カディル商会での買い物
光の教団の件も一息ついたので落ち着いてお茶を飲んでいると、商会長さんから話しかけられた。
「そう言えば、アスカ様たちは我が商会が扱っている商品については聞きましたかな?」
「えっと、簡単には」
アーバンさんとは商品の話よりお互いが行ったことのある都市の話で盛り上がっていたから、あんまりそういう話はしてないんだよね。
「でしたら是非見ていってください。各種取り揃えておりますので」
「そうですね。せっかくお話も聞きましたし、見ていきます」
「では、引き続き私が担当いたします。最初はどのようなものを見られますか?」
フェンネルさんが私たちの案内役を買って出てくれた。色々話をしたから聞きやすくて助かるなぁ。
「最初は魔石と魔道具でお願いします。旅をしていると色々と必要になりますから」
「では、案内はフェンネルに任せましょう。私は所用がありますのでこれで……」
「はい。突然だったのにありがとうございました」
商会長さんとはここで別れて部屋から退出する。
《ピィ!》
《にゃ~》
「あっ、二人ともいないと思ったら店にいたの? 迷惑かけてないよね?」
「あら、こちらはお嬢様のペットだったのですね。とてもいい子たちでしたよ。お客様へアドバイスの真似事までして」
「アドバイスですか? そう言えばティタの姿も見てないような……」
ちらりとお店のレジカウンターを見るとティタが鎮座していた。しかも、アルナが魔道具を比べると、どっちの方が良い物かと魔物言語で返事をしていた。
「ちょ、ちょっと、商売の邪魔になっちゃうよ」
「あはは、魔物に魔道具の良し悪しまでわかりませんよ。お客様はその愛らしさで買われていきますが」
「そそそ、そうですか……」
ティタは魔法関連に関しては手を抜かないので、お勧めがそのまま価値のある商品になっちゃうんだよなぁ。まあ、お店の人も納得してくれてるし、しょうがないか。
「それじゃあ、アルナたちのことはお任せします。私は魔道具を見ますから」
見てみぬふりをしながら魔道具の置かれている場所へ連れていってもらう。
「こちらが魔道具のコーナーです。実用的な物から長期保管品まで色々取り揃えております」
長期保管品は取り揃えているって表現は良いのだろうか? 謎は残りながらも説明をしてもらいながら商品を見ていく。
「こちらは魔槍の一種になります。これだけの短さでありながら、きちんと魔弾を放てる優秀な魔道具ですよ」
「へ~、魔槍ですか。リュート、魔槍は何て言ってるの?」
「ちょっと待ってね。……えっ、あっ、そうだね」
リュートが魔槍に確認すると苦笑いというか、愛想笑いを返している。
「自分の属性を放てるだけだから、自分よりはるかに劣るってさ」
「あ~、リュートの魔槍だとそうなるのかな? MPは使うけど、その魔槍って使いやすいしね」
でも、この魔槍のサイズは魅力的だ。長さは槍としては短い五十センチほどで、鋭く九の字の形をした穂先は大きく、ナイフに被せをしたような形状をしている。子どもでも扱えそうなこの魔槍は可能性を秘めているかもしれない。
「私、ちょっと欲しいかも。このサイズならティタにも使えそうだし」
《ピカッ》
《ブウゥゥゥン》
私がそう言うと、お株を奪われると思ったのかマイと魔槍が己を主張する。
「えっと、そうだね。自分の属性だけだったらティタにはいらないよね」
突然の主張に私は面食らってしまい、魔槍を棚に戻す。細工も入っていて見た目もよかったんだけど、これは買えなさそうだ。
「ほ、他には何かありませんか?」
「他の物ですと魔導杖でしょうか? MPを込めるほど威力の高い魔力弾を放てます。本人の魔力との相乗効果で高威力の魔力弾を放てると魔法使いの方には高評価ですね」
「へ~、それは面白そうですね」
魔力弾ということは属性もないだろうから、相性に縛られない。杖としての機能は限定的だけど、何かの拍子に役に立つかも!
