再会と神殿
「あ~、お食事美味しかったですね」
「まあね」
「でも、変わった配置でしたね。私のテーブルはおっきいのに一人掛けでしたし、メニューも違ってましたよね?」
「ん?ああ、風呂の時間を言う時についでに言っておいたんだよ。あたしらは量を食べるからちょっと考えてくれないかってね。いやぁ、急な事にも対応してくれるいい宿だね」
「そういえばこんな時間から神殿に手紙を出しに行ってくれたんでしたよね。ほんとに高い宿だけあってすごいサービスです」
「ああ、うん、まあね」
それから、お風呂の時間になったのでジャネットさんと2人で向かう。ちゃんと男女別になっていてリュートは一応部屋の見張りのため私たちが上がってから入る。
「それで、本当に一緒に入るのかい?」
「嫌だなぁ、ジャネットさん、遠慮なんて水臭いですよ」
「あ、いや、パフォーマンスだけどね」
最初は宿の人が洗ってくれるっていう話だったんだけど、緊張しちゃうし遠慮した。折角の広いお風呂を2人で入りたかったしね。
「は~、明日には迎えに来てもらえますかね~」
「流石に難しいだろ?昨日の今日だよ」
「そうですね。手紙が届くのも今からですし。あ~あ、もうちょっと早く着けばな~」
「しょうがないよ。旅は安全第一だしね。大体、それなら王都経由にすれば早かったのに…」
「王都はダメですよ。通れるなら通ってますって」
「アスカの場合はそうだったね。でも、一度ぐらいはどこかの国の首都には行った方がいいんじゃない?」
「う~ん、機会があったら考えます」
お風呂から上がると、リュートが代わりに入りに行く。そして、今日の寝る時間だけど…。なぜか、リュートは隣の部屋に行ってしまった。部屋はジャネットさんと私だけで、ベッドも広いのと小さいのが1つ。これが高級宿のもてなしなのだろうか?不思議だなぁ。
「じゃあ、アスカはそっちだね」
「えっ、私がですか?でも、ジャネットさんの方が背が高いですし」
「こういうところはそういうもんなの」
「そうなんですね。じゃあ、おやすみなさい」
でも、天蓋付きベッド何てお姫様にでもなった気分だ。
「おはようございます~」
「よく眠れたかい?」
「はい!寝心地とかすっごくよかったです。目が覚めるとひらひらしてますけど」
「そいつは良かったよ。んじゃ、朝飯と行くか」
「楽しみです。昨日の夕食も美味しかったですし」
昨日の食事はコース料理だった。前菜から始まって、メインの煮込み料理はほろほろのお肉だったのだ。薄く焼いた生地に包んで食べるのもおいしかったし、今日も楽しみだ。
「本日はこちらです」
出てきた朝食は意外にもスープと食べやすい野菜サラダだった。でも、食べ終えるとお菓子と紅茶が用意された。このために食事の量は少なかったんだ。
「ん~、おいしい」
「ありがとうございます」
そんなのんびりした時間を過ごしていると、誰かが宿に入ってきた。
「これは…何か御用で?」
「こちらにこの方が泊まっているはずなのだが…」
入ってきた人は何やら紙を広げて見せている。そんなことしなくても言えばいいのに…。
「これは…。少々お待ちください。アスカ様、ご予定のお迎えにございます」
「えっ!?手紙は昨日だったのに。すぐに用意してきます」
余所行きのバッグにマジックバッグをつめて、直ぐに用意して下に降りる。
「お待たせしました」
「いえ、お気になさらぬよう」
宿に入ってきたのは騎士さんだった。そして宿を出ると1台の馬車が止まっていた…。
「騎士さんが一杯…」
さらに、さっきと同じ格好の騎士さんが6人ほどいた。見ると御者の人まできれいな格好だ。そして馬車のドアが開かれる。
