マグマロックの魔道具
「ふぅ~、買った買った」
「本当にね。しばらくは節約しないとね」
「そうだね。でも、いい魔石があったらまた買っちゃうかも。買える店も限られるし」
今回のお店は私に価値のある魔石を売ってくれたけど、一見さんには売ってくれない店も多い。機会を逃すよりはちょっとぐらい無理しても買わないと。
「次は食事かな?」
「もうそんな時間なんだね。お勧めの店はある?」
「ちゃんと下調べしてあるよ」
自分も初めて訪れた町だというのにリュートってばいつの間に……リックさんに聞いたのかな?
「こっちだよ」
リュートに案内され、少し小路に入ったところのレストランへと入店する。どことなくフィアルさんのお店のフィーリンを思い出す佇まいだ。
「いらっしゃいませ、ご予約はありますか?」
「はい。リュートです」
「リュート様ですね。……確認が取れましたのでご案内いたします」
二人で案内された先は個室だった。すでにテーブルにはカトラリーが置かれており、中央にはメニューも確認できた。
「いい雰囲気のお店だね。連れてきてくれてありがとう、リュート」
「ううん。いつもアスカにはお世話になっているし」
「ではメニューが決まりましたらお呼びください。そちらの魔道具を押すと伝わりますので」
「はい」
部屋に案内されると店員さんは気を遣ってか出て行った。残された私たちはと言うと……。
「リュートはこのお店調べて来たんだよね。お勧めのメニューとかある?」
「実はリックさんに聞いたから食べるのは初めてなんだ。だけど、海産物が美味しいって話は聞いてるよ」
「ふむふむ、じゃあ、この海鮮コースにベニッシュの炙りを頼もうかな?」
メニューには絵も付いていたので、私その中から海の幸が味わえるメニューを選ぶ。ベニッシュはカツオに近い魚類で血合いが多いため、処理は大変だけどそれさえクリアできれば美味しいから楽しみだ。
「僕はどうしようかな? 同じ海鮮でもちょっと違ったものにしようかな」
少し悩んだ後、リュートも頼みたい物が決まった。私のコースは魚中心だったけど、リュートが頼んだのは海老・貝系統の甲殻類中心のコースだ。
「大丈夫リュート。好き嫌い多いのにそんなコースで」
「大丈夫だよ。アスカは心配性だなぁ」
笑って返すリュートだけど、案外苦手な物も多いんだよね。醤油も苦手だし、トマトみたいな野菜もちょっと苦手そうに食べていたのを横で見たこともある。一抹の不安を覚えながらも私たちは楽しくお話をして食事が運ばれるまでの時間を過ごした。
「お待たせいたしました」
ドアがノックされ、注文していた料理が順番に運ばれてくる。個室と呼び出しの魔道具のお陰でお皿の上げ下げをこっちで指定できるのが、早く食べられない私には地味に嬉しい。
「こちらが本日のメインディッシュです。お連れ様はベニッシュの炙りにこの辺りで獲れる魚をふんだんに使った一皿になります。リュート様にはペオニアオストレアの貝殻を使った一品になります」
「わぁ~、彩りが綺麗。赤身も白身もあるし、飾りつけも綺麗ですね」
「ありがとうございます。シェフにも伝えておきます」
「僕の方も趣があっていいね。貝殻のお皿だなんて」
リュートの方は平皿に十五センチほどの貝殻が乗っていて、それをお皿にするように貝の身や海老などが盛られている。こっちはこっちで口に運ぶのが楽しそうな一品だ。
「では、ごゆっくりどうぞ」
料理を運んできた人が出ていき、私たちは視線をお皿に移す。
「それじゃあ、いただきま~す!」
私はまず、白身の魚に手を付ける。魚の身は生もあれば炙られたものもあり、調理法もバラエティ豊かだ。
「ん~、美味しい! リュートもちょっと食べてみてよ」
「いいの?」
「遠慮しないで。すっごく美味しいから」
私はリュートが好きな炙り身を分ける。
「それじゃあ、貰うね……美味しいね」
「でしょ? こういう料理ばかりだと毎日楽しいよね!」
「食費はかかりそうだけどね」
「それはそうかも。なんたって個室のレストランだし、料理人の人は有名な人だよね」
リックさん紹介のお店だし、普段から貴族とか商人とかある程度生活に余裕のある人向けだろう。でも、月に一回とか何かの記念に来るなら大丈夫かも?
