護衛の道中
「アーバンさん、解体はこれで終わりです。後は素材ごとにギルドへ引き渡します。ただ、普段はウルフ種は解体しませんけど」
「どうしてなのですか?」
アーバンさんが私の言葉に疑問を持つ。まあ、今日やった理由が知りたいよね。
「今日はこれからすぐに野営地につきますし、ホーンウルフの角が欲しかったのでついでですね。オーク種と違ってウルフの肉はあまり需要もないですし」
「なるほど。では、中々貴重な物を見させてもらいましたね。野営地は後一時間ほどですからすぐでしょう」
アーバンさんの言葉通り、野営地まではすぐだった。到着すると、すでに数張りのテントが張ってあった。
「すごい場所ですね。これまで広いところはありましたけど、色々な方が同時に利用してるところはほとんどありませんでした」
「まあ、港町から船が着いて最短で移動すると日程が被るだけですがね。ですが、先程遭ったホーンウルフのように生息数の多い魔物は結局出てきますから、助かっているのも事実です」
ちなみにテントは早い者順で、早く着いた商会の人から中央に張っていくのだとか。理由は端の方から魔物の襲撃に遭いやすいからだって。
「では、我々も張るとしましょうか」
いくら広い場所だといっても限りはあるので、私たちは縦に三つのテントを張り、馬車はその横に着けた。
「後は飯だけだねぇ。今日の分は弁当があるんだろ?」
「はい。宿の人が持たせてくれたのがあるので、夕飯に取ってあります」
持たせてくれたのはこの間に宿で出すようになったカツサンドだったので、置いていたのだ。
「アーバンさんは何か買って来たんですか?」
「私はいつもの食事ですね。簡単な野菜と肉の詰め合わせです」
「へぇ~、思ったより豪華な食事だね」
「明日には町に着く行程ですからね。商会が飲食店と契約してるんです。定期的に行き来できるからですが」
私たちだけ美味しい料理で申し訳ないと思っていたから、アーバンさんの方も豪華でよかった。アーバンさんのお弁当は見た感じ、ご飯のないステーキ弁当だった。
「ごちそうさまでした」
食事も終わり、後は夜の見張りだ。四人で見張りを交代するので、夜二十時から朝の六時までと考えると十時間だけ。どうやって分けたらいいかな?
「最初と次が三時間で後は二時間ずつで良いですか?」
「無難だな。じゃあ、いつも通り最初がアスカで最後はリュート君で良いかな?」
「僕は構いませんよ。朝はどんなものにしますか?」
「町に着いて何でも食べられるよう、あっさり目の方がいいかもな」
「分かりました。それじゃあ、僕はいったん寝る用意をしてきます」
リュートが男性用のテントに入って寝る準備を進める。その間、私たちは夜に向け焚火を始める。
「ん~、せっかくですし干し肉でもぶら下げておきますか?」
「おっ、あたしに夜食を作ってくれるなんて優しいねぇ」
「えへへ、そうですか?」
許可も出たところでマジックバッグから干し肉を取り出す。
「アスカ、何してるの?」
「あっ、リュート。もう寝る準備は済んだんだ。お夜食の干し肉を吊るしてるんだよ」
「へ~、良さそうだね。僕も見張りの時にやろうかな?」
なんて話をしていると、時間が経つのは早いものでリュート以外は床に就いてしまった。
「リュートは寝なくて大丈夫?」
「うん。僕は最後だしね。これから寝ても七時間あるし」
「そっか、ならこの時計の水がなくなるぐらいまでは話そうよ」
私は野営用に作った水時計を指差しながら提案する。
「いいよ。これってアスカが作ってくれた一時間を計る水時計だよね?」
「うん、ティタが水を入れてくれるだけで簡単に時間が分かるから助かるよね」
「アスカは見張り中も細工をしてるもんね」
「そうそう、そうなんだよ。だから、交代のタイミングも計りやすくなったんだよね。それでね~」
ずっとリュートと話していると、すぐに時間が経ってしまいティタが時間を知らせてくれる。
「ご主人様、もう一時間経ちましたよ」
「もう? しょうがない。名残惜しいけど、リュートも寝ないといけないしね」
時間になったのでリュートもテントに戻り、一人寂しく細工を始める。
「ん?」
細工を始めて四十分ほど経った頃、センサーに何か反応があった。
「何だろう。ちょっと見てこよう」
数も二体だったので確認しに行ってみる。魔物とは限らないしね。
《ブルルル》
「あっ、オークだったんだ。体色が緑だしこれがフォレストオークかな?」
相手はこちらに気づいていなかったので、とりあえず弓を取り出して射ってみる。
「あ、倒せた」
この魔物もニューフェイスだったのでちょっと警戒していたけど、なんてことはない普通のオークと同じ強さだった。
「ちょっとだけ緊張して損した。回収回収」
サクッと回収するとテントまで戻る。
「ご主人様、どうでした?」
「ん~、フォレストオークらしき魔物だった。でも、強さは普通のオークと一緒だったよ。魔力の流れを見れるティタなら相手にならないんじゃないかな?」
ティタは魔力が高いし、視力で敵を捉えるより魔力で捉える方が得意だ。仮に森にいたとしても保護色関係なく倒せると思う。
「そうでしたか。大した相手ではなくてよかったです。見張りの交代の時に私から説明しておきますね」
「お願いね」
私たちの見張りはティタのお陰で引継ぎもスムーズだ。伝えたいことも眠気に関係なくティタがきちんと伝えてくれる。それにゴーレム種は寝ないから第二の見張りとして活躍してくれるしね。
「それじゃあ、細工の続きに戻ろう」
私は合間合間に周囲を気にしながらも細工をこなしていった。
「ご主人様、そろそろ交代のお時間です」
「分かった。ありがとう、ティタ」
ティタにお礼を言って道具を片付けると、見張り交代のためジャネットさんを起こしに行く。
「ジャネットさん、見張り交代の時間ですよ」
「んん、もうそんな時間かい。分かったよ」
珍しく気だるげに起きるジャネットさん。いつもは寝起きに強いのに大丈夫かな?
