神殿一日目終了
舞の練習時間も終わり、楽しく4人でおしゃべりしていると、夕食の準備が出来たということで再び食堂へ。
「巫女様たちがいらっしゃいました」
「では、皆さん準備を」
「「「はい」」」
私たちが食堂に着くとすぐに見習いの子たちが動き出してくれる。
「ど、どうしてあんなに急に動き出したの?」
「夜は冷めやすいメニューとかも多いから。配膳に時間がかかると折角の料理も冷めちゃうでしょ?」
「ほんとに大変なんだね」
そうして、並べられていくメニュー。どうやらビーフシチューのような料理が今日のメインらしい。確かにパンにはぴったりの料理だ。
「それでは皆様。今日も一日お疲れさまでした」
テルンさんが代表してそういうとみんな食事を始めた。
「あれ?お祈りは?」
「お昼の一回だけよ」
「何でお昼なの?」
「シェルレーネ様からのご厚意です。何度も祈るのは大変だし、朝起きるのは辛くて夜は晩餐。立場に関わらず調整もしやすいお昼がいいとのことらしいですわ」
「そうなんですね。確かに何度もお祈りだとその度に席を離れたりしなければいけませんよね」
「ええ。他の信仰をお持ちの方は苦労なさっているそうですね。我々は特に禁止されている食物もありませんし、そう言ったことも信仰が広まるのに一役買っているのですわ」
「失礼します」
話をしていると、近くに一人の女性が座った。
「お久しぶりですね、アスカ様」
「エスリンさん!お久しぶりです」
「ようやく抜けられたのね、エスリン」
「ムルムル様もお元気そうで何よりです」
「エスリンさんってそういえばお昼もいませんでしたね」
「料理を作るのは流石に巫女見習いの仕事ではありませんから。あくまで食堂で一緒に食事を取るのは女性の神官騎士と巫女見習いだけです」
「まあ、以前は私に仕えていたわけだし、みんなの料理も作ってるってことでこうやって無理も聞くのよ」
「それでアスカ様にパン作りに詳しい方を紹介していただけると聞いたのですが…」
「リュートのこと?確かに作れるとは思うけど、メインではやってないよ。ただ、私も出されたパンは見てるし食べてるからある程度は分かると思うけど」
「ぜひ!お願いします。アスカ様の紹介のお陰でこうして料理人として暮らしているのですが、働いている場所が場所だけに簡単に休みも外出許可も取れないんです」
「休みはともかく外出も?」
「これでも元巫女付きの侍女よ。色々知っているから外出させるのも大変なのよ。街ぐらいならいいんだけどね」
「それでも神官騎士の方にご一緒してもらいますけどね」
ムルムルの言う色々知っているということよりも、巫女と仲が良いということの方が問題になるらしい。人質としての価値があるということで、仕えていた巫女が引退するまではそこそこの待遇になってしまうんだって。
「じゃあ、テルン様が外出するのに合わせればいいんじゃない?どうせ護衛も必要だし、結局その子は男性だから神殿の奥には呼べないしね」
「いいわねそれ。そうしなさいエスリン」
「テルン様さえよろしければ」
「日程は明後日なので、よろしくお願いします」
「アスカ様も。それでは食事をお楽しみください」
そう言えば食事中だった。冷めないうちに食べないとね。食事を再開して部屋に戻った。
「ん~、食べたわね~」
「でもほんとにいいの?私もここで寝ちゃって」
「いいのいいの。本当に駄目だったらここに布団だって運んでこないわよ」
「ええ~」
巫女が布団を持って来いって言って逆らう方が難しいと思うけどなぁ。まあ、いいか。女子会してみたかったし。ジャネットさんとはどうやってもそういう感じにならないんだよね。ジェーンさんがいればまた違うのかもしれないけど。そして大きい巫女用のベッドを2つ繋げて4人で寝転がる。
「さあ、女子会の開始よ。何か話題のある人は?」
ムルムルがみんなを眺める。
「じゃあ、私からね。ちょっと気になってたんだけど、アスカって3人で今旅してるのよね」
「そうだよ」
「もうちょっと多いと思ったんだけど、そんなもんなの?」
「あ~、それはね…」
アルバであった告白を思い出す。そして、それをみんなに話す。
「は~、いいですね。婚約者のいない私でも欲しくなっちゃいます」
「好きな人が旅に出て会えなくなるかも。というところが素晴らしいですわね。ロマンを感じますわ」
「じゃあ、今アスカのパーティーって男1人なのね。そいつ、贅沢よね。腕のいい剣士とアスカ、しかもどっちもタイプはちょっと違うけど美人じゃない」
「そうなの?私は剣士の人は見たことないから…」
「カレンもあったらびっくりするわよ。面倒見もいいし、女性受けも間違いないわね」
「よくそれで他のパーティーや冒険者から声がかかりませんね。普通、何か言われるのでは?」
「どうなんですかね?ジャネットさんの知り合いの人からはかけられたことありますけど、それ以外はないです。きっと、同じポジションの人がもういるんですよ!2属性位の魔法使いなら割と多いですし」