「当初の予定通り、旅が終わったらこういうところに住むのもいいかも」
「アスカはこの町が気に入ったの?」
「うん、美味しい海産物も食べられるし、やっぱり港町は色々な物が流通してるしね」
魔法は便利だけど、魔物がいることもあり流通はそこまで発展していない。国外に出る商品も限られているので、国どころか大陸を跨いで商品が流通する場所は本当に少ないのが旅をしていて実感したことだ。この立地はなかなか得ることができない。
「ここじゃ、故郷が遠いのが難点だけどね。エレンちゃんとかに会うのも難しいし」
「そうだね。かなり距離があるから何かあった時に数か月はかかるよね」
「やっぱりそれがネックだよね~」
一度は両親の家にも顔を出してみようと思っているし、しばらくの間は連絡が付くようにしはしたいしね。
「結局、フェゼル王国内が有力かなぁ」
「じゃあ、帰り道はどうする? このまま来た道を戻る感じ? イリス様にもまた会えるし」
「う~ん、イリス様にはお世話になったから会いたいけど、北側の航路で帰りたいかな? まだまだ未発見の物がたくさんあると思うし。これまでよりは少ないかもしれないけど、それでもいっぱいあると思うんだ」
「そっか。なら、旅はもうしばらくは続くんだね」
「うん。これからもよろしくね、リュート」
「任せてよ!」
美味しい料理と心を許した仲間との会話を堪能した私は、大満足で宿へと戻った。
「ただいま帰りました」
「お帰り、アスカ。今日の用事はもういいのかい?」
「はい。明日のこともありますし、今日は一つやっておきたいことがあるので」
「やっておきたいこと?」
「ちょっと魔道具を作って試すだけですけどね。ティタおいで」
《かしこまりました》
テーブルからちょこんと私の前にやってくるティタ。相変わらずかわいいなぁ。
「ティタ、この前買ったマグマロックの魔石だけど、魔道具にする時って何か特別なことが必要かな?」
《あの魔石は属性の効果を高めるだけですからいじらない方がよろしいかと》
「そっか。ちょっと安心したよ。変に何かやらなくていいんだ。それならさっさと魔道具にしちゃおう」
火魔法を強化するので他の装備の邪魔にならない形が良いよね。
「そうなるとブレスレットかネックレスかぁ。ネックレスはアラシェル様に貰った物があるし、やっぱりブレスレットかな?」
ブレスレットなら両手合わせて二つまで付けられるしね。作りたい形が決まったので後はデザインだけど、実戦的なアイテムなので飾りっ気はほとんどないものにする。
「そうと決まれば……材料はどうしよう? 魔石を替えられるようにしようかな?」
各種スライムの魔石があるように、マグマロックの魔石と同じ効果を持つ他の属性の魔石があるとすればいい材料でブレスレットの本体を作り、魔石を入れ替える作りにした方が後々便利だと思える。
「ならミスリルで本体の魔石を置くところを作ろう」
ミスリルも降って湧いて出てくる材料ではないから、魔石を置く台座のところと腕に直接あたる部分だけに留め、残りの部分は銀で作ることにした。でも、この方が色味もあっていいと思う。
「それじゃあ、細工用の準備を済ませて作業開始だ!」
「……ん、このぐらいかな? デザインはそこまで重要な物じゃないし」
着替えを済ませてブレスレットを作り終えるといよいよ試運転だ。
「まずは中庭に出て種火の魔法で試してみよう」
私はティタを連れてブレスレットを試しに行く。
「さあ、早速試しだ。種火!」
私が魔法を発動させると、すぐにブレスレットから魔法陣が描き出された。
「これが効果を高めるんだ。ティタ、覚えられそう?」
《はい。何度か発動すれば記憶できるかと》
「お願いね。他の魔法もちょっと試してみるから」
私とティタは少しの間、中庭で小さな魔法を使い魔法陣を記憶して部屋に戻った。
「おや、もういいのかい?」
「ティタは優秀ですからね!」
《では、私は先程の陣を描き留めますので》
「お願い」
ティタが陣を描いている間は休憩タイムとはならず、買ってきた本の中から魔道具作りに生かせる本を手に取る。
「今は『属性別の付与』優先だね。本当は魔道具の歴史を記した本も読んでからにしたいけど、言語が違うんだよね。このポルティス語っていう本は翻訳しながらじゃないと駄目だから、数か月はかかりそう」
「また古本を買って来たのかい? ガザル帝国時代の本もそうだけど、アスカは研究者も向いてそうだね」
「そうですか? でも、興味がないと難しいと思います。これも辞典があるから買ったわけですし」
一から解読ってなると全く自信がない。ジャネットさんにそう答えながら私は読み進めていった。