「属性的に通じない時は弓も効かないだろうしね」
弓は便利だけど、私の力だとそこまで威力はない。加減するのにちょうどって感じだからね。
「で、肝心の価格は?」
「こちらは金貨十二枚です。高いと思われるかもしれませんが、先端の魔石が大きいでしょう? 魔石のサイズによって放てる威力の上限が変わるので、これは高い方なんです」
「なるほど。これは価値があるものですね」
ひとまず頭の中のキープリストに置いておく。他にも数点見させてもらったけど、特筆するものはなかった。お馴染みになりつつあるバリアの魔道具も置いてあった。
「バリアの魔道具はよろしかったのですか? 安全な旅が出来ますが……」
「あはは、実はもう持ってるんです。便利ですよね」
「もうお持ちでしたか。商人だけでなく、冒険者にも人気で中々手に入らないんです」
一応、見るだけ見てみたけど品質的には並だった。これなら私が作った方が断然良いので購入は無しだ。
「次は魔石をお願いします」
「かしこまりました」
魔道具のところから魔石を扱っている場所へ移動する。魔石はすぐ隣かと思いきや、装飾品を挟んで店の奥にあった。
「こちらになります。どのような魔石をお探しですか? 奥に保管しているものもありますが」
「えっと、ウィンドウルフとサイクラスの魔石があると嬉しいんですけど……」
「ウィンドウルフは二つほど在庫がありますが、サイクラスは……」
フェンネルさんがやや難しそうな顔をしている。珍しい魔石だから出しにくいのかな?
「二つくれたら、良い物をやるよ。なぁ、アスカ?」
「あっ、そうですね」
バリア魔石はここでも人気だっていうし、二つ貰えれば一つは作って渡してもいい。
「少々お持ちください」
私たちの言葉にフェンネルさんが一度奥へと行く。
「会長の許可が取れましたので大丈夫です。ですが、こちらは珍しい魔石になりますので、二つまででお願いします」
「分かりました。じゃあ、後はウィンドウルフの魔石が三つと、他にはイルリヒトの魔石なんてないですか?」
「そちらは昨日売れてしまいまして……」
「じゃあ、しょうがないですね。他には何かないかな?」
私はいくつかの棚を見て、あまり見かけない魔石を見つけた。
「これはいくらですか?」
「バディクトの魔石ですね。金貨三枚と銀貨五枚になります」
「ちょっと高いけどしょうがないか。じゃあ、これが二つと、後はオークメイジの魔石を三つください」
「オークメイジの魔石ですか? えっと、大きいものと中サイズの物がありますが、どちらにいたしましょう?」
「大サイズはいくらですか?」
「大サイズが金貨八枚、中サイズが金貨四枚ですね」
おおっ、ここの地方だとまだオークメイジの魔石は安いんだ。これはお風呂とコールドボックスの在庫を作るチャンスだ。
「それじゃあ、在庫してる分を買います!」
「よろしいのですか? すでにかなり買われておりますが……」
「大丈夫です! 蓄えがあるので」
嬉しいことにオークメイジは大サイズが三つもあった。これで良い物が作れる。とはいえ、もう金貨百枚以上の支払いになっているので、ここでいったん、買い物はおしまいだ。
「みんなは買わないんですか?」
「う~ん、特に今欲しいものはないしねぇ」
「僕もないかな?」
「俺はいくつかあったから後で買っておく。家の方へ送るがな」
「へ~、リックさんって孝行息子ですね!」
「そうだといいんだがな……」
含むような言い方をするリックさん。あまり両親と上手くいってないのかな?
「それより会計を済ませたらどうだ?」
「おっと、そうですね。フェンネルさん、支払いをお願いします」
「かしこまりました」
一時的にお金がかなり減ってしまったので、すぐにサイクラスの魔石を魔道具にしないと。
「ありがとうございました。では私たちは宿を取りますから」
「アスカ、出発の予定を伝えておかないといけないよ」
「そうでした。ちょっと加工に時間を使うかもしれないし、明日のお昼前出発で村へは間に合いますか?」
「コルゴー村へ夕刻には、翌日の朝にコルゴー村を出られれば昼にヴァンダル村へ着けます」
「では、それでお願いします」
「おや、もうお帰りですか?」
「アーバンさん! 荷物の処理は終わったんですね」
私たちが挨拶をしていると、入り口からアーバンさんが入って来た。
「ええ、無事に荷物を倉庫へ入れられました。改めましてありがとうございます。皆さんはお帰りですか?」
「はい。今から宿を探すところなんです」
「でしたらご紹介いたしましょうか? 多少は値が張りますが、いい宿ですよ」
「じゃあ、お願いします」
せっかくの申し出なので受けることにした。
「何時も勧められている宿ですね。私は会長から早退の許可を頂いておりますので、案内いたします」
「本当ですか? 助かります」
案内してもらえるということでフェンネルさんが退勤の準備をしている間、私たちはアルナたちと戯れていた。




