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出会いを求める

「アスカ~、そろそろ出発だよ」


「あとちょっとなのリュート。待って~」


「はいはい」


呆れたようにリュートが返事をする。あれから一生懸命作っていた私だけど、あまりに力を入れ過ぎて出発日の今日までに完成できなかったのだ。仕方なく今も待ってもらってるんだけど…。


「で、出来た~。これを超えることは当分ないね!」


「はいはい。わかったからおじさんのところに行こう」


ぐいっ


リュートに手を取られて宿を後にする。2年もいた宿であっさりだと思うけど、実はすでにさっきお別れは住んでいるんだよね。エレンちゃんと私が大泣きしてそれをエステルさんが泣きながら拭いてくれたんだけど、その後で作業をしたというわけだ。これにはエレンちゃんも呆れて涙が引っ込んでいた。隣のエステルさんはしきりにノヴァのことで謝ってたけど。


「私たちとしてはうれしいんだけどね」


一緒にいた二人が結ばれて。


「どうしたのアスカ?」


「ううん。ノヴァとエステルさんが結ばれてよかったねって」


「そうだね」


「リュートは寂しくない?」


「大丈夫だよ。ちょっとだけ安心したしね」


「何に?」


急に立ち止まり私を見るリュート。


「何でもないよ」


「変なの」


そしておじさんの店に着いた私たちは、約束していたアラシェル様の像を渡すのだった。


「はい、おじさんこれが言ってたやつね」


「こ、これは!ほんとにアスカはこの2年で伸びたな。もう俺じゃ追いつかねぇな」


「そんなことありませんよ。私は直接見てますし」


「いや、神様の像以外のものもかなりのものだ。どの町でもやっていけるだろう」


「おじさん。アスカは直ぐに調子に乗るからあまり言わないでください」


「リュート!」


「ははっ、悪い悪い。確かに旅先じゃ何があるか判らんしな。…気を付けて行けよ」


「はい!いろいろありがとうございました」


これまで材料といい、店を貸してくれたりといい、本当にお世話になったおじさん。またね!


「おや、出発は今日だったかのう」


おじさんの店を出て、門まで行こうとすると本屋で声を掛けられた。


「おばあさん、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だよ」


本屋のおばあさんは最近体調を崩しがちで、孫夫婦が最近手伝っている。結構スパルタだってお嫁さんが言ってたな。


「次会えるか判らんからな。これをやろう」


おばあさんが渡してくれた本は『風の書と付与』という題名だった。


「この本、見たことありませんけど…」


「そりゃそうだ。いつも奥の奥に置いてるからねぇ」


「良いんですか、貴重なんじゃ…」


「次に渡してもいいと思うような奴もどうせおらんじゃろうから構わんよ。達者でな」


「おばあさんもお元気で。ありがとうございます」


おばあさんとも別れる。本当にこの街はとっても温かい街だ。この街に送ってくれたアラシェル様にも街の人にもあらためて感謝を。


「別れは済んだかい?」


門まで行くとジャネットさんが待ちくたびれたという感じで立っていた。


「す、すみません。遅くなってしまって…」


「ははっ、わかってたからいいよ。ちょっと予想より遅かったけどね」


「門番さんもありがとうございました」


「こちらこそ、街の安全に寄与していただきありがとうございます」


お別れなのかいつもの軽口はなく、真面目なお話をする門番さん。そんな風に思ってくれてたなんて。


「それじゃあ、行ってきます!」


元気に挨拶をして門を抜けていく。さあ、ここから大冒険の始まりだ!


「いよいよだねアスカ」


「うん。とりあえずレディトまでの依頼は受けたし、街の北側から進もうね、アルナ」


ピィ


結局、アルナも付いてくることになった。魔物使いの私の従魔は今のところ、アルナとティタだ。ミネルやリンネは街に残ったしね。2人とも今は戦闘向きじゃないから、ちゃんと守ってあげないとね。


「わかりました」


「うん。ティタも無理しないでね。前の時に街の人もいっぱい感謝してたんだから。その体で無理しなくていいんだよ」


「だけど、あのハイロックリザードのせいでこんなになっちまうなんてね」


「新しいギルド加入者への指導とかも出来ましたしね」


1年前のサンドリザード上位種のハイロックリザードとの戦いは熾烈を極め、街の冒険者に被害も出た。ティタも体を張って止めてくれたんだけど、そのせいで体をほとんど失ったんだ。何とか従魔にして死なずには済んだんだけど本当に危険だったんだ。


「でも、あの時の素材がかなりの高額で売れたから、こうして旅にも遠慮なく出られるんですけどね」


「まあね。冒険者たちで分けても新設の冒険者育成基金に回せるぐらいのお金が出来たからね。固い外殻のお陰で質が良かったのも手伝ったけどね」


「確かにそうですね。ノヴァも『あんなのの大群のせいで剣が折れた!』なんて、怒ってましたし」


「最初に買ったまともな剣だったからねぇ。思い入れがある分、余計だろうね」


「そうですね。私も最初に使っていた杖はまだマジックバッグに入れて持ってますよ」


「そうなんだ。僕はてっきり、売っちゃったのかと思ってたよ」


「簡単には手放せない思い出ばかりだからね」


「だけど、これから旅の途中で荷物も増えていくんだから、きちんと整理しなよ?」


「…はい」


今日までのところで私はマジックバッグという小さい袋ながら内部の空間が拡張されたものを数個持っている。日用品用には3メートル四方程度のものを、荷物用には5メートルのが1つ。さらには、魔物素材を入れていくために1つ持っていた。


