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巫女と神様の神託

ムルムル達と食堂から部屋に戻ってきた。


「みんないい子で元気だね~」


「何年寄りみたいなこと言ってんのよ。それより、着替えるわよ」


「何で?」


「この時間から巫女は舞の練習なのですわ。見習いは見習い同士で、巫女は巫女のみで行うのです。中には対外的には行わない儀式専用の舞もありますので」


「そうなんですね…」


「まさか、練習サボってはないでしょうね?」


「だ、大丈夫だよ。多分…」


最近は練習できてないけど、歩いてるし体力的には心配はないはずだ。


「では着替えましょうか」


皆女性なのですぐに服を脱いで着替え始める。


「何ぼさっとしてんの?」


「いや、ちょっと恥ずかしくて。人前で脱ぐことってあまりないから」


「はぁ~、あんた冒険者なんでしょ。そんなことでどうするのよ。大体、男とも一緒に旅してるんでしょうが」


「それはそうなんだけど、流石に一緒の部屋でも着替えは別だし」


「一緒!?アスカ様、男性と一緒に泊まられるのですか?」


「まあ、その方が安いし部屋も毎回空いてるわけじゃないので…」


カレンさん驚き過ぎじゃないかな?別にリュートはむさい感じでもないし。


「それより早く着替えましょうか」


「あ、はい」


テルンさんに促され巫女衣装に着替える。


「はぁ~、私たちの服と似ているというか、いい服ですね」


「はい。自作ですけど気に入ってるんですよ」


「自作何ですか!」


「まあ、こういう服を作ってくれる知り合いはいないので」


着替え終わると、靴下を履いて靴を履く。靴はもちろん室内用で洋風なためちょっと合わないけど。今度草履を作ってみよう。ちょうどエヴァーシ村に寄る時にわらは手に入るだろうしね。


「では、まずはステップの確認から」


こうしてテルンさん主体のレッスンが始まる。教えてくれる先生でもいるのかと思ったら、今はいない。巫女の年齢が離れていたり、難しい子がいたりしたら引退した巫女に頼むことがあるぐらいだって。門外不出だから普通の先生には来てもらえないそうだ。


「ふむ。きちんと前に教えた通りに出来ているみたいですね。では、新しいステップを教えますので、二人はいつものように練習を続けてください」


「「はい!」」


流石テルンさんだ。練習が始まると途端にピリッとした感じで、ムルムルやカレンさんも凛とした雰囲気に変わっている。


「それでは、この前までに教えた2つのステップの次のものを教えます。これが出来るようになると巫女の舞の内、半分はできるようになりますから」


「えっと、良いんですか?そのようなものを教えてもらっても」


「はい。むしろ、熱心な信仰心溢れる方にこそ覚えて欲しいのです。では、始めますよ」


こうして昼から2時間ほどずっと舞の練習をしていた。なお、私は途中から息切れしてきたけど、テルンさんはいまだに一糸乱れぬ動きで呼吸も荒くはない。ううん、もうちょっと体力付けた方がいいかな?


「アスカ、どうだった?見た限りだと上手く行ったみたいだけど?」


「う~ん。まだちょっと自信はないかな?でも、思ったよりは出来た」


「すごいですね、アスカ様。私はあのステップに2ヶ月はかかりました」


「カレンは体力付けるところからだったものね。アスカは旅をしてるしその辺は大丈夫でしょ」


「でも、テルンさんには負けるよ。息も上がってないし」


「あはは、テルン様は歴代でも舞が上手い巫女様なの。先代の巫女様もすぐに決めちゃったみたい」


「皆さん、話もいいけれどこれでも飲んでくださいね。休息はしっかり取るものよ」


「あ、ありがとうございます」


「すみませんわざわざ」


「いいえ、一番疲れてない私が取ってくるのが当たり前よ。それで何を話していたの?」


「テルン様は舞が上手いという話です」


「恥ずかしいですわ」


「そういえば、今の巫女が次の巫女を選ぶんですか?私のイメージだと神様が改めて巫女を選ぶのだと思ってたんですけど」


「ええ、もちろんそういうこともありますよ。ただ、あまり神様が直接人の中から選ぶのは良いことではないらしく、基本的には巫女が引退する時に後継者を指名するのです」


「でもそれだと誰にでも後を継がせられるような…」


「と、思うでしょ?でも違うのよ。継承に成功すると継承者と先代となった巫女、そしてその時の他の巫女に承認の神託が下るの。適性がない場合は神託が降りないからすぐに分かるのよ」


