの巫女様はこんなことぐらい片手間にこなしました』なんて言われる可能性もあるのよ。その辺ちゃんとしないとね」


「では、3人でお互いの長所を覚えてもらいましょうか」


「うえぇ~」


「ムルムル、アスカ様を困らせてはいけませんよ」


「なら、ゼスは私が巡礼に行った時にそう言われたらどうするの?枢機卿様の立場もあるでしょ?」


「そう言われると否定できませんね。アスカ様、ここは我らが教徒を助けると思ってぜひお受けください」


頼りにしていたゼスさんからも頼まれてしまった。ここに来てからかなり神殿に関しての情報を得ちゃってるけど、大丈夫かなぁ。


「そっ、それより、案内の続きをお願いします」


「そういえば案内の途中でしたね。では、ここが教会関係の待機エリアです。ここは中央神殿ですので、ほとんどは司教が担当しています。ただ、外出などもありますのでその時は司祭が代行することもありますが」


「お年を召しておられて、あと数年の内に交代の予定なのですが民からの人気も高く、後継者に困っているのです」


「へ~、候補者の人が経験不足とかですか?」


「逆よ。経験もあるんだけど、どうしてもその司教様が良いって人が多くてね。腰も痛いって言ってたし、何とかしたいんだけどね」


「おや、枢機卿様に巫女様方。本日はどのようなご予定で?」


「ああ、マルタ司教。先日、ムルムル様の連れてきた巫女の案内をしているところですよ。急になり連絡が遅れて申し訳ない」


「それで、枢機卿様が直に…。そちらの方がお客様ですね?」


「はい。アスカといいます」


「わしは、マルタ司教と申します。元気なお嬢さんだ。ムルムル様も安心されているご様子。ゆっくりしていって下さい」


皆の言う通り、穏やかそうなおじいちゃんだ。まあ、この世界は平均寿命も短いからおじいちゃんって言っても、そこまでの歳じゃないけどね。


「そうそう、マルタ司教。腰は大丈夫なの?また痛めて休んだんでしょ?」


「皆さんには迷惑をかけております。ですが、持ち直したのでまた頑張ります」


「司教様…」


カレンさんたちも心配そうな目でマルタ司教を見ている。本当に慕われているんだな。


「あっ、あの!ちょっとだけいいですか?」


「何ですかな?」


「ちょっとだけ腰を見せてもらっていいですか?もしかしたら症状が和らぐかもしれません」


「ほう?腰には最近悩まされておりましてな。是非にお願いします」


「し、司教様。しかし…」


「巫女様が連れて来られておられる方だ。心配はない」


先程から司教の両隣りにいる神官騎士が止めようとするが、それを遮って司教が背中を向けてくれる。やっぱり偉い人は大変なんだな。


「それじゃあ、ちょっと失礼します。温かくなりますが気にしないでくださいね。ウォームヒール!」


私は火の治癒魔法を唱える。この魔法は体を温めたり血流などにも作用することで、失血時の体温低下を防ぐことなどが出来る。半面、治癒力自体はやや低めで範囲魔法であるエリアヒールを除くと、単体治癒では一番治りが悪い。


「お、おおっ。これは…」


「司教様どうされたのですか?」


「ああ、何とも言えん。体の疲れが手を当てられている部分から引いていくような感じだ」


「う~ん、多分もうちょっとですかね」


そして、1分ほど追加で手を当てると魔法を解除して手を離した。


「どうですか?」


「うむ。言っていた通り、だいぶ良くなった。これでまたしばらくは安心だな」


「無茶しないで下さい。ちょっと待ってくださいね。メモはと…」


私はうろ覚えの温める背中の患部の場所と、腰痛というか関節痛に効く薬の配合を書いたメモを渡す。


「ウォームヒールが使えない場合はさっき位の温度に浸けて絞ったタオルで、後は症状が出てきたら定期的にこの薬を塗ってください。体を温めるのが大切ですから、寒くなるこの季節はお風呂に毎日入るといいですよ」