「アスカも立派に冒険者だね。それだけマジックバッグも持ってるんだし」


「そ、そう?」


「そうやっておだてるとろくなことにならないよ。リュート」


「お世辞なの!」


「い、いや…」


ガーン。ぬか喜びだったとは。


「それより、レディトに行った後はどうするんだい?王都にでも行くかい?」


「王都はダメです!だって貴族がいるんでしょう?きっと、『ククク…わしの権力に勝てると思うのか?』とか言って手籠めにされちゃいます」


「はぁ、日ごろから何を読んでるのか知らないけど、そもそも貴族街と平民街は分かれてるからめったに出会うこともないよ」


「それでも、危険からは離れないと!これ以上貴族の知り合いは要りません!」


「それじゃあ、いっそのことレディトに着いたら野営を繰り返して北西に進むかい?そこは細工師の街って呼ばれてるけど。本来は王都経由で行くんだけどね」


「その街は前から気になってたんです。行きたいです!」


新しいアイデアが生まれるかもしれないしね。細工師として活動することも考えると外せない場所だ。


「最初から野宿で行くなんて2人とも元気だね」


「リュートは嫌?」


「嫌ってことはないけど、最初からハードに行くんだなって」

 

「でも、この1年で結構野営も慣れたし大丈夫だよ」


「リーダーがこういってるんだし、覚悟を決めなよ」


「はぁ、そうですね。アスカの無茶も今に始まったことじゃありませんし」


「よく分かってるじゃないか」


「これでも、2年の付き合いですからね」


「2人ともひどい!」


ピィ


「ふふふ」


私の抗議に対して、同調してくれるように従魔のアルナとティタも抗議している…んだよね?


「この辺の魔物もちょっと減ったね」


「減ったというか、見廻りのパーティーも増えましたしね」


「アスカ!」


「…うん」


話しているとどうやら魔物が来たらしい。数は…7体ほど!


「ジャネットさん!」


「ああ、一気に行こうか」


私が風の魔法をまとわせて突っ込んでいく。相手のオークの集団は不意をつかれて驚いている。


「くらえ、ストーム!」


嵐が7体のうち5体のオークを巻き込む。その風の範囲外からジャネットさんが切りつけ、反対側からはリュートが魔槍を手に身動きのできないオークを貫く。


「残りは大丈夫!」


「「了解」」


私は風を強め残りの3体を切り刻む。その間にも2人は範囲から外れたオークを追い詰める。


「はぁぁぁ」


「ふっ」


頭と心臓を貫かれて2体のオークは倒れる。風の刃で切り刻まれた残りの3体のオークも息絶えた。


「とりあえず路銀にはなるかねぇ」


「そうですね」


手早くジャネットさんとリュートがオークの解体を始める。私は警戒しながらそれを眺め、廃棄部分が出来る度に掘った穴に入れていく。


「この、傷の多いところはどうする?」


「今日の野営の時にでも干し肉にしましょう。リュート、大丈夫?」


「うん。材料はあるからやっておくよ」


「乾燥は手伝うからよろしく」


リュートは宿屋兼食堂の鳥の巣で料理を学んでいたので、こういう保存食づくりでも私たちより一歩抜きんでている。私も器用さは高くて本来なら得意なんだけど、どうしても食べたくなっちゃうからうまく出来ないんだよね。だって、途中でいいにおいするから焼いて食べたくなっちゃうんだもん。


そんなこんなで、途中は薬草も採取したりとこれまで通りの動きで進んでいく。世界中を回るといっても回ることが目的だから、急ぐ必要もないし。それに、これだけ地理に詳しいところは他にないわけだし、今のうちに稼がないと。


「そろそろ昼休憩にでもしよう」


レディトまであと1時間半ぐらいのところで、いったん休憩だ。街に入って食べてもいいけど、これからはこういうことも多くなるし、何より今日はいい天気だからね。それに…。


「うわぁ~、おいしそう。さすが、ライギルさんとエステルさんの合作だね」


「それだけじゃないんだよアスカ」


リュートに指をさされて気づく。そこにはちょっと力を入れて作られた格好の悪いサンドイッチが並んでいた。


「これってひょっとして…」


「エレンの奴が早起きして作ったんだよ。大事に食べな」


「はい」


あれだけ一緒にいて初めてエレンちゃんの料理食べたかも。私は妹みたいな彼女のサンドイッチをかみしめながら大事に食べた。


「辛い…」


ちょっとからし効き過ぎだねエレンちゃん。次に会う時にはもうちょっとおいしいの食べさせてね。


「そんなに感動して食べてるなんて、エレンの作ったやつはやるよアスカ」


「えっ、いやこれは!」


辛いんだという前に目の前に置かれる。ひょっとしてジャネットさん一緒にその場にいたのかな?


「パンチの利いた味でも大人なアスカには大丈夫ってアドバイスした甲斐があったね」


ジャネットさんが犯人だったのか…。でも、確かにもうしばらくは食べられないんだし、ありがたくいただこう。




旅に出るだけですでに2話、先行き不安ですがよろしくお願いします。

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