「じゃあ、セティちゃんみたいなことは珍しいの?」


セティちゃんはアルバに住んでいる第4の巫女で、アラシェル教の第2巫女となるラーナちゃんを守れるようにと、シェルレーネ様が新たに任命して巫女になった子だ。


「そうですね。巫女になる場合、普通は見習いから選ばれますし、目的も今までと違いますから」


「見習いの選定方法は?」


聞いてもいいか迷ったけど折角だから聞いてみる。


「それは様々ね。水の適性がある場合が多いけど、単純に家庭の環境が良くなくて保護という名目で任命することもあるわ。でも、一番は水の適性が強い子どもが選ばれるわ。貴族や商人からは紹介状が来ることもあるわね」


「紹介状?よく来るの?」


「よくは来ないわね。でも、年に数件は来るわよ。国内外からね」


「国内外…すごいんだね」


「まあ、貴族の子女は魔力が強い方も多いですから。家を継ぐことも、政略としてもあまり重要視されない3女や4女なら、国に仕えさせるよりも神殿とつながりを持とうとするところもあるみたいです」


「そんなに神殿は力を持っているんですか?確かにシェルレーネ教は世界規模ですけど…」


「普通はそこまでではないわ。現に宗教国家の聖王国にはそんなに他国の貴族は興味を持ってないしね」


「じゃあ、どうしてなの?」


「それはシェルレーネ教が各大陸に使いを出して、水の確保を行っているからですね」


「そういえば、ムルムルの手紙にもあったっけ?雨乞いの儀式とかにも行くんだよね?」


「まあ、実際には雨乞いじゃなくて、ただ舞って見せるだけだけどね。行った時点で雨が降らなくても要請が来れば中央神殿から依頼された神官や司教が派遣されて、水不足は解消されるから」


「そういう訳で、水不足による食料危機を避けることが出来るということで神殿に話が来るのですよ」


「ん~。でも、それなら別にその人に最初から自分の領地にいてもらった方が良くない?」


「そうでもないのです、アスカ様。私も男爵家の出なのですが、爵位の低い家などは付き合いのある伯爵家などから派遣を依頼されて、そのまま領地が気に入ったので、子女は帰らないと言っているという話が過去にあるのです。そうなると返してくれと言えるはずもなく。中央神殿に送ればそういう干渉は受けなくて済みますから」


というのはカレンさん。貴族怖い、と思ったけど一人いれば不作になる可能性が減るなら仕方ないのかなぁ。


「そういう訳で、意外にも巫女見習いには貴族もそれなりにいるのですよ。中にはそれを利用して婚姻する子もいますから」


「利用して?どうやってですか?」


「見習いとはいえ一定の神殿とのつながりを持ちますから貴族で言えば騎士爵程度の権威は持ちます。それ以外にも巫女に選ばれれば、婚姻に関してはかなり自由が利きます」


「でも、高位貴族だと他国との関係が大変だって…」


「どの道そうなっても、調整として新しい子爵家などを作るので問題ないんです。それを利用して公爵家の方と結婚した男爵家の巫女もいるんですよ。領地が近くて幼馴染だったとか」


「それって神殿的にはありなんですか?」


「ありも何もその方を巫女に任命したのはシェルレーネ様ですから」


「ほへ?」


「慈愛をつかさどるシェルレーネ様がそのことを知って、そんなに簡単な方法があるならと直ぐに神託を使って任命したのです。それも、その男性と結ばれるようにと他の神託を使って色々されたのですよ」


「すごいんですね。改めてシェルレーネ様が祭られる理由が分かりました!」


「まあ、結婚式では調子に乗って大雨を降らせたらしく、大変だったらしいけどね。なんせ、子爵位に下がるとはいえ元は公爵子息。王族から族系の参列者が大勢いた中、突然の大雨だったから」