「アスカ、久しぶりね。元気にしてた?」
「ムルムル!手紙は昨日だったのにびっくりしたよ!」
「驚いた?びっくりさせたくて頑張ったんだから!さ、乗って」
「良いの?」
「良いも何も迎えに来たのよ?ほら、早く。でないと目立つわよ」
「わ、分かった。ジャネットさんたちも…」
「あたしらは町でも見とくからゆっくりしてきなよ。巫女様、アスカを頼みます」
「任せておきなさい!そうそう、あなたたちの滞在費は私が持つわ。この宿に泊まっておいてね。遠慮はいらないわよ。別の宿だと連絡取れないでしょう?」
「ムルムル、良いの?」
「良いの良いの。普段からお金の使い道なんてないしね。それより早く神殿に行きましょう!」
「うん。それじゃ、リュートにジャネットさん、行ってきますっと、従魔のみんなはどうしよう?」
「アスカの従魔なんでしょ?一緒に連れて来なさいよ」
「ほんと?ムルムル、ありがと」
嬉しくてムルムルにギュッと抱き着く。
「ほ、ほら、さっさと乗るわよ」
こうして豪華な馬車に乗って私は神殿に向かったのだった。
その後、宿では…。
「流石に中央神殿の巫女様でしたね」
「アルバに来た時とは装いも段違いだね。気づいてたかい?騎士以外にも何人護衛がいたか?」
「生きた心地がしませんでしたよ」
「あの子が何か言えばこの町じゃ大抵叶うだろうね。それこそあたしたちが一生この宿に泊まるぐらいは簡単にね」
「そこまでですか?」
「だから、気を付けなよ。特に男のあんたはね」
「分かりました」
「んじゃ、時間を見て出かけるとするか」
ジャネット達が部屋に戻ると顔を出す2人。
「旦那様どうでしたか?」
「見た感じはまさしくあの家の血筋だな。だが、やはり歳が合わん。今の侯爵の弟である代官の娘でもだ。それに彼女は領地で生活しているはずだ。大体、従魔を連れているなど目立つ情報はない。ただ、万が一もあるから再確認する。シェリーも急がせろ」
「昨日から王都で調べさせていますが、そうさせます」
「うむ。事実は置いても水の巫女と友人というだけで重要人物だ。少なくともこの町でつまらんことに巻き込まれないよう配慮しろ」
「はっ!」
「巫女様も明るい方ではあるが、ああも少女の顔をされるとは…。一体何者なのか?」
そんなことはつゆ知らず、アスカは馬車の小窓から見える景色に感動していた。
「うわ~、やっぱり神殿はおっきいんだね」
「もっと小さくてもいいんだけど、流石に国一番の神殿だししょうがないのよ。それに、内装はそこまででもないのよ。儀式用の場所とかは流石に豪華だけど」
街の中心部を抜けて神殿に入っていく。そして馬車が止まるとドアが開いた。
「「「ようこそ!中央神殿へ」」」
降りる場所には両側に騎士が何人も、その奥には神殿で働いているであろう人たちがずらりと並んでいる。
「はわ~、ムルムル。ほら、お出迎えだよ」
「何言ってんのよ。アスカは私の友人でしょ?あなたを迎えているのよ」
「こんなのきいてないよぉ~」
「ほら、いいから」
「レディ、お手を」
「は、はい」
身なりの良い紳士が手を出してきたので手をつかむ。こ、これでいいんだよね。
「あら、枢機卿様珍しいですね。こちらまで来られるなんて」
「ええ、昨日の今日で人を迎え入れるということで気になりまして」
「友人を迎えに行っただけですので、問題ありません。外出についてもまた連絡しますので」
「安心しましたよ。では、私もこれで…失礼」
「はい」
馬車から降ろしてもらうとムルムルと会話した男性はどこかへ行ってしまった。偉い人っぽかったけど良かったのかな?