「ジャネットさん、お疲れですか? 私ならまだ大丈夫ですけど……」
「ああ、大丈夫だよ。久し振りに野営をするからかねぇ」
「しんどかったらティタに任せて、リックさんを起こしてくださいね」
「心配かけて済まないね。続くようならそうさせてもらうよ」
ちょっと気にはなるけど、そんなにつらそうな顔色でもないので挨拶をしてテントに入る。一応ティタに念話で話だけしておこう。
(ティタ、ジャネットさんの体調が万全じゃないみたいだから、気にしておいて)
(分かりました)
ティタにだったらジャネットさんも遠慮なく任せてくれるかもと思い、お願いだけして私は眠りについた。
「アスカ、起きな」
「ん~、おはようございます」
翌日、何事もなく夜が明け私たちは朝食を食べる。
「今日も美味しいね。野営なのに寝起きに用意してあるなんて贅沢だなぁ」
「その分、見張りを頑張ってくれたんでしょ?」
「ああ、そういや魔物が出たんだったね」
「本当ですか? 騒ぎになったとは思いませんでした」
ジャネットさんの言葉にびっくりするアーバンさん。
「あっ、フォレストオークなら出ましたよ。リックさんの言葉通り、対して強くなかったのでティタに事後報告だけしてもらいましたけど」
「そうだったのですか。でも、ここは中央に近いですし、よく気が付きましたね」
「魔物の探知は得意な方なので」
朝食を取った後は目的の町へと向けて出発する。
「今日の午後にはエステバンに着けそうですね。皆さんとは後半日ほどの付き合いとなるのが惜しいですよ」
「まっ、護衛も運次第ってことさ。それより、この先に魔物が良く出るポイントはあるのかい?」
「いいえ、特に魔物の出現が多い場所はありません」
「じゃあ、昨日よりはましだね」
今日の行程を確認しながら私たちは街道を進んでいく。同じ町へ向かう人も順番に出発していくので、さながら商隊のようだ。
「壮観ですね~。私たちは前から三番目ですけど、後ろにも続いてます」
ちらりと振り返ると後ろにも馬車が続いている。全部ではないけど、かなりの馬車が後ろに続いているから確かに魔物も出そうにない。
「こんだけ護衛も付いてりゃ、魔物も襲うのは難しそうだねぇ」
「ええ。だから、昨日の野営場所が魔物に襲われる最後の場所になることがほとんどなんです」
アーバンさんの言葉通り、魔物の襲撃はそれ以降はなくお昼となった。さすがにお昼ともなると足並みもずれ始め、商隊然としていた一団には距離が開き始めた。
「私たちもお昼にしましょうか」
「そうですね」
「なら、あたしとリックで見張りをしてるよ」
「見張りですか?」
「ああ、今は隊列が伸びている。こういう場面なら魔物も人もやってくるかもしれないからな」
「こ、怖いこと言わないでくださいよ、リックさん」
「いや、あたしも同意見だね。確かに全員は相手にできないだろうけど、端や中央に仕掛けてそのまま走り抜けるぐらいはできるさ」
リックさんに続いてジャネットさんも注意が必要だというので、警戒しながら食事を摂る。
「あっ、そっちの肉取って」
「はい。パンはもういらない?」
「うん、後はそれを挟んで食べるぐらいかな?」
私とリュートは先にお昼を済ませる。襲撃に備える意味も含めて、簡単に戻した干し肉を挟んだパンが今日のお昼だ。一応野菜とたれをかけているので、BLTサンドに近いかな?
「ごちそうさまでした。ジャネットさん、見張り代わりますね」
「ああ、頼んだよ」
結局、魔物も野盗も出なかったけど、また新たな学びを得て私たちはエステバンの町へ着いた。




