出発と護衛依頼
無事にジャネットさんの剣に付与を施して数日。私のMPも回復したので、いよいよ町を出て光の教団の総本山を目指すことになった。
「アスカ、準備は?」
「ばっちりです! リュートの方はどう?」
「僕もリックさんも終わってるよ」
「それじゃあ、出発だね。アルナもキシャルも行くよ!」
《ピィ》
《にゃ~》
お世話になった宿の人にお礼を言って町の東門へと向かう。すると、門の近くで一人の女性が立っていた。
「フィレーナさん! どうしたんですかこんなところで?」
「アスカ、しばらく振りね。貴方が街を出ると思って待っていたのよ」
「えっ⁉ どこでその情報を?」
私は別にフィレーナさんと連絡を取っていなかったのに、誰から聞いたんだろう?
「ふふっ、貴方の魔力は目立つもの。今日はそんな気がして見送りをしようと待っていたの」
「そうだったんですね。ありがとうございます」
わざわざ見送りに来てくれたフィレーナさんにお礼を言う。
「いいえ、私こそあの子をこの手に戻せて感謝しているわ。また機会があったら一緒にセッションしましょう。この前の夜みたいにね」
「この前の夜? ひょっとしてあの夜、フィレーナさんもいたんですか?」
気配はなかったと思ったんだけど……。
「気づいていなかったの? あの時の魔笛からは貴方の魔力が漏れ出ていたわよ。私は音が届かなくても魔力で音を感じることができるの」
「そうだったんですね! 機会があったらまたやりましょう」
フィレーナさんと再びセッションする約束をして別れる。ちょっと寂しいけど、旅をしているとしょうがないよね。
「さて、無事に東門を出たんですけど、この辺から次の目的の町まではどのぐらいでしたっけ?」
「二日ほどだ。それより、依頼人を待たないとな」
「そう言えばそうでした。でも、珍しいですね。待ち合わせが町の外だなんて」
「この町は出入りの多い町だからな。街中で待ち合わせるとなると、どうしても込み合う場所になる。それを避ける商人も多いんだ。まだ来るまで時間があるだろうから簡単に魔物について説明しておこう」
私たちは町から出たところの広場のようなところでレクチャーを受ける。
「まず、この街道で出る魔物だが、代表的なのはホーンウルフだ。その名の通り鋭利な角を持つウルフで突進とそこからのかみつきが主な攻撃方法だ。ただ、それ以外には特徴的なことはないから手間取ることもないだろう」
「素材は通常のウルフに加えて角ですか?」
「ああ。角は真っ直ぐだから色々と加工されるな。アスカに関係するものなら、細工の材料にも使われている」
「へ~、面白そうですね。もし出遭ったら使ってみようかな?」
これまで角や牙といった素材は基本買取に出していたので、もったいなかったかもしれないな。
「他には何かいないのかい?」
「他は街道近くの森からフォレストオークが出る。ただ、こっちはあまり気を付けなくていい」
「どうしてですか?」
「フォレストオークは体色が緑で、一見するとトロールにも見えるんだが、特徴はそれだけだ。草が生い茂っていたり、森の緑と同化しない限りは通常のオークと強さもほぼ変わらない」
「それじゃ、僕らの相手になりませんね」
「そういうことだ。しかも、その体色から食用としてもそこまで人気がない。味は大きく劣る訳ではないんだがな」
「料理に見た目って大事ですもんね」
「アスカが言うと説得力あるねぇ」
うんうんと頷くジャネットさん。肩に乗っているアルナまで頷いている。
「普通のことを言っただけだと思いますけど」
プイッと顔を背けて答えると、一台の馬車が目に入った。
「あっ、依頼の商会の馬車ってあれですかね?」
「うん? どれどれ」
ジャネットさんたちにも馬車を確認してもらう。とはいえ、この辺りには他にも数台の馬車が止まっており、冒険者を待っているから依頼の商会かは分からないけどね。町の外で待ってても門番さんを他の町より増員してくれていて、馬車の近くもカバーしてくれているから安全なのは嬉しい。私たちも気を張らなくていいしね。
「あんたんところはカディル商会かい?」
「はい、そうですがあなた方が依頼を受けてくれた冒険者の方ですか?」
「ああ、リーダーを紹介するよ。ほら、アスカ挨拶しな」
「えっと、依頼を受けたフロートのリーダー、アスカです」
「お嬢さんがリーダーなのですか? よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いしますね」