「さ、行くわよ。ちなみにこの先は巫女の生活エリアだから、住んでいるのは神殿騎士と見習い巫女と私たち巫女だけよ。教会の関係者はあまりいないから安心してね」
「えっと、うん」
とりあえず、馬車も降りたしアルナたちと一緒に進んでいく。特に従魔でもヴィルン鳥とノースコアキャットという2種類の魔物が気になるようで、巫女見習いらしい子たちの目線がすごい。
「まずは荷物を置く部屋に案内するわね。一応滞在用の部屋になっているけどそこは気にしないでいいわ。書面上の手続きの関係だけだから」
「じゃあ、私はどうするの?」
「私たちと一緒に過ごせばいいのよ」
「私たち?」
「ええ。巫女はまとめて大部屋で過ごすようになっているから、私以外にもテルン様とカレンも一緒よ!」
「良いの!?というか大丈夫なの?」
「もちろん!テルン様には賛成してもらったし、カレンからも許可は貰ってるわ。それにアスカだってアラシェル様の巫女でしょ?立場的には同じよ!」
いや、世界中に信徒を持つシェルレーネ教の巫女様と一緒にされても…。まあ、ムルムルと一緒にいられるのはうれしいからいっか。案内されるままに進むと、途中で騎士さんとはお別れだ。この先は巫女たちの生活エリアなので、男子禁制なのだ。巫女見習いと少数の女性神官騎士だけが入れるエリアだ。
「では、我々はここに居りますので」
「ええ、頼むわね」
「はっ!」
そのまま入っていくと、こちらを見かけた見習いの人が挨拶をしては仕事に戻っていく。
「巫女見習いって言っても、何だか普通のお仕事をしている人みたいだね」
「まあね。家が貧しかったり、将来の巫女候補だったりと事情は様々だけど、変に偉ぶって地方巡業を甘く見ても困るし、私も昔はやってたのよ」
「ふ~ん。ちょっとムルムルのイメージとは合わないかも」
「そういうなら見せてあげるわよ。ちょっと早く着いたし、時間もあるしね」
そういうとムルムルはちょっとわき道にそれていき、洗濯場に着く。
「ムルムル様どうかされました?」
「いえ、少しばかり手伝おうかと思ってね」
「まぁ!お忙しいのに大丈夫ですか?」
「ええ。アスカ、見てなさいよ」
ムルムルの前には大量のシーツが並んでいる。宿のより多い。これは毎日係の人は大変だな。
「えっと、確か洗剤はこれね。水はと…私の頃と変わってないわね」
「あの、いつもこの量を?」
「えっと、そうですね。でも、みんなもやってることですし、お務めですから」
「私も手伝います!桶はこれですか?」
「は、はい。ですがいいんですか?ムルムル様のお客様では?」
「大丈夫。これでもお洗濯は得意なんです。ムルムル、ちょっと洗剤借りるね」
「いいけど、私の手際に驚かないでよ」
そう言って意気込むムルムルに対して私はいつものように洗濯を行う。
「さっ、まずは水溜めて洗剤に浸してと…後は宙に浮かせてぐるぐる~」
んにゃ~
キシャルが水の渦を見て手を出しそうなので浮かせてやる。予想通り、飛び込みそうだったのでよかった。洗った後はぎゅっと絞って乾かすだけだ。
「干すのはどこですか?」
「あ、あっちです…」
「それじゃあ、一気に行きますね」
私はシーツを空に広げると一枚ごとに分けて、かけていく。かけ終わったら固定して後は乾燥だ。
「ちょっと下がっててくださいね」
「はい」
風魔法にちょっと火魔法を混ぜてと…。温風を当ててすぐに乾かす。5分ぐらいで全部のシーツが乾いた。
「ムルムル~、そっちは後どのぐらいかかりそう?」
「あ、あんたそんな洗濯の仕方してたの?」
「まあ、普段は桶の中でやってるよ。キシャルが飛び込みそうだったから上でやったけど…」
「もういいわ。残りもやりなさい、その方が早いでしょ」
「分かった。それじゃあ、遠慮なく」
残りのシーツも洗濯して乾かすと、当番だった子にとても感謝された。でも、2度目も運ばれてきてたし、大変なんだろうね。
「ほら、あの奥が巫女の部屋よ。許可がないと他の人は入ってこないから安心しなさい」
「えっと、キシャルとかアルナもいいの?」
「もちろんよ。ほら入るわよ」
こうしてムルムルと再会した私は、神殿の奥へと足を踏み入れたのだった。