「シェルレーネ様はそういうところさえなければ完璧なのですが…」


「し、親しみやすいってことで」


「そういうアラシェル様ってどうなの?私たちは会ったことはもちろんないし、逸話とかも知らないわよ」


「い、逸話かぁ」


元々のアラシェル様の話になると転生の話が出て来ちゃうけど、そのことはこの世界だと禁句だろうし、そうなると逸話って言うのはないんだよね。


「えっと、特に代表的な話とかはないんだけど姿はこんな感じかな?」


私は仕方なく話のタネになりそうなちびアラシェル様の像を出す。


「かわいい~」


「これがアラシェル様なの?貰った像とちょっと…いやかなり違うんだけど」


「普段は力をセーブするためにこの姿なんだって」


「はぁ~、こんな神様がいるなんて!娘が出来たらきっと入信させます!」


「その前にカレンは婚約者がいないでしょ。どうするのよ、その調子じゃ結婚すら無理よ」


「うう~、そうでした」


「カレンさんはって2人は居るんですか?」


「私は元々子爵家の出ですから一応は」


「私もよ。気に入らないけど来る時に会った枢機卿様ね」


「気に入らないって優しそうなおじ…お兄さんだったよ?」


私が馬車を降りる時もエスコートしてくれたし。


「でも変態よ!村で暮らしていた私が5歳だったころに見どころがあるって言って連れてきたんだから!」


「その時、枢機卿様は?」


「確か17歳ぐらいですね。各地を次期司教として巫女の候補を探しながら回られていたはずですわ。その後もご活躍されて若いながらも枢機卿になられたのです」


「ことある毎に背が高くなってきたねとか、昨日より0.01ミリ伸びたんじゃないとか言われるのよ?あまり伸びないで欲しいなぁ~とか言うし」


「カレンもあの方を見てからは男性に気を付けてる」


もしかして、カレンさんが男性苦手なのって枢機卿様の所為なの!?


「と言っていますが、ムルムルもよく懐いていてずっと結婚したいと言っていたのですよ」


「小さい頃の話です!大きくなってからは言った覚えは…」


「良いのですか?多少歳は行っていますが、独身の枢機卿ですよ。婚約解消となればすぐにでも他の方が寄ってきますよ?」


「うう~、それはヤダ。でも、知り合いのお兄さんを取られるみたいなもんなんです」


「恋人はサンタってやつだね」


「何それ?アスカの地方の迷信か何か?」


「あっ、こっちの話。それより、関係者同士だと問題はないの?」


「全くありません。むしろ、内外共に影響の幅が小さいので助かるかもしれないですね。地位が高い方だと新婚旅行や外遊とか理由を付けて他国が招くことも可能ですので、水の少ない地方の国からしたらむしろ推奨されると思います」


「出かけるのも大変そうでしたしね」


宿に来るのに護衛の神官騎士の人もいっぱいいたし。海を渡るとなったら、もっと大変だろう。


「それで結婚はいつなの?」


「さあね。向こうは直ぐにもって言ってるけど、周りは渋ってるのよ」


「どうして?」


「巫女の力の所為ですね。力が失われるのは基本は継承時なのですが、その他にも子どもに受け継がれたり、精神的なもので失われたりと生活に急激な変化は好まれないのです」


「テルン様はあと2年ほどで婚姻されますし、そうなると食堂で出会われた方が巫女として慣れる3、4年は難しいとのことです」


「でも、枢機卿様もそこそこいい歳だしどうかと思うのよね」


そう口をとがらせて言うムルムル。色々言ってはいたけど、やっぱりその人のことが好きなんだね。私もそう思える人に出会えるのかなぁ。


「どうかしたの、アスカ?」


「ううん。何でもないよ」





気付かれました?まだ宿を出て半日なんですよ。

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― 新着の感想 ―
枢機卿…17歳の時点で5歳の幼女に惚れてたとか、そりゃ異世界でも事案扱いも止むをえない… 日本なら完全にアウツやん
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