お互いに挨拶を交わす。カディル商会の人はアーバンさんと言い、いつも港町から二日かかるエステバンの町まで荷物を運んでいるらしい。二日の行程なのでもっと遠くに運ばないのかと尋ねたら、港町へ集まる物資が多いので一度エステバンの倉庫へ移動させるためだとか。
「物がいっぱい集まるのも大変なんですね~」
「ええ、この馬車もちょっと大きめの物にしてあってできるだけ多くの荷物を倉庫へとしまうんです」
「街道も整備されてるし、安全そうな道だねぇ」
「まぁ、そうですね。ですが、魔物の数が多くて襲撃の頻度は割合多いんですよ。私もこの前、襲われたばかりです」
「大丈夫だったんですか?」
「冒険者の皆さんのお陰で助かりました。馬車もほとんど被害がありませんでしたし」
とはいえ、金貨数枚分の損失は出ましたというアーバンさん。
「俺たちなら損失も出さんよ。なぁ、ジャネット?」
「俺たちじゃなくてアスカのお陰だろ、リック。馬車を守るのはアスカなんだから」
「お嬢さんも戦闘されるのですか?」
「もちろんです! 私もパーティーの一員ですから」
「これは失礼いたしました。てっきり、ポーターや非戦闘要員なのかと」
「よく言われます。でも、ちゃんと戦えるので心配しないでくださいね」
《ピィ!》
私の言葉に同調するようにアルナも一声鳴いて見せる。
「そういえば魔物も連れていらっしゃいましたね。ですが、この辺りではあまり見かけない種族ですが」
「この子はヴィルン鳥っていう種類なんです。私の住んでいたところだと幸運を呼ぶ鳥なんて言われてるんですよ」
「ほう、それは興味深いですね。商人たるもの、知識だけではなく時には運も必要ですからな」
「なら、一つ持っておきませんか?」
私はマジックバッグからヴィルン鳥の羽根を模したアクセサリーを取り出す。
「おおっ⁉ なかなかの出来ですね。故郷でお求めに?」
「あっ、はい。でも、もう少し在庫はあるので大丈夫ですよ」
「おいくらでしょうか?」
「えっと、銀貨一枚? あいた!」
「こら、安売りするなっていつも言ってるだろ。銀貨二枚以下で売るんじゃないよ」「すみません。そういうことなので銀貨二枚でお願いします」
「面白い方たちですね。では、こちらが銀貨二枚になります」
「ありがとうございます」
お金を受け取りアーバンさんの方を見てみると、すでにアクセサリーに夢中だ。
「ああ、すみません。すぐに商品を確認するのが癖になっておりまして。いや~、それにしてもいい腕の細工師ですね。素材も銀ですし、手抜きの跡も見られません」
「そ、そうですか、照れますね」
「???」
「またこの子は……」
「あっ、ジャネットさん。どうやら出たみたいです」
「リュート、本当かい? アスカ、照れてる暇はないってさ」
「むぅ」
せっかくいいところだったのに、今日の探知役のリュートが魔物を見つけてしまったようだ。私たちは馬車を止めさせて迎撃の準備をする。
「アーバンさんはそのまま馬車にいてください。馬車には私がバリアを掛けますから」
「わ、分かりました」
「リュート、数は分かる?」
「中型の魔物が五匹。多分、リックさんの言っていたホーンウルフじゃないかな?」
「分かった。リックさん、ジャネットさんと左右に分かれて馬車を守ってください。私とリュートで中央から敵を攻撃します!」
「了解だ。ジャネット、俺は左を。君は右を頼む」
「はいよ」
少しするとリュートの探知魔法を辿ったのか、ホーンウルフが現れた。
《グルルル》
「来たっ! リュート、一気にやるよ!」
「分かった」
「「ストーム!」」
私とリュートは同時に嵐の魔法を放つ。五匹の群れは突然の魔法に巻き込まれた。
《キャウン!》
「このまま押し切れるね。私は弓で狙うよ」
「じゃあ、僕は魔槍で……槍よ、変化せよ」
空へと舞い上がったホーンウルフに私は弓で、リュートは魔槍を投槍へ変化させ狙い撃つ。
「こっちはもう一匹」
地上へ落ちてくる前に二射目を当てた私は、再び杖へと持ち換える。
「アスカ、残りは二匹、あたしらに任せな!」
「はい!」
何とか地面に着地したホーンウルフに二人が斬りかかる。実力差は明らかで、すぐに戦闘は終了した。
「いや~、見事な手際ですね。しかも、魔物が出る前に気づかれるとは。今回の護衛依頼は大成功ですね!」
荷物も無事で喜ぶアーバンさん。それに気を良くしたのか、商人さんには珍しくホーンウルフの解体も眺めていた。