絶対にそんなことはないと3人は思ったが、ここまで自信満々に言うアスカを思って口をつぐんだ。どう考えても2属性ともLV4以上で魔力300越えの魔力操作ありという好物件なのだ。そこに15歳の美少女ということも加わる。少なくとも5年は活動してくれ、あわよくば自分の嫁に…そう考えるのが冒険者なのである。アルバでその考えを持つものは街の住人や冒険者に人知れず倒されていたので、アスカが見ていないだけである。
「まあ、そのノヴァだっけ?彼じゃないけど、アスカもジャネットもどうするの?ずっと冒険者じゃいないんでしょ」
「もちろんそうだよ。私は何年かかるか分からないけど、この旅が終わったら気に入った町に住んで、そこで相手を見つけるつもり。ジャネットさんはAランクの冒険者になるのが夢だから、その後は分かんないかなぁ?」
「例えばですが、旅の途中でそのような方にお会いしたらどうするのですか?」
「うう~ん。それでも旅は続けると思います。世界中を見るというのはとりあえず私の大きい目的ですから」
「そこにはこだわりがあるのね」
「こだわりっていうか、あこがれかな?私、小さい時は体が弱くてずっとベッドの上だったの。今は普通に出歩けるから今まで見れなかった景色を見たいんだ」
ほんとは前世の話だけど、それを話すわけにはいかないからちょっと変えて話す。
「アスカの母親って薬師だったわよね。親子2人で苦労したのね」
「そうだったのですね。では、いい感じになった方とは一緒に旅をされるのですか?」
「どうでしょう?旅って言っても自分の身は自分で守れる前提ですから、相手が冒険者ならそうなるのかもしれません」
「じゃ、じゃあ、一緒のテントで寝たりするんですか?」
カレンさん、男性が苦手って割には結構突っ込んだ質問してくるなぁ。
「えっと…どうですかね?でも、多くのテントを出すと面倒ですしそうするかも?」
「大人ですね」
えっ!?でも、宿だって一部屋の時もあるし別におかしくないと思うんだけど。話をして夜更かしするのはよくないからそこは気を付けないととは思うけど。
「ふわぁ~」
おっとあくびが…。
「ん?もう寝る時間なの?」
「ん~、普段なら寝てる時間かな?」
「健康的というかそんなところまで真面目なのね」
「まあ、部屋じゃ1人だったし旅の間は見張りもあるからね」
「従魔の方とはお話しされないのですか?」
さっきから私たちの話を尻目に用意してもらったかごの家で寝ているアルナたちに目を向ける。
「あの子たちも早寝なんですよ。まだ子どもだからか、元々睡眠が多い種族かは分からないんですけど」
「そうなんだ。じゃあ、キシャルちゃんとかもよく寝るの?」
「キシャルは…一番寝ているかも。宿とかに泊まるとあんまり外に出ないですし。でも、ティタは寝ませんよ」
「えっ!?ああ、ゴーレムだもんね」
「でも、私に気を使って寝床には入ってくれるんです。かわいいですよね」
「言葉も話すし、器用よね。ちょっと明日連れ回してもいい?魔物使いの警備員がいるの」
「いいよ」
「では、明日の午前中は神殿を案内するということにいたしましょう」
「今日案内してもらいましたよ?」
「それは巫女の生活エリアですわ。神殿自体は広く、一般の方が入れるエリアから巫女や神官のみ入れるエリアなど、かなり分かれておりますので十分楽しめますわよ」
「へ~、テルンさんがそういうなんて楽しみにしてますね」
「じゃあ、そろそろ寝ましょうか。アスカも眠たいみたいだしね」
「大丈夫だもん。まあ、眠いのはほんとだけど」
テルンさんはカレンさんとムルムルは私とで一緒に眠った。明日以降もここで寝るそうだからペアは毎日取り換える予定だ。ジャネットさんたち以外ともそうだけど、意外とエレンちゃんとも寝ることってなかったし、新鮮だよ~。
「普通さ~、こういう時って眠れないもんじゃないの?」
「あら?もうお休みですか?」
「見てよ。ぐっすり」
「でも、かわいいですね。見た感じは美人な感じでしたが」
「そうね。でも中身がね…」
「ムルムルが心配する気持ちもわかります。私でも心配になります」
「でしょ~、ほんとに大変なんだから。明日の見学も枢機卿様に話をしないとね」
「そんなこと言って、会いたいのでしょう?別に同じ神殿にいるんだからもっと会いに行っても構わないのですよ」
「相手はお偉いさまよ。そうはいかないです。それにテルン様も普段は会えないでしょう?」
「私は元々貴族ですし、理解していますもの。それにあと少しですから。貴方の場合はしびれを切らしてあの方が会うための専用の施設を作ってしまわれますよ」
「そんなこと…しないとも限らないわね」
「おふたりとも大変ですね」
「そう言ってるカレンこそ一番大変かもよ。テルン様と私が婚約者のいる中、1人いないんだもの。次の世代との間に望みがあるのは一人だけともなれば…」
「こわいこといわないでムルムル」
「あら、ムルムルの言うことも一理あるわよ。気づいたら他国からの申し込みもあるかもですわ」
「ないですって!大体なんで他国なんですか?」
「それは外交上、あなたも男爵家で貴族だし、そこに巫女を受け入れられるなら一石二鳥でしょう?」
「そんな日は来ませんよ」
「そうかしら?まあ、将来を楽しみにしておくわね」
こうして私が寝た後も話は続き、夜は更けていったのだった。