「ありがとう。君はいい子だの」


「ふわっ!?」


司教さんに頭を撫でられる。くすぐったいような、気持ちいいような感じだ。


「ちょっとマルタ司教。それじゃ孫娘よ」


「おっと、すまないの。少し小さいがちょうどこの子ぐらいの孫が居るんじゃ」


「それなら仕方ありませんわね。うちのおじいさまもきっとそうなさいますわ」


「それよりも、さっきから奥でちらちらこちらを見ているのは何なのですかな?」


「あ、あれですか…」


実は神官エリアを出た後から離れてラフィネさんが付いて来ているのだ。正確には護衛のようにつかず離れず見守っている感じなんだけど。


「ちょっとアスカが知り合いに似てるらしくて、やる気になってるのよ。一応今日は非番だから見逃してあげて」


「しかし、一般人の恰好で剣を持たれては、この先のエリアで目立ちます。せめて騎士として横に連れ歩くか、剣を手放してもらえるといいのですが」


「わかったわ。ちょっと行ってくるわね」


そう言ってムルムルがラフィネさんと話すとすごい勢いで消えていき、剣を置いて私の横に来た。女性でも神官騎士に選ばれるだけあって、すごい身体能力だ。でも、走って大丈夫かな?


「お待たせいたしました。い、妹よ」


「妹!?」


「そういう設定なの。察しなさいよ」


小声でムルムルから指示が入る。まあ、一応髪質もちょっと似てるしそう見えなくもないのかな?同じ一族らしいし。


「待ってないよ。お姉ちゃん」


「お姉ちゃん、お姉ちゃん…」


返事をしたのにラフィネさんは胸に手を当てて黙り込んでしまった。呼び方が違ったのかな?


「はっ!?失礼いたしました。では、案内の続きを。私はしっかりついていますので。ああ、もちろん剣がなくとも体術で十分戦えますので、心配いりません」


「心配はしてませんけど、もうちょっと姉妹っぽさが欲しいです」


「そうですか?コホン。待たせたな、ア、アスカ…」


「うん。おねえちゃんは今日もかっこいいね!」


「そ、そうか?休暇中はいつもこんな感じだ」


「今日は案内よろしくね」


「姉妹ごっこはいいけど、そろそろ一般エリアに行くわよ」


「あっ、ごめんムルムル。それじゃあ、マルタ司教様。さっきのメモ通りにしてくださいね」


「ああ、もちろんだ。しかし、なぜ貴方はそのような知識を?もしかして高名な医者の家系ですかな?」


「い、いえ、しがない薬師の娘です。お母さんが遺してくれた研究ノートがあるので、そう言うのも知ってるんです。作ることは余りありませんでしたけど」


製品化した商品をまとめたノートと違って、研究ノートは走り書きもあるし、家を売る時に持ち出しているのだ。流石にメモ程度のは清書してあったけど。そこには数々の成果があるけど、薬師って研究者みたいなこともしてるんだなって思って大事に取ってある。私は13歳で転生して、それまでの生活した記憶は実感としてないけど、この世界での親との思い出のものだからね。


「ぜひ、お会いしてその知識を広める許可をもらいたいのだが…」


「研究していた母は数年前の流行病で…。でも、人のためになることに力を使う人だったので、広めてもらえれば喜ぶと思います」


「それは失礼した。ではせめてお名前だけでも。神殿によって広めるにあたって、最大の功労者のことを誤魔化してはいけませんからな」


実直な人だなぁ。これは慕われるのも納得だね。そのまま神殿の名前で広めたら、名声がぐんと高まるのにな。


「母の名前はダリアっていいます」


「良い名だ。必ずやり遂げますので」


そういうと司教様は去って行った。でも、行先も私たちと同じ一般エリア方向なので、これから仕事なのだろう。離れる時には枢機卿様にお辞儀をしていたし、礼儀正しい人だ。


「それじゃ、私たちも行きましょうか。この時間だと人もまばらだし、ちょうどいいわね」


こうして私たちは一般エリアに足を踏み入れた。